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【1】(はくあの楽園)

乙無白亜 ♦ 2020/12/27(Sun) 20:07[1]

──……、…いち。(「さあ、白亜。目を閉じなさい」お夕食は残さずにきちんと食べて、朝と夜には教祖さまへ敬虔に祈りを捧げている。そんなふうに信徒の、てんしさまの言いつけをきちんと守れるむすめだった。)……にー、……さん……。(瞼を閉ざし、なにも見ないこと。耳を塞ぎ、なにも聞かないこと。そして大人しくここに隠れていること。それが数刻前、むすめがてんしさまと交わした約束だ。だから硝子玉のように無機質な紅玉は言いつけ通りに瞼の下へ秘し、ふたつある小さな耳はそれぞれ両のてのひらで覆ってしまう。そうすることで完成する物音ひとつ聞こえない真っ暗闇は少し前までむすめの友達だったものだから、なにも怖くはなかった。まるでかくれんぼでもしているよう、部屋の角に拵えられた狭く心淋しいクローゼットの中で、てんしさまが迎えにきてくれるまでの数字を今か今かと音にして唇へとのぼらせながら。「ここに居なさい」 喩え“なにか”の息遣いが部屋を黒く澱ませていたって、飼い馴らされた犬のようにてんしさまの言葉を忠実に守っているむすめはなにも気付けやしないだろう。)さ……ん、 さー  ご……?(はて。三の次の数はなんであったかと、記憶を辿るように何度か言葉を繰り返しながらゆるりと頭を横へと傾けた拍子、肩丈で揃えられたむすめの白髪が、細く編んだ左横髪が、動きに応じて軽やかに揺れる。緊張感なんてカケラもなかった。)

近嵐隣 ♦ 2020/12/27(Sun) 23:55[2]

帰ったらケーキぐらいは食いたいよな~!(この期に及んで尚今宵にクリスマスらしさを期待していた男も、敵の要塞へと到着すれば流石に呑気なたぬき顔に緊張を忍ばせた。同行している皆に比べればどうしたって劣る呪力でも野性的なカンで以て索敵能力に問題はない。ないからこそ、ひとり教団内を移動するさなか、人よりも呪霊の気配に過敏になっていたのだから笑えなかった。探らずとも“いる”と分かった部屋の扉をガラッと力任せに開け放った直後、瞬時の跳躍で闇に包まれた部屋の中央へ真っ白い鈴を振り下ろした。)ッは~~~っべえなこれ、一匹いたら~的なのはゴキブリだけで十分だろーがよ。……んあ?(下級呪霊の体液なんざ愛用の呪具に何ら影響はないけれど、景気づけも兼ねてシャンッと一振り。独り言と聞き慣れた鈴の音に入り混じった音がかぼそい声だと判じたのと任務の内容を思い出したのは、さてどちらが早かっただろう。どちらにせよ、室内の小さな扉を開け放つのに一切の躊躇はなかった。)うわやべっ人形!?じゃ、ない…?(ライトで照らした先の白髪と肌の色に一瞬人工物と疑って、咄嗟に唇から数センチ先の面前へ不躾に手を伸ばしたのは生死確認の癖みたいなものだった。あえかな呼吸を指先に感じたなら、二重の意味で安堵の表情浮かべて膝を折る。それでも、こちらの茶色い頭の方が彼女より高いかも知れないけれど。)生贄の子だろ。違う?俺、近嵐隣って言うんだけど、お前は?名前。

乙無白亜 ♦ 2020/12/28(Mon) 01:22[3]

(なにも見ない。なにも聞かない。だからクローゼットの外でなにかが起こっていたとしてもむすめは微動だにしなかった。扉を開け放たれた瞬間でさえ、肩ひとつ震わせずにいただろう。閉ざした瞼の裏側が真っ白に染まる。真っ暗闇を追い払ってくれる色だ。それが人工物の放つ光であることも知らず、導かれるようにむすめは白い睫毛をそろりと持ち上げた。幼さの残る大きな紅玉が、膝を折る青年の姿を捉える。耳を塞いでいた両の手をそろそろと降ろしながら、双眸は不思議を湛えてゆっくりと瞬いた。)てん し、さま?(憶えのないかおばせ。されど此処にいる大きな人間はみな“てんしさま”、Xの信徒であると教え込まれたむすめは、彼もまたそのひとりであると疑わなかった。はじめて目にする青年の容貌を観察するように、じぃっと。まっすぐと、感情を宿さない作り物のような紅玉が青年の眸へ向く。けれども彼がくれる言葉の意味は大半も理解出来なくて、せっかく告げてくれた名にも「ちか、……?」と薄く反応を返すと共にゆるくと首を捻れば、名前を理解出来なかったのだとわかってもらえるだろうか。たくさんの言葉を聞きとるのはまだ難しくて、耳で掬い上げられる言葉の数も決まっている。理解出来る単語はもっと少ない。けれども、)はくあ。(名前を求められていることだけは理解が出来、たどたどしい音を返した。ここはむすめの部屋であるから部屋に散乱した書類のなかに名前が記載されているものもあるし、名前は恐らくそちらを確認したほうがわかりやすいかもしれない。無機質な眸はまっすぐと彼を見つめたまま、)むかえ、きた?(下手くそな言葉に代わり、訊ねるよう首を傾いだ。)

近嵐隣 ♦ 2020/12/28(Mon) 22:28[4]

…そりゃあんなんがゴロゴロいりゃあそうだよなぁ。(耳塞いで縮こまる姿を前にしての独白は、少女の心裡には恐怖心があるに違いないと断じての物申し。彼女の瞳には何も映っていなかっただろうとよくよく考えればわかるくせ、幼気な様相を前にして単純に庇護欲が勝ってしまったから仕方ない。密やかな驚嘆を前にフォローの一つでも口にしようと開きかけた唇が、瞬時ポカンと間抜けに開いた。)てっ、てんしさま?って何だ?何なら俺よりお前のが……ってのはこれアウトだな!?(想像だにしなかった第一声に瞠目するのはこちらの番。誰にも憚らない無遠慮な笑声は、きっと手元のライト一つを照明にした空間でさぞ不似合いだったろう。無意識に“助けられたがらない姫”の存在確率を低く見積もっているからこそ呑気なもの。それでも、注視に両手のピースサインを返す遊びを始めた頃には、彼女の纏う空気の独特さに気付かざるを得なかった。)はくあ?……あ~~、白亜!乙無白亜?(偶然ライトが照らした先に見えたペラ紙の記名を読み取れば、脳内で漢字変換して得心すると同時に手を打った。不躾な人差し指が作法を無視して彼女を指差す。)お前白亜な。俺はとなり。(改めての名乗りの際には指先の方向を自分へ向けて、続く問いかけに今度はしっかり頷いた。)おう、助けに来た。(すれ違いの可能性には無論思い至らないまま、先んじて立ち上がれば空っぽの片手を差し出した。)立てるか?

乙無白亜 ♦ 2020/12/29(Tue) 10:38[5]

(むすめは知らない。恐怖も、後悔も、それらを糧に闇よりうまれいづるものがあることも。高校生というものだって知らなければ、性別というものに関してだってあやふやだ。見つめた先の双眸がまんまるく形を変える様相を見届けて、ここでは滅多に聞かぬ笑声を耳にして、むすめの頭は横へと緩く傾いた。)ちがう、の?(むすめがクローゼットに押し込まれるより前、信徒の口から「侵入者」の言葉を聞いてはいたがむすめにはそれが示すものもわかっていないから。生贄と、てんしさま。それ以外がいるとしたら一体それはなにであるのか、まっすぐな眸が彼の真意を問うている。彼の両の手がピースサインを作り始めればひとつふたつと不思議そうに瞬いてから、わからないことはひとまず真似てみようというように、むすめもおんなじようピースサインをつくってみたりしただろう。)そう、はくあ。 おとなし、はくあ。(こくり、頷く。彼の指先の動きを見て、「となり」告げられた音を、名を、おんなじ音で繰り返した。むすめもまた彼が迎えに来てくれた信徒のひとりであると疑わず「助け」の意味も正しく理解しないまま、差し出された手にはいつもそうしているように躊躇なく手を伸ばす。)うん。立つ、歩く。(立てること、それから一緒に歩けることも拙い音で伝え、導きの手に甘える形で狭いクローゼットの中から這い出た。修道女が纏うような白黒のワンピースの裾が立ち上がる拍子に微かに揺れる。クローゼットを出たあとも、彼が振り払わない限りむすめから繋いだ手を離すことはなく、動きを待つようにじぃっと高いところにある彼のかおばせを見つめて。)となり。となり。 たすける、は、なに?(ない知識を吸収するように、先刻意味を理解できなかった言葉の意味を問うた。)

近嵐隣 ♦ 2020/12/30(Wed) 02:27[6]

ア?うわマジか。違う違う!天使じゃねえよ。(冗談を多分に孕ませた反応に返った言葉が純粋な問いかけであったなら、“てんしさま”たる誰何が心根からの本気だったのだと知るに容易かった。気付きの小さな声の後、かろい否定を繰り返す瞳は彼女の紅を映して揺らがない。ガラにもなく小難しい思考を試みた結果眉間に深く皺が寄るけれど、それも鏡映しのような真似っ子に瓦解。頬がほどけた感覚で安寧を取り戻したなら、どうしたって感覚派の脳みそは高度の配慮に向いていないから繰り出す言葉は気ままだった。)てんしさまってどんな奴?(此処で暮らす少女の第一声が本気の“てんしさま”であった以上は、その意味するところが信徒であると結び付けるくらいの頭はあった。結んだ手と手に従順な受容を感じながらも、すぐさま行動に移らなかったのは二度の称呼だけが理由ではない。)助けるは、何って聞かれるとむっずかしーな?助けるは助ける!で、俺さ、今から白亜を外に連れてこうとしてんだけど、(呪いひしめく場所を崩壊させねばと言う使命感に似た信念が胸のド真ん中にあるからこそ、近嵐の中で決定事項である思惑を吐露するに躊躇いはない。さりとて少女のおもいを丸切り無視するのは性に合わないから、視線を交わらせて端的に問う。)白亜、お前此処にいたい?(迷子の子供を保護するような風采でつないだままの手に、少しだけ力を込めた。)

乙無白亜 ♦ 2020/12/30(Wed) 14:34[7]

(ちがう。 はっきり告げられた言葉を脳内できちんと理解するまで、静謐を湛えたふたつの紅玉は瞬きもせずに彼を視ていた。このひとは、てんしさまではない。それならまだ、ここに隠れていなければいけない。そこまで理解したあとに漸うゆっくりと瞬きをして、すぅ、と小さく息を吸う。てんしさまとはどんなひとか。問われた言葉へと応えるべく、小さな唇を淡くひらいた。)てんしさま、やさしい。あったかい、ひと。ここにいていい、言ったの。(真っ暗闇から連れ出してくれたやさしいひと。いつも傍にいて、言葉を教えてくれたあったかいひと。それはXに妄信的なむすめから見た信徒の印象であって或いは彼の求めている言葉とは違ったやもしれぬものの、語るむすめのかおばせは能面のように無表情である癖、囀る声はどこか夢見心地のようであった。)……そと?(彼の云う「助ける」は外へ連れて行くことをいうのだと、この瞬間理解する。どうして外へと行くのだろうと不思議そうに頭を傾ければ細い御髪がさらりと揺れた。交わる眼差し、ただまっすぐ見つめ返す。)わたし、ここいる。ずっと。てんしさまと、やくそく、したの。 にえなる。それが、しあわせ。そう思うが、しあわせ。(むすめにとって、信徒の言うことは絶対だ。真実だ。だから。ひとたび言葉を切って、繋いだままの手と手を見つめる。)となり、いっしょは、行かない。 わたし、「たすける」いらない。(ふるふるとかぶりを振って、外へ出て行くことへ否を示そう。共には行かない。揺るがぬ眸子が今ひとたび彼のかおばせを仰ぐ。)にげたい思う子、いる。 その子、たすける、して。(純粋に。疑いなく。ここに在ることを望んだ。)

近嵐隣 ♦ 2020/12/31(Thu) 02:32[8]

(Xは己にしてみれば揺らがぬ悪だ。盲信的になっている理由の一端を掴みたがっての問い掛けだったから、乙無白亜の中のてんしさまを知れたなら十分だった。何処か上擦ったような声色に不気味さ感じて下がり眉、少女の面前で一回パン!と手を打った。夢うつつを咎めるように。)でもそれさ、お前に此処で死んでもらいたくて優しくしてんじゃねえの?(至極わかり易い言葉は選んだのではなく選ばなかったからこその言様だ。一歩大きく踏み入った自覚ならばあまりあったから、逸らされない紅を前に恐らくはレアケースを引き当てたことにくしゃっと笑った。)ハハッ!うわ~マジか!どうすっかな~~!(笑声の直後膝を折る。振り解かれない手はつないだまま、立っている彼女と目線は逆転して見上げる姿勢。「ちょっとフラれた気分になんじゃん」なんてぼやく最中こそ拗ねたように唇尖らせはしたけれど、相好は崩れっぱなしもいいところだった。)分かった!他探してくるわ!っつーのも出来っけど、あんま気持ちよくねーんだよな。(手遊びのように結んだ手をゆらゆら揺らしながら、彼女の“いらない”を消化中。此度の任務にも昇級にも前向きだが、それは目指すべき呪術者としての道があるからだ。綺麗事上等で、かかずらった命は助けたい。数秒後、「あ」とふいに落とし、少女の双眸へ舞い戻った視線は子どもみたいにきらめいていた。)白亜、すっげえデカいクリスマスツリー見たことある?(唐突な問い掛けの後、返事を待たずに矢継ぎ早に口を開く。)「助ける」じゃなくて「遊ぶ」にしようぜ。30分!30分だけ外出て、そんでも白亜が此処に帰ってきたいっつったら諦める。ちゃんと此処まで送ってくる。(言って一度手を離し、もう一度その手を差し出そう。)贄になんなくても、俺は白亜と一緒にいれんだけどな。駄目?

乙無白亜 ♦ 2020/12/31(Thu) 12:24[9]

(パン! と響いた音が意識を掬い上げてくれるようだった。ぱちくりと瞬くなかで頭を少しずつクリアにして、ずばりと切り出された音がふと『これからは教祖様の礎となるべく生きなさい』昔日の信徒の言葉を蘇らせたなら、そっと紅玉を伏せるだろう。)しってる。 でも、いい。それでいい。てんしさま、たすける、してくれた。だから、いいの。(贄になるべく外へ連れ出されたとわかっていながら、むすめは信徒をてんしさまと妄信している。それなのに核心を突く鋭い音が針になってプシュッと身体に突き刺さり、胸のあたりの空気が抜けてしまったみたいな苦しさをおぼえたから、よくわからない心情に戸惑うように白い睫毛を震わせたのも束の間のこと。眼差しの先にある彼のかおばせが忽ちに笑顔に変われば、自分の目線よりも小さくなったそのひとを、むすめはやっぱり不思議そうに見つめていた。ここは聖夜とは無縁の場所なれば、クリスマスはもちろんツリーだってなんのことだかさっぱりだ。ゆえ無知をしめすよう首を傾けて、お星さまのようにきらきらひかる彼のきれいな眸をじぃっと覗き込んでいる。)あそぶ?(ぱちくりと紅玉を瞬かせたのは、今日だけでどれくらいになるだろう。なぞるように音を繰り返し、遊ぶについて考える。女の子たちの楽しそうな笑い声が脳裡にこだました。)……あそぶは、やくそく、やぶる、なる?(信徒と交わした「ずっとここにいる」という約束。彼と遊ぶのはそれを破ってしまうことになるのだろうかと、そう問いかけていることが既に「遊ぶ」に心が傾いている証左となろう。大きなてのひらを見つめて、今度は彼のかおばせを見つめて。幾度かそれを繰り返し、)わたし、あそぶ、したことない。でも、いいの?(てんしさまには教えてもらえなかったこと。だから女の子たちが遊んでいても、むすめは見ているだけだった。だからまた、是非を問うような言葉が唇をこぼれ落ちていた。自分も遊んでもいいのかと、それは赦されることなのかと。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/02(Sat) 01:13[10]

乾いた音でわずかなり瞠目が誘えたなら、自然口角がつり上がった。大きな音で自らに注意を向ける呪具を用いる男は当然自己顕示欲だってそれなりだけれど、感情に乏しい顔ばせがほんのり色を乗せる様は気分がいい。さりとてしってるには首を傾げて、怪訝の色を滲ませた。)え。お前まさかここよりひどいとこいた?(“たすける”の種類にも多々あれど、己の任務と重ねて当たりをつけた。ここの暮らしなんざ知りはしないが、思い込みの劣悪さを言葉尻にも孕ませて、言い聞かせるような話しぶりを反芻する。否を唱えたがる唇は暫時不満気を映すものの、伝え得る言葉を近嵐はまだ持っていなかった。)おう、遊ぶ。(小さなライト一つしか明かりは無いはずなのに、瞬きのさなかの紅玉に子供の頃見かけたビー玉のきらめきを想起して眦が下がる。おずおずと問う様はまるで親からの言いつけを従順に守ろうとする子どもに見えた。)なんないよ。だってお前、ここで隠れてろって言われたかもしれねえけどさ、トイレだったら行くだろ。それと一緒!戻ってくんならいいじゃん。(少女にとって大事らしい“やくそく”と天秤にかけることが出来た時点で手応えはあった。説得に足る例え話だったかはさておき、うろつく視線を見守った先で目を瞠る。遊ぶを知らぬ少女に対する驚きを飲み込んで、一度大きく頷いた。)いい!……っつっても、やったら駄目なことはそりゃあるけど、やってみてえなって思ったらやってみりゃいいんだよ。(当然も普通も異なると理解しながら、彼女の好奇心を二つ返事で赦そう。差し出した手のひらもしゃがんだままの体勢も、待つ姿勢の一環だったけれど生憎堪え性はない性質ゆえ、ねだるように手を揺らした。)行こうぜ。つーか、あそぶしたいってお前の顔に書いてあるかんな。(決め付けの比喩で笑う薄暗がりの中、逸る心地のまま「上着ねえの?」とクローゼットの中を照らした。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/02(Sat) 15:00[11]

ここ、きた、前、まっくら。さむい。ずっとひとり。(酷いがなにかはわからぬも今の生活と比べることなら敵うゆえ、言葉足らずながらわかる単語で伝えようと音を紡ぐ。真っ暗で、寒くて、ひとりだった。けれど今は明るくて、あたたかくて、てんしさまが傍にいる。ゆえ信徒の優しさに裏があったとて、連れ出してくれたてんしさまが大好きなのだと揺るがぬむすめの眸が語っていた。少し離れるだけ。戻ってくればいい。遊んでも、いいのだと。大きな頷きと赦しと、力強い言葉を享けて天秤が沈む先は決した。)うん。 あそぶ。となりと、あそぶ。(こくり、大きく頷いて共に行く意思を示す。ゆらゆらと揺れる手を取ろうと指先を伸ばした折、クローゼットの中へと眼差しを向けたのは問う音を聞いたがゆえ。まっかな紅玉を縁どる白い睫毛をはたりと瞬かせる。)うわぎ? 服、これだけ。……となり、さむい?(敷地より外に出る機会がなければ上着などの防寒具の類はクローゼットの中にはない。生活感が微塵も感じられないがらんどうのそこに掛けられているものといえば、むすめがここに連れられるより前に身に纏っていた襤褸切れ一枚と、寝間着の白いワンピースくらいなものだ。揺れる手をいまひとたび見つめる。それが急かされているのだと露とも感取出来ぬむすめは見当違いにもさむいのだろうかと首を傾ぎ、子ども体温を有する温い両のてのひらで、差し出された手をぎゅっと握った。)こうすると、あったかい。しってる。 てんしさま、おんなじこと、してくれた。(昔日、かじかんだ赤い手を信徒のひとりがそうして温めてくれたように。陽に当たったことがないのではと思わせるほど真っ白な小さい手を、大きなてのひらを温めるよう寄り添わせたがった。とはいえむすめの力は彼よりずっと弱いゆえ、振り払おうと思えば容易く出来るだろう。くいくい。起立を急かすようにやわやわと彼の手を引っ張って。)行こ。 でも、しんにゅうしゃ、みつかる。だめ。

近嵐隣 ♦ 2021/01/02(Sat) 18:06[12]

お前思ったよりしんどそうな人生歩んでんな……。(予想と違わぬ方向性の答えでも、一つ一つその口から紡がれれば実感として降りかかってくる。しみじみと応じた口ぶりは悲観も同情も内包しながら、労いの意味合いが強かった。大変だなと抱いた感想はおよそ他人事、さりとて持ち得る当然も普通も異なる相手と弁えたなら、気軽に是非を問いたくない。感覚的な道理だった。)っしゃ、決まり! はいいけどマジで服ねえじゃん。お前マジで大切にされてんの?贄だろ?(白髪をかき混ぜるように撫でくりまわせばよく出来ましたの代わり。外に出ればいかにも寒かろう身なりで問う姿を前に、「俺じゃねえよ」と返す言葉は自然苦笑が入り交じる。中に着込んでいる薄手のダウンを着せようと上着を脱ぎかけたところで、手にぬくもりが広がった。ぱちっと一度の転瞬で彼女の顔ばせを仰いで、手元を見遣って。ちょうど先刻の少女の目線と同じ動きを見せながら、暫時されるがままに受容した。)やさしいじゃん。(何処か上から目線の褒辞は目の前の彼女に対するものだったけれど、いつか彼女にそのぬくもりを教えたてんしさまに対してと取られても構わなかった。ねだる手引きに立ち上がり、すっかり共犯者みたいな口ぶりにハハッと短い笑声を響かせた。)ばーか、お前だって見つかったら駄目なんだよ。バレたらどうなんだろ。お仕置きとかあんの?(興味本位の問いは何処か楽しげに、脱いだばかりの黒いダウンを彼女に着せたなら、ファスナーを目一杯上げてフードですっぽりその髪を覆い隠した。ここからはスピード勝負、改めて彼女の体躯を上から下まで確認しながら悩ましげに首を傾げたのも3秒足らず。少女の手を離させ、中腰になればそのまま彼女を片手で抱えるように持ち上げた。)たぶんこれがダントツで速い!首とか肩とか掴んでいいかんな。(腕を尻の下に宛てがえば安定性は図れるか。もう一方の手に鵠鈴を有せば、寒々しい廊下を走り出そう。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/02(Sat) 21:51[13]

しんど……? 今は、しあわせ。となりは、しあわせ、ちがう?(恍けたようすでゆるゆると首を傾ぐむすめのかおばせに悲壮感などまるでない。しあわせだと謳った唇で、今度は彼のしあわせを問う。深い意味などなく、ただ純粋に訊いてみたかっただけだ。学びの最中ゆえの知識欲。好奇心。言い表すならそんなところだ。)てんしさま、べんきょう、おしえてくれる。本も、よむ、してくれるの。(傍目に見れば首を傾げることであっても、そも信徒に妄信的なむすめはそれが杜撰な扱いとも思わない。無知、ゆえの単純。てんしさまがこの身にしてくれる優しさを言葉にするなかで頭に温もりがおりてくれば心がほわほわあったかくなるような不思議な感覚が身体を巡って、紅玉がふわっと温く色付いた。なされるがままに細い髪をくしゃくしゃにして、落ち着いた頃にぱぱぱと乱れた白髪をなおす。温もりをわけた先、鼓膜を震わせた“やさしい”はてんしさまに対する言葉として受け取ってちょっぴり誇らしげに唇をゆるめたけれど、鋭い指摘には「あ」今気付きましたという顔で口許に手を添えた。)わるい子、は、てんしさまが──ん、(わるい子はてんしさまが何処かへ連れて行ってしまうのだと告げようとした音は、着衣によって阻まれる。あっという間の出来事に、ぱちぱち、瞬き数度、余った袖口を惚けたように見つめる。すっぽりとダウンジャケットに埋もれたさまは、さながら真っ黒な雪だるまだ。)あったかい。(彼の言葉にも従順に従って、抱えられたのちは掴みやすい首へと手を伸ばした。高くなった視線。通り過ぎていく景色。外の世界に向いていた紅玉も、けれど視界の端に見たことのないものを捕らえた瞬、忽ちにそっちへと奪われる。)となり。 それ、なあに?(それ、と好奇に満ちた紅玉を向けるは彼が握る神楽鈴。次いで彼のかおばせを見上げては、大人しく言葉を待っている。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/03(Sun) 01:12[14]

そっか?俺は~、ん~~~たぶん幸せ!でももっと幸せになれんじゃねえかなって思って生きてる!(この任務だって、前向きな者もいれば後ろ向きな者もいた。近嵐自身は前者だが、たとえ後者にだって背中は預けられるし守ってやれる。感じ方をお揃いにしなくとも構わないのは本心で、だからこそ彼女の言葉を深く追求もしなかった。お前はそうなんだなと乙無白亜に対しての知識をただ脳裏に降り積もらせながら、のたまう心情は楽観主義のハッピー野郎を極めただろう。)うっわ俺勉強は教えてやれねえわ。本読めんの?何が好き?(私意を持たない印象は、彼女が“あそぶ”と決めた事で覆ったから嗜好を問う。防寒対策済んだ身形に満足そうに「だろ?」と返すも、抱え上げた体躯はこちらが鍛錬積んでいるとは言え軽かったからぞんざいな扱いを想起するに易かった。)ん?あ~、何つったらいいのかな。お守り?お守りっつって分かる?(武器と伝えれば見えぬ呪いを説明しなくてはならない。解説は不得手ゆえに嘘ではない事実を口にした直後、奇しくも廊下の先に数匹の蠅頭を視認すれば「げっ」と小さく呟いた。足は止めない。)そんで、おばけみたいなのと戦う時にも使う!白亜さ、ねえと思うけど、おばけ見たことある?今俺の目の前にいるんだけど、さっ。(シャン!とひと振りで勢いつけて床を蹴ったなら、目の前の蠅頭へ向かってスピードを緩めず突っ込んだ。鵠鈴で薙ぎ払うようにそれらをぶっ飛ばしてしまえば、彼女の身体にも揺れは伝わってしまったか。玲瓏な響きの余韻が消えた頃出口が見えてきたなら、そのまま外へと飛び出そう。)てかさ、お前いっつも何食ってんの?(もしかしたら彼女にとっては革命的なその瞬間、投擲したのはそんな疑問符。敷地外を出てから暫くも速度を緩めぬまま、賑わう聖夜の駅前が近づいて漸く彼女をその場に下ろそうとして、)あれ待った!お前靴履いてたっけ?(はたと思い至って彼女の足元を見遣った。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/03(Sun) 12:47[15]

しあわせ、は、ふえるの?(しあわせを謳いながら、その上で“もっと”を重ねた彼を見つめる紅玉が幾度目かもわからぬ不思議を宿している。てんしさまでも、生贄でもない、彼はむすめにとってはじめて出会う知らないひとであるのだから殊更に興味の対象にもなろう。)すき、は、マッチうる、おんなの子の、おはなし。(Xの教本やら難しい漢字が並ぶ本を勉強として読まされることはあるけれど、小さな唇が紡いだ好きはとある一冊の童話だった。細こい腕で縋ったひとの身体はむすめが唯一知っている信徒たちと比べてもずっと大きくて、信徒たちのだれよりもあたたかい。そんな気がした。縋る指先にほんの少し力が籠もる。)おまもり。 まもるとは、ちがう?(約束を守る、そういった意味の「まもる」は知っている。そんなふうに無知を告げた折、玲瓏たる音色が鼓膜を震わせた。はじめて聴く清らな響きのなかで、そっと唇をひらく。)ない。みえない。(目の前を見つめても、むすめの視界に映るのは薄暗い見慣れた回廊だけ。振り落とされないようにいまひとたびきゅっと指先に力を籠めて、おばけと戦うのだと語った彼のかおばせをじぃと見上げて。)───…、(けれど彼を見つめていた紅玉は、星明かりに誘われるように壁の向こうの世界へと吸い込まれた。言葉をかけられても紅玉はわかりやすく流れていく景色を見つめたまま「おかゆ。おすいもの。つけ、もの」ひいふうみい、日頃食べているものをそのまま音にする。稀にめざしが付くこともある。箸の使い方は信徒の教育もあって矯正箸は卒業済みだ。)? くつした、ある。(むすめの部屋にはクローゼットなんて洋物が備えられていたとはいえ、なにせ造りは古い日本家屋。靴を履く習慣もなければ、むすめが履いているものは白い靴下のみだった。)となり。となり。(そんなことよりも、と。名前を呼ぶ。気付いてって、くいくいと小さく服の裾を引っ張った。)あっち。 お星さま、たくさん、きらきら、してるの。(指さしたのは聖夜に賑わう駅の方角。ここからでもわかるイルミネーションの輝きに、むすめの眸はすっかり釘付けだ。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/03(Sun) 19:26[16]

ぉあ?増えるだろ。増やそうとすりゃ増えるもんだと思うよ。(間の抜けた反応を挟み、かろい調子で持論を展開する。きっと彼女にとって近嵐の言が不可思議であるように、彼女の疑問も近嵐にとっては予想外だった。「それ最後死んじゃわねえ…?」と首傾げてうろ覚えの結末を声に出す。)俺そういう話あんまちゃんと覚えてねえんだけど、お前ヘンゼルとグレーテルの魔女もいい人って思うんかな~って今考えてた。どう?(人食いの魔女が、助ける素振りを見せて兄妹を家に招き入れる話。幼い時分、子供らしくおかしの家に憧れたからか朧気ながら印象に残っていた童話の魔女。それにすら彼女はやさしさを憶えるのかもしれないと、初対面の男にぎゅっとしがみつく様を前にしてささやかにやるせなさが滲んだ。この状況自体は好都合に他ならないくせに。)ん~おんなじようなもん?これがあったら守ってもらえそう!っつーのがお守り?(言葉の意味合いすら感覚的だから、きっと上等な先生にはなれない。端的な回答に笑声が重なった。)ハハッ!まぁ見えてたら、流石のお前も此処で暮らすのちょっとやだってなりそう! ってくらいいる!(射抜くような視線は前だけを見据えていたから、彼女の視線には気付かない。右の口角だけをニヤリ歪めて何処か不遜な笑みを携えながら、「おかゆ!?」と主食に初っ端喫驚露わにしている内気付けば周りは見慣れた街明かり。白い靴下に「靴と靴下は違うんだよな~…」と眉下げながら、真っ白い鈴をカバンにしまう。その場凌ぎの靴を探しに行こうかと見回した視線が称呼に引き寄せられたなら、優先事項は分かりきっていた。)分かってんじゃん。キレイだろ~!あれLED?何かすげえキレイに光るんだよな。んで、あっちにあんのがクリスマスツリー!(青白黄色、順繰りにキラキラと輝くイルミネーションへ彼女を抱えたまま近づいた。持ち得る時間を然程気にしている訳ではないが、目一杯を与えたがって繰り出す言葉は矢継ぎ早。そびえ立つもみの木と彼女の視線が合うように向きを変えよう。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/03(Sun) 22:55[17]

(増やそうとすれば増える。彼の言葉をゆっくりと反芻させながら「そう」考えるよう紅玉を睫毛の下へと伏せる。贄として生かされているむすめにとって、“死”は哀しい終わりではない。それは息をしなくなるということ。それは動かなくなるということ。それは光栄なこと。ゆえ死を問う言葉には小さく頷きながら「でも、おんなの子、しあわせだった」そう語るむすめの声に悲愴はない。寧ろ孕んでいたのは羨望か、或いは憧憬か。)わたし、それ、きらい。 しあわせ、わからなくなる、の。(彼がいうようにむすめは童話の魔女が嫌いではない。けれどもふるりと首を振ったのは、妹が魔女を殺めてしまうからだった。どうして優しくしてくれたひとに酷いことをするのか。何故それがしあわせな終わりに繋がるのか。それを肯定してしまったら今信じているしあわせが足下から崩れてしまいそうで、だからむすめは否を唱える。おまもりについての認識も彼から及第点を貰えたならひとまずは理解したといえようか。笑声を聞けば、)じゃあ、みえない、よかった。(ふ、と安堵にも似た吐息がおちる。ここで暮らせるのが視えないお陰であるというなら、Xを唯一の居場所と定めるむすめには幸運なことであった。食生活には満足しているゆえ愕然とした声を聞けば不思議そうに彼を一瞥しもしたが、靴に然り、むすめが彼を困らせたのはこれだけに留まらぬだろう。だというのに当の本人はすっかりイルミネーションに夢中で、無機質な紅玉に映る淡い輝きに瞬きも忘れて魅入っていた。)くり、す ま  つりー……?(少し前に彼が話してくれたもの。今目の前にそびえ立っているこれこそがクリスマスツリーであるのだと、言葉と景色を結び付けて理解する。)  うん、きれい。(ぴかぴか。きらきら。瞬く間に色を変えるたくさんの煌めきは、おひさまの光も浴びたことのないむすめの眸にはいっそ眩しすぎるくらい。美しい聖夜の光にはじめて外を見た瞬間の感動を重ねては、)となり。 あそぶ、たのしいね。(満足そうに頬を綻ばせて「ありがとう」をうたうむすめのかおばせを彩るもの、それは微笑みと呼ばれるものだったに違いない。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/04(Mon) 02:00[18]

白亜。あのな、お前のも増える!…と思う!お前が増やしたいって思えばだけど、思っていいし。そんで生きてりゃ増えるよ。まぁぶっちゃけ減ることもあるけどな。(ともすれば彼女の方がよほど実感しているかもしれない現実をわざわざ口に出しながらも、求めてもいいのだと伝えたかった。誰の赦しも必要ないのだと。「そうだっけ?」朧気な記憶に基づき相槌程度に留めた反応もそこそこに、存外はっきりとした答えに目を瞠った。)ちゃんと好きとか嫌いとかあんだな~。安心した!つって俺もあの話嫌いだわ。(助かった兄妹が、子どもを捨てた親の元へ帰るラストが納得できなかった。されど物語へ不満を垂れるのも数秒足らず、おとぎの世界よりも目の前にある現実に心は傾く。きらめく電飾の数々を「だろ?」とちゃっかり己の手柄にして笑ってみせた。して、続けざまの言葉にポカンと口を開けたのも無理はあるまい。自発的な“たのしいね”が耳朶を打ったから。それと同時に浮かんだ笑みに目を奪われたから。笑えんじゃん。小さな呟きは、雑踏の中で音になったか知れない。)さっきよりさ、幸せ増えた?(そんな比較を持ち出しながら、近くのベンチへ彼女を座らせた。フードをもう一度深く被せ、彼女の全身を眼下に見ては、)~~なあやっぱ気になるからちょっと此処で待っててくんねえ!?ひゃく~…じゃ駄目だな。200!200数えるまでに戻ってくる!(彼女が数を数えられるか否かを近嵐は知らない。奪還対象をクリスマスの街に放ったのは、追っ手の気配がない事は無論、彼女が言いつけを守るだろうとの予測から。)――あっっっつ!!(全速力で戻ってきたのは3分後。額に汗をかいた身が把持するは片手にベージュ色のムートンブーツ、片手にコーンスープの缶。まずは缶を手渡そう。)ん、飲んだことある?……うわこれデカいか?(すぐそこのディスカウントショップで叩き売られていたそれを白い靴下にすっぽりはめ込み、サイズ問題をまぁいいかで解決させれば、上着のファスナーを開けながらすぐ横へ座ろう。そうして何でもないみたいに問う。)白亜さ、いつ死ぬか決まってんの?

乙無白亜 ♦ 2021/01/04(Mon) 13:22[19]

……うん。(赦す言の葉が耳朶をうてば一度だけ紅玉を彼へとむけて、祈るようにまた双眸を伏せた。そうやってしあわせを増やしていければ、温かく天に召された童話の少女のように、わたしもしあわせな最期を迎えられるのだろうかって。意志薄弱ではなく至恭至順。ゆえ否を唱えることも、好みを囀ることも出来る。はじめて見る場景を美しいと感じる心も然り。むすめが感情の発露に乏しいのは単に心が動くなにかに触れてこなかっただけなのだと、自然と綻ぶ頬が教えてくれる。)ふえた、思う。(しあわせを問う音には考えるように首を傾けたりもしたけれど、楽しい=しあわせと頭の中でイコールが繋がったならこくんと頷いて、なされるがままベンチに落ち着いた。フードに押し付けられた前髪が紅玉をも覆い隠してしまうけれど、前髪の幕の隙間からそっと彼を見上げて、待機指示にも従順に従った。)いち。にー。さん…──(ぷらぷらと浮いた足を揺らして、クリスマスツリーを見上げながら彼が戻るまでの数を口遊む。といっても途中でわからなくなったりしたから正確な数字を数えられていたわけではない。50くらいまでを数えたところで待ち望んだ声を小さな耳で拾ったなら、ツリーに釘付けだった紅玉はすぐに彼へと向くだろう。)ない。(缶を手渡されての一言。温かい缶の熱が冷たい指先にじんわりと移っていく感覚を不思議に思いながら、缶を引っ繰り返したり、ぺたぺた触れてみたりする。その間大人しく靴を履かされるなどしながら、足を覆うちょっとだけ大きなモコモコには「あったかい」と感想を述べて。缶の調査を中止して横へ座った彼を仰ぐ。かぶりを振った。)いつは、しらない。(でも、あと少しなんだろうって思っている。贄になることはしあわせなこと。その考えが今でも変わっていないからこそ、紡ぐ音はまるで他人事のようだった。)となり、やさしい。 でも、てんしさまと、ちがう。(ぽつ、ぽつり。唇をぽろぽろ零れていく言葉は相変わらず淡々と。彼がてんしさまだったなら、もう少し一緒に居られたのにって。でも彼は“違う”から。)いっしょ、いる、できない ね。(ちょっぴり寂しそうな響きになった。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/04(Mon) 23:21[20]

良かったじゃん。「遊ぶ」のもいいだろ?(ささやかだけれど着実な変化を彼女に齎した一端は己の行動にあると自負する顔ばせは得意満面に輝くけれど、「お前が遊ぶっつって決めたから増えたんだよ」続く一言は、他でもない彼女自身の決意あってこそだと太鼓判を押してやりたかった。ブーツの感想に眦下げた後、何処か興味なさげな答えに白い横顔をただ見遣る。来るべき未来だと受け入れている紛うことなき証左に見えたから、揺らがぬ意思がもどかしくて下唇を突き出した。見す見す死なせたくはない。それもエゴだと知ってるけれど、“できない”の響きがやるせなかった。)白亜がさ、もう生贄や~めた!外はキラキラしたものいっぱいあるし、隣と一緒にいたら楽しいし、生きてる方が幸せかも! ってなったら、出来るんじゃん?(彼女とは似ても似つかぬ口吻なれど、妙に高い声でのたまって笑った。彼女の手からヒョイッと缶を奪えば、よくよく振ってから蓋を開け、缶だけ彼女に手渡そう。)飲んでみ。あ、熱いかも。(火傷注意を言外に促し、アルミのキャップを両手の指先で弄ぶ。唇割って、迷うような素振りは見た目だけならきっと一瞬だった。)で、ごめん!俺さ~、30分だけっつったけど、此処まで来ちゃえばもう無理やりお前を「助ける」ことにしちゃってもいいかもって思ってた!でもお前帰んないって言いそうにねえから、どうすっかな~~って思ってる!(パン!と手合わせながらの謝罪を一つ。後先考えないがゆえの思考回路を明け透けにしたなら、勝手な言い分で困り顔に笑った。)でも俺、あそこに帰したら、お前は死ぬんだなって思ったら、なんかそれはすげえやだ。お前はそれで幸せかもだけど、死ぬのだけが幸せじゃないって、もうお前だって知ってんじゃん。(前方に足を投げ出し、ベンチに後ろ手をついて傍らを見遣った。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/05(Tue) 01:37[21]

(真っ暗闇から助けられて数年。反発することもなく従順に、信徒のひとりがリンゴは青いのだと説けばそれを鵜呑みにするほど妄信的に、ただただ大好きなてんしさまの言いなりに生きてきた。ゆえ信徒らに自分の意思を示したことなど一度もなかったけれど、それをすることによってしあわせは本当に増えるものなのだと理解してしまった今、恩人を裏切ることなんて出来ない癖に芽生えてしまった探求心を留めておくこともまた難しくて。「出来る」を聞けば殊更に、雁字搦めの心が小さく軋む。紅玉をあったかくなった足下へ落として、行先のわからない感情を持て余してはぷらぷらと足を揺らした。)……でも。やくそく、ある。 やぶるは、いけないこと、ちがうの?(ずっとここに居るという約束。むすめを縛る呪い。彼に出会って、あそぶを知るまでは幸福であった筈の言葉。むすめの心のなかにある天秤が、音を立ててぐらぐらと揺れていた。居場所の「外」に楽しいを、しあわせがあるのだと知ってしまった以上無知であった頃には戻れない。それは約束さえ交わしていなければ一緒に居たいと告げていることに相違なかった。温かい缶の熱が冷たい指先にじんわりと移っていく感覚を不思議に思いながら、火傷注意にはこくりと頷いて、戻ってきた缶に開けられていた小さな孔穴へとふーふーと息を吹きかける。横から聞こえた音に釣られてそっちを向けば、紅玉に映った困り顔にゆっくりと瞬きひとつ。)となり。こまる、してるの?(たぶん自分のせいなのだろう。そう理解は出来ても、むすめは曇りを晴らす方法を知らなかった。だから傍にある彼の眸をじぃっと見上げて、心に浮かんだままの言葉を音にしていく。)てんしさまも、となりも、すき。いやなこと、したくない。 しあわせ、もっとふえる、したい。あそぶも、たくさん、したい。(てんしさまと彼、どっちの優しさにも応えたいし、もっとしあわせを増やしたいとも思ってる。遊ぶだってまだただ知りたい。でも、だから、 でも。段々苦しくなってきて、ぎゅっと温もりをわけてくれる缶を握った。贄はしあわせなこと。ちくちく、胸が針で刺されているみたいに痛い。)……かえりたくない。(絞りだした本音は、子ども染みた我がままだった。)

近嵐隣 ♦ 2021/01/05(Tue) 22:19[22]

(彼女の生き様をしんどそうな人生と語りながら、きっとそこに必要以上の憐憫はなかった。確固たる意思を見たからだ。生来然程呪力に恵まれなかった身は“見える”のに対処出来ない苦しみと、己の持ち得る力では一人前にはなれないかもしれない憂いを天秤にかけた先で博打を打つと決めた。あらゆる過程があったとしても、選択の責を前に彼女の手を無理に引くべきじゃない。されど、物分りの良い風を装った理屈は“なんかやだ”なんて曖昧な情操を前に瓦解しそうだった。)ハッハッハ!バレてんじゃん。でもいーよ。俺困るの嫌いじゃねえし、ごめんっつったけど、お前気にしてねえっぽいし、……あ?(つらつら語った思考より、余程雄弁だったのだろう顔ばせをくしゃっと歪めて軽佻に振る舞う折、ひらめきに短い音を落とした。真っ直ぐな視線に応じる瞳はいたずらを思いついたような子どもの風采を見せ、淡々とした響きに何処か鈴の音を思った。)したいしたくないも言えんじゃん。俺もお前はもうちょい幸せになってほしい!死ぬのはその後でも良くねえ?だってお前、まだ生きてて十年くらいだろ。…あれ?そういやいくつ?(死にたがりのレッテル貼った上での物申しは着地がズレて疑問符つき。名案思いついた顔は何処か得意気だったけれど、数秒の後聞こえた声に「へっ?」と間抜けな声が落ちた。まんまるに瞠った双眸が小さな体躯を映す。聞き違いじゃないと分かるくせ、その決断が心からのものであるかの判断はつかなかった。)いいよ。帰んなくて。んで、もし、…まぁ99%ねえと思うけど、もしまたお前のてんしさまに会ったらさ、そんとき謝ればいいじゃん。約束守れなくてごめんって。優しいなら許してくれんじゃねえ?(彼女の言うやさしいを取り沙汰し、まるで信用していないくせに根拠に仕立て上げたなら身体は前屈み、彼女の顔を覗くようにして問う。)帰るか!

乙無白亜〆 ♦ 2021/01/06(Wed) 00:17[23]

(Xに来る前の生活ですらしんどいと感じたことのない暢気で、無知で、自分を顧みないむすめだった。向けられる悪意には疎い癖、差し伸べられる善意には気付けないからこんなふうに悦んで命を投げ出す都合のいいお人形に成り果てたというのに、自覚がないゆえ悪質だ。妄信ほど恐ろしいものはない。実際、彼が紡いだ謝罪だってなにが「ごめん」なのかさっぱり理解をしていなかったのは、30分だけという言葉を妄信して、むすめのなかで「戻る」のが当たり前だったからに他ならない。気にしていないのはそんな理由。彼の困り顔に心が向いていたことも、それなりに大きく影響していたけれど。)しあわせ、たくさん、ふえるしたら、きょーそさま、よろこぶ、思う?(むすめの深くに根付くてんしさまの声。『これからは教祖様の礎となるべく生きなさい』は、こういうところに帰結する。しあわせをたくさん増やして、いつかしあわせにこの身が天へと召されたら、この命を礎とする教祖様へも分けられるものなのだろうかと。歳を問う言葉には、)いくつ? じゅうよん、なる。(手と手で1と4を作るむすめのかおばせはちょっぴり自慢げだ。もっとも自分の誕生日など祝ってもらった記憶がなければ自然と理解出来るものではなく、むすめにとっては年齢も等しく記録上の数字でしかない。むすめを施設から引き取るにあたり戸籍データを診た信徒のひとりに告げられた年齢を、覚えたての言葉を発したがる子どものように口にしただけのこと。生まれてこの方全く働いてこなかった所為で脳が知識に飢えているのか、記憶力はもちろん学習能力はすさまじいものだった。)……、…てんしさま、むかえ、くる  したら、(むすめの紡いだ帰りたくないは、贄になりたくないからではない。もっと遊んでいたいから、もっとし彼と一緒にいたいから。そんな、単純に家に帰りたくないとごねる子どもの我がままの延長戦だった。ゆえ信徒が迎えに来たならば、たぶんあの時のように躊躇なく手を取るのだろう。言葉を濁して紅玉を俯けるさまは、怒られたらどうしようと怯える子どもの仕草とおんなじだ。けれど口にした帰りたくないもまた紛うことなきむすめの本心なれば、彼の「助ける」にどこまでも従順についていくだろう。だが「帰るか!」そんな問いかけには、きょとん。)……どこに?(まっかな紅玉を大きく瞠り、眸を縁取る白い睫毛をはたりと瞬かせて。真正面にある彼のかおばせと睨めっこでもするみたいにじぃっと見つめては、不思議そうに首を傾いだのだった。真実無妄のボケだった。)

近嵐隣〆 ♦ 2021/01/06(Wed) 19:53[24]

(隣から見遣る紅い双眸はイルミネーションのきらめきを映して、薄暗がりにいたときより余程生気を宿して見えるから、俄に口角がつった。光のおこぼれを与っただけの変化ではないはずだ。身勝手な解釈は先刻の微笑みに端を発している。彼女が何を、何処まで理解して言葉を返し、時に問うのかを理解しないままの会話はきっとすれ違いも多発していただろう。理屈よりも感情先行の発露は一方通行をも覚悟していたけれど、だからこそ嘘もごまかしもそこにはなかった。)…う~~~ん?俺宗教詳しくねえけど、きょーそ様って神様だろ?神様なら幸せになればいいなって思うんじゃねえかな。(首をひねり答えるも無論根拠はないし、更に言うなら興味もなかった。後ろ盾になるような言葉を選ぶ事はしないけれど、フードの上に片手置いたのを切っ掛けに口開いた。)白亜がさ、自分に幸せたくさんあったらいいなって思うんなら、それだけでよくねえ?……まぁお前がきょーそ様にもそう思ってほしいならしょーがねえけどさ。(こればかりは共感できぬ感覚だから、唇わずかに尖らせての主張は拗ねたようでもあった。視覚でもわかりやすく伝えられた年齢に「じゅうよん!?3つしか違わねえじゃん!」とあからさまに驚嘆して破顔。体躯よりも繰り出す言葉の印象から幼く見積もっていた予想と誤差があったとて、始めてしまった子供扱いからは漸うシフトチェンジ出来そうもない。)…?………あ!あれじゃん。お前今悪い子だもんな~。てんしさまに何かされんだっけ?んははっ、したら見つかったらやべーかもな。(珍しく言い淀んだ言葉の続きが気になって、顔ばせ見つめた後名探偵ぶった物申し。来るかもわからぬお仕置きに怯えているのだろうと結論づけたのは、“帰りたくない”彼女は贄となる未来を手放そうとしていると思い込んでいるからに他ならなかった。だからこそ気楽なものだ。筋書きのあるコントみたいに返ってきた疑問符へ、顔見合わせたまま真っ先に噴き出してしまったからにらめっこの軍配は彼女に上がる。)ん~~~、学校?俺の仲間がいるとこ!(何処まで説明すべきか一瞬悩んで、適材適所に任せる事にした男は、ざっくり過ぎる“家”を伝えよう。立ち上がり差し出す手のひらが重なったなら、乙無白亜が自らの足で歩き出す一歩目をほんの少しの緊張と共に見守った。)

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