乙無白亜〆 ♦ 2021/01/17(Sun) 11:58[46]
おとうさん、おかあさん、知らない。わたし、すてられる、した。 だから、てんしさまだけ。てんしさまだけ、なの。(そういう存在がいることだけは知っている、でも感じるものはなにもないと無感情な紅玉が語る。だから棄てられたんだよと言われてもへっちゃらだ。てんしさまに心配をかけてしまっているのだろうと思うと胸がキュッとするけれど、もう少し。あと少しだけ。疲れたような声色に気付けばどうしたんだろうって心配そうな眼差しを向けもするけれど、)となり、たすける、じょうず。 おひめさま、きっとみつかる、思う。(無理かもの音を悲観的に捉え、ひとの心配だけは一丁前に。はじめて見たうさぎは、本の挿絵でみたように耳が長くて、容貌が自分たちとはまったく違っていて、なにより小さくて。)……うん。(恐る恐る、真白い毛並みにてのらでそっと触れた。じんわりと伝わるぬくもりに、感化された紅玉がふわっと熱を帯びる。)あったかい。(てのひらから伝わる熱、脈動。ああ、これが命なのだと今心で理解した。)──となり。 あっちいるうさぎ、となりとおそろい。(くいくい、服の裾を引っ張りながらあっちと指差す方向には遠目にも茶色っぽく見える毛並みのうさぎが一匹。もうすっかり怖がることをしなくなったむすめは指差したうさぎのもとへ寄って「かわいいね」と鈴を転がすような笑声と共にその小さな背へと手を伸ばす。愛らしい生き物を前にかおばせは自然と綻んでいた。──次は彼の言っていたゾウとキリンを見に行こう。手を繋いで、気になるものがあればそっちへと急かすように彼の腕を引っ張って。いつか彼を想って火を灯すその瞬間、こうして過ごした時間を鮮明に憶い出せるように。たくさんのしあわせを持っていこう。)