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【3】(せめて一枝の祷りを)

穿月桐静〆 ♦ 2021/01/17(Sun) 23:10[47]

(――術を初めて覚えた時は、悪ガキだってただの子供だった、気がする。ただ純粋に胸が高鳴った。それが次第に歪んでいった。自分も風のように走れる。自分にはこんなにすごいことが出来る。ずるをしてでも目立ちたかった。遠き過去は黒い楔としていまだ心に突き立って、ことあるごとにそのトゲで心臓を傷めた。――「桐静?とうせーい、おーい。聞いてる?」)……あぁ、すいません……。ほんっと、始まるのが突然なら終わるのも突然だと思って。(へらりとにがわらいして、現実に戻ってきた男はウィッグを掻く。担任である五条悟に告げられた突然の昇級に、しばし思考をはるか彼方に飛ばしていたようだ。「じゃあもう一回!昇級おめでとう!」)ああ、もう大丈夫です、分かったんで……まぁ、実感はあんまないですけどねぇ。俺なんかが二級術師なんて。(ぽりぽり本物のつむじあたりをいじりながら告げるのは紛れもない本心だ。浅ましい幼い自分はいまだ心の奥で燻り、自信も何も沸いてくる気がしない。実感がない、心配だ。――こんな呪術師ひとりに、いったい誰が救えるというのだろう。流石にそこまで口にはしなかったけれど。二級になるということは単独任務が許されるということで、必然現場に出ることが多くなるということで。思考の端で花の色が揺れる。こんなてのひらで、はたして本当に救えるものなど、あるのだろうか。)……五条先生、俺ははらうことしか出来ませんよ。(てのひらは無意識にウィッグにつけられたエクステを握る。赤に緑、そして金髪のウィッグ。ジャラジャラと飾り立てた呪具と体で、はらうことしか出来ない。それを担任はにやけた顔で見守っているのだ。はぁ、と息を吐いて。)……それで、次の任務、は……早速?!待ってくださいって、まだおわかれも言ってないのに、もー……今生のとかそういう問題じゃないんですよ……(「それじゃあ、早速次の任務に向かって欲しいんだけど――……。」なんて言い出す担任に指示されるままに、準備のために、男子寮の方向へと歩いていこうか。――そう、己如きに出来ることなどもう出し尽くしている。それでも後ろ髪引かれるのは、きっと己の我儘なのだろう。あの少女が、何かを吸い上げるたびに、嬉しくなるから。傍に居たいなんてこんな我儘、口にはしない。代わりに隣立つ担任だけに聞こえるように囁くんだろう。)……先生、祈織さんのことお願いしますよ。……いや、やっぱりいいです、クラスのやつと学長に頼みます。先生絶対ろくなこと教えなさそうですし。きっと祈織さんにとって今の何でもない日々ってめちゃくちゃ大事な時期なんですよ。だから、絶対に変なちょっかい出さないでください。

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