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【5】(滄海の一粟)

梵一期 ♦ 2021/01/29(Fri) 20:18[65]

(ひと月前と同じだ。隠れて、膝を抱えて、あたたかな思い出に浸って。そうして次第に、不安に耐えきれず様子を窺いにいくのだ。冷ややかな闇も、静寂も、過日をなぞるようにそこにある。時が戻ったのだと、錯覚さえしそうだ。――ひたり、ひたひた。壁伝いに歩み進めていると、漸く違いが見えてくる。あちらこちらに横たわる人々、鼻孔の奥底をツンと刺す鉄のかおり。独り立ちだなんて宣って、こんな惨劇に足を突っ込んでいることを彼はどう思うだろう。こんなはずじゃなかったのに。今にも吐きそうだ。)――……ママ、っ。(肉塊と化した教徒たちの中に愛した人を見つけた。探して、探して、だけど見つけたくなかった人。力が抜け落ちて、膝が床を叩く。ダンッ――痛み知らせる脳は麻痺しているらしかった。鮮血に濡れることも厭わず、一期は母を抱く。もう虫の息だ。白い膜が広がりゆく瞳にはきっともうなにも映っていやしない。)あたしだよ、……一期。(力なく伸ばされた震える手を握る。ここにいるよ。物言いたげに戦慄くくちびるへ耳を寄せて、囁かれる最期の言葉は――――。瞳から光が消えゆく瞬間を初めて目の当たりにした。体躯は静かに温度を失いゆく。鮮やかな赤はゆるやかに黒みを帯びてゆく。立つことも起きることも叶わず、折り重なって生きる音を失った胸に耳が沈む。)アトジくん………。(ごめんね、だいじょうぶじゃないかも。死屍累々の闇の中、手首を彩る石だけが、光を宿している。)

阿閉託夢 ♦ 2021/01/31(Sun) 19:19[67]

ザコザコザコ、ザコばっかだな!! ザコのクセしていっちょまえに殺意だけは持ってるなんて笑わせんじゃねぇぞクソどもが!! オレに吸い取られねぇくらいの気概持ったヤツはいねぇのかよ!!(開いた瞳孔で笑い声を響かせながら、蠢く呪霊をひたすら殺してゆく。一級呪具「叡傑」、同じく一級呪具「蠱惑」。――それに、生得術式「掠気呪法」。術式を使わなければ手に負えないと判断した。――普段、感情の起伏を抑えていればいるほど、この術式の効果は強くなる。だから感情など持たずに生きろ――とは、相伝で同じ術式を持つ親からの教えだ。親が言うのならばそうするべきなのだろうと思って生きていた。あれは“縛り”として今も効果を持っているのだろうかと、術式を使う直前、思った。できるならば使いたくなかったのだ。だって、)特級呪霊をやらを呼んで来いよここに!! あぁ弱い弱い、つまんねぇ、もっとオレを興奮させろ楽しませろそれでもテメェは呪霊か!?(目を爛々と輝かせ、動かない肉塊と化した呪霊を切り刻み、返り血のように大量の体液を浴びたその姿は、どちらが悪者なのかわからない。生き残りの救出なんて、術式を使った瞬間に頭から飛んだ。そして使ってしまえば、その事すらもう自分では認識できない。)ザコばっかじゃねぇかよ、つっまんねぇ。帰ろっかな。――……(九鈎刀と柳葉刀を手に、首に針状の呪具を刺し、服は汚れて破れてぼろぼろになった男の目が、なきがらを抱える少女の姿をとらえた。)――あ、ラッキー。お姫サマ見っけ! 生きてる?(手を振る代わりのように、手にした刀を振って。これまでに見せた事のない笑顔で問いかけた。)

梵一期 ♦ 2021/01/31(Sun) 20:52[68]

(喪失感を埋め身を守る術として、楽しい思い出ばかりが駆け巡る。ーーいつの間にか、幼い頃の記憶をこのひと月の出来事が上回ってしまったらしい。ぼんやりとなにを映しているか知れない瞳は、存外よくやさしい色を宿す。大人振るくせ、ゲームは全然手を抜いてくれないし、悪の道に走ろうとも考える甘えん坊だ。食が細そうなのにチーズケーキをぺろりと食べる甘党の大食漢でもある。頬は流石にまだこけたままだろうか。そういえば、行きたいとリストアップした場所は半分も消化出来ていない。もう一度会いたかった。この狂った世界からまた助け出してくれるなら、手を伸ばしてくれるなら、それは彼がよかった。願いはしかし、思い描いたものとは全く別の形で叶えられた。聞き馴染んだ声を違えるはずはない。だけど、知らない声だ。体躯を折ったまま、ゆるりと押し上げた瞼は濡れて重い。涙なのか、血液なのか、判別出来るはずもなかった。傾いだ世界に映る、血生臭さと不釣り合いな明朗とした笑顔なんて知らない。)…………アトジくん…?(か細い声が不安に揺らめいた。あれやこれやと考える冷静な頭はないし、言葉を選ぶ気力もないが、“アトジくん”を否定することも出来ない。だれ? だなんて、頭の片隅に浮かんだ疑問符はちいさく吐いた息に乗せて捨てた。)どうして、笑ってるの?(再会を喜んでいるようにはとてもじゃないがーー。安否の心配より早く違和を拭いたくて堪らなかった。)

阿閉託夢 ♦ 2021/02/01(Mon) 03:46[69]

……? さあ? なんでだろ。ザコばっかでつまんねぇし、全然楽しくねぇのにね。(そう言って、やはり笑った。一歩、踏み出そうとしたそこには、既にこと切れた信者の亡骸が転がっていて。黙って見下ろしていたが、ふいに、)――…………(ひゅん、と右手の九鈎刀をふるった。刃にその死体を引っ掛けて持ち上げ、投げるようにしてぶつけたのは背後に迫った呪霊。どちゃ、という音が響くと同時、針状の呪具を手に振り返る。)ッハハ! ザコが一端に不意打ちとか仕掛けてんじゃねぇぞ!!(呪霊に呪具を投擲して、自分の首に突き刺して。そうすれば相手から敵意はなくなるから――あとは二本の刀でめちゃくちゃにするだけだ。)アッハハ、つまんねぇつまんねぇ、ぜんっぜん楽しくない! オレの任務ってなんだっけ――そうそう、お姫サマの奪還か。(足で呪霊の残りカスを踏みつけて、完全に祓ってしまったなら。彼女の方に向き直り、柳葉刀を鞘に納めてから、ゆっくりと歩み寄った。)こんなトコ早く出よーぜ。死にたくないでしょ。(そう言って空いた手を差し出してから、彼女が抱くなきがらに目をやった。どことなく風貌が似ていることに気づいて、ぱっと顔を輝かせる。)それ、そよぎちゃんのママ? もう死んじゃってんの? よかったじゃん、クソ親から解放されて! オレもオレの親っつーか一族郎党皆殺しにしたいんだけどさ、そうすると呪詛師認定されて追われる身になっちゃうんだわ。呪術師なんかならなきゃよかった。(術式を使っても、記憶がなくなるわけじゃない。ただ、性格がまったく変わってしまうだけで。早くいこ。そう言うように、笑顔で手を伸ばした。)

梵一期 ♦ 2021/02/01(Mon) 19:43[70]

(あまりにむごたらしい所業だ。片方は見えずとも、もう片方が見知った教徒ならどう使用されたかなんて想像に易い。つまらない? 楽しくない? そうだろう。しかし、面白がっているようにも思えてならない。見るに耐えなくなって、そっと落ちた瞼はこの惨状も、彼の存在も拒んだようでもあったけれど、近づく足音によって再び開かれた。人が変わったしまったのであっても、彼が“アトジくん”である限り、拒絶なんてしたくなかったから。)うん。……死にたくない。(重ねようと伸びた手はしかし、嬉々とした声に撃ち落とされた。)ーーどうしてそんなこと言うの。ぜんぜん、よくなんてないよ。死んでほしくなかった。……ねえ、どうしちゃったの、アトジくん。わるい子になっちゃったの?(最期まで期待は裏切られたままだった。それでもただひとりの母へ向けた愛を、たとえ理解は示されなかったとしても、ぞんざいに扱うようなことを彼ならしないはずだと思っていた。不審と不安と不穏に怯えて揺らぐ視線はそれでも彼を真っ直ぐに射抜く。)強くなるって、頑張ってみるって、言ってたのに……やめちゃった?(Xに戻ることを告げなかったから、これが回りくどい甘え方ならよかったのに。悠長に話している場合でないことは頭で理解出来ても、母を置いてゆくことも、別人になってしまった彼に付いてゆくのも難しい。なのに、伸ばされた手がまだそこにあるのなら、吸い寄せられるかの如く一期の手も伸びるだろう。ブレスレットをしゃらりと鳴らして。これ以上ない矛盾に、一期自身がいちばんどうしたいのか分かっていなかった。)

阿閉託夢 ♦ 2021/02/02(Tue) 07:31[71]

――そう? ああ、(彼女の言い分が腑に落ちたように声をこぼして、ふいに後ろを振り返って、右手に持った九鈎刀をぶん投げた。呪霊が斬り潰された音と鳴き声は彼女には聞こえないだろうけど、その体液を纏って、刀はブーメランのように己の手に戻ってくる。それを受けとめてから、彼女の方へ向き直って、)前にそのうち見せるって約束したよね。これが「叡傑」、この呪具に込められてる術式。そんで――(首筋に幾本も刺さったままの針状の呪具を、勢いよくまとめて引き抜いた。血が滴るそれを、手のひらの上に乗せて彼女に見せる。)これがおれの生得術式、「掠気呪法」――対象の敵意とか殺意とか、そーゆーのをね、奪い取って、自分のにすんの。相手はやる気がなくなって、その分オレがやる気になるってワケ。ウケるよね。(ハハ、と笑いながら、呪具をばらばらと地面に落とした。それから、やれやれとでも言うように肩を竦めて。)何回くらい使ったっけなー。コレ、呪具抜いても、相手が死んでも、奪った敵意はすぐにオレん中から消えるワケじゃないんだよね。(言いながら、彼女に差し出していた手を引っ込めた。以前より等級の上がった呪霊がひしめくこの中で、術式なしでは苦しいと判断したから使った。術式のおかげで塗り替えられた思考回路は、発言を撤回する事もなければ謝罪をする事もない。引っ込めた手で、代わりに制服の裏側から、また呪具を引き抜いた。いつ呪霊が襲ってきてもいいように。)これが頑張って強くなったオレだよ。気に入らない? じゃあこのまま回れ右しよーか。上手く隠れてりゃ他の術師が見つけ出してくれるだろ。――オレだって、好きでこんな術式持って生まれたワケじゃない。

梵一期 ♦ 2021/02/02(Tue) 19:16[72]

(気性が荒くなった理由はよく理解した。喉を貫くそれが引き抜かれる瞬間に思わず逸した視線は、そのまま彼へ戻ることはない。今日はあまりにもいろいろなことが起こりすぎて、情報処理が関の山。なにか声を返したかったけれど、掛ける言葉を見つけられずにいる。小気味よい落下音と共に響くかろい笑声に胸を奥をぎゅっと握り潰される心地がした。)……そうだね。正直、元のアトジくんのほうが好きだよ。攻撃的になった理由が分かって、だから、仕方ないねって…納得するのにも……、ちょっと時間がほしいなって思う。(己の感情を紐解きながら音に乗せて紡ぐ言葉は辿々しい。しかし彼の術式を理解したことで、困難の判断を覆した。道理もないめちゃくちゃな思慮は到底説明の付かないものだが、そうしたいと思ったことをするとしよう。ゆっくりと緩慢に立ち上がる顔ばせが彼を一瞥した後、母を背負おうと冷たくなった腕を取る。)アトジくん以外の助けならいらない。今のアトジくんをすぐに受け入れられないあたしはもう助けたくないかな。でも、助けなかったら任務失敗じゃない? あたしも、ママも、アトジくんも助けて。これは脅迫、だよ。(稚い要求もまた、この場にそぐわないものだろう。魂の抜けた体躯はひどく重い。よたつく足で先に歩み始めようか。そこら中に流れるぬめった血液を踏んで転倒しようと、母と彼と脱出に向けて何度だって立ち上がる他に選びたい選択肢はない。)今のアトジくんは好きじゃないけど、嫌いにならないよ。言ったでしょ? アトジくんが自分の術式を好きじゃないならなおさら、あたしに好きになる努力をさせて。

阿閉託夢 ♦ 2021/02/02(Tue) 23:49[73]

うーん、やっぱ術式使わなきゃよかったかなぁ? でもさ、ココにいる呪霊、前よりヤバくなってんの。術式使わなきゃお姫サマを奪還できるかわかんなくて、術式使ったらお姫サマに嫌われて、散々だなー。やっぱオレ、呪術師向いてねぇ!(なんて言う口調は軽いもので、嘆くふうでも彼女を責めるふうでもなく、ただ可笑しげだった。彼女の要求には、体を折って声を上げて笑う。はあ、と吐息をこぼすと共に夜空を見上げた。)そよぎちゃんマジメ! 脅迫なんかしなくても、オレは助ける相手は選ばねーし。助ける相手を選ぶのと、選ばないの。どっちがプライドあって、どっちが呪術師に向いてんだろーね? あーあーあー、ヤダなぁ! 友達とさぁ、酒飲んだりカラオケしたりして、はしゃぎすぎて次の日に後悔するとかあんじゃん。オレ友達いねーから知らねぇけど。いつもそーゆーの。術式の効果が切れた後、大後悔。永遠について回る黒歴史。そよぎちゃんは後から謝ってもゆるしてくれなそー。(上を向いたままそこまで言って、笑い声と共に地を蹴って大きく跳ねた。両手で九鈎刀を持ち、空中にいた呪霊に叩きつける。耳障りな鳴き声と体液を浴びながら着地すると、あらためて彼女に歩み寄って、手を差し伸べた。)オレは助ける相手を選ばないから、そのクソみたいなママも、ママを見捨てられないそよぎちゃんも連れてってやる。――そよぎちゃんかその死体、どっちかだっこしてあげるよ。……アレ? 死体は歩けないから、そよぎちゃんだっこしちゃったらダメか。じゃ、そっち貸して。(と、もう動かない彼女の母の方へ手を伸ばそう。彼女も、母親も、きっとそれは望まないんだろうとわかっていながら。)

梵一期 ♦ 2021/02/03(Wed) 20:31[74]

(疑問符が浮かべども、どれも独白のように聞こえてならなかった。彼の前でこんなにも口を噤んだままでいるのは初めてかもしれない。なんと声を掛けて欲しいのか、そもそも求めちゃいないのか、けれどそれなら、言葉になんてしなければ良い話だ。自虐めいた口吻も、構われたがりのそれに思えるのは気の所為だろうか。ただじっと向け続ける視線が聞いていることを示していた。天を仰ぐ彼には知り得ないことかも知れないけれど。)許してほしくなさそうに聞こえるけど、許してほしい? その性格のアトジくんも好いてほしい? 嫌われていたい?(差し伸べられた手と、彼の顔ばせを交互に見やって問う。返答がどうであれ、一期自身は彼へ向ける感情をもう決めていたが、そうして重ねた手のひらの所為で、察せられてしまっただろうか。)――やだ。あたしは自分の足で外に出たいし、アトジくんにママも任せない。どうしようもなくなったらママごとあたしを担いで、それで、アトジくんも怪我するのは禁止。(意固地になった声が淡々と無茶苦茶な要求をするのはわざとだ。そして、軽薄な発言に眉を寄せて強ばる顔貌はそれだけが理由でもない。体力はあるほうだし、運動神経も悪くない。しかしXの中、小さな尺度の話である。人ひとり背負って平然と歩むのは至難だった。早々に息を上げて、震え出す足は、ともすれば自滅を呼び込みそうでもあるけれど、彼の力に頼りたくはなかった。それは180度性格が変わってしまっていなくとも同じであったはずだ。)

阿閉託夢 ♦ 2021/02/04(Thu) 21:45[75]

――……、(彼女の問いにすぐに何かを答えようとしたが、その口を噤んだ。九鈎刀の柄をひょいっと投げてはキャッチし、また投げては戻ったそれを握り、という事を、お手玉でもするように繰り返していた。)――許すも許さないも、嫌うも嫌わないも、オレじゃなくてそよぎちゃんが決めるコトじゃない? 嫌わないでっつったら嫌わないでいてもらえる世界ならさぁ、呪霊なんか発生してない。(術式を使ったとて別人になるわけじゃない。どちらの時の思考も言葉も自分のものだからこそ、返す言葉を選んだ。――きっと、それすら後悔するのだろうけれど。)えー……そんな意地はんなくてもいいじゃん。この術式さぁ、最近、微調整がきくようになって。たぶん、そよぎママの死体にちょっとだけ“意思”みたいなのを流し込んで、動かすコトもできるけど。ゾンビみたいでイヤ?(針状の呪具を、ペン回しのようにくるくる弄びながら。彼女が骸を背負って歩くのを見ていた。進路を塞ぐ呪霊は、等級が低ければ刀を振るうだけで祓えるけれど、二級以上ともなればそうもいかない。おそらく今給黎朔とやらがいる方向からだろうか、呪霊がこちらに向かってくるのが見えた。)……ねー、あっちからさぁ、結構ヤバめな呪霊が来てるんだけど。術式使っていい? オレがママごとそよぎちゃん担いで逃げんのとどっちがいい?(左手を、左腰から下げた柳葉刀の柄に手を掛けて、しかしまだ抜かない。許すか許さないか、嫌うか嫌わないかを彼女に委ねるように、その選択を彼女に委ねるのも卑怯だろうか。甘えているのかもしれなかった。)

梵一期 ♦ 2021/02/04(Thu) 23:24[76]

あたしは、言葉にするのけっこう大事って思う。思うっていうか、ついさっき思った。(体温を分けても分けても冷え切ったままの体躯を背負う手にぎゅっと力が入る。瞳はただ前だけを向いていたけれど、ちらりと横目に彼を捉えた。)言っても変わらないかもしれない。でも、言わなきゃ変わらないこともある。あたしがアトジくんなんかもう嫌いって思ってたとして、嫌わないでって言われたら気が変わる可能性もあるんだよ。(そもそもにして、嫌えやしないことを素直に教えてやりたくなかった。一期も反抗するばかりでなく、“贄としてでなく、娘としてあたしを見て”と言えていたら。今給黎朔がおぞましい姿になったとき、“そばにいて”と言えていたら。この冷たさを味わうことはなかったのかもしれない。期待すると同時に、変化を諦めていたのだと、向き合うことから逃げていたのだと、つい今し方気が付いたばかりだった。そうして再び、闇が広がるばかりの前を、安全な外を目指す。彼の提案にもかぶりを振って)いや。ママを操り人形みたいにするのはやめて。(否を示した。どんなに大変でもそれがよかった。そうしたかった。悲しみに暮れるくらいなら、転んで痣を増やすほうがいい。)それ、逃げ切れる?(ヤバめとは、どの程度のものだろう。逃げれるものなら逃げるが良いに決まっている。勝手に禁止した“怪我をしない”、彼に守る気があってもなくても、押し通す気概があった。)死にたくない。死なないで。(言霊というものを、信じてみたい。)

阿閉託夢 ♦ 2021/02/05(Fri) 02:39[77]

そっかー、よくわかんねぇけど。じゃあオレも、勝手な願望、言葉にしとこ。オレがさぁ、いつかすげぇ悪ぃ呪詛師になって人間殺しまくって最低最悪なゴミ以下のヤツになっても、そよぎちゃんはオレの事、好きでいてね。(語尾にハートマークでもついているような、どこまでも軽いノリだった。悪びれない明るい笑顔を向けてから、少し間が空いて、)たぶんオレは、正義の味方よりゴミ以下の最低最悪なヤツのが向いてると思うし。(と足した。自分はそうはならない、強い正義の味方になりたい、という方を言霊にすればいいのだ――とは、今のアドレナリンに支配された脳では思い浮かばない。けれど、そうやって保険をかけるあたり、きっと根本は何も変わらないのだろう。彼女にきっぱりと断られれば、「便利なのに」と残念そうに言って。)うーん、オレひとりなら苦労しないけど、そよぎちゃんを守りながらってなるとなー。じゃあこうしよ。(ペン回しのように弄んでいた呪具二本。両手に一本ずつ持ち直し、右手のものは己の首筋に、左手のものは構えて――それを投擲し、呪霊に刺さると同時。右手のもう一本を、すでに穴がいくつも空き血を流す首筋に突き刺した。どくんと心臓が跳ね、瞳孔がさらに開いてゆく。込み上げそうになる笑いを、今すぐにでも呪霊に斬りかかりたい衝動をなんとか抑えて、彼女の方に向き直った。)アイツの敵意を奪ってオレのもんにしたうえで逃げる! 文句言うなよ、形式上はそよぎちゃんがママ抱えてんだから! 敵前逃亡とかありえねぇクソが!!(敵意を掠めとられた呪霊の動きが鈍くなった隙に、彼女を母親の骸ごと抱え上げた。呪力で筋力も強化しているから問題ない。そうして地を蹴って跳ねれば、いつかの日のように屋根の上に乗っかって。屋根から屋根へと飛び移り、左手にふたりを抱え、右手の九鈎刀で行く手を阻む呪霊を叩き斬りながら――さあ、外へ。)

梵一期 ♦ 2021/02/05(Fri) 20:59[78]

(言葉より、清々しいくらいの彼の笑みが一期の眉間にしわを刻ませる。けれど俯いて隠そうとするのはそんな刺々しさでなく、苦く震えたくちびるだった。ひたすらに床を踏みしめる己の爪先を他人のもののように眺めながら、発した声色は存外やさしげでもあった。)いいよ。いいけど、アトジくんは向いてるものよりなりたいものになってよ。(たとえ掃いて捨てられても、くず籠の中でくちゃくちゃに丸められていても、それが“アトジくん”なら一期は拾い上げるだろう。彼が望むのなら良しとするしかないけれど、もしそうでないのなら。しかし彼に代わって口にするのではない。これも一期が抱く願望だ。そうして、気休めにしかならないだろう「そんなことないよ」も、一期がよく知る彼でなければ門前払いを食らう気がして、そっとくちびるを引き結ぶのだった。)――……文句なんか言わないよ。……ありがとう。(すぐ近くにいる呪霊と、凶暴性を増した彼にひるんでいるうちに、ふわりと浮遊感を味わう。ドキドキとワクワクが胸を叩いた過日とはまるで正反対な心持ちだ。頭上高くにあるはずの星を瞳に映す余裕もない。混沌とした家屋を見下ろして耳元へ寄せたくちびるが告げるのは感謝だけ。助けに来てくれて、わがままを受け入れてくれて、望みを聞きてくれて、たった五文字の言葉に掛かる意味をひとつに絞るのは困難だ。――月明かりだけが照らす空の道を駆けて、降り立った場所はもう安全が約束されているのだろう。視界の隅に、高専の関係者がやって来るのも捉えていたが、瞳は一心に横たえた母へ向けられる。仄暗い闇のないこの場で改めて見る母は、お世辞にもきれいとは言い難い姿だ。込み上げる感情を殺すように、戦慄くくちびるを噛み締めて、彼の上衣の裾を握った。――どこにも行かないで。)

阿閉託夢 ♦ 2021/02/06(Sat) 04:36[79]

なりたいものになれんなら、世の中はサッカー選手とパティシエで飽和状態だと思わねぇ?(「小学生のなりたい職業1位だってさ、テレビでやってた」と笑い飛ばした。呪霊から掠め取った殺意や敵意で興奮状態なのに、反対に思考の一部は普段よりもずっと冷めたものになる。それを自覚するような思考は、今はないけれど。――なりたいものになれる世界なら、よかった。)呪霊の肉片飛び散って星みたい~ってそりゃねぇか、ハハ!(呪力で増強した筋力と術式で増した破壊衝動は、屋根の瓦を易々と踏み抜いて壊してゆく。そうして――境界の高い壁を跳び越えたなら、だん! と両足で勢いよく着地した。)ハイ、奪還成功! ――あ、いまい……いまき……なんとか朔? 五条センセーに倒されたな。(彼女を母親ごと地面に下ろしてから、壁の向こうを振り返った。特級呪霊が消えれば、さすがに気配でわかる。「オレが殺り合いたかったのに」と不満げにこぼしたのと、学ランが引かれているのに気づいたのは、同時だった。)……そよぎちゃんは健気でカワイイなぁ。ちょっと待ってな。(取り出したのは、針状の呪具二本。それから、近くを漂っていた蝿頭を捕まえて。)掠気呪法――「趨却」。(己の首筋と蝿頭に、同時に呪具を突き刺した。開いた瞳孔が元に戻ってゆき、脈拍と鼓動と気分が沈静化してゆく。全身から炎のように発していた呪力が治まったのは、彼女にも感じ取れるだろうか。反対に、手の中で狂暴化して暴れ出した蝿頭は握り潰しておこう。)………………はい、これでいつもの“アトジくん”。(ため息とともに吐き出した声音は、いつもの抑揚のない気だるげなものだった。ばつが悪そうに彼女に視線を向けると、)……そよぎちゃんだけでも、無事でよかった。(ひとまず、それを伝えた。)

梵一期 ♦ 2021/02/06(Sat) 20:42[80]

(極端だと思うのは、所詮きれいごとを宣う口だからだろうか。「そうかもね」肯定しているようで、そうでもなかった。望み通りの未来が一握りにしか許されないものでも、諦めてしまわないで欲しかった。さすがに、独りよがりを彼へぶら下げるわけにもいかないことは理解しているのだけれど。うまく消化出来ずもやつく心のまま彼のかろやかな笑声をBGMにした空の逃走劇を、後に振り返るときどんな心地がするだろう。――そういえば、今給黎朔も母の悲願がどうと口にしていた。人ならざるものではあったけれど、彼女もまた切り離せない縁に囚われていた可能性を思えば、もう何を憎んだらよいのか分からなくなる。運ばれてゆく母を眺めているうち、よくよく知る彼がすぐそこに戻っていた。情けなく眉を下げ、眦を赤く染めた顔ばせを、一期本人が知るすべはない。そうやって手のひらは変わらず裾を握りしめたまま、視線を合わせるよう彼を見上げる。)……うん。(喉が締まった所為でくぐもった声が首肯する。)アトジくんのお陰で、怪我ひとつないよ。来てくれてありがとう。(べっとりと付着して固まりつつある血液は母から流れ出たそれだった。厳密には幾つか痣が残っているが、どれも己で作ったものであるし。生を実感すると、どっと疲労感に襲われる。崩れ落ちるようにへたり込んで、ちいさく深呼吸を繰り返した。)アトジくんも、だいじょうぶ? ……後悔してる?(とんと己の首元を指差せば、呪具が刺さって血を流していたことを指しているのは伝わるだろうか。問うたのは怪我についてだけでもなかったが。)

阿閉託夢 ♦ 2021/02/07(Sun) 04:48[81]

(呪霊から掠めた敵意や殺意を自分に取り込む。溜まりこんだそれを、今度は蝿頭に流し込んだ。――しかし、すぐに完全な平常心を取り戻せるわけでもなく。夢の中にいるような、安定しない心地だった。それでも、運ばれてゆく亡骸には、両手を合わせた。)…………生存者の救出とか完全に忘れてたな……そよぎちゃんだけでも助けられて、よかった……(大きなため息をついて、両手で自分の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。生存者については、高専の仲間たちに託すしかない。彼女がへたりこんでしまえば、視線を合わせるように自分もその場にしゃがんで。手を伸ばして、そっと、彼女の頭を撫でた。)おれは全然へーき。ぴんぴんしてる。(制服は破れ、所々から血が出ているけれど、命に関わるような傷ではない。それよりも、母親の血で真っ赤になっている彼女の方がずっと痛ましかった。指摘されれば、「――ああ、」と、首筋に刺したままだった呪具を引っこ抜いて、適当に放った。刺した箇所から血が流れ出るけれど、これもまたいつもの事だ。)……術式を、使わないと、そよぎちゃんを助けられないかもしれないって判断した。だから使った。でも、そしたら生存者救出の指令なんて頭から吹っ飛んだ。……でも、そよぎちゃんはこうして助けられて、……そのことは後悔なんかするはずないけど、……でも、…………(己の生得術式がこんなものでなければ、まだ生きていた人を助けられたかもしれない。呪霊と遊ぶように戦っていないでもっと早く駆けつけていたなら、彼女の母親も助かったかもしれない。術師には向いていない。術師を名乗る資格がない。さまざまな思いがないまぜになって、言葉は要領を得ない。しゃがみ込んだまま、俯いて地面を見つめて。「……そよぎちゃんが、無事でよかった」と繰り返した。「囮になんかしやがったヤツは殺す」とも。)

梵一期〆 ♦ 2021/02/07(Sun) 20:50[82]

(髪に触れた指から、確かなぬくもりを、宿るやさしさを、感じ取っていた。静かに落とした瞼のうらにはなにも描かず、ただ暗い闇を見ている。与えられた熱だけに集中するみたいに。無事を告げる声が降りて漸く、そろりと上げた双眸には安堵が滲んでいたことだろう。現に、ちいさくついた息と共に胸を撫で下ろしたのだから。)よかった。なんか、……今日のアトジくん、死んじゃう気がしてこわかった。(恐怖でまくろく塗りつぶしたかの如く不穏な空気が立ち込めたXの敷地内で、言葉を尽くせたのはそのお陰かもしれない。緊張の糸がぷつりと切れて溢れた声は掠れていた。猟奇的な性格を好きじゃないとしたのは、無意識にもそんな不安が裏にいたのだろうか。上衣の裾を握ったのだって、またあのおぞましい場所に戻ってしまいそうな気がしていたからでもある。再びそっと同じ場所を握って、――うん。うん。吐露される言葉に挟む相槌は多すぎるくらいだったかもしれない。やがて俯いてしまった姿を瞳に映したとき、地に膝をついて両腕を広げよう。そのまま彼の頭を抱え込むように抱き締めるつもりで。けれど、力の残らない膝が体躯を支えることはなく、全体重を預けることになってしまうのだけれど。結果として抱き着く体制で、耳元へくちびるを寄せる。)しないで。後悔。(とく、とく、規則正しく心臓が脈を打つ。彼が救った命が、ここで息吹いている。過去を振り返らず前を向くのはきっと無理だろう。たらればが掬う足から逃れることも。彼だけじゃあない、一期も、そこら中に溢れる人々のすべてが。それでも願わずにはいられなかった。――この命を救ってくれたみたいに、多くの人の英雄になって欲しい。勝手に夢見た未来を、託すことを彼は嫌うだろうか。ゆっくりと体躯を離すと、小指を立てた手が彼に向けられる。)アトジくんがしてることがすごく危ないって分かったから、ひとつだけ、約束してくれる? あたしより先に、死なないでね。(指切りげんまん嘘ついたら――。はっきりと口にはしなかったが、彼の術式を知ってなお、術師を続けて欲しいことは伝わっただろうか。朝焼けがふたりを包むように昇る。夜明けと共にすべてが終わったことを告げていた。数日後、迎えに来た父と共に一期は高専を去るだろう。尽きぬ感謝が僅かにでも彼の自信に繋がればいいのだけれど。――なりたいものになれない世界も、少しは彼にやさしくしてくれますように。)

阿閉託夢〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 18:25[83]

(伸ばした手が、拒まれなかった事が救いだった。術式を使っている最中の記憶がなくなるわけじゃない。己に向けられた表情も、言葉も、すべて覚えている。すべてを忘れずにいよう、と強く思った。)……はは。術式使うときは、いつもこんなんだよ。……ああ、でも、向こう見ずにはなるかも。今日だって、五条先生がいなかったらおれが特級に向かってた。(五条悟が相対していなかったら、特級呪霊には敵わないとわかっていながらなお向かっていただろう。救わなければならない彼女に怖い思いをさせていた事に、眉を下げて、「……ごめん」と呟くように謝罪した。――きみの事を救えたのだから、後悔なんてするはずがない。はっきり、そう言えたならよかった。彼女が抱きしめてくれるなら、すとん、と地面に尻餅をついて。こちらからも、いや、彼女より強い力で抱きしめ返そう。この重さが、ぬくもりが、声が、失われていたかもしれないと想像すると目の前が真っ暗になるようだった。)――……生まれてからずっと、一分一秒ごとに後悔してるし、……これからもきっと、いろんなことで後悔するんだろうけど、……今日、ここで、そよぎちゃんを助けられたことだけは後悔しない。(それが、男にとって、精一杯の前向きな言葉だった。術式を使わなければ助けられたかもしれない生存者の事も、早く駆けつけていれば救えたかもしれない彼女の母親の事も、きっとずっと後悔し続ける。けれど、彼女がいまここでこうして無事である事だけは、何年経っても、後悔する事はありえない。「……ありがとう」という言葉は、すべてに対してだった。)…………呪術師の平均寿命って、どれくらいなんだろ。今度、五条先生に……いや、夜蛾学長に訊いてみようかな。……そよぎちゃんには、いっぱい幸せな思いして、楽しいこと経験して、飽きるまで長生きしてほしいし、……無理ゲーじゃない?(高専に在籍していれば、呪術師の訃報を耳にする事など日常茶飯事だった。等級が低ければ、すなわち実力がなければその分危険に晒されるし、等級が上がれば任務の難易度も上がり命が危うくなる。どんな任務が来ても、どんな呪霊と対峙する事になっても負けない、強くなる――とは、言えなかった。けれど、彼女の小指に己の小指を絡ませて。)――努力はする。(と、力なく笑っておこう。過去がどんなものでも、未来に何が待ち受けていようとも、彼女を、梵一期という少女を助けたという事実だけは変わらない。それはきっと、暗く長い道をともしびのように照らしてくれるだろう。――きみに出逢えてよかった。どうかきみがこれから歩む道が、光と幸いに満ちていますように。実力のない、ろくでもない呪術師にも、それくらい祈る事はゆるされるだろう。)

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