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【ep】(木々よ繁れ、空まで伸びろ。)

穿月桐静 ♦ 2021/02/12(Fri) 06:16[85]

(出会ってからどれほどの月日が立ったでしょう。そんな言葉がもう似合い出したのかもしれない。あれから。なんやかんやと術師を続け、どうにかこうにか生きている。高専に立ち寄ることも多いから、そこに残る少女たちがいたなら、彼女に様子を伝える事もあっただろう。あれから4年と9ヶ月ちょっと。出会ってからは4年と10ヶ月くらい。穿月桐静、23歳。準一級術師。まだ跡取り息子。金色のウィッグは変わらなかったが、エクステと羽飾りがいくつか増えた。ピアスもいくつか。カラーコンタクトは相変わらずだ。黒いシャツの上には学ランの代わりに松葉色に銀紅の花模様が入った羽織を着るようになった。胸ポケットは変わらず膨らんでいる。)──祈織さーん、お茶にしない?おはぎもらってきたんだ。(そんな男が連れてきた彼女はそれはそれは大層歓迎されただろう。男が一人っ子だったせいもあり、特に父と母が喜んだ。待遇はいいだろうが容赦はなく、働かざるもの食うべからずの精神で彼女が根を上げない限りは色々懇切丁寧に優しく叩き込まれていくはず。今はちょうど夕飯の仕込み前、少しの隙間時間の筈だ。小さなおはぎとお茶を2人分持って、広い平家の中彼女を探す。その姿を見つけられたなら、羽織の袖を揺らしてへらりと笑いながら手を振る。)

卯木祈織 ♦ 2021/02/12(Fri) 22:32[86]

(有為転変は世の習い。身体ばかりの成長で心の方は一向に、と言われていた娘も変わりゆく。随分表情が柔らかくなったのが誰のおかげかなんて言うまでもなく、その人とその人の家族のために、それから彼らのためにと思う自分のために、考え悩み藻掻きながら日々を生きている。3年前の1月21日にはピアッサー片手に自身の左耳を指さし「ピアス穴をあけてほしい」と彼の元を襲来し。高卒認定も取得した。やりたくなさそうにしていた割に参考書を書き込みまみれにしていたのが2年前。掃除中に髪を引っ掛け、絡まっていた左サイドの箇所を鋏でバッサリやり当主夫妻から大目玉を食らったのは去年のこと。左右長さのばらつきは編み込むか結って誤魔化す毎日だ。仕事を終えたら白いワンピースに袖を通し裸足になって人目忍んで向かうは神社。お百度参りが日課になった。恙無く終えた一日へ感謝と彼の無事を祈願する。ちなみにお守りは一年ごとに変えるものらしいので、新しいものを作って渡しているのは日課ならぬ年課と言ったところか。そうやって、時に失敗しながらも昔より丁寧に生きることを心掛けている。)――桐静様。(お仕着せを身に纏い、雇い主の名前を呼ぶ。それから首を横にこてんと傾げて、シニヨンにした髪の根元で揺れる金色の葉。)本日もお勤めお疲れさまです。ご無事で何より。(任務であれ鍛錬であれ怪我がないのは喜ばしい。上から下までじっくり見分後にこりと微笑む。この家のひとたちは皆慕わしく、けれどいっとう大切なひと。左耳に開いた穴には常磐色のスタッドピアスがきらめいた。)…休憩中はオンオフどちらになりますか。(尋ねる唇は、敬称を取っ払って名前を呼びたいと希求していた。)

穿月桐静 ♦ 2021/02/13(Sat) 11:38[87]

うん、祈織さんもお疲れ様。……休憩中はオフだよ。最近はどう?ちゃんとするのも大事だけど、あんまり無理しないようにね。(ずっと名前でいいのにと説き伏せるのはとうの昔に諦めた。彼女が切り替えたいなら切り替えればいいと、仕事に関しちゃそんなに口出しはしない。たまにこうして様子を聞くくらいだ。)あ、今日ね、休憩終わって今の仕事目処がついたら上がっていいよ。今年のハロウィンは祈織さんも楽しむ側に回ってって、当主から。(穿月家は代々術師の家系。それなりに大きな家である。神奈川県某所の山の上にあるそのお屋敷では、呪霊が活発になる行事の時期にはそれとなく理由をつけて催し物をするのだ。近年ではハロウィンもそう。縁側に腰掛けて彼女にも隣に座るように促し、話を続けよう。)毎日しっかりすぎるくらいやってくれてるからご褒美だって。お菓子のかご持ちも今年はお休み。あと餅まき、取る側に回ったことなかったでしょ。(仮装をした子どもたちを迎えて楽しむそれは、洋風の文化の端々に日本っぽい文化が取り込まれたごった煮行事だけど。毎年子どもたちは楽しそうだから、彼女にも楽しんでもらえればいいと思うのだけれど。今年も、──今年こそ穏やかであれと願うのだ。ゆったりと微笑みながら。昨年のクリスマス、関西にいた男は、あれから家の中でもきっちり衣装を着込むようになっていた。)もっと早く決めて、仮装とかも出来ればよかったね。楽しんでくれるといいんだけど。

卯木祈織 ♦ 2021/02/13(Sat) 18:28[88]

(オンオフジャッジが下って落ちる呼気は張った糸を緩めていく。さすれば浮かぶのは気を許した相手にのみ向ける笑み。)目下、桐静にいいとこ見せようキャンペーン中なの。頑張るって決めたのは自分だし、…えーと。無理してそうだったら教えてね。(過日の具合が悪くなったらというやりとりをなぞって切り返す。仕事の話自体は茶化すことなく「はい」と優等生を真似た口吻で返事し、彼にならって隣に座る。脳裏に描くはこの土地特有の和製ハロウィンの光景だ。初参加の年は勝手がわからず混乱を極めたのも今となっては懐かしい。大人子供入り混じりで楽しそうなのを見ると、一端であっても“楽しい”作りを担うことができて嬉しいと思う、が。)………ひとりで…?(弱っちい音吐が縁側に不時着。恨みがましそうな目を向けた。熱量に満ち満ちた空間に単身特攻する猛者にはなり得ないし、この四年で随分甘ったれた性根が寂しいと吐露するから、俄かに拗ねたくなる心を許してほしい。大事なひとたちのことなら巻き込まれたい、――とは思うが仮装の一言にピタリと静止。)わたし、もう21になりますので。子供たちと同列で仮装しろと仰せでしたらお暇を頂きたく。(微笑の鎧を張り付け通告したのは形だけ。面白そうな提案に惹かれるのは変わっちゃいない。軽快に手のひらクルーして「どんな仮装してほしいの?」とクエスチョンを投擲した。寝そべる三日月を描く唇はさながらチェシャ猫。)

穿月桐静 ♦ 2021/02/13(Sat) 21:35[89]

はは、じゃあ俺と一緒だ。……ん、駄目そうだなーって思ったら抱えていくよ。俺が駄目そうな時は引き摺って行って。(カッコつけからただのツッコミに、それから少しだけ余裕が出てきたのは最近のこと。こうして冗談めかしながらも、付き合いの年月だけ彼女を分かった気でいる。今はきっと大丈夫だし、本当に無理な時は倒れる前に進言するしっかり者であろうことも知っているからこそ。)え?……あ。ほら、俺は見廻りとか護衛も兼ねてるから……やだ?女の子ってお祭りに着飾るの好きでしょ……?(一瞬恨み節の意味を捉え損ね、だからこそ気まず気に視線を泳がせ、)またそうやって新しい扉開かせようとするね?悪い癖だよ?(ツッコミをしてから、)今うちにあるもので出来るのは……大正ロマンみたいな、ハイカラさんみたいなのとか?祈織さん、結構色んな色似合うよね。(結局最後は楽しそうな彼女のご随意のままに。徐に羽織を脱いだら、隣の彼女にふわりと掛けてみる。柔い赤が入った羽織は彼女に似合うことを知っている。彼女が望むなら、何度だって其の髪を手ずから染め直すだろう。)21歳かぁ……早いね、もう出会った頃の俺の歳追い越しちゃったんだ。(なんて、しみじみと独りごちでみるけれど、二人の間で変わったものがどれだけあっただろう。初めてこの家に彼女を連れてきた日に、現当主と「桐静が嫁さんを連れて帰ってきた!!」「祈織さんの意思も聞かずにやめて?!」と叫びあったのは今も鮮明に思い出されることだ。)どう、自分のこと好きになった?(なんでもない調子で聞いてみる。男は、変わらずに今日も生きている。彼女の隣を陣取って。隣を見やってへらりと笑う。)

卯木祈織 ♦ 2021/02/14(Sun) 03:05[90]

任せて。(置いていけと言われても引き摺って行こうじゃないか。応酬の狭間に零れ落ちる笑みとソプラノは、しかし低空飛行に切り替わる。女心に激鈍な発言にへの字にした唇で不満を訴え。)もう一度言うけど、お一人様で?それとも適当にそこらで誰かナンパして着飾って見せる相手を見繕えってこと?…怒っていい?(YESと言われたらデコピンをお見舞いしようか。誰がために着飾るのかは重大なポイントだ。女の瞳が不穏にゆらめく。)開いちゃえばいいわ。対わたし限定で。…桐静が着てって言うならなんでも着るのに。(無造作に言い捨てるも、褒められ機嫌が少し浮上して、掛けられた羽織に上空まで旋回し。徐に立ち上がってくるりと回って見せ、「似合う?」と茶目っ気まじえて微笑んだ。チョロい。幾度となく手入れを頼んだ髪色はすっかり彼の手のひらに馴染んで、さあ撫でろと擦り寄る猫よろしく隣に鎮座し話に興じてく。――不安を吹き飛ばすコミカルな父子の会話をぼんやり見つめ、「…花嫁修業と思ってお勤めに励みます」と答えて騒然とさせたのが昨日のことのよう。これは外堀を埋めていったほうが早いかもと察知した日でもある。)……ひとりじゃ自分のことってなかなか好きになれないものよ。誰かに好きだと言ってもらって、きっと初めて好きになれるんだと思う。だから桐静、わたしの好きなとこ言って。そしたらさっきより今の自分の方が好きになれそう。(本心と同じくらい、好いた相手に好きと言って貰う口実を探しているのもまた事実。空気が気まずくなったら「なんてね」とお得意の遁走を図るとしよう。)桐静は?嫌いじゃないところ、できてきた?まだならわたしが桐静の好きなところ100個言ってあげる。…100個で足りるかな…。

穿月桐静 ♦ 2021/02/14(Sun) 21:11[91]

いや、いやいやいやっ……違うってぇ……。子供と一緒に気楽に楽しんで欲しい、ってそれだけなの。あんまりからかわないで?なんか楽しくなっちゃいそうだからさぁ。(調子には乗りたくないものだが、彼女からはそれなりの信頼を勝ち取っていると自負はしている。堂々巡りの自分嫌いが自分で否定するものを、彼女は軽々と乗り越えてくるものだから。跡取りも形無し、無様な困り顔で茶をすする様に、陰では「将来は尻に敷かれる」とたいそう噂になっていることを彼女は知っているだろうか。少しご機嫌を取り戻した様子にあからさまな安心顔。シニヨンを崩さぬようにゆったりと撫でる男の方が満足げなのだから、もう尻に敷かれているといっても過言ではないかもしれない。)ちょっとわかる。俺もよくわからないし。……じゃあ言い合いっこにする?こっちも100個じゃ足りないかもしれないけど。(自分で問いかけておきながら、男は相変わらず自分が嫌いだ。この四年と九カ月で救えたものも救えなかったものも多すぎて、とにかく季節は目まぐるしい。けれども、)まずね、祈織さんと一緒にいる時間が好き。居心地が良くて、ずっとこうしていられればいいのになって思う。ものを大事にするところも好き。その髪飾り、ずっとつけててくれて嬉しいよ。真面目なところも好き。たまに心配になるけど、結構メリハリがしっかりしてるから実はそんなに不安じゃないんだ。―はい、じゃあ祈織さんの番。(こうして彼女相手にはこんな我儘も言えるようになった。人は、自分を愛せなければ誰かを愛せないと言う。彼女の為なら、こんな自分だって大事にしとこうと思えるのだ。)

卯木祈織 ♦ 2021/02/15(Mon) 02:53[92]

ふ~~ん?わたしは桐静といたいのになー…。もう無給奉仕でいいから仕事しようかな。で、ご当主に泣きつくの。桐静にいじめられましたって。(顔背けて不満たらしく言ったところで長続きはしない。彼次第で簡単にアップダウンする心は厄介だけれど手放したくない。撫ぜられほころぶ己は、きっと昔の自分じゃ想像もつかなかった顔をしているんだろう。)あら素敵。足りないなら明日も言い合えるわ。(茶目っ気が助長してパチリとウィンク。一方で列挙される“好きなとこ”に徐々に顔色が悪く、いや血色良くなりすぎて。一度は微笑携え緩んだ表情が、今や唇引き結んでぷるぷる震えていた。)普段思ってることあんまり言おうとしないくせに。こんな時だけずるい…。ああもう、も~~~~、(こんなの嬉しくないわけがなくて、身体を捻って隣の彼の背に抱き着いた。だって床をのたうち回りたい羞恥が相俟って俯くだけじゃ隠しきれない。育った自我が負けっぱなしでいることを良しとしないから、態勢を変えずに逆襲を目論む。)桐静のやさしいところが好きよ。いい人だけど善人になりきれないところに安心する。いい人なだけなら食い物にされてしまうもの。あとフォロー上手で、いいこと悪いことをきちんと教えてくれるでしょう?損得勘定できるのに見捨てられない、器用なのに不器用なところがいとおしい。人のことばかりで自分のことが疎かになりそうなのは心配してるけど。意図を汲もうとしてくれるところも好き。撫でるのが上手なとこも、言ったことを覚えていてくれるところも。さらっと抱えてくれたのは格好いいし、(数えるための指折りも何往復目か。一息ぶんの余白を空けて。)わたしの名前を呼んでくれる声が好き。桐静が呼ぶと、自分が少しだけいいものになれたように思えるわ。あとこれがいちばん大事なんだけど。桐静が、好き。(淡い色してた頃が思い出せないほど煮詰めた想いは綺麗なだけじゃない。)あは、言っちゃった。(下手くそな微笑に包んだ強がりを、どうか見抜かないで。)

穿月桐静 ♦ 2021/02/15(Mon) 17:19[93]

普通に俺が家から追い出されそうだからやめて?いたずらっ子なのはずっと変わらないんだからもう……(呆れたような物言いをしながら、その表情は柔らかく。随分と表情が豊かになったとふと思う度に嬉しくなるのは仕方のないことだろう。それに、男が善人顔ばかりしていないのもきっと彼女だってもう分っていること。背中に抱き着いてくる彼女を危なげなく片手で受け止めて、お茶の乗ったお盆をそっと危なくないところに避けておくくらいは造作もない。)機会があんまりないだけでずっと思ってることだよ。祈織さんは意外とこういうこと言われるの弱いよね、可愛い。(また一つ彼女の好きなところを並べて、穏やかに笑おう。彼女が並べる自分が好きなところと、自分で自分が嫌いなところは表裏一体だ。自分で思えば嫌なところばかりなのに、彼女が紡げばどうしてこう受け止めたいと思いたくなるのだろう。)……祈織さんは誉め上手だね。よく人のこと見てる。そんなところも、好きだよ。(彼女の言葉の合間に挟む照れ隠しは、苦笑交じりだったけれど。彼女の言葉を否定する気は起きなかった。顔が見えないから、その柔い赤の髪を優しく撫でつけて。)……、(顔が見えたら見えたで言葉を失うんだろう。ぽかんと口を半開きにして、じわじわとこみ上げてくる気持ちに口を覆った。)……先に言われちゃったや。(どうにもこうにも、格好が付かないのは一生治らない悪い癖なのかもしれない。一番大事なこと、そう前置きされれば、そんなぶきっちょな笑み見せられたら、冗談なんて言って吹き飛ばしてしまえるものか。だって一番上段にしたくないのは自分だ。彼女には申し訳ないが、その瞳はしっかりとその表情を認めて。情けなく眉を下げて笑うんだろう。)四年以上前から囲うつもりでいた、……って言ったら怒る?(怒られてもいいかと思った。ここで二人、同じ幸いを夢見ているのなら。)

(同日、19時過ぎ。屋敷内の電話が一斉に鳴る。催し物は一時中断。現当主である穿月聖柊は勿論、次期当主である穿月桐静を始め本家内にいる呪術師は門番役の一名を残して新宿へと急行する事態となる。)――祈織さん、ここは安全だろうけど、最近どうにも騒がしいから。……気を付けてね。子供たちのこと、お願い。(「とーせー!おかしはー?」「にいちゃーん!」足元にまとわりついてくる近所の子たちをあやしてから、きっちり衣装を一式着こんだ男は彼女の両肩を包んでそういった。去年のクリスマス、関西の端に居た自分は出る幕もなかった。でも嫌な予感がした。だから、)俺が帰ってくるまで、無茶しちゃだめだよ。(約束を、しよう。)

卯木祈織 ♦ 2021/02/15(Mon) 22:57[94]

(現当主の姿を思い出すと否定の言葉は終ぞ出ず、視線を逸らしついでに口笛奏でて三十六計。誤魔化しの行方はさておき、縁側でじゃれあう中の細やかな配慮は彼に任せきって、顔を見られまいと回した腕に力を込めた。)そういうところよ穿月桐静。これ以上好きにさせてどうするの。(想定外の所で好きの追撃を食らったらノックダウン。呻く声の母音が間延びする。――奇しくも数十秒後に揃いの顔色していたのだから、やっぱりお互いよく似ているねと笑い合える断片となればいい。)は、(口を覆う手のひらは男の人らしく大きいけれど、表情の全てを隠しているわけじゃない。掌の間隙を縫って覗く表情と続いた台詞に顔を上げ。何か言おうとして失敗し、開いては閉じる口は纏う色も相俟って金魚のよう。彼がよく浮かべる笑みは馴染み深いのに、言われている言葉を認識するまでNow Loadingと思考の中でぐるぐる輪っかが回る。一秒二秒三秒、いつもよりずっと時間をかけて飲み込んだ事態に下唇を強く噛み締める。そうでもしないと、涙腺緩めて叫び出してしまいそうだったから。)……怒らない。でも、今の今まで言わなかったことは怒ってる。から、ぎゅーってして。そしたら許すわ。(勝手我儘重ねて宣う女は泣き笑い。彼が連れ出したのだ、だったら彼に囲われたって構わない。その腕の中にならもっと良い。求めていた幸せの在処は、きっと同じところにある。)

(穿月家ほぼ全員が派遣される現状に、一帯騒然とし始めた夜のこと。)こういうとき、役に立たない自分が嫌になる……。(ないものねだりは愚痴でしかない。足手纏いになるとわかっていて連れて行けとも言えない。それに“お願い”と言われてしまったら、もう。思わず伏せた瞼をゆっくり持ち上げた。)…なんてね。留守は任せてくださいな。わたしも成長したのよ、子供たちの名前全部言えるわ。(泣き言は言わない。動け唇、笑え自分。両肩に掛かる重みと体温、その主にしかと向き合う。)…うん。おかえりって言うのが、わたしの役目だもの。いい子で待ってるわ。ずっと、待ってる。(引き攣りながらも吊り上げた唇。不安に零れそうな涙は表面張力に頑張ってもらうとして。なんてことのない日常の一ページを模して女は微笑む。)あんまり遅いと迎えに行っちゃうからね。(いっとう好きなひとに任されたのだ、不安になんてさせない。そう思える、胸を張って然るべき恋と愛だった。)

穿月桐静〆 ♦ 2021/02/15(Mon) 23:53[95]

(愛も恋も重ね合わせて、大好きな君にお気に召すままに。遠慮なく抱きしめる細い体に、何年越しの「好きだよ」をようやく紡げたなら、一緒に笑い合えるだろうか。――幸いの行方は見えても、今は未来が不透明。バタバタと準備する周囲に混ざって衣装を整え、メリケンサックの予備の具合を確認する。子供たちには大丈夫だからと声を掛けて。最後の最後、声を聞いていくべき相手は決まっている。この数年で彼女は随分と変わった。たくましくもなったし物覚えもよくなった。それは知っている。だからこそ、)……いい子じゃなくていいよ、我慢しないで。って、……俺がいえる台詞じゃないんだけどなぁ。(あ、無理してるなーって思ったから。もう一度ぎゅっと抱えて、背中をあやすことにした。)心配させてごめんね。きっとこれからも何回だってこういうことあると思うけど……ちゃんと生きて終わらせてくるから。帰ってきたら泣いて抱きしめてよ。なんかへまして帰ってこれそうになかったら、怒って迎えに来て。(大丈夫、大丈夫。そうやって鼓動を重ねて言い聞かせるように、何度だって。離すころには彼女はどんな表情をしているだろうか。いずれにせよ、男は眉を下げて笑っているんだろう。とても英雄には見えない情けない顔だって、この足でどうにかこうにか歩いている。――術を初めて覚えた時は、悪ガキだってただの子供だった、気がする。今だってそう変わらない泥棒だけど。)ずーっと前にやってくれた、額ごちんってやるやつやってよ。……あれあるとね、一等かっこいい泥棒になれる気がするんだ。(屈んでそんな戯言を。君に頑張れって言われたら、ほぼ怪盗くらいまではイケる気がするから。なんて、そんなことは口が裂けても一生言わないんだろう。)――行ってきます、祈織さん。

(患者番号XXXXXX:穿月桐静。渋谷事変での戦闘で意識不明。他呪術師が駆け付けるころにはすでに瀕死の重傷。膝立ちのまま意識を失っていた。現場周辺は血の海。穿月桐静の背後の建物以外は鋭利な刃物で切り裂かれたような痕跡あり。倒錯×芹演法、反転術式の影響と思われる。建物内には生存者が数名。霊障でひどく衰弱しており、うち一名は間もなく死亡。他、重軽傷。 現在、継続治療中。)

卯木祈織〆 ♦ 2021/02/17(Wed) 18:02[96]

(虚器だと思い続けていた己に満ち満ちてゆく祈望、その注ぎ手が紡いだ四文字に零れだしそうな情操を笑みに変えて。自分ができる、いちばんいい笑顔を浮かべたい。――彼に倣って子供たちをあやそうとしたが、多分それは彼の得手で同じ土俵で戦うのは分が悪い。代わりに自分は子供たちの脇腹擽って笑いを誘う。そうやってふざけて遊んで、思い出してもらうなら笑い合う顔を。“楽しい”を分け合う姿を。どうか生きるためのよすがにして。彼が帰ってくるための足取りに力となって。)誰が泣かせかけていると思っているの。(誰が為に落涙を堪えていると思っているのか。わかっているくせにずるい人。くぐもる恨み言は腕の中で、力ない拳は背中でぽすんと音を立てた。零れそうな涙腺を今度こそしっかり引き締めて。)ぎゅーっとするついでに服、涙と鼻水で服ぐちゃぐちゃにしちゃお。それに地獄の果てだって迎えに行くわ。だから、……いきてたらそれでいいの。(拙い音吐で紡ぐのは紛れもない本音。生きてさえいれば他はなんだって。それを教えてくれた人に教え返して、ちょっぴり自然になった唇で象る微笑。足枷になどならない。目指しているのは芯材だ。卑屈を溶かして笑うこの人の支えになりたい。口を尖らせ「わざとじゃなかったのに…」と文句を並べる女だってまだまだ弱っちくて頼りないだろうけど。――こつん。互いの額を小突き合わせ鳴らした音は、いつぞやに比べ大分ソフト。おまけに彼の唇の真横、ぎりぎり触れない位置に自身のそれを軽く落として。響く小さなリップ音。)頑張れ、桐静。わたしにとってはいつだって格好いいけれど。昨日も今日も明日も、十年後だってずっと。(と告げたら言い負かせるだろうか。含羞孕んだ顔で「いってらっしゃい」と送り出した10月31日。祈ることしかできないのが歯がゆくて、それでも信じていた。信じている。“ずっと”。)

(穿月家に連絡が届いたのはあれから何時間か、あるいは日を跨いだのか。朧な記憶はそれ以上の優先事項が発生したからだ。「重症の穿月桐静が発見され現在治療中」と事務的な内容ながら、今の女にとっては十分だったと言えよう。生きている。それだけがすべて。守衛の家人に言付けだけして、その足で治療を行っている施設に飛び込んだ。)――桐静。(意識がないのは遠目からでもわかった。だが上下している胸を、血の通った肌色を見てどれだけ安心したことか。蹲って頬を濡らし、ややもすれば消えてしまいそうな声音で「おかえり」と紡いだ。)

(これは、幕間の話。)ねえ、桐静。(――重篤な怪我をした彼は、まだ眠っている時間が長い。その彼の頬を、女がなるべくやさしく撫でる。独り言を子守唄代わりに、滔々と謡うは唇。)ときどき、自分の名前を書くときにわからなくなることがあって。下の名前は普通に書けるのよ。でも苗字のときに、あれ?卯の後って月だっけ?ってなったりして。月じゃなくて木なのにね。おかしいでしょう。……でもこれ、桐静のせいだって言いたいわ。わたしの大切なものリストのいちばん上に穿月桐静ってあるんだもの。月の文字がちらついて、ごっちゃになっちゃうの。だから、…だからね。(共通点は最初の一音と、順番は違えど同じ一音があること。か行の濁点。ほとんどこじつけと言って良い内容を並べ立てるのには訳がある。)穿月祈織ですって名乗れる日は、まだなのかなって。わたし、これでも頑張って待ってるんだけど。“ずっと”。(そっと耳朶にささめきごと。待っていたのは帰りだけではない、目覚めだけでもない。未来を、彼と紡ぐこれからを。互いに抱えたり支えたりしながら二人並べる日を、待っている。あなたがいないと、貰ったアクセサリーをつけて見せたい人だっていなくなってしまうんだから。)



(20××年××月、穿月家のとある部屋の引き出しから紙きれがはみ出ている。メモだろうか?内容は――「拝啓、寝坊助さんなわたしのヒーローへ。連れ出してくれてありがとう。帰って来てくれてありがとう。あなたがいたから、わたしは人になれたように思う。卯木祈織という記号が個になったのはあなたのおかげ。その感謝と重たい愛は今後適宜伝えていくこととします。覚悟しておいてください。穿月家に根を張るつもり満々の女より」。――ラブレターかもしれない。)

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