bbs topadmin

【5】(花ひらく日のために)

卯木祈織 ♦ 2021/01/29(Fri) 19:03[66]

(ぼんやりしているということが、ここまで使い勝手が良いとは思わなかった。ろくに考えずに部外者についていったのだろうと、さほど疑われることなく帰還を受け容れられた心中は些か複雑だけれど。――そこから打って変わって、翌日広がっているのは阿鼻叫喚地獄絵図。)呪術師っていつもあれ視てるの?控えめに言って地獄じゃない?(異形へと変貌した彼女は、もう人の見分けがついていないのだろう。信徒も少女たちも見境なく手折ってゆく。逃げるさなか、何か蹴飛ばしたと思ったら正体は転がっていた肉片だった、なんて流れはもう三回目。)うっ、……っは、ぁ…。(歯噛みしてせり上がる嘔吐感をぐっとこらえる。囮作戦を彼が渋った理由を理解した。これは、対抗し得る術を持たない者が対峙すべきでないものだ。――だけど。術を持っていたら怖くないなんて、誰が言ったの?)セイも怖かったのかな。正直何度見てもホラーだと思うけど。心病みそう。(なんて軽口を叩く娘の視界の端、異形の長く黒い腕がかすめそうな位置に一人の少女が映る。)ほんと、嫌になっちゃうね。(見過ごせなくって。口ぶりを真似て駆け出せば、少女の腕を思い切り引き寄せ。反動で位置が入れ替わる。次いで衝撃、暗転。)――っ、痛……。(気絶していたのは数秒か、数分か。どうやら壁際まで弾き飛ばされたらしい。強かに打った背中が痛い。あと礫に変わった調度品の類で切ったのか、額のはじっこに当てた手のひらが血でぬるりと滑る。)あーあ、(頑張ろうと決めた矢先に窮地に陥るとは。人生ってままならない。でも約束を破ったら、怒る以上に泣いてしまいそうな人がいるから。起き上がろうと床に手をつき力を込めた。)

穿月桐静 ♦ 2021/01/29(Fri) 22:15[67]

(連絡が入ったのは単独任務の現地に到着する前だった。黒い車が急旋回で来た道を戻っていく。男は静かに前だけを見ていた。「落ち着いていますね」青ざめた補佐官に静かに言った。)……何も、出てこないだけです。(軋むような声が出た。)――穿月現着しました、突入します。(言うが早いか、跳ねあがるのが早かったか。飛び込んだ塀の中はこの世の終わりだった。先行して突入したらしい担任教諭と特級呪霊の戦いに巻き込まれぬよう、僅かな生き残りと三級四級を外へと追い払い、化け物どもを祓っていくことしか出来ない。現在までに支払った対価はエクステ一本にカラコン一つ。明らかに施設内の呪霊たちのレベルが上がっている。)「石楠花」「水仙」(プラスでネクタイピンに貯めていた呪力を使い、また一体を祓う。片腕持っていかれた男性を立たせてネクタイで傷を縛り、また外へと追い払う。ことの中心部に向かっていく最中のことだった。見知った柔い赤、それに迫る異形のモノ。) っ、(はく、声にならない吐息。考えるより先に体がそっちへと動いていた。チェーンの付いたピアスを力任せに引っ張れば当たり前に耳が切れたけど、そんなの構っちゃいられない。)「石楠花」「水仙」――「百日紅」(駆け抜けて、跳ねあがって、空を蹴って、呪霊の脳天を叩き潰す。駄目押しとばかりに回転して壁まで蹴り飛ばせば彼女の向かいでどおんと大きな音がするだろう。地面に降り立てば、ゆっくりと振り返ろう。彼女の手がもがいているのが分かって、少し力が抜けた。涙も笑みも声もまだ出ない。)

卯木祈織 ♦ 2021/01/30(Sat) 14:25[68]

(金、緑、赤、紫、橙のカラフルさと焦げ茶が恋しい。血色と噎せ返る死臭にどうにかなってしまいそうだ。身体を起こしたら起こしたで左肩がずきりと痛むし。恐らく脱臼。)厄日か。…?(辟易としかけていると、不意に呼ばれた気がして視線を巡らす。見えたのは、軽口にして真っ先に思い浮かんだ色を束ねた主。自然に口元が綻ぶ単純さを笑われても構わない。)ふ、…あは。ヒーローは遅れて来るって、本当だったんだ。(どこかで誰かから聞いた様式美だか定番だかを口にする。会いたいときに会いたいひとが来てくれた幸福を始めて知った。この世の終わりを形にした景色の中でだってそう思うから、擦り傷塗れの右手の人差し指と中指立てて、ふてぶてしくピースサイン。)頑張りました。…と、思わない?わたしにしては頑張って今生きてるつもりよ。(機動力の要の足は無事だし、ここで化け物と心中する気はさらさらない。外れたままの肩のせいでバランス悪いが、もう一息。手が届く距離になったら、血が滲む彼の耳朶の外角をひと撫で。)痛くない?お互い結構ズタボロね。……怒るのは高専に戻ってからにしてほしいけど、泣くのと抱きしめるのは今でもいいよ。(揃って生きてる奇跡みたいな現実を噛みしめ冗談めかす。始まりの日、手を伸ばしてくれたのは彼だったから。言葉と裏腹に、今度はこちらから一足先に抱きしめる。体温、心音、生きている証。言葉にならないもの、全部。伝われ、伝われ。)

穿月桐静 ♦ 2021/01/30(Sat) 16:50[69]

(ヒーロー。英雄。現実とはあまりに食い違っていて、それは自分を指す言葉なのだと理解するのに少しの時間がかかった。紫と焦げ茶色の瞳で彼女を見つめて数歩。上がった息と心臓を整えるのに数秒。眉を寄せて首を振って、ようやく口を開いた。)……頑張りすぎ。いや、……遅くなって、ごめん。――生きてて、よかったぁ……(周囲への警戒は怠れない故、完全に力が抜けたとは言わないけれど。語尾が緩むくらいには安心した。ピースサインが止まりかけた胸を穿ったみたいに、生きた心地がした。うっかり涙腺まで緩みそうだったから意地を張って額に拳を当てたら、メリケンサックがごりりと己の底を刺激する。「痛いよ、」額のことじゃない。触れられた耳のことでもない。)……めちゃくちゃ心臓痛い……もう無茶しないで、祈織さん。痛いでしょ、自分で動ける?肩とこめかみと、……背中も?あーだめ、まだ痛い。(――そっと、自分からも抱き寄せた体のなんとか細いことか。普段から鍛えている自分と比べなくたって、あまりにちっぽけで普通の女の子。こんなにボロボロになっても生きてる女の子。その温もりに容易く緩む涙腺を、一度鼻を啜って押し込めようとする。ああやっぱだめかも。そう思ったから、綺麗な色の髪の毛をぽんぽんと軽くなでてから体を離した。)帰るまでが任務だからね……。とりあえず第一面はクリア。ここからは第二面です。覚悟は?(決まっていようがいまいがやることは変わらないが。ちょっと茶化す気持ちで聞いて。ようやく笑えた。苦笑いだったけれど。)

卯木祈織 ♦ 2021/01/31(Sun) 01:24[70]

じゃあ、お互いよく頑張りましたってことで。で、巻き返しに格好いいとこ見せてチャラにして。――セイも。生きててよかったし、来てくれて嬉しい。…ありがと。(「痛い」と繰り返す彼にかすかに苦笑。こっちだってあなたの怪我を見ると痛いんだと言ってしまいたい気持ちと、心配されて嬉しいと思う気持ちがせめぎ合う。)ええ……セイだって無茶したでしょ?見えないところに打撲痕とかできてるんじゃないの?……もう。(困った風なのは口先だけ。進んで回した腕に、ちょっと力を込めてみようか。同じ痛みを分け合いたい。)ぎゅーってしたから痛いでしょ。泣いちゃうくらい。(涙になるかはわからないけれど。まだ分かちきれない痛みがあるなら、呪い溢れる世界に相応しくおまじないでも。高専の制服の上から彼の心臓の位置へかざすのは、呪力と縁のないありきたりな娘の手のひら。)痛いの痛いのとんでって。で、セイにいいことがたくさんありますように。(この世の地獄を背景に、呪いと祈りをひとつずつ。しかし場にそぐわぬ彼の言いぐさに、かろい笑声が零れた。)遠足かな?おやつも何も持ってないのに。……全然ない。だから手、繋ぎたいな。…わたし、やさしくないから。いざとなったら見捨ててなんて言わないわ。転んだときは道連れね。(に、と口の端を吊り上げて浮かべる笑みは意地悪く見えたらいい。退路を探したら、今度こそ駆け出そう。)

穿月桐静 ♦ 2021/01/31(Sun) 10:25[71]

無茶言うよ……でもちゃんと生きて帰すから。(かっこつけなんて一ミリだって出来そうもない現状。お願いを叶えるのは無理だけど、これだけは絶対という約束を痛がったまま。「俺はいいの、」なんて言い草は強くなった締め付けで容易く霧散する。呪力で守っているとはいえあちこちボロボロだ。思わず零したうめき声はあまり聞いてほしくないところ。流石に泣くほどではないけれど。)……そうやって人を泣かせにかかるの、悪いところだよ、ほんとにさ。人の心配してる場合じゃないくせに。(心臓の上のあたりにはちょうど胸ポケットがあって、そこは不自然に膨らんでいる。彼女から貰ったお守りに、さらに彼女の祈りが二つ。それだけで何でもできる気がするから、誤魔化すためにへらりと苦く笑った。) いいよ。転んだら引き上げて連れていく。(しっぺ返しのつもりで告げた言葉が少しでも効けばいい。学ランを脱いで、その辺の木片でも拾い上げて、動かしにくそうな彼女の腕を首に吊ろうか。骨折しているみたいな処置に大げさだと思われたっていい。少しでも動きやすいほうが、行きやすいだろうから。)――……何があったか、言える範囲で聞いていい?(彼女の手を取って走りながら問いかける。速さは彼女に合わせているから呼吸は落ち着いていて、表情は少し険しかった。)ここがこんなになっているのは、……えーっと、君たちの教祖?だけのせいじゃないんだ。周りの雑魚が明らかに強くなってる。

卯木祈織 ♦ 2021/01/31(Sun) 22:18[72]

(この状況で絶対を内包した約束ができることが格好いいのだと、それは追々学んでもらうとして。悪癖と称されるのは、片眉上げて心外だとポーズだけで代弁を。)だって、一人で泣いてもさみしいかなって。二人なら、そんなにさみしくないでしょう?(それから、胸ポケットの厚みに含羞まじりに微笑んで。尤も、はにかむ唇がへの字になるのはすぐのこと。)セイが意地悪になった…。……そのまま五条先生の近く通って笑われるまでがワンセットね。(だけどやられっぱなしじゃ終われない。悔し紛れの一言の後、想定斜め上を行く処置に素で驚きの声が出た。しかもあっという間に彼の意のまま処置がなされて遺憾の意。)わたしへの処置で時間ロスするのは解せない…。――うん?んー……そうねえ。なんて言ったらいいかな。…殉教?(むっとした唇が今度は横一文字に結び。幼い頃よりここで暮らした分、想像がつかないわけじゃない。悩むというよりかは、ちょうどいい言葉を探して迷う。)Xの成り立ちは知らないけれど、あの子……今給黎朔にとって、“お母様”が大事だったんじゃない?誰かの信仰を下地に、形の違う自分のそれを重ねるくらい。(抽象的な言葉と裏腹に、眉間にははっきりと皴が寄る。)…歪んでしまったのかも。形が違う者同士を、無理やりひとつにしてしまったから。――以前の質問へ今ならこう言うわ。呪いって、ひとりきりの愛のことなのかもね、って。(ひとつでもひとりでもなくいられたら。もしもを語ろうとしても道は分かたれてしまった後。人が呪いを生むのに、人と呪いは相容れない。さよならだけが手向けられ、やがて花筵になるのだろう。)

穿月桐静 ♦ 2021/02/01(Mon) 22:05[73]

うわぁ……すっごい想像できるのが嫌……。(結局最後に乾いた笑いを浮かべるのは自分の方か。担当教諭の負けなんか想像できなくて、ここを切り抜ければその未来は高確率で訪れるんだろう。そのための処置故、彼女の苦言についてはまぁまぁといなすのみ。彼女の言葉を聞きながら、適宜受け取っていた他所からの情報とすり合わせていく。)――……、(言わんとしていることは分かった。だからこそ、しばし口を噤んで。二人分の足音が地獄の窯の下で響く。) じゃあ、俺たちもずっと一人だったらいつかああなっていたのかな。……なんて。(ぽっつり零した言葉に大それた意味があるかと言われればそんなことはない。ただそう思ったからそういった。自分を好きになれなくて。自分を嫌いで。それでも生きて。一人きりで感情を循環させて、螺旋階段の一番上まで登り詰めたら、ああなっていたのだろうか。血色の花弁を分け合うこともなく、見せ合うこともなく、分かり合うこともなく。無意識に握った手に力が籠った。)話は大体わかった。……この施設全体が彼女のフィールドだから、抜け出すしかないのは前と一緒なんだけど。俺も呪力かつかつだから前みたいな大脱出は出来な、(そこまで言ったところで、気が付いた。横の壁から迫る圧。素早くエクステを引きちぎって、彼女を抱き寄せようと。)―「水仙」!!(初めて術式中に声を荒げたかもしれない。重力を反対側の壁へとむけてエスケープを決めるが、壁をぶち破ってきた一級呪霊の余波が二人を襲うだろう。)

卯木祈織 ♦ 2021/02/02(Tue) 05:44[74]

(心強いがめんどくさい味方につられて苦笑い。小さな呟きを拾ったのはそんな折。)あー……やりそう。わたしたち生きるの下手だもの。変なところで道を踏み間違えそう。(身も蓋もない首肯を返すも、言い募る眼差しに絶望の色はない。「今更一人になんてさせないけど」とほくそ笑んで告げるその心は、先の道連れに掛かっている。)今、二人でいられてよかった。無理に合わせるんじゃなくて、並んでいられてよかった。…まぁ、セイのことだから。苦しいなって思いながらも、人を傷つける道は選ばなかったと思うな。見ず知らずの女が自分の髪ぶちってやっただけで痛そうな顔する人だもの。だからも一つ付け足しちゃお。一緒に痛がってくれるセイがいてくれて、よかった。(クーリングオフなんて効かないぞ、と握る手のひらに思いを込めて力も込める。――それが不幸中の幸いだと言うべきか。相手の土俵で戦わされる無理ゲーを理解して「うえ…」と眉やら唇やら歪めていた矢先、説明も何もないまま引き寄せられた直後に走った衝撃。会話は勿論頭も何もついていかない。)っ、(たかが余波、されど人ならざるものの力。恐らく二人して地面を転がる羽目になるだろう。彼のおかげで擦り傷以外の怪我はない。)セイ、…桐静っ。生きてる?生きてるよね?死んだら呪ってやるから!(鋭く吠えた女は本当、らしくない。支離滅裂なことを言うほど焦ったことなんて、今までなかったくせに。)

穿月桐静 ♦ 2021/02/02(Tue) 19:51[75]

(近く遠い世界の中で、似ていないけど似ているにんげんふたり。いまだ人の形をとり、どうにかこうにか生きている。苦く笑いながら。)そういう祈織さんだって。傷付けるくらいなら自滅しちゃうくせにさ。……こうしていられるのも、君が人の痛みをわかってくれる優しい子だったからだよ。一緒って一方通行じゃできないって思ってくれて、俺はめちゃくちゃ嬉しかったんだ。(道連れなんて皮肉る彼女を引き連れて、無茶苦茶だって走り切ろう。――故に、守るためではなく生きるために庇った。それでも不完全な呪力の込め方じゃ一瞬意識が飛んでいたようだ。術式切れにて無様に床に転がって、慟哭にて地獄の外の空虚から目を覚ます。)てて、……物騒なこと言わないでね?……元気だね?いいこといいこと。(腕の中の彼女を解放して、今一度確認を。立ち上がってニマニマ面白がっている一級呪霊にうわぁと遠い目を。判断は早かった。)俺のこと信じて、手、離してくれる?(静かに彼女を見つめて、笑んでいった。ランナーズハイってやつかな。今だったら、君が望めばなんだってできる気がするんだ。)――俺の術式は、周囲の「斜度」を自分のものにするだけ。正の軸の「石楠花」、負の軸の「百日紅」、平行垂直に特化した「水仙」。呪力があればあるだけ時間も距離も面積も伸ばせる。(いずれにせよ、今から生きるために。手の内を明かそう。自分で言っていて嫌になって笑っちゃうけど。)……ただ盗って作るだけの、泥棒だ。

卯木祈織 ♦ 2021/02/02(Tue) 23:39[76]

泣かせにかかるの、悪いところだって言っておいて。自分だってそうじゃない。……なら。嬉しいと思ってくれることが嬉しいと思うわたしのことも、覚えておいて。(ぎゅうぎゅうと力を込めて握り返す手に、文句の一つも聞けたら満足に小さく微笑むだろう。痛くて苦しくて目を逸らしてしまいたくて、それでも大切なもののために、もがきながら生きている。彼が倒れ伏す姿は、たとえこの先何度あったって慣れそうにはないけれど。)じゃあビンタにしよ。雪山でも飛び起きそうなやつ。(憎まれ口叩いて彼の見る方向へ視線を移す。同じものは視えない。ならば今の己は無力どころか足手まといに等しい。言われるまま手を離し――開かれた学ランから覗くシャツの襟を力任せに引っ張った。視線を合わせるつもりが勢いがつきすぎて、こつんどころかごつんと額同士がぶつかって鈍い痛み。クレームが入ろうが今だけは知らん顔しよう。)頑張れ。(応援は時に押しつけがましくて邪魔なだけかもしれない。だけど。)そんなこと言わなくたって、ずっと前から信じてる。いちばんに。……わたしの中の序列めちゃくちゃにしたんだから、責任取ってね。重いとかいらないとか、自信ないとか言っても知らない。(手を離し、身体を離し。娘の心の天秤はとっくに傾いてしまった。)やっぱり怪盗にはしないんだ…。まあいっか。…好きにやっちゃえ、桐静。(一歩下がって、その背を軽く叩いて送り出す。不遜に傲慢な一言には、せめて全幅の信頼を。)

穿月桐静 ♦ 2021/02/03(Wed) 15:08[77]

(もっと痛くなった宣言にからわらい。目線の向かう先には流石に笑っちゃいられない。離れた手に安心するのはきっとこんな場面でだけ。感傷に浸って油断をしていたもんだから思いっきり額に不意打ちを食らってしまった。本気の「痛ってぇ!」が響く。涙目で抗議の意を唱える瞳は、一瞬でその色を変える。彼女が、鼓舞したから。続く言葉もひっくるめて、正しく鼓舞と素直に受け取れたから。)……うん、がんばる。(まるで幼児のような無垢な声が出たのに自分でも驚いた。こんなに純粋にがんばるなんて、言ったのいつぶりだろう。こんな場面でまた、沢山彼女に伝えなくちゃいけないことができてしまった。やになっちゃうね、本当に。へらりと情けない笑顔をして、背中の痛みを感受しよう。コンタクトを外した素の両目が彼女を見て困った様に眉が下がった。)いいんだよ。そう思ってないとすぐに調子乗っちゃうから。──……倒錯×芹演法。「石楠花」(驕りも見栄も何もかも捨てて前を見る。特別じゃない自分だから頑張れる。一撃だって後ろにいる彼女に届かせるものかと意地を張れば、みっともなく足掻くような戦い方になった。呪力が足りないから一撃が軽くて手数がいる。サンドバックだったらとっくにボロボロになっているくらいの時間が立って、それでも殴り合いは終わらない。学ランも装飾もカラコンも何もない最後、金色のウィッグを毟り取ったら、なんの変哲もない黒髪が風圧に揺れた。)──「水、仙」!!(術式で力を増した渾身の一撃は、一級の土手っ腹を貫いて。男の意識まで刈り取らん勢い。ふらりと体が傾いた。)

卯木祈織 ♦ 2021/02/03(Wed) 23:05[78]

(上がった悲鳴と抗議の眼差しには顔色一つ変えずGOサイン。ほんの一瞬のタイムラグにどうしたのかと首を傾げ――まっさらな声色と、見慣れたようで違うようにも見える表情にぱちりと瞬き。反射的に手を伸ばしかけた手は、もう片方の手で包んでしまおう。)うん。ここで見てるから。待ってるわ。(ひらりと手を振り送り出し、後ろ姿を見据える。瞼を閉じて一秒二秒。再び開かれた双眸は、視界に彼と視えざるものを含んで。視えない呪い、しかも物質に触れるまで音さえ聞こえないときた。お行儀悪く舌打ち一つ。ならばその息遣い、片鱗だけでも拾えるよう五感を研ぎ澄まそう。凶刃の矛先が一度たりともこちらに向かないのが偶然なわけがない。がんばっているのだ、彼が。)桐静、(名前を覚えきれなかったのは最初だけ。変えずに通したのは始めが惰性、次第に踏ん切りがつかないだけになって。呼びたいと思うようになったのは、重ねられた約束に彩られた頃だろう。)わたし、一人で髪結ぶのまだ下手なんだから。…置いてかないで。(組んだ両手の指、息吹く祈りよ届け。一陣の風に乗って、終結の気配と傾ぐ彼を見た。慌てて駆け寄り抱き留める、あるいはクッション代わりになれれば御の字。)セイ、セイ。頑張ってくれてありがとう。助けてくれて、ありがとう。い、生きててくれて、ありがと……っ(真っ先に心音を確認し、鼓動が聞こえたら。涸れていたはずの涙腺からぼろぼろ雫が零れていく。止め方なんて、それこそ昔に忘れてしまった。)

穿月桐静 ♦ 2021/02/04(Thu) 19:51[79]

(――時折呼ばれる名前に、気付かないふりをしていた。気恥ずかしさが少し、特別感が嬉しいのがだいぶ、言ったら呼んでくれなくなるんじゃないかって弱気が残りの分だけ。泥仕合みたいな殴り合いの最中にも聞こえた気がして、その分だけ力が湧いてきた。疑うのも馬鹿らしくなるくらい、澄んだ心が男を意地にさせるのだ。最後の一手が決まったことに安心したら、無様に膝から崩れ落ちたけれど、不思議と倒れもしないしいたくもない。どっこもかしこもボロボロで、絞り出せるものなんて残ってもなさそうなのに、何かが流れて落ちる。理由を知ればうっかり笑ってしまった。)……どういたしまして。……俺のこと、信じてくれてありがとう。あーぁ、……泣かないで、祈織さん。目、腫れちゃうし、嬉しくなっちゃうからさ……。(どくどくと血液を全身に回すため、心臓が動く。こんな場面じゃなくても、もしかしたらこんなに早かったかもしれない。どこもかしこも動かすのがだるくなくたって、このまま無様に彼女に寄っかかっていたかもしれない。地獄の窯の底。どこもかしこもボロボロで、建物なんて壁も天井も吹っ飛んで空が見えるくらい。それでも抱えた命二つ、抱き留めてくれた体温が離し難い。)かっこ悪いパントマイムまがいとか、本当は見せたくなかったんだよなぁ……。この格好も、……祈織さんの知ってる穿月桐静じゃないみたいだし。(ぽんぽんと背中をあやすようにしながら、冗談めかしてみる。むき出しのと黒髪とこげ茶の瞳、そして心のまま。)

卯木祈織 ♦ 2021/02/05(Fri) 04:46[80]

せ、セイに泣かされてるの…っ。泣きたくて泣いてるんじゃ、……ぅ、うううううー…!(涙と泣き言を堪えようとしては失敗し、「ぅ、」と湿った声が漏れだした。支えようとしたとき彼の制服の裾を掴んだ、この手指だけがぎゅーっと雄弁に物語る。唇を強く噛んで今度こそ嗚咽を呑み込んだと思いきや、今様色の瞳からひとしずく、つうっと伝い落ちる無力さよ。体温と掛けられる言葉だけがよるべのよう。)なら、かっこ悪くなっちゃうほど頑張ってたってことでしょ。(散々泣いたためにかすれた声で、だけどもその一言はやたらはっきり声にした。)それに朔の劇的ビフォーアフターに比べれば全然……セイはセイだし……どっちでも好きなの変わらないし…。(そう言いながら、はじめて見る黒色をじっと見つめる。撫ぜるようにリズミカルに叩かれる背も相俟って、さながら関心が引かれた赤子のようにひたすらに。ウィッグと逆に短い黒髪を軽く引っ張って「真っ黒だ」と戯れごと。一連の戦闘で普段の色を取り払った彼と、凪どころか嵐の後もかくやの身なりと顔した自分と。揃って格好なんて全然つかない。)ふ……あはっ。わたしたち、ぐちゃぐちゃなのもお揃いだわ。本当、困ったものね。でも…素のセイが見られたのはラッキーかな。(ぱちんと片目閉じ。意外にも器用にウィンク決めてコメント。)おかえり、桐静。(遠くで聞こえる大きな音と続く歓声。エンドロールはすぐそこだ。)

穿月桐静 ♦ 2021/02/07(Sun) 13:40[81]

比べるところはそこなの?流石にああなったら俺、破門じゃ済まないんだけど?……まぁ、祈織さんがいいならいいよ。俺もちょっと好きになれそう。(その涙を拭えるハンカチか袖の一つでもあればよかったのだけれど。学ランは彼女の腕の固定に使ってしまったし、手なんかあちこちボロボロだし。結局背中を優しく撫でて、照れ隠しに冗談めかすばかりで。髪の毛を引っ張られて痛い痛いと戯れるような時間がずっと続けばいい。昔は染めてたんだよと言えるような毎日が来ればいい。ぼんやり思うのはきっと燃え尽き症候群みたいなもの。駄目だなと思いながら、心地よい体温を離さずに、共に笑おう。)……ただいま、祈織さん。……あー……もう、まだ帰ってもないのにさぁ。お揃いのままおしまいにする?なんて、流石にもったいないでしょ。それは。(せっかく生き残ったのに。ここでおしまいなんて大団円にもほどがあって、きっと俺たちには似合わない。――「おー、青春してるじゃぁん。」) あ、(彼女を抱きしめたままかち合った瞳は宝石のような青の色。次いで目の前に浮かぶは渦巻く赤の色。「術式反転――赫」)――祈織さん掴まってて俺から離れないで!!(慌てて紡いだ言葉がどれだけ彼女に伝わっているかはわからない。動けないのをいいことに残党残る施設内から弾き飛ばされ、無重力が体感できるくらい空高く飛ばされるだろう。人生のエンディング?いいや、これは二度目のオープニングアクト。星空は涙が出るほど綺麗な快晴となっていた。)

卯木祈織 ♦ 2021/02/07(Sun) 18:54[82]

(返ってきた「ただいま」があんまりにも眩くて目が覚めたような、いっそ生まれ直したような。衝動と高揚がドローして、考えるよりも早く、これを離すな大事なものだと本能が叫ぶんだ。)帰るまでが任務なんでしょう?じゃあ、結ぶにはまだ早いんじゃないかな。(言葉を借りるならそんなところ。生きているのなら物語は続いているから、打ちかけたピリオドは修正テープでなかったことに。――空色の眼をした男が現れたのはちょうどこの時。)…?えっ(態勢のおかげで随分近くから聞こえる彼の声に滲む警戒を感じ取れば、次いで浮遊感と無重力。五条悟という天才による天災、その理不尽さを垣間見た。咄嗟に回した腕に力を込めていたからいいものの、そうでなかったら?やりかねない教師に向け、親指で首を掻き切るジェスチャーと呪詛を送る。)向こう一週間五条悟の食卓にあの人の好物が出てきませんように…。(弾き飛ばされた衝撃により先生と言う敬称まで吹き飛ぶ。教師への好感度がゼロを振り切ってマイナスに陥没。)一、このまま地面に落下して潰れたトマトエンド。二、障害物に刺さって串刺しエンド。三、五条先生が一応助けてくれる。隠れ四番、わたしのヒーローさんが助けてくれる。……さっきの、離れないで!は格好良かったわ。(彼には茶化しているようでいて九割九分本気の称賛を送り不敵に微笑む。波瀾万丈でも、生まれ直したような二度目の幕開けはなかなかに悪くない。)

穿月桐静〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 10:32[83]

(生きているなら明日は来るし、間違えたって上から塗りつぶしてやり直すことはいくらでもできる。それを改めて教えてくれた少女を胸に抱えて、絶賛生き死にの瀬戸際中。あの担任のことだからちゃんと綺麗に飛ばしてくれたし、能力値を見越してこういう手段をとってくれたんだろうけれど、それにしたってそれにしたってだ。)賛成……嫌いなものがあるならそれも出ればいい。(はははと乾いた笑みを浮かべながら重力をじわじわと感じるまま、まだ上がる。陥没しないためにさてどうするかと考える前に、彼女の声が響くもんだから。また困ったように笑うんだろう。相変わらず物騒だなぁとは、言わないことにした。)……そんなこと言われたら、期待に応えないわけにはいかないなぁ。(上昇と落下の切り替わり。丁度無重力を感じる数秒にはにかみながら。いつかこんな、何にも怖くないみたいな笑みに、同じものを返せる日が来るんだろうか。まだわからないけれど、眉を下げたままでも笑っていたのは確か。背中に回していた手を脇と足に滑らせて、空中で器用にお姫様抱っこに切り替えたなら、いっちょいつもの行ってみましょう。)倒錯×芹演法――「百日紅」(絞り出したかすっかすの呪力で一人分のレーンを作りながら、彼女を抱えて天から地上へ戻っていく。長い長いすべり台を滑って、施設から少し離れた森の空き地に降り立つ頃には立つことすらままならなくなっていたって、今日もどうにか生きている。無事に補助監督が迎えに来てくれる頃には、呪霊の残党含めて全ての片が付いていることだろう。その点に関しては、あのハチャメチャな担当教諭をめっぽう信用しているから。)――……帰ろうか、祈織さん。(手を伸ばして握った手のひらに当たり前に、そう言って笑う。夜明けは近い。今日が来る。)

卯木祈織〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 20:55[84]

(担任の頭上へ黒板消しを落とそうとする悪ガキもかくや。悪戯の画策に乗ってくれるのがまた嬉しくて、「ふっ、」と噴き出すのを堪える仕草。)言っちゃえ言っちゃえその調子。試しにキャロライナリーパーでも仕込んでみる?(嫌いなものが出された時の顔を激写したいものだと思いを馳せつつ、相変わらず全幅の信頼プラスめちゃくちゃ期待をしてみたり。重たくなったら半分持つから、ちょっといいとこ見てみたい、なぁんて。もう十分過ぎるほど見たし知っているけど、もう一声と言いたくなるのが人の性。)…あは。じゃあ楽しみにしちゃう。見せて、魅せて下さいな。(年相応よりも少し幼く笑う顔がかわいいと言ったら怒るだろうか。感想はひとまず胸に秘めておくこととして、久しぶりのような最早お馴染みのような、横抱きのポーズで抱きかかえられつつ空を泳ぐ。気分はハルとソフィーを足して割った感じ。驚きと未知への好奇心と、ひと匙のときめきと。それら全部一つの鍋に投げ入れてしまおう――今はまだ。ただ、笑ったり怒ったり時には泣いたりしながら、生きていることを噛みしめながら、この一分一秒を惜しんで生きたい。文字通り地に足着く頃にはすっかり疲労困憊となった彼に肩を貸しつつ支えつつ、補助監督が来るまで枕代わりのお役目を務めるとしよう。頑張ってくれてありがとう。小さな小さな囁くような声で紡いた言葉と共に寄り添った。)……一緒に、ね。帰ろう、桐静。(繋がった手のひらから伝わる体温があたたかくてこそばゆい。――やがて昇る朝日が目に染みる。痛いほど眩しくて、美しくて。ああ、)…生きててよかった、(そう思うのだ。)

name
icon
msg
文字
pass