今波 燈

いまなみ あかり

私がいなくなったらどうする? 寂しい?
私はね、君がいないのは耐えられないよ。


女|156cm

18歳

color : さんざし

pair : 御調 久遠

♦ Character ♦

隙だらけの癖、大人びたむすめだ。決して人当たりが悪い訳でも無ければ無邪気な面が見えない訳でも無いけれど、冷めた面も多く見られる性質はむすめから可愛げを奪っていった。年子の弟と裏腹な性格は家族からも敬遠されがちだったと気付いたのは何時のことだったろう。今更子どもぶる訳にもいかず、かと言ってこのまま生き抜く訳にもいかず、雁字搦めの日々。Xへと連れ去られて来たのはそんな折だった。良くも悪くもXに身を置いて数年、生き抜く術として素直さを学んでは逃亡の隙を伺い続けている。――きっと、本当は唯の一言で良かったのだ。喜怒哀楽を表して、一人はさみしいのだと言えば、それだけで。それに気付けるのは、少し先のお話。

♦ X[イクス]にいる理由 ♦

一言で纏めるなら団体関係者に攫われてきたがため、Xへ身を置いている。当時中学生だった一人のむすめが攫われたのは隙だらけだったことが一番の要因にほかならないが、今も尚生きながらえることが出来ているのは運とそのための努力を重ねているから――とは本人談であるが、真実は如何に。何方にせよ、帰る場所への不安ばかりで一歩を踏み出すことが出来ないまま今に至っており、とうとう宣告されたことだけは事実である。

Imanami Akari
♦ Past days

(冷たい風とは裏腹に、あたたかな陽射しの降り注ぐ日だった。与えられた責務を全て終わらせたのち、休息の時間を良いことに図書館で本を借りて、温かな飲み物を入れた水筒を脇においたままベンチで午後のひとときを過ごしていた時のことだ。ページを捲りながらうたたねをするこの瞬間は心地よくて、今この瞬間のことを忘れさせてくれる。重くなった瞼を下ろせば自然と浮かぶ外の世界――今も尚探し求めてくれる人がいることを願い、自由を求める心は今か今かと飛び立つ時を待っている。しかし、それも鼓膜が誰かの足音を拾うまでのお話だ。徐に隣へ腰を落ち着かせた少女の存在に気付いたなら、本の文字を辿っていた視線を少女の方へ向ける。次いで本のページを捲ろうとしていた指先の力を抜き、そのまま本を閉じて「どうしたの?」と声を掛けた。穏やかなまなざしとやわらかな声音は少女の来訪を歓迎した証左、途端に口数を増やした少女に応えるかのように声を弾ませて談笑を交わす。話の内容はと言えば、この間食べたスイーツが思っていた以上に美味しかったことだとか、昨日見つけたお花が可愛らしく咲き誇っていたことだとか、そんなささやかでしあわせなことばかり。だから、ふとひそやかに落ちたトーンと共に繰り出した質問には驚かされてしまった。今、何て?)……唐突だね、何かあったの?(こんなところでと叫んで少女の肩を揺すりたい気持ちの一方、驚き過ぎて言葉を失った。せめて瞬きの数が増えたとて、動揺を悟られぬよう細心の注意を払って小首を傾いで見せる。「実はね、そう言う話が最近出回っているから、どう考えているのか聞きたくて」と神妙に問う少女の姿は冗談とも本気とも取れて悩ましい。確かに、ここ最近そんな話をしていた人たちがいたようないなかったような。傾けた首を元に戻せば少女から視線を空へと移し、眸子を細めてから口端を何とか持ち上げた。)ふふっ、どうだろう。勿論素敵なものが一杯ある外の世界への気持ちは無い訳じゃないけど、此処も大して悪いところじゃなかったからなあ。(此処を出たいと声を大きくする程おろかでもなく、かと言って此処を出たいと願う同士に背を向ける程非情でもなかった。少女の真意を探しつつ話を広げようと口を開いたのも束の間、誰かの話し声が耳に届いたならこれまでかと声を張り上げて。)ええっ、本当?! 素敵!この間飲んだお茶、そんなに美味しかったの?私も飲んでみたかったなあ。あっ、その時言ってた花冠はどうなったの?ちゃんとドライフラワーとかにした?その瞬間を残す方がいいのかとか悩むよね~。(ちょっぴり態とらしいかもしれないけれど、むすめを知る人間からすれば然程変わった様相ではないと判ずるに違いあるまい。口調とは裏腹に鋭い目つきで人差し指を口許に一本立て、くちびるだけを「また今度」と動かしたなら、後は先程と同じように他愛ない談笑に花を咲かせて声の主が通り過ぎるのを待った。少女の時間切れが先か、はたまた彼等が去るのが先か。どちらにせよ、少女との内緒話が誰かの知るところになることはないだろう。――少なくとも、今は未だ。)