乙無白亜〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 22:51[82]
(彼も、てんしさまも、自分も。きょろりと見廻す限り真っ赤だった。小言がなにかはわからないけれど続く言葉でニュアンスはなんとなく掴めたから、溜息つく家入硝子の姿も当たり前のように脳裡に浮かぶ。独特な匂いが漂う医務室も、ビニール製の丸い診察椅子も、たった数日しか離れていなかったはずなのに思い出す景色をどれも懐かしく感じるから、あのあたたかい場所に帰りたい気持ちがいっそう増した。乙無白亜の楽園はもう壊れてしまったけれど、還る場所は他にある──新たなはじまりを告げる光を浴びながら、それがしあわせなことだと教えてくれたひとへと紅玉を向ける。天より降ろされた天使の梯子は軈て消え、雲の後ろに隠れていた蒼穹が間もなく顔を覗かせるだろう。)──わたし、(なににでもなれる。それならわたしは、なにになりたいだろう。まずはきちんと勉強をして、彼のように学校に通ってみたい。背ももうちょっと伸びたらいいなって思うし、Xで優しくしてくれた少女たちのような素敵なお姉さんになりたい。なにをしたいかなんて一度も考えたことなんてなかったのに、考えはじめると不思議なことにあれもこれもと指折り数える手が追い付かなくってしまうほど頭に思い浮かんだものはたくさん。けれど細腕を引いてくれた手がそんなに難しく考えることじゃないって教えてくれたから、だからきょとんと瞬いたのは一回きり。)うん。 わたし、となりとずっといっしょ、いたい。(先刻てんしさまにそうしたみたいに、大きな身体を包むみたいにめいっぱい腕をまわしてはぎゅっと彼に抱きつきたがった。体格差的に、ぽふっとお腹のあたりに頭を埋めるかたちになるだろうか。許されるなら甘えるように彼の身体に額を押し付けて、すり寄って、命のぬくもりを身体中で感じて。)となり、(いつも隣に居てくれたひとの名前を呼ぶ。上にあるかおばせをじぃっと見あげ、紅玉にさいわいを映した。)だいすき。(まだ恋も愛もよく理解していない未熟なむすめであるけれど、てんしさまに懐くそれと違いを感じている時点でこれを初恋と称すると知るのもそう遠い未来の話ではないだろう。一緒にしあわせだねって笑えるような未来だって、きっと ずっと。)