七竈 王哉
ななかまど きみなり
アンタが無事に助かるか、さあ張った!
俺に賭けろよ、損はさせねえからさ。
金が好き。女が好き。自分が好き。怠惰を愛し努力を嫌う七竈の行動原理は常にシンプルで、呪術師を目指したのも金になるからという欲に塗れた理由に尽きる。正義感とは程遠い私利私欲のみで動く男は、此度の奪還作戦についても昇級のためならばと非常に前向き。己を主軸に置いたその内情はいつだって察するに容易く、一方で他者の意見に寄り添わないという悪癖も持ち合わせているため対人関係は壊滅的な状況に陥ることも多い。術式の縛りによって日常的に不幸に見舞われることも多いが、それも全てちょっとしたスリルと楽しんでしまうあたりから楽観的な性格が伺えよう。
呪力を込めた花札を引き、揃った手札によって幻影を生み出す、もしくは攻撃が可能。『花見で一杯』では桜吹雪、『猪鹿蝶』では動物の群れなどの幻影を生み、『五光』が揃えば雷が落ちる。呪力を込めた刀も扱う。手札が揃わない場合は攻撃が失敗するという博打性、日常生活における不運を縛りとして幻影・攻撃の制度を高めている。
んじゃま、さくっと祓って来まーす! 最短距離で駆け抜けてくるんで、伊地知さんはお迎え待機よろたので~す。(帳を降ろしてくれた補助監督に向かってひらりと手を振り、黒く染まった夜へと進む男の足取りに凡そ緊張の色はない。此度の任務は、心霊スポットとなった廃ビルに集まり始めた低級呪霊の討伐だ。自身より明らかに格下の呪霊が相手となれば、平素よりもずっと不遜な態度を取ってしまうのも楽観的な性格ゆえ。同じく任務に配属された同級生に視線を向けて、へらりとした笑みを浮かべながら人差し指で地面を示した。)お前は一階から回ってくんね?(それからそのまま人差し指を上へと向けて、)俺は最上階から攻める。そっちのが手っ取り早く終わりそうじゃん? 作戦はシンプルに行こうぜ、見つける・ボコる・祓うの三段構えだ! 行くぞ!(言うが早いか、相手の返答を待たずに駆け出した。帳の降りた窓の外は暗く重たい雰囲気を呈しているけれど、今更それが足を止める理由になるわけもない。背中に刀袋を背負ったまま、段飛ばしで階段を上っていけば最上階でぴたりと足を止めた。薄暗い部屋の隅。まるで壁の染みのように黒く染まった影が蠢く姿を視界に捉えた瞬間、無意識に口元が弧を描く。)……見ぃつけた。弱っちろい奴らが群れるっつーのはマジだな、よくまあこんなうじゃうじゃと……。秒で終わらせてやっから、おとなしく祓われてくれよ!――…骨牌幻影、『呼意呼囲』!!(高らかな声は、戦闘開始の合図だ。懐から取り出した花札から数枚の札を引き抜き、その絵柄を確認して浮かべた笑みを深くした。)『花見で一杯』!(空間が歪む。空気が塗り替えられる。夜に染められた世界の中に突如吹き荒れる花吹雪は、七竈の術式によるものだ。花弁が呪霊の体に絡みつき、その自由を奪っていく。優れた幻影は、視覚ではなく触覚にだって影響を及ぼすのだ。相手が格上であれば容易く幻影を見破られてしまう可能性だってあるけれど、今回に至ってはその心配だってないだろう。極めて冷静に、得意気に、たっぷりの余裕と共に刀を取り出した男は不遜に笑う。一歩、二歩と呪霊に近づき、)お疲れさん。簡単に祓えて助かるぜ、おかげで俺の評価が上がるよ。(振り上げた刀は、何の躊躇もなく呪霊の体を両断した。意識を集中させるが、他に呪いの気配はない。此度の任務はここで無事に終了と見て間違いないだろう。そう判断すればこんな空間に用はないとでも言わんばかりに、来た時と同様軽い足取りで階段を下りていく。半ば無理やり階下を任せた同級からは勝手な行動をするなと小言のひとつやふたつ賜ったかもしれないが、それに対して向けた「ごめんって」の謝罪は所詮ポーズだ。)だってさあ、このレベル相手に俺らがやられるわけねえじゃん? なっ?(言って同級の背を軽く叩く素振りに凡そ悪びれはなく、帳の外に出たってそれは変わらない。待機してくれていた補助監督にただいまと軽く手を振り、当たり前みたいな顔して後部座席に乗り込んだ。任務の結果報告は言わずとも知れているところだろうから、それより先にと楽し気に緩む口元が半分本気の冗談を紡ぎ始める。)……さっき、いい手札引いちゃったんだよね。だから今の俺、ちょーっと危ねえかも? 帰り道、交通事故に巻き込まれないように気ぃつけてね。(術式の反動である不運は、何も七竈本人だけに纏わるものではない。当然その周囲の人間にだって影響はあるのだと言外に含ませはするが、格下相手の戦闘だ。精々が空き缶を踏んで転ぶだとか鳥の糞が落ちてくるだとかその程度のものだろうけれど、何が起きるかその時になってみなければ分からないというのが正直なところである。正体不明の不運に躊躇いなく人を巻き込む所業は悪癖と言う他ないが、今までも変わらぬ姿勢はこれから先だってそう変化の兆しは見せないだろう。凡そ正義感など持ち合わせていない男にとって、日々は面白可笑しくあればそれで良いのだ。)