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【5】(奈落の胎)

乙無白亜 ♦ 2021/01/29(Fri) 01:39[64]

(なにが起こったのかよくわからなかった。狂乱と啼き喚く聲。息が詰まるような血腥さ。眼前を舞う鮮やかな緋。床を彩る真っ赤な水溜り。飛び散る肉塊。地獄の門を叩くような断末魔。苦痛に歪んだ表情。恐怖で引きつったかおばせ。みんな知っているひと。てんしさま。)  どうして、(どうしてこうなったのだっけ。真っ赤に染まった身体抱えて、ふらふらと覚束ない足取りで前へ進む。──死 とは。童話でしあわせに逝った少女の最期のように、静かに終わるものとばかり思っていた。てんしさまも痛みはないと、死は幸福なことだと言っていた。だのに。これが、死? しあわせ? これがほんとうに しあわせなこと? あちこちに倒れ伏しているてんしさまのかおばせは、みな一様に歪んでいるというのに。)  っ、(ざしゅっと短い音がすぐそばで鳴った瞬、左の二の腕に鋭い痛みが奔った。さっきから何度も聞いた肉を裂く音。目の前にはなにもない。でも痛む場所へと掌を押し当てると、眸とおんなじ色したものが白いてのひらをべったりと染めている。)……? …………??(もう一度同じ音が鳴った。けれど今度は痛みはなく、代わりにすぐ後ろから短い悲鳴が聞こえた。逃げなきゃ。脳が警鐘を鳴らす。「助けてくれ」声が聞こえた。でも足は止められなかった。心臓が今までにないくらい軋んで悲鳴をあげている。息苦しくって上手く呼吸が出来なかった。けれど止まってしまったら、すべてが終わってしまう予感があった。)てんしさま。(白亜の壁がガラガラと崩れ落ちる音を聴く。)てんしさま。(壊れていく。壊れていく。わたしの世界。わたしの居場所。わたしの楽園。大好きなひとたち。)となり 、(生きたい。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/29(Fri) 06:01[66]

白亜ーーーーー!!!(大きく吸い込んだ一息をすべて放出するかの如く叫んだ。ひと月ぶりに立ち入ったXは、もう己の知る場所ではなかった。不安が的中したと言う表現では間に合わないほどの惨状を前に、驚くより先に呪具を振り回す内血生臭さにはすっかり慣れてしまったから、制服ごと大きく裂けた左肩の傷から流れていただろう血は、参加してドス黒さを帯びていた。)ッ、ゲホッ、これ呪霊どんどん増えてんだろ……!おい其処のっ、そっち駄目だこっち!!こっから抜けて外に走れ!(見えぬ敵に向かっていく信徒の腕を引けば、その瞬間床に亀裂が入る。見るからに歩くのが精一杯だろう男には酷な命令だろうが、生き残りを逐一安全な場所まで送り届けるには圧倒的に呪術師の数が足りなかった。襲いかかってくる攻撃を鴉音で受け止めつつ、幾度目かの深呼吸はたった一人の名を呼ぶために。)ッ、白亜ーーーーーーー!!!!ウェッ…、 (数分前、モロに胸で衝撃を受けてしまってから呼吸の度に骨が軋んでいる。口内に広がるのは血の味か埃の臭いか、崩壊していく建物の中、えずきそうになるのを堪らえようとした瞬間、視界の端に見覚えのある白が映った気がした。視界には人と思しき姿だけでなく、今にも襲いかかりそうな呪霊まで。)  ~~~~~ッ、(彼女の名前を呼ぶより先、シャンッと鳴らした鵠鈴の音を契機に駆け出して、呪霊へ向かって一閃お見舞い。安堵の息をつく間もなく、焦燥にかられて振り向きざま名前を呼んだ。)白亜!?(何処からか垂れてきた血にけぶる視界を拳で拭いながら、その先の紅を見た。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/30(Sat) 04:36[68]

(聲が、聴こえた。)────!(呼んでいる。叫んでいる。夢じゃない。聞き違うはずもない。息苦しくってだんだんと下へ堕ちていた眼差しを周囲を見回すように上へと持ち上げて、聲を頼りに縺れそうになる足を必死に動かした。生きるってこんなに苦しいことなんだって、大変なことだったんだなって、陸での呼吸の仕方を忘れたように溺れる喉を抱えて思う。ずっと死ばかりに夢を見ていたから気付かなかった。大勢のなかから乙無白亜という個を見つけんと呼ばう声に応えるようにあえかな吐息が彼の名を落とすけれど、こんなんじゃきっと聞こえやしないだろう。足を動かすたび、ポケットの中で祈りの鶴が小さな鳴き声を上げている。見つけてほしい。逢いたい。生きて、生きて、生きて 、きっと。短く息を繰り返すなかで今一度大きく息を吸い込んだなら、今出せるありったけの声でたったひとりの名前を呼んだ。)となり 、となり……!(──刹那聞こえた憶えある玲瓏なる鈴の響き。振り向いた先、真っ先にまなこに映った後ろ姿を見て確信する。わななく唇から、あえかな音がこぼれた。)となり。(彼の名を口にした瞬、ふっと膝の力が抜けて地べたにぺたんと座り込んでしまった。そのままの姿勢で彼を見仰ぐように茫然とした紅玉を向ける。生きている。彼も、自分も。彼の傷に心を砕きたいのに、酸欠も相俟って頭がぼんやりしている。)となり。わたし、生きて、る……?(心ここに在らずといったようす。頭がなんだかふわふわしていた。ゆえにまだいまいち実感が掴めずにいて、問いかけと共に首を傾いだ。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/31(Sun) 01:30[69]

(となり。それが己の名を呼ぶ声だと、乙無白亜の声であると認識するまでの一瞬、攻撃に移った須臾の判断がきっと命をつなぎとめた。残骸と砂埃に盈ちる視界に映じた紅が、彼女の色なのか滴る血なのか朧気なまま、よろめきながら彼女の前に膝をついた。)ッ白亜!怪我は!?(呪具を粗雑にホルダーに収め、両肩に手をおいた時点で左腕の痛々しい裂傷が目に入った。いつ死んでもおかしくない状況下、一瞥して無事そうな姿に深く安堵の息をつく。されど、夢うつつのような瞳を前に、汚れた両手で彼女の頬を覆った後、指先が無遠慮に頬肉をぐいっと引っ張った。)生きてる!!痛かっただろ、今の。俺もそこらじゅう痛えから大丈夫!(破綻した論理は過日が語った“証拠”に通ずる。緊迫した空気の中、少々手荒く痛覚刺激した指で頭をぐしゃりと撫ぜれば、息を吐く要領で笑った。)っし、立てるか?腰抜けてんならおぶってった方が良いかもしんねえな。たぶん此処もあんま保たねえから逃げねえとヤバい。(一先ず落ち合えたことに安心すれど、此処はまだ敵地だ。ボロボロになった制服の袖で目元を雑に拭っては、まっすぐ彼女の顔を見た。周りに呪霊の気配はない。)出来たか?話。てんしさまと。(急を要する話じゃない。それでも、此処を家だと、信徒を好きだと慕っていたのを知っているから、悔恨を残してほしくなかった。これからも彼女が生きていくなら尚のこと。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/31(Sun) 15:19[70]

(必死にぴんと張っていた糸が急に弛んだようなふわふわ浮ついた奇妙な感覚も、けれど頬が引っ張られる痛みでぐんと現実に引き戻された。はたりと白い睫毛がゆっくり瞬く。途端、ぐるぐると胸中に渦巻く感情に飲みこまれてしまいそうになるけれど、尾を引く頬の痛みが思考の邪魔をしてくれていた。)いたい。(頬に触れる。あたたかい。頭を撫でてくれる手を感じる。あたたかい。)生きてる。(告げてくれた音を小さく復唱する。だのに心はざわついたままだった。紅玉は地に向けて、自分の細っこい手足を映す。真っ赤だった。でも、これは自分の赤じゃない。)立つ、できる。(こくりと頷いてみせて、四つん這いになりながらもなんとか立ち上がってみせた。思いのほか立ち上がってしまえばどうということもない。彼の双眸がこっちを向いていることに気付きながら、けれど娘は珍しくそちらへ一向に眼差しを向けようとはしなかった。俯いた紅玉は近くの血溜まりを見つめている。)てんしさまに、にえなるのはいやって、お話した。でも、てんしさま、みんな、あかく、なって、(停止していた思考が動き出せば、鮮やかにまなうらに蘇るものがあった。飛び散る赤。狂乱とした大聖堂。絶えぬ阿鼻叫喚。びしゃっと生温いものが身体にかかったその瞬間、むすめの腕を引いていた信徒のひとりは既に繋いだ手だけを残してどこかへ消えてしまっていた。じわりと視界が霞む。)  しぬ、して、(ぽろり。死の言葉が唇から零れた瞬、紅玉からも透明な滴が零れ落ちた。弛んでいた糸が遂にプツンと切れたが最後、止まらぬ言葉と共に大粒の滴が絶えずぽろぽろと紅玉から落ちていく。)てんしさま、しぬは、しあわせ、言ってた、のに……くるしそう、なの、 いたいの、まっか、なの。(無感情だった声色に情が宿るにつれて、声も次第に震えていく。壊れた機械みたいに涙だけがはらはらと零れていた。みんな赤く染まっていた。苦しそうなかおばせで絶命していた。彼も真っ赤だった。こわい。恐ろしい。てんしさまが死ぬのも、彼が死ぬのも。怖くて怖くてたまらない。)どうして、(ただ、話を聞いてもらいたかった。わかってもらえるまでお話をしようと思っていた。そしたら、そしたら 、)みんな、しあわせ、なれる、おもってた  のに、(ああ。ここは楽園じゃないと、知っていたはずなのに。)

近嵐隣 ♦ 2021/02/01(Mon) 04:21[71]

(己の言葉をあえかに繰り返すのを目の前で見守るさなか、言い知れぬ不安感がじわり滲んだ。正気を取り戻したかに見えた様がいつも何処か違って見えたからだろうか。何にせよ、今何に代えても守りたい生命を手放したくなくて、彼女が立ち上がっても両肩に支えるように手を置いた。)……うん。(交わらぬ視線に眉を寄せ、ゆっくり開いた唇が語る言葉に相槌を打つ。こうも酷い現場は初めてではあれ、予見と覚悟と耐性が相俟っていくつもの血溜まりを“仕方の無いもの”と処理できていたけれど、彼女は違う。身近な人間の死を知っているからこそ、初めての悲痛な吐露に息苦しさをおぼえて眉間に皺がよった。)……ごめんな、助けてやれなくて。こんなに酷くなるとは思ってなかった。…あん時止めりゃ良かったとは思わねえけど、(指先に力を込めれば、彼女の肩に痛みを与えてしまうだろうか。中途半端に途切れた声に続く言葉が見つからなかった。胸裡に蔓延るのは命を落とした信徒への同情でも、幻想でない死を前にした彼女への同調でもない。持て余した感情は憤りに似ていた。この状況を作った数多の要素に対して。紛れもなく、己もその一つだった。止まらない涙粒をずっと見守ってやりたい感覚とそっと拭ってやりたい感覚が綯い交ぜになって、結局後頭部に這わせた手が胸へ引き寄せた。どうせ傷だらけの制服だ、涙に濡れようが構うまい。)…宗教とか信仰とか俺は分かんねえけど、死ぬのは幸せってさ、死んでみねえとそんなん分かんねえじゃん。だからお前のてんしさまも、死ぬ寸前までこれが幸せだって信じてたんじゃねえかな。(何を口にしたって、慰めにも励ましにもならない気がしたから、語り口に勢いはなかった。どうして?の疑問符にそぐう正解を見つけられないまま、腕の中に彼女をすっぽり収めてぎゅっと加減知らずに力を込めた。ここに居るのを確かめるみたいに。)お前が生きててよかった。 お前は悪くねえし、今はそれだけでいいよ。ちゃんと生きて帰って、硝子さんとかも安心させねえとな。(懇意にしているのだろう教師の名を持ち出し、な、と念押しして僅かに体を離せば、指の腹で涕涙の名残を拭った。)

乙無白亜 ♦ 2021/02/01(Mon) 23:35[72]

(触れてくれている場所があたたかくて、やさしくて、満たされたような心地になるから涙は流れていくばかりだった。無知を美徳だと謳う者在れば、無知は罪だと糾弾する者も居る。善し悪しを決めるものではないが、けれどむすめがこれから生きていく上でこのように凄惨な死もあるということは、きっと知らなければならなかったことなのだろう。零れた謝辞を拾い上げれば言葉を紡げない代わりにふるふると白糸を揺らして、必死に否を伝えたがった。ここへは彼を困らせたくないから帰ったのに、これでは本末転倒もいいとろだ。眸からあふれてあふれて已まないものを早く止めてしまいたいのに、頭がぬくもりに引き寄せられればますます酷くなるばかりで、震える指先が縋るように彼の傷だらけの制服を掴んだ。胸がぎゅうぎゅうと握りしめられているみたいに苦しくて、痛くて、切ないのに、けれど眸から涙が零れていくほどに次第に呼吸が楽になっていくのはどうしてだろう。くすんくすん、泣くことさえもまだ上手く出来ないように小さく小さく啜り泣きながら、耳朶を打つやさしい聲にそっと濡れた睫毛を開いて。)……となり、は、しぬ、見たこと、ある?(死ぬ寸前まではしあわせだった。夜の訪れが安らかなものでなかったとしても、そう思うだけでも少し救われたような気がした。彼はきっとこれまでに多くの死に触れてきたのだろう、そう思った時には気付いたら口を開いていて、だからこそ生を確かめるように力強くなった抱擁にはむすめも応えるように縋る指先にきゅっと力を籠めた。)……となりも、生きてて、よかった。(見れば彼も酷い怪我だ。眦にぬくもりが触れる頃にはあんなに已まなかった涙も嘘のように静かになって、傷だらけの、特に左肩の真っ赤な裂傷を見てしまえば雨の名残で潤んだ紅玉が不安に揺れもするだろう。)うん、かえる。 となりといっしょに、帰りたい。(促すような音にはこくりと頷いて、)だから、しぬ、は、しないで。(祈るように、傷だらけの手をそっと取った。)

近嵐隣 ♦ 2021/02/02(Tue) 23:41[73]

(腕の中で小さな体躯が嗚咽に揺れるなか、ただ抱き締めることしか出来ないもどかしさに平素躊躇う事知らない唇が戦慄く。惨い仕打ちを受けてきた半生と思わずにはいられないから、苦しみも悲しみも遠ざけてしまいたかった。此処へ帰ると知っていたからこそ現況を避けられた未来思えば口惜しさも一入。思わず落ちたごめんも、ふたつの鼓動が重なる心地に場違いな安堵の花を咲かせた。)あるよ。人も呪霊も、目の前で死んでく。 俺が殺したこともあるよ。(近嵐隣にとって死は珍しい現象ではなかったけれど、それに慣れた訳でもなかった。眉を寄せた笑みは自嘲げに、情けなさを伴った泣き笑いの様相さえ呈している。)俺は、大切に思ってる人が死ぬときはちゃんと近くで見てたいって思ってるけど、死なれんのはそもそもしんどいな。(生きてて良かったと、すぐ近くで鼓膜震わした声にじわり胸に熱が広がる心地をおぼえながら、取られた手とのは逆の手で彼女の頭を無遠慮にかき混ぜる。)あったり前だろ?つって、帰って傷診てもらったら今日はそれでくたばりそうだけどな~。(脱出のために周囲へと視線めぐらせ、不安気な瞳とかち合えば笑って何でもないみたいに肩を回してみせたくせ、「いって」とまろび落ちたから本末転倒かもしれない。繋いだ手をそのままに、半壊状態の廊下の先を示した。)あそこの窓壊して出んのが最速っぽい!今んとこ呪霊の気配ねえから、このまま気づかれなけりゃいけるし、ワンチャン駄目だったらぶっ飛ばしてく。――行くぞ。(言うやいなや彼女の手を引き、最初の一歩を踏み切った。背中のホルダーから抜き去った鴉音を片手に注意を払いながら。)

乙無白亜 ♦ 2021/02/03(Wed) 01:18[74]

(彼の属する呪術師とは、人間の負の感情から生まれた呪霊を“祓う”ひとのことを云うのだと教わった。任務はつらくないけれど死なれるのはしんどい。苦しいような切ないような彼のかおばせを紅玉に映せば、いつも彼に撫でてもらう時のように御髪へと手を伸ばそうとしたけれど、体制的にも頭を撫でるのは難しいかもしれない。)わたしも、もう、しぬは見たくない。 となりが、じゅ……つし、なったの、そのため?(ついこの間まで死ぬのがしあわせだと思っていたむすめとは思えぬ言葉を落としながら、つらくてもしんどくても彼が術師を続けるのはそこにあるんじゃないかって考えを巡らせて。頭を覆ってくれるぬくもりもそうだが、紡がれた「あたり前」の音もこの心にほわほわした心地を運んでくれる。痛みを示す聲をばっちり聞いてしまった時には物言いたげな紅玉がじぃっと彼を見つめることもあっただろうが、帰るための一歩を踏み出す頃には紅玉は明るいほうへ向いていた。ぬくもりを繋ぎ未来へと歩いていく最中、けれど掠れた「たすけて」を耳が拾ってしまったなら、) となり、待って……!(止まってと訴えるように手を引いて紅玉は過去を振り返る。聲がした方角へ眼差しを向けると、廊下の角から伸びてくる手があった。死角よりずるりと這い出てきた血塗れの男は、むすめが慕う信徒のひとりだと身形からしてわかるだろう。)てんしさま、生きてる。 たすける、しなきゃ、(紅玉が縋るように寒色を見つめる。さっきは助けてと言われても助けられなかった。でも今は、今ならば、追われていないからこそ手を差し伸べられもするだろう。逸る気持ちのまま、彼の制止があっても這い蹲っている信徒へと駆け寄って、伸べられた真っ赤な手を取った。まだ温かいと安堵したのも一瞬。見えないのだから気付けるはずもなかった。這い蹲る信徒の足に、呪霊の触手のようなものが絡まっていたことなど。まったく、なにも。)

近嵐隣 ♦ 2021/02/04(Thu) 13:32[75]

(意思を持った身動ぎに気づけども、何となく腕の中の温もりは手放し難い。触れられる代わりに、まるで愚図る子どもみたいに彼女の頭へ額をぐりぐり擦り付けた。)俺も、出来れば白亜にはそういうの見なくて良いとこで生きてほしい。…う~~~ん、今のはなってから思った!呪術師になったのは、……何だろ。意地みたいなもんかも。(過日口にした、一緒に生きたいという想いとは正反対であれ、これも衷心からの望みだった。ある種模範解答のような問いに迷うように首を捻りながらも、まるで褒められた志願理由でないことは己が一番知っている。一聴して理解に至らぬだろう言い様の自覚もあるから、「今度ゆっくり話すよ」といつかの機会に持ち越そう。斯くして、未来への最短ルートを進むさなか、進行方向からの呪霊の気配に意識を向けていたばかりに唐突な制止の理由を瞬時に気取れやしなかった。)っ、待て白亜、俺が、(繋いでいたはずの手はいつの間にか解かれていた。死角になった廊下の先はまだ見えないのに、瞬間的に嫌な予感が過ぎって彼女に数歩遅れて後を追う。手を取り合うワンシーン、信徒の足元で蠢く触手が彼女の方に伸びてくるのがやけにスローモーションで見えた。)ッ!触んな!!(彼女でも信徒でもなく、足元に蔓延る気配に対してがなった声は、不可視ゆえに彼女らを戸惑わせる要因になったかもしれない。彼女だけを守るなら信徒ごと突き飛ばす策を既のところで押し止め、さっきまで繋いでいた腕を乱暴に取って引っ張り、後方へ押し退けた。受け身が取れねば床を転がるしかないだろう仕打ちの代わり、呪霊からの距離は取れたはず。続けざま、今度は信徒の背後、鍬を扱うように床へ向かって鴉音を振り下ろせば、何かにぶつかる鈍い音は聞こえただろうか。)お前もうちょい頑張れるか!?白亜悪い!すぐ片付けッ、うわっ!?(信徒に声掛けつつ彼女の状態を確認しようと、後ろを振り返るなり足元をさらわれ地べたに尻もちをついた。直後、襲いかかる触手の攻撃に、不安定な体勢から再び漆黒の呪具が空を切る。)

乙無白亜 ♦ 2021/02/05(Fri) 01:21[76]

(生の尊さ。儚さ。苦しさ。此度の惨事を経て学んだことは多い。だけれど死から最も遠いところに居てほしい大好きなぬくもりが、そこに最も近いところに居るひとなのだと云うこともわかっている。わかってしまった。それも今日、学んだことのひとつだから。)うん。だから、信じる、する。(人間いつか終わりが訪れることは知っているけれど、誰かがこんなふうに真っ赤に染まって息絶えるのは見たくはない。だから信じていようと思った。何度現実に裏切られたって、今度こそもうこんな凄惨な出来事は起きないと。一緒に居たいと言ってくれた彼が明日も明後日もずっとずっとずっと傍らで笑っていてくれると、信じている。紡がれた「意地」には案の定言葉の意味すら知らないですとゆるりと首を傾いだものの、それはまた「いつか」の機会に語られるはずだから。)──── 、ッ (今の今まで走るという動作すらしたことのなかったむすめが受け身なんぞ当然取れるはずもなく、床に転がった衝撃で一瞬ばかり息が詰まる。忘れていた肩の裂傷が吊られて痛みを主張しはじめるけれど、今はそんなことを気にしているような状況じゃないってことだけはわかるから、すぐさまおもてを上げて彼を見た。)となりっ、(耳が拾った鈍い音はむすめの紅玉には捉えられない“なにか”を祓おうとしている証左であろう。転倒する姿をみとめてはその身を案じるよう彼の名を呼んで、手を貸そうと思わず駆け寄ってしまった。彼が呪霊から遠ざけるために引き離してくれたことはわかっている。わかっているけれど、黙ってじっと見ていることなんて出来なかった。もう一度真っ赤な信徒の手を掴んだなら、)おこる は、あとで……っ!(あとで幾らでも怒られるから、せめて彼の邪魔にならないように、こちらに気を遣わずに動けるように、信徒を少しでもこの場から遠ざけようと精一杯引っ張った。)

近嵐隣 ♦ 2021/02/05(Fri) 03:24[77]

んはは!んじゃ俺も、お前がちゃんと生きれるって信じとく。(死を厭う口吻が単純に心地よくて笑った。呪術師でいる以上呪いとは切っても切れぬ縁があり、死と隣り合わせになるのは避けられない。ほんに大切な存在を作ってしまえば、いつか遺して逝かなくてはいけない日が来るかもしれないことも、弱点にすらなり得ることも、己の生い立ちをも踏まえた上で、それでもこの小さな手を取りたくなってしまった。外的要因に苛まれるだろう状況思えば信頼よりは祈りに近い心境を敢えて揃いの言葉で結ぶ。床に打ち付けられる音は対峙した呪霊の存在と比べれば些細なものでも懸念は拭えない。さりとて、予告も何も無い咄嗟の判断はそれこそ彼女への信頼ありきだった。)ばかッ、来んな!!助けらんなくなる!(駆け寄る足音に咆哮。体勢は持ち直したものの、一度空ぶったが為に唸りを上げた触手の一撃が左肩に落ちた。)ぐぁっ、ッ!!ってえ……、弱いとこちゃんと狙って来れんのかよ…。(数刻前に作った裂傷を狙った攻撃を受け止める代わり、片手で振り下ろした鴉音の打撃で呪霊の動きは止まった。念の為にもう一度脳天を衝けばひと息、後方へと視線を向ける。)っし、オッケ!あ~~ごめん白亜、痛かっただろ。動けるか?そっちのてんしさまは……血は出てっけど折れてる感じじゃねえな。誘導するから出来るだけ走れ。ここ出たら怪我は多分何とかしてやれっから。(あからさまなまでの扱いの差は無意識な贔屓。先刻の一撃で、止まっていた血が左肩から床へぽとりぽとりと滴る中、掌をガシガシ制服で拭いてから彼女の手を取った。)白亜、今俺、いっぺんに面倒見れんの二人が限界だわ。もし生きてる奴いたら、お前ら二人安全なとこに逃がしてからもっかい助けに戻っから、今からは外出ることだけ考えて。(及ばぬ力を悔やむように眉寄せながら告げれば、廊下の先へとつま先を向けた。)

乙無白亜 ♦ 2021/02/05(Fri) 23:19[78]

(心のままに身体が動いてしまうのも、感情が芽生えたばかりの稚さの弊害と言えようか。轟く咆哮にびっくりして足も止まる。視えぬなら彼と呪霊がどのように交戦しているのかもわからない、けれど彼だけならばむすめの紅玉に映るから。痛ましい聲を聞けば数刻前の惨劇が脳裡を駆け、身体が緊張したように強張った。ただ傍らのてんしさまが身じろぐ気配を感じれば思考も瞬時に散り、立ち上がらんとする真っ赤な姿を眸に映しては「立つ、できる?」と支えになるように手を貸して。触れ合う場所から生じるあたたかさにじわりと心に歓びが滲むから、心のままにぎゅっと抱きついた。目を白黒させているてんしさまを置き去りに、振り向いた彼と眼差しが交わったなら一旦身体を離して。)となり、ありがとう。(痛みを問う音には平気を伝えるようふるりと御髪を揺らしながら唇は感謝を紡いだ。ふらふらなてんしさまも気になるけれど、左肩から滴る赫を見とめてしまえばすぐに彼の許へと駆け寄って、開いてしまった痛ましい傷口を見つめた。)それ、さっきの、せい?(てんしさまを、自分を助けるために悪化したものだとわかるから。うろうろ、そわそわ、彼が手を取ってくれるまで落ち着きなく真っ赤に染まった彼の腕へと眼差しを向けていた。)……うん、(また生きているてんしさまに出遭ってしまったら。彼はまたおんなじ行動を取るんだろうと、それをさせてしまうんだろうと思うと、もうてんしさまに遭わなければいいなとそんな酷い想いが脳裡に過るから、心臓のあたりがぎゅっと掴まれたように痛みをあげた。むすめの眸とおんなじ色した赫は相変わらず彼の腕を滴り落ちて、ぽたぽた床に鮮やかな雫を落としている。あかい。彼が赤に染まっていく。そう思うと、急にこわくなって。)となり、となり。 待って。(進み進んで窓の手前。もうすぐ外に出られるってところで制止の声を掛け、繋いだ手とは反対のほうの手で彼の左袖をくいっと引っ張った。)まっか。 これ、どうしたら、とまる、する?(聞きながら自分の頭で考える。自分の左腕の裂傷を見やれば服が裂けていることに気付いて、少し力を入れて引っ張れば点線を切り取るみたいに腕から下の袖が簡単にビリッと裂けた。おひさまを知らない生白い細腕はこの場ではなんも役に立たないけれど、布切れなら役に立つだろう。だから、流れる赫をとめたくって押し付けるみたいに布を差し出したのだった。)

近嵐隣 ♦ 2021/02/06(Sat) 03:47[79]

(懸念に返る言葉に眉根は下がったまま、安堵の息が笑みになる。状況を理解出来ていないのだろう信徒とわずかに視線が交わるも、駆け寄ってきた彼女へと意識が向けばそれ以上そちらへ声をかけることはなかった。されど、てんしさまに心酔する敬虔な贄だった少女が寄せる信頼を見て、敵に非ざる者と認識されたに違いない。視えざる呪いと戦う様は、何も知らなければそれこそ狂人じみて見えるから。)あ~~~、さっきのっつーかそれより前からやらかしてたやつ。たぶんその内止まっからヘーキだよ。俺もだけど、お前も結構傷作ってんだろ。……痕残んねえといいけど、(そも己の犠牲を顧みない思考ゆえ、攻撃を受けることで敵を仕留められると踏めば考えるより先にその身を敵の射程範囲内に滑り込ませる質だ。心配されているとは重々承知の上で、小さな体躯に拵えた傷にぎゅっと眉を寄せた。「硝子さんに何とかしてもらおうぜ」は本気なれど冗談めかした風采は空気を和ますに至るだろうか。彼女の首肯を以て、先刻よりもゆっくり、されど早足で廊下を進み始めて暫く、一度目の称呼で思わず周囲を確認してしまったのは反射だった。)ッ、へっ?そんな深くなかったしたぶんその内、…あ、でも広がってんだっけ。でも止まると、(思うけど、と続けかけた口が彼女の行動に開いたまま止まった。制止する間もなく腕を晒す様を前に「え」と戸惑いが滑り落ちる。戦地において、緊急時ならば尚のこと羞恥なんざ二の次だろうが、そもそんな感覚には乏しかろう。差し出された布切れを手に取るまで数秒、仲間内なら躊躇わず受け取っただろう行動に逡巡芽生えた理由には思い至らぬまま、布を更に引き裂いた。)サンキュ。んじゃ交換な。此処まで来りゃ大丈夫だろ。(機動力を下げかねないボロボロの学ランを彼女に着せれば、止血もしやすく一石二鳥。布の端を咥え、右手を使って患部をぐっと締めるように結べば、完全な止血にはならずとも滴り落ちる血はなくなるだろう。)……ど?止まった?(ジャーンと効果音でもついているみたいに両腕広げてお披露目したなら、彼女の反応待ってすぐに、両手で彼女を持ち上げよう。窓枠に彼女を座らせてからヒョイッと飛び乗り、そのまま外へ。後ろの信徒にも手を貸したなら、数刻ぶりの外の空気が肺を満たした。)

乙無白亜 ♦ 2021/02/06(Sat) 14:59[80]

(ずきずきと痛い痛いと疼きをあげる腕の訴えに気付いていながらそれをおもてに出さぬのも、Xで生活をする上でてんしさまに不要な心配を掛けぬためとか、迷惑を掛けたくないとか、そんな想いから蓋をしてきたものだった。改めて真っ赤に、赤黒く染まった自分の格好を紅玉に映す。痕に残ったとしてもなんてことないかおで「へいき」を一度告げたけれど、ぎゅっと寄った眉根を見とめたならちょっぴり考えるように口を噤んで。)しょうこ、なんでもなおす、できる。 だから、だいじょうぶ。(ほのりと和らいだ場の空気に乗っかるかたちでこくりと頷きひとつ。体調面でも世話になることの多い医師の魔法の腕はむすめも知るところであったから、彼の傷も恐らくは癒えるものとわかっている。それでも一度まなこに焼き付いた赤い恐怖を無に帰すのは難しかった。)こうかん?(羞恥という概念に乏しいゆえ案の定行動の意図を理解出来ず、首を傾いでいるあいだにとんとんとことは進んでいく。大きな学ランを羽織りきょとんとしていた紅玉も、けれど止血を施した彼の姿を映しては安堵にやわらいだ。)うん。 よかった。(これでもうだいじょうぶ。彼の手を借りていまひとたび外の世界へと踏み出せば、雲間より顔を出した太陽のひかりが一瞬にしてむすめの世界をましろに染めるけれど、眩しさで反射的に伏せた双眸を開き、陽光がそそぐ世界をしかと踏みしめる。サングラス越しじゃない裸の紅玉がおひさまを見上げると、視界が一瞬にしてまっしろに染まって、直に浴びる太陽の眩しさに眸の裡がちかちかした。)──…そら。きれい。(あったかい。太陽が燦燦と輝く蒼穹の許、澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。今日はたくさん走った。たくさん泣いた。他にもたくさん、たくさん、知らないことをしった。でも生きている。彼も、自分も、今ちゃんと生きているって、繋いだぬくもりが教えてくれる。こちらへ駆け寄ってくる補助監督から五条悟の勝利を伝えられたならいよいよ楽園の終焉を知るけれど、哀しくとも恐怖はなかった。)となり。 わたし、もう、にえ、ちがうね。(帰っていい場所がある。ひとりぼっちじゃない。となりに居てくれているであろう彼を見上げて花笑む。茶の御髪はおひさまに透けてきらきら光ってた。)

近嵐隣〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 12:02[81]

(幼い頃、“誰しもが痛みに鈍感な訳じゃない”と説いたのは父だった。実感の伴わない他人の痛みに過敏になったのは恐らくその余波で、わからないからこそ懸念は積もる。へいきの内訳に思い至る訳もなかったが、互いに生傷だらけな身としては餅は餅屋思考に至るのも道理だった。)安心どころか小言言われるかもしんねえな。この分じゃ他にも怪我してる奴山程いそうだし。(まるで弱気とは程遠い性情でも、呪力に乏しいというハンデがある自覚によって仲間の強さにおける一定の信頼は揺るがない。己が大丈夫だったから死ぬ事はないだろうと楽観的に、交換なんて平和じみたやり取りも大層な自信からだった。)外出たら寒いだろ。日は出てねえけど。(なんて、取って付けたにしてはもっともらしい言い訳を添えて。降り立った世界から振り返る要塞は、外観からも半壊状態が見て取れた。暴れ狂ったのは呪霊か仲間か、きっとどちらもが正解だろう。つとちぎれた雲間から差す光は黎明に似て、まるで昔見たヒーローアニメのラストシーンと重なった。太陽に目眩ましを食らいかけ、すぐに地上へと目を逸らした先には当たり前みたいに彼女がいた。)すっっっげえ……、今絵見てるみたいだった。(透ける白い髪も白い肌も所々が痛ましく汚れていたけれど、光を受けたその身を眼に映したのは初めてで、思わず黒い制服ごと彼女の腕を掴む。何処かに消えてしまいそうな儚さを確かに掌握したならば、補助監督からの報告に「知ってる」と知ったかぶって見せた。傷だらけの身にしみる陽射しから逸らすだけが彼女へ視線向ける理由にはならない。)違うな。っつーことはお前今何にでもなれんじゃん。乙無白亜は何になんの?(ましろい身を捕らえていた縛りが解かれた今、きっと彼女は何色にもなれる。無論ましろのままでいることも。戯れみたいな問い掛けの先、いつもなら答えを待つタイミングで、そうしたいから手を引いた。)とりあえず、俺とは一緒にいてほしいけど。(我慾が募っただけでなく、彼女もそうしたがってくれると甘えたふぜいではにかんだ。)

乙無白亜〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 22:51[82]

(彼も、てんしさまも、自分も。きょろりと見廻す限り真っ赤だった。小言がなにかはわからないけれど続く言葉でニュアンスはなんとなく掴めたから、溜息つく家入硝子の姿も当たり前のように脳裡に浮かぶ。独特な匂いが漂う医務室も、ビニール製の丸い診察椅子も、たった数日しか離れていなかったはずなのに思い出す景色をどれも懐かしく感じるから、あのあたたかい場所に帰りたい気持ちがいっそう増した。乙無白亜の楽園はもう壊れてしまったけれど、還る場所は他にある──新たなはじまりを告げる光を浴びながら、それがしあわせなことだと教えてくれたひとへと紅玉を向ける。天より降ろされた天使の梯子は軈て消え、雲の後ろに隠れていた蒼穹が間もなく顔を覗かせるだろう。)──わたし、(なににでもなれる。それならわたしは、なにになりたいだろう。まずはきちんと勉強をして、彼のように学校に通ってみたい。背ももうちょっと伸びたらいいなって思うし、Xで優しくしてくれた少女たちのような素敵なお姉さんになりたい。なにをしたいかなんて一度も考えたことなんてなかったのに、考えはじめると不思議なことにあれもこれもと指折り数える手が追い付かなくってしまうほど頭に思い浮かんだものはたくさん。けれど細腕を引いてくれた手がそんなに難しく考えることじゃないって教えてくれたから、だからきょとんと瞬いたのは一回きり。)うん。 わたし、となりとずっといっしょ、いたい。(先刻てんしさまにそうしたみたいに、大きな身体を包むみたいにめいっぱい腕をまわしてはぎゅっと彼に抱きつきたがった。体格差的に、ぽふっとお腹のあたりに頭を埋めるかたちになるだろうか。許されるなら甘えるように彼の身体に額を押し付けて、すり寄って、命のぬくもりを身体中で感じて。)となり、(いつも隣に居てくれたひとの名前を呼ぶ。上にあるかおばせをじぃっと見あげ、紅玉にさいわいを映した。)だいすき。(まだ恋も愛もよく理解していない未熟なむすめであるけれど、てんしさまに懐くそれと違いを感じている時点でこれを初恋と称すると知るのもそう遠い未来の話ではないだろう。一緒にしあわせだねって笑えるような未来だって、きっと ずっと。)

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