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【4】(日常の延長に未来はあるか)

近嵐隣 ♦ 2021/01/21(Thu) 01:10[50]

(少しずつ重たくなったドアノブの鶴を数えるのをやめて暫く。最初の頃に比べてカラフルになった色合いに薄く笑みを落とし、久しぶりにのんびり過ごせそうな一日を始めたのは8時頃だった。初めてづくしの任務を前に体力馬鹿もやや疲弊していたけれど、身に染み付いた早起きの習慣と相俟って二度寝してもまだ朝と言って差し支えない時間帯だ。白いパーカーに制服ズボンなる軽装で向かうは彼女の部屋。道中も視界に入る白を気にしていたから、たとえ自室の外にいても見つけるのに然したる時間はかかるまい。)おはよ、白亜。……なんかちょっと見ねえ内にちっちゃくなってねえ?(冗談めかして投擲した言葉はいつもと何ら変わりなく、ともすれば安穏とした空気さえ孕んでいたかもしれない。戯れも四角四面に受け取られると知っているから「冗談だよ」と敢えて補足した。)もう朝飯食った?まだなら一緒に食おうぜ。…あ、どっか行きてえとこあんなら行くんでもいーな。俺、お前が出掛けんのに、たぶん当分付き合えねえからさ。(護衛任務に纏わる話を、彼女は既に聞いているらしい。最終日と銘打たれた今日を、本当の意味で最後にするつもりはなかったから、否定にも猶予を滲ませた。)どうする?つーかまだ朝早いしどっちももアリじゃんな。俺今日朝起きてからすげえおにぎり食いたくてさ。(いつもと何ら変わりない日常の延長線上に、まだこの男はいたがった。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/21(Thu) 02:26[51]

(「君を家に帰してあげよう」 Xへの切符を盾に見知らぬ男がむすめに接触を図ってきたのは数日前のこと。知らないかおばせを見上げては誰だろうって緩く首を傾げていたけれど、帰してあげるの音を耳聡く掬い上げたなら「ほんとう?」とわかりやすくかおばせを明るくした。これでやっとてんしさまに謝れるなって、ちゃんとお話しが出来るなって、作戦とやらの決行を楽しみにせっせと鶴を折っていた。彼が迎えに来てくれるまでは。)となりっ。(久しぶりに彼のかおばせを見られたのが嬉しくって、白い頬がたちまちに淡く色付いた。きらきらと紅玉に光を灯し、いつもは引き結ぶことの多い口許をやんわりと弛めて「おはよう」と「おかえりなさい」を囀った。背丈のことを言われたならやはりそのまんま受け取って不思議そうに首を傾ぎもしたけれど、朝食のお誘いにはこくりと頷いて。)うん。 ごはん食べる、いこ。いきたいとこ、は、それから、かんがえる、する。(行きたいところではなくて、見たいものならあった。けれどもそれは今日だけでは叶えられないから、行き先はあとで一緒に考えたい。朝食を食べに歩き出すならばいつもみたいに彼の手に甘えつきたがって、諦めきれない眼差しが窓へと向いた。)きょう、雪ふる、するって。 つもる、する、いいな。(凍える風が廊下を吹き抜ける。話しによると、午後から雪が降るかもしれないとのことだった。積もるだろうか。そしたら、やりたいことはあるのに。ムートンブーツの爪先をみつめる。)……あした、も、にんむ?(残された時間は少ない。ぽつり、落ちた音はやっぱり淋しさが滲んでしまった。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/21(Thu) 18:56[52]

(何の感情も読み取ることの出来なかったかつての表情とは異なり、喜色満面の顔ばせを前にしてじわり安堵が込み上げた。護衛任務の解除は少女にもそれなりの変化を齎すかもしれないという予見は元より、昨晩任務から帰校した後に家入硝子から物言いたげな視線を送られたことも憂慮を生む要因だったから、返す「ただいま」は何処か緊張がほどけたように、触り慣れた白い髪に手を置いた。)んじゃそうすっか。そういやお前メシってずっとお粥食ってんの?おにぎり食ったことある?(道中「ラップ使えば白亜にも作れんじゃねえかな」「教えてやろうか」なんて、小学生レベルの料理教室開催を提案しよう。くっつく姿に笑って隣へ視線を落としながらも、視線は誘導されるように窓の外へと向いた。)うわマジ?すっげえ寒いもんな~。積もったら何したい?俺あんま雪って馴染みねえから、雪合戦くらいしか思いつかねえんだよな。あと雪だるま?(曇り空には薄暗い雲が立ち込めているから、この廊下にも陽射しは届かない。冷える代わりに日陰へ避難する必要もない天気はきっと彼女にとっては好都合だろう。)あ、マッチ売りの少女ごっこすんのには良いシチュエーションかもな。(思いつきの感想を口にして傍ら見遣れば、いつの間にか彼女が俯いていたから開いたままの口は自然静かに閉じるしか無かったけれど、)…ん~、たぶん明日には出るんじゃねえかな。なんだよ、淋しくなった?(わざとらしく茶化すように問えば、湿っぽい空気を四散できると踏んだ。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/21(Thu) 22:53[53]

(もう一緒には居られないのだと思うとやっぱり淋しい気持ちがじわじわと心を染めていくけれど、身の振り方は既に決めている。だから今は淋しいって思う心より、Xに帰れるという慶びのほうが勝っていた。そこに久方ぶりに彼と話しが出来たって喜びも上乗せすれば、憂愁に閉ざされるようなこともない。頭に触れてくれるてのひらの温度だって、こんなにもあたたかい。)ごはんは、パン食べる、してる。 おにぎり、は、ない、思う。……となり、おにぎり、すき?(児童養護施設ではパンを。Xではお粥を。食べ物も知らないものがたくさんあるということはここに来てはじめて知ったものだから、見た目と名前が一致しないものはとても多い。だからゆるりと首を傾げて、好きなのだろうかと問う。彼が好きなものは自分も好きでいたいと思うから、料理教室の誘いにも「うん」といつものようにこくりと頷いて教えてと強請る言葉を紡ごうと一旦は唇を開いたものの、不意に声を失ってはそろそろと小さな口を閉じていき「──…やっぱり、いい」か細い音と共に完全に閉ざしたのだった。)つもる、したら、さわるする。雪だるま、も、つくるしたいな。 でも、マッチは、まだ、しないの。(雪に想いを馳せはするけれど、好きな童話の物語の再現にはふるふると否定を示して首を振った。だってもう、生贄はやめるって決めた。今は夜よりも朝を感じていたい。)さみしい。(ずっと一緒にいられないのも。ずっとこのままでいられないのも。心で落とした素直な音。)でも、へいき。こんど、あるから。(爪先から紅玉を離して、隣を歩く彼のかおばせを見つめる。だからだいじょうぶだよって、微笑んだ。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/23(Sat) 04:34[54]

好き好き。おにぎり分かんねえ?なんかご飯をギュッてまとめた感じのやつ!俺は米好きだし持って食えるからおにぎり食いがちなんだよな。(ギュッと擬音と同時に両手で三角に握る動作を挟みつつ、知らないことへの知識欲を見せる様を見守った。何の気なしの誘いに返る首肯はもう当然の響きだったから、あえかに続いた声に咄嗟に傍らを見やった。)…そっか?やだ?(予想の真逆の反応にたじろいでしまったのは、己に対して従順な姿しか見てこなかった甘えゆえだったかもしれない。真意を問おうと少女の顔ばせ見遣る寒色の瞳はまっすぐだった。)ガッツリ遊ぶなら手袋しねえとな~。そういや雪うさぎっつーのもあった気がする! あれ?やんねえ?そういうシチュエーションかと思ってた。(雪降る中真白い彼女が灯火を見つめるのはきっと幻想的に違いない。映画か何かのワンシーンのようなひと幕を一瞬脳裏に思い描いたけれど、何処か確固たる意思を感じる“まだ”を今はただ不思議そうに見つめていた。)あ~~~…。今のさみしい、完全に俺が聞きたいだけのやつだ。(己の態度に反して率直な声が耳朶を撫ぜて漸く、していたのは予測ではなく期待だったと自覚する。独り言のようなトーンの後、先手を取られてしまえば笑うしかない。)白亜、なんかすげえ前向きになってねえ?俺、今日で護衛離れっけどさ、任務なけりゃ一緒に出掛けれるし、次も今度も全然あるよ。(任務関係なく約束結ぶ意思ならばあまりある。彼女自ら紡いだ“こんど”に安堵して、身勝手に現状維持の未来を描いていた。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/23(Sat) 12:53[55]

ごはん、ぎゅって、(三角になった彼の手の形を見て、おんなじようにギュッて三角を作ってみる。なぞなぞめいたそれに思案すること数十秒、該当するものが頭を過れば閃いたように輝くかおばせをあげて。)おにぎり。おおきくて、さんかくで、黒い、もの?(彼へと身体を向ければ指先で三角形を作ってみせながら特徴をあげていく。けれど具体的な誘いにはもしかしたら約束を破ってしまうんじゃないかって懸念が勝って、素直に頷けないでいた。次に彼に会う時はなにもかも解決してからにすると決めている。すべてが丸く治まるまでいつまでかかるかわからないからこそ、まっすぐな眼差しにもふるふるかぶりを振しか出来なかった。)いやと、ちがう。 でも、わたし、ひとりで作る、できたら、となり、うれしい?(ひとりで鶴を折れるようになったように。彼が好きだと言ったおにぎりをむすめがひとりで出来るようになったなら喜んでくれるだろうかって、妥協案を打ち出し傍らを見上げた。)うさぎ、雪にもなれるの?(ぱちくりと紅玉が瞬く。続いた言葉を聞き、ちょっぴり淋しんぼな音がまろびでる。)だって、マッチつかうとき、しぬ、するとき、だから。(そういう物語だった。だからしあわせな最期に憧れた。けれど今はそうじゃない。告げた言葉に対し彼が笑ってくれたなら「今度」の使い方は間違っていなかったのだと安堵した。──そう、今度、雪が積もったら。)うん。 雪ふる、する、まで、わたし、ずっとまってる。となりとあそぶ、したいから。(思い描くはしあわせな未来。不安なんてちっともない。彼やてんしさま、知らない男のひと。世界はこんなにも、やさしいひとでいっぱいだった。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/23(Sat) 22:33[56]

お~、多分あってる!(期せずして始まったジェスチャーゲームも、イメージが合致する瞬間は心地いい。それだけに何となし変化を感じる中端的な否定だけが届けば違和感をぬぐい去ることはできないけれど、問い掛けに感覚は薄れていった。)ふーん? あ~、白亜が一人で?どうだろ。出来なかった事が出来るようになんのはすげえじゃん!って褒めるし、出来る事が増えんのはいいことだと思ってっけど、嬉しいとかは考えてなかったな~。単純に一緒にやったら楽しくねえ?(逐一はっきりとした意思や思考を経て行動に移すタイプではないだけに思案顔で首傾げながらも、「あ、でも作ってくれんなら嬉しいわ!」感情を整理するさなか嬉しいに結びつくシーンを思いつくままに告げよう。楽しい雪遊びとは打って変わって最期を思わせる言葉に、急に纏う空気の冷たさを実感した。)ばーか、マッチはもっといろいろ使い道あるっつーの!つーかそういうもんだと思って持ってんなら俺が預かっとくけど?(自分の最期を彩る演出を思い描いているようでやるせなさが込上げて、拗ねたように尖らせた唇そのままに軽く握った手がノックするように軽く彼女の頭を小突く。“こんど”のすれ違いに気付く訳もない男は、当然己は待たせる側に立っているとばかり思っている。)次の任務どんくらいかかるか分かんねえけど、何ならどっか雪降るとこ出掛けたっていいしな~。(して、辿り着いた食堂にて向かい合って腹拵えしながら、二個目のおにぎりにかぶりついたところで正面の顔ばせを見た。)そういや行きたいとこ決めねえとな~。どうする?

乙無白亜 ♦ 2021/01/24(Sun) 00:55[57]

うん……、…(一緒は楽しい。そうなんだろうなって思ってしまったから、続く言葉も上手に紡げやしなかった。約束を破るようなひどいことはもう誰にもしたくない。けれど頭にちらついたてんしさまの影を払うかのような「嬉しい」がこの耳に届いたならば、頑張って作れるようになろうと思った。頭をノックされれば不思議そうにぱちぱちと瞬きを繰り返し、はじめて知りましたと言わんばかりに不思議を宿した紅玉が寒色を見上げただろう。)そう、なの? じゃあ、おへや、おいておく。となり、あずかる、できるように。(部屋の机に置いてあるから、居なくなっても机を見ればきっとわかるだろうというはなし。たびたび聞こえてくる任務の音には愁うように双眸伏して、)にんむ、は、たいへん、さとるがいってた。 となり、つらい、ない?(お行儀よくパンを小さく千切ってもくもく口へと運びながら、咀嚼したパンを飲みこむ。眼差しを重ねて、考えるような間をちょっと開けたのち、)そと、行きたい。ここ、よく見えるところが、いい。(最後にするつもりはないけれど、いつ遊びにこれるかはわからないから、まなこにしっかりと焼き付けておきたかった。ましろいロングパーカーだけを纏った出で立ちは寒空の下ではちょっと心もとないかもしれないけれど、寒いも暑いも口にしたことがないむすめだった。真冬の薄曇りの空の下であれば紫外線対策もそこまで過敏になる必要もないゆえ、いつもの外出二点セットはなくても大丈夫。一緒に頼んだいちごミルクも綺麗に全部飲み干して、感謝を捧げるように指を組んでは、椅子から立ち上がった。早く行こうを伝えるみたいに。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/25(Mon) 01:01[58]

だろ?俺さ、白亜もそう思ってくれんならもっと、すげえ嬉しい。(弱々しい相槌の理由は気掛かりなれど暴こうとはしないまま、スッキリした顔で笑った。――雑然とした部屋でひとり死を待っていた乙無白亜が初めてクリスマスツリーを見上げた日、この小さな女の子を守ってやらなくてはと思った。使命感にも似た庇護欲は少女が心を開いてくれていると感じれば尚強まり、彼女のあらゆる変化を成長と受け取って安堵した。そんな風に、宛ら親か兄のようだと自認すらしていた心境が、先刻口に出した答えで以て漸く違うと分かった。マッチの話題に小さな違和感を抱きながらも、心配そうな表情に笑う方が先立った。)大変なときもあるっちゃある!けど辛くはねえかな。俺痛えのとかけっこー耐えれる方だし。(口角上げた返答はさて安堵を誘えるか。小鳥みたいな食事の様を前にペロッと三つ目のおにぎりを食べ終え、食後のお茶まで飲み干したなら彼女に続いて立ち上がった。)張り切ってんじゃん。此処見えるとこっつーと、屋根登るか山登るかっつー感じだし、とりあえず裏山行くか。寒くねえの?(黒いMA-1を羽織りながら問い、彼女がそのまま出掛けるようならせめてもとタータンチェックのマフラーでぐるぐる巻きにしてやろう。玄関を出て子ども体温の素手で小さな手を取ったなら、敷地の裏手へと歩を進めた。)白亜、もう向こうに戻んの?(何でもないみたいに傍らへ問えば、食後で少し温まった呼気が俄に面前を白く染めた。まるでマッチ一つ手渡せないみたいな言い方は、残された時間がないみたいに聞こえたから。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/25(Mon) 11:46[59]

(こころがぽかぽかする言葉。晴れやかな笑顔。彼が向けてくれるすべてが、ずぅっと止まったままでいた心臓を動かしてくれるみたい。体中にあたたかさが広がっていく不思議な感覚にきょとりと瞬きひとつ。のち、ゆるく首を傾いだ。)となり。それ、ころしもんく?(過日彼に習った言葉。使うのはきっと今のような場面なのだろうと思った瞬間には、既に声になって落ちていた。彼の任務は勉強を重ねていくなかでそれなりに理解もしてきたから、辛くないのならよかったと安堵したし、むすめのかおばせからは既に心配の色は消えている。けれどひとつ、心に引っ掛かる言葉があったから。)いたい思うのは、生きてるしょーこ、って、しょうこ、言ってた。だから、いたいは、がまんしなくていいって。 となりも、いたい思ったら、ちゃんと言うしてね。(過日に想いを馳せるように目線を下げて紡いだのは、紙で指先を切った時に言われた受け売りだ。次なる目的地も定まり、ぐるぐる巻きの中からぷはっと埋もれた顔を出したなら、隣に並んで歩みを進める。)となり、知ってるの?(自分が仄めかしただなんて露とも思っていないから、どうしてしっているのだろうって不思議そうに小首を傾ぐ。見知らぬ男のひとからは内緒だよとお口にチャックを命じられてはいるのだが、けれどそうやって聞いてくるなら全部知っているんだろうって、真実を囀った。)あさって。てんしさまのところ、帰る、していいって、言ってくれたの。(かおばせにわかりやすい喜色が滲む。でもこれだけだと彼を不安にさせてしまうだろうと思ったから、繋いだ手をきゅっと握って、こっちを見てほしいと促して。歩みを一旦とめ、澄んだ蒼穹のような眸がこっちを向いてくれるのを待ってから、そっと言葉を重ねた。)となり。 てんしさま、信じるできなくても、わたしなら、信じる、できる?

近嵐隣 ♦ 2021/01/26(Tue) 04:41[60]

(喜怒哀楽に素直な表情筋と同じく、感情の吐露にだってまま躊躇しない質だ。思考回路からまろび出た言葉に覚えのある単語が耳朶打てば、瞬間双眸まろめて、すぐに含羞帯びた眦が下がる。)どうだろ?そうかも?白亜がそう思ったんならそれが正解じゃねえかな。(からかうような、はぐらかすような響きでささやかに笑った。任務への所感は無論嘘ではないが、彼女の安堵を誘いたいが為の言い方でもあったろう。硝子が証拠って?なんてちゃらけた返しを飲み込んで、諭すような言葉に素直に頷いた。)言うよ。言うし言ってる。あとさ、痛いだけじゃねえから、それ。何でもだよ。嬉しいも辛いも楽しいも悲しいも良いも悪いも、全部我慢しなくていいよ。俺、お前にはそういう風に自由でいてほしい。(制約を制約とも、我慢を我慢とも感じさせない世界で生きるのが幸せだとは思わない。曖昧で不確かな自由なるものを願う口吻は続けざま、「俺もあんま我慢してねえしな~」と先手を打とう。何となくの違和感と予測とが相まった問いへの反応にら声なく頷いたのは小さな嘘だった。言わなかったからには彼女にも理由があるんだろう。物分りのいい風を装うくだらぬポーズは、されどものの数秒で瓦解。嬉しそうな顔に「ふうん」と、落ちた相槌は無意識に面白くなさそうな音をしていた。)俺が聞かなきゃ、言わないで行くつもりだった?(拭えない不安は不満気な様相に隠れたろうか。宛ら駄々っ子の問い掛けは手を引かれる感覚で留まり、滑らせた視線が交わるまでは一瞬だった。)信じるよ。(ポロリ、反射的に肯定が唇を割って、)お前が死のうとしないなら。(端的すぎる問いの意味すら把握しないまま、譲れない願いを添えた。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/26(Tue) 20:25[61]

(殺し文句は褒め上手の意。正解だと思ったのならそれでいい。なんでも。感情、想い。心が感じたままに、我慢しなくていい、気持ちを確かな音として言葉にしてもいいのだと。もらった言葉を反芻する。自由。 自由。 自由──)じゆう……?(彼の言葉をなぞるようささめいた瞬、近くの木の枝から鳥がバサッと飛び立った。大きな翼をめいっぱい広げて、曇天へまっすぐと飛び去っていく白を紅の眸が追いかける。でもすぐに眼差しを彼へと向けて、我慢をしないと約束するようにこくりと頷いた。“内緒”にはむすめ自身も思うところがあったから、ふっと湧き上がった罪悪感に眉尻も自然と下がる。)うん。 でも、てがみ書く、しよう思った。(ぽつり、落ちる音は反省を色濃く宿して小さくなる。けれど眸と眸を合わせて、幾度もこの身に向けられた願いが鼓膜を打ったなら。)しぬは、しない。(閑かな山に清澄とした音が落ちる。信頼に応えるように、まっすぐ彼の眸だけを見つめた。)てんしさまに、あやまるして、おはなしきく、してもらう。そのために、帰る、する。──だから、「こんど」なの。(死を考えていないから今度と謳う。紡ぐ音は穏やかで、そこに不安や憂いは欠片もない。いつかのように死に馳せる想いはなく、言葉も心も前だけを、その先にある未来を見つめて、)やくそく。(死なぬ約束。また今度を果たす約束。繋いだ手にもう片方の小さな手も重ねては、紅玉を笑むように細める。鶴に祈りを、星に願いも掛けた。彼が信じてくれるならてんしさまとの話し合いだって頑張れるからって。約束を解くころには、「行こ」と歩みを促すように引っ張るはず。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/28(Thu) 02:13[62]

(繰り返された自由が、まるでその言葉を知らぬようにさえ聞こえた。鳥の羽音に思わず見上げた空は曇天だけれど、おおらかに飛び立つ様は自由の代名詞のようでもあったろう。)我慢しなきゃいけねえことってあるけどさ、そういうのは後からでも覚えられんじゃん。俺はしてほしくないけど、白亜がしたいことあって、どっちも譲れなかったらぶつかりゃいいよ。この前みたいに。(お前に死んでほしくないのだと告げた過日を思い返せば、譲れぬ感情を持て余してぶつけた記憶に頭を抱えたくもなるけれど、今思えばあれで良かったのだとも思う。きっとあの日から、いつか来るだろう今日を考えていた。信頼と抱き合わせにした願いは条件じみてしまったからバツの悪さに苦笑いも浮かんだけれど、否定の言葉に撓んだ唇が静かに小さく開き、暫時していたのはささやかな呼吸だけだった。)……「今度」もだけどさ、俺その約束守ってもらえなかったらすげえ落ち込むからマジでホントに守って。(一切の不安を孕まぬ精錬とした物言いと比べれば、敢えてむき出しにした頑是なさも相俟ってきっと余裕のない稚拙な念押しだったろう。いつの間にか繋ぎ慣れた手と手に手が重なれば、小さな頭を撫でる手付きは混ぜっ返すようなそれだった。)俺も一緒について行けりゃ良いんだけどな~……。(珍しく歯切れの悪い物申しも、再び歩き始める頃には冷たい空気に溶けていた。して、てっぺん付近の拓けた場所へ辿り着く頃合い、そう言えばの思考が過る。)俺は白亜が生きる気になってくれてんのすげえ嬉しいけど、お前はそれで幸せになれそう?(高専の敷地を、遠くの街並みを眼下に望めばあらゆる事が瑣末に思えた。片手だけつないだまま、そっと隣を見つめて。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/28(Thu) 23:27[63]

(自由という概念すら知らなかった。今でこそ人間のように在るけれど、Xに居た頃は言われるがままに息をする人形の如き存在だったから。それが彼と出逢ってようやく心が音を立てて動きはじめて、感情を知り、人形の如き冷めたかおばせにも表情という彩が乗るようになって。)でも、となりが困るするのは、いや。(“この前”を契機に四つ葉の憶い出が脳裡を巡れば、ちょっぴり困ったように眉根を寄せる。念を押すような言の葉にもう一度“この前”の記憶が蘇り当初心が感じた彼の姿が重なったなら、じぃっと、ただまっすぐ、曇りなき紅玉は彼の眸だけを見ている。)となり、さっき信じる、言った。(だから信じてって告げたがった声は、なんだか拗ねたような音に聞こえたかもしれない。実際、信じてもらえなかったみたいでちょっぴり残念に感じている。けれど大好きな手が頭を撫でてくれるだけですっかり嬉さでいっぱいになってしまうのだから単純なものだろう。遠回しな行けないを聞けば大丈夫って首を振って、敷地を見下ろせる広場に辿り着く。今まで彼と一緒に過ごした学び舎を記憶に焼き付けるようじっと見つめていたけれど、しあわせを問う音を聞けば隣を見て、見つめた。)となりが笑う、する、わたしのしあわせ。(一緒にいるとあったかい。彼にはずっと笑っていてほしい。だからたくさん、たくさん鶴を折った。祈った数だけ、あなたにしあわせが増えますようにって。それに、それに。)生きるすれば、また、となりがしあわせ、教えてくれる。 ちがう?(だって今この胸にたくさん抱えているしあわせは、全部彼が教えてくれたものだ。嘗ては死ぬのがしあわせだった、けれど今は、きっと違う。そう信じていると無垢に笑う、死にたがりのむすめはもうそこにいなかった。)

近嵐隣〆 ♦ 2021/01/29(Fri) 05:54[65]

困んないとは言わねえけど、お前がやりたいこと我慢する方がやだよ。でも話しゃ解決するかもしんないじゃん?つってまぁ、あん時は俺もあんま優しくは出来なかったけどさ。(大人ぶった言葉をいくら吐いたって、結局過日のやり取りを想起すれば苦笑いは伝播するようだったかもしれない。寄った眉間の皺を弄るように人差し指でつんと突く戯れも、射抜くようなまなざしの物言いたげさに首傾げた。)ゔ…、いやでも、…う~~ん、うん。ごめん。言った。信じる。(ついさっきの断言を引き合いに出され、拗ねた声色を気取れば弱かった。繰り返した信頼は、二度目だからこそやや軽い響きになったか、「信じれるかと心配しないかは別なんだよな」と念押しに至った胸中を告げる言い訳がましさを見せた。彼女の幸せを問うたのに、当たり前みたいに登場した自分の名前に瞠目。ポカンと開いた口は冷たい空気で満ちるばかりで、当たり前みたいに未来を口にされればもうどうしようもなかった。胸から迫り上がった感情のまま何かを告げようとするより先に、声にならない想いが視界を滲ませるから、考えるより先に手を引いた。掻き抱くように強引に、抱き寄せた華奢な体躯を両腕の中に収めることが出来たなら、彼女の顔が見えないのと引き換えに情けない顔ばせは暫時隠せるだろうか。)  ま~たずるいこと言うようになってんじゃん。俺が違わないっつーの分かってんだろ。(白い髪の上から降らせた声は茶化すような風采ばかりがいつも通りで、声色は涕涙にまみれていたから格好はつかない。抱き締める力を緩めはしないのだけが、小さな小さな意地だった。)俺さ、白亜が幸せになんのを、ずっと、一番近くで見てたい。……お前と一緒に、幸せになりたい。(数多の愛情を貰い損ねてきたのだろう少女に向ける感情は、きっと恋には収まらない。あらゆる柵や懸念を擲って伝えたがった、混じり気のない本心だった。)

乙無白亜〆 ♦ 2021/01/30(Sat) 01:01[67]

……うん。 わたし、あの時気づく、できた、から。話すがだいじ、わかる、思う。(むすめ自身が自らに起こった変化を自覚をしているゆえに彼が言わんとしている自由の端っこを掴んだなら、眉間に触れる指先が皺を綺麗に取り払ってくれるのだろう。そんなわけでさっそく思ったままを我慢なく自由に言葉にし、二度目の信じるを勝ち取ったなら満足そうに眸を細めた。呆気に取られたような彼の様相に気付けば可笑しなことを言っただろうかと彼を見上げた瞬、気付けばもう彼のかいなの中にいた。なにが起こったのかわかっていないきょとん顔で紅玉をぱちくりさせて、身動きが取れないから視線だけを彼の茶髪へ向ける。)となり……?(これだと顔が見えないと不思議そうに言葉を落とそうとしたけれど、震えた聲を聞けば終ぞ音になることはなかった。与えられるぬくもりが、全身から伝わってくる想いが、とても心地よくって甘えるように紅玉をそっと伏せる。)ずっと?(復唱する。ずっと近くで。一緒に、しあわせに。以前、彼に求めたもの。)わたし、(一緒にいていいの? そう唇を動かしかけて、けれどそうじゃないって冷静な頭が急ブレーキを掛けたから、音になる前に飲みこんだ。最初は違うとわかっていたのに、彼と一緒にいてその優しさに触れるたび、いつの間にか彼をてんしさまみたいだって思ってしまっていた。大好きという気持ちは今までてんしさまにしか向けたことがなかったから、彼のことを優しくて好きだなって感じてしまった瞬間には既にもう混同してしまっていたんだろうと振り返る。けれどはっきりと「違う」と認識させられたあの日に、気付いたんだ。てんしさまに懐く好きと、彼を想う好きは違うものだって。ただ愛情だって彼からもらったものがはじめてなれば、この違いを認識できるようになるのはもうちょっと先の話しになるのだろうけれど。ずっと笑っていてほしいと願うこの感情は、しあわせになってほしいと祈るこの想いは、てんしさまにすら懐いたことがないものだということくらいはわかるから。震える聲にふと四つ葉の憶い出が脳裡を巡ったなら、あの時出来なかったことを為さんと小さな腕をめいっぱい伸ばして。星にかけた願いを紡いだ。)──…生きたい。 生きて、ずっと、となりと一緒、いたい。(彼の心に応えたくって見よう見真似で拙い抱擁を返す。心も身体もぽかぽかしている。「あったかい」しあわせだった。)

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