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【4】(Every medal has two sides.)

阿閉託夢 ♦ 2021/01/21(Thu) 19:09[51]

(前の晩の帰りは遅かった。新幹線で東京駅に降り立ったものの、高専最寄り駅までの終電には間に合わず、補助監督に車で迎えに来てもらい、寮の自室に帰った頃には日付が変わっていた。制服を脱いですぐにベッドに倒れ込み、そのまま泥のように眠り――目を覚ましたのは、もう昼も過ぎた頃だった。やばい、寝すぎた、と跳ねるように起き上がり、スマートフォンで日付を確認する。)あー……今日はオフか……なんだこの忙しさ……おれは芸能人か……?(ぼやきながら、ふわあ、と大あくびする。珍しく、なんの予定も入っていない日だった。二級に昇格してからというもの、任務、任務、ひたすら任務。都内で済むものもあれば、新幹線で地方に赴くものまで。とにかく任務に忙殺され、彼女とはまともに顔を合わせられていない。二級となるとこんなにも酷使されるものなのか、そして任務の難易度も上がるものなのかと、家入硝子に反転術式で治してもらった傷の痕を指でなぞりながら、ため息をつく。二度寝の誘惑を断ち切り、ベッドから下りて、歯を磨いて、シャワーを浴びて、髪を乾かして、ラフな赤いトレーナーと、紺のジャージズボンに着替えて。彼女に「あとじです。どこにいる?」とLINEを送る頃には、おやつ時も近くなっていただろう。彼女から返事が来たなら、紙袋片手に部屋を出て、そこへ向かおう。顔が見えれば、ひらひらと手を振るはずだ。)……そよぎちゃん。久しぶり。……元気? さみしくなかった? おれはさみしかったし、疲れました。これはおみやげ。(と、「三万石」と店名の入った紙袋を差し出す。言葉のとおり、顔には疲れがにじみ出ていて、会わないうちに少し痩せていた。)

梵一期 ♦ 2021/01/22(Fri) 01:07[52]

………ほんとに生きて戻れるのかな。(シンクに両の手を付いて、ステンレスをつるりと滑る残滴と共に不安を流そうとした。復活の日まであと数日。そんな時期に囮とは、果たして何を意味するのか。勘ぐりすぎの一言で済めばいいのだけど。――黒いリボンを結んだオーナメント柄エプロンの裾が震える。ポッケに入れたスマホが通知を告げていた。)ごはんが食べれるところ!(すっかり喜色に染まった声のまま打ち込んで送信。簡単に心を明るくしてくれるひととの時間を前に、思慮を先延ばしにするくらい良いだろう。キッチンのドアが開く瞬間、用意していたクラッカーの紐を引いたけれど――カスッ。心許ない音を残して不発に終わったものだから、誤魔化しにもならない笑みで慌てて握りつぶした。)えへへ、おかえりアトジくん! すごく元気にしてたよ、友だちも増えたし。……でも、さみしい気持ちはあたしの勝ち。(ふにゃりと下がる眉は懐かしくも思える顔ばせが堪らなかったからでもあるし、疲労漂う様がやるせなかったからでもあった。)わっ、ありがとう。なあに? お菓子? あたしもね、アトジくんに食べて欲しいのがあるんだ。(おいでおいでの手招きは、やっぱり彼の手を取って椅子まで引いてゆこうか。そうしてすぐに、キッチンテーブルを滑る皿の上でつやめくバスクチーズケーキがお目見えだ。)昇級おめでとう! しかも飛び級! おかわりもあるから、いっぱい食べてね。(今度こそパンッとクラッカーを弾けさせて、飛び上がりそうな勢いで声が響く。冷蔵庫にはスフレ、ベイクド、レアも。当然お店の味には叶わないけれども、練習の成果はお墨付きだ。)

阿閉託夢 ♦ 2021/01/22(Fri) 04:04[53]

(ドアを開けた瞬間の、何かが不発に終わったらしい音。握りつぶされたそれは何だったのだろうと考えるも、彼女の笑顔を見れば自然と自分も表情が和らぐ。――両手を広げて、厭われなければ、そっと抱きしめよう。叶ったとしても、一瞬の事。すぐに離れて、かすかな笑みを浮かべる。)――ただいま。いっぱい遊んだあと、急に会えなくなったから……そのぶん、さみしさもひとしおって感じ。昨日まで任務で福島行ってて、そこで買ってきた。自分でも食べたけど、おいしかったよ。(渡した袋の中、さらに箱の中には、ミルク餡をバター風味の生地で包んだ「ままどおる」なるお菓子。「名物なんだって」と添えておこう。彼女に手を引かれて椅子に座れば、目の前のチーズケーキ、それに、昇級を祝う言葉、クラッカーの音と、疲労でぼんやりした頭で追いきれない展開にぱちぱちと目をまたたかせて。しばらく言葉に詰まったのは、驚いたのもあるけれど、それよりも、嬉しかったから。)――……手作りだよね。ありがとう。嬉しい。ありがとう、ぜんぶ食べる。……いや、一日で食べたらもったいないか……少しずつ……いや、それじゃ傷んじゃうな……(悩みながら、「食べる前に……」と、スマホでケーキの写真を撮っておく。「コーヒーか紅茶淹れようか」と立ち上がって、しかしすぐには動かず、彼女の顔を見ていた。)……ごめん。“お試し期間”とか、おれが言ったのに。最近、ぜんぜん一緒にいれなかった。(今日で、護衛が解かれる。彼女とはいろんな所に出かけたけれど、“普通”の“幸せ”は、まだ十分に伝えきれていない。眉が下がって、小さなため息がこぼれ落ちた。)

梵一期 ♦ 2021/01/22(Fri) 17:44[54]

(広がる手を拒む理由などどこにあろう。一切の隙間も許さないほどに身を寄せて、ぎゅっとホールドする腕は少しばかり力んでしまったかもしれない。欧米の挨拶みたいに頬まで擦り寄せる様が、仔犬たる所以だろうと気付きもしないまま。)福島かあ。やっぱ任務だと観光とかしてる余裕はない? ……あ、赤ちゃんだっこしてる。かわいい。(問うてから袋を覗き込むと黄色のパッケージが瞳に留まる。微笑むように双眸を細めて、やわく吐き出す声の裏に母への想いはもうなかった。そうして、用意した華奢なフォークをケーキへ添えたら、一期はままどおるを頬張るつもりで包装に手を掛けた。しかし視線だけは、ちろりと冷蔵庫へ向けて。)食べきれない可能性だってあるのに。紅茶のTパックがあるよ。あとカフェラテも、粉のやつ。(引き出しのひとつを指差す。じゃあカップの用意を、と上げた腰は、結局どこへも向かわずに再び降りることになるのだった。いやに真剣な顔ばせが下から彼を見上げる。包むように取った手のひらをそっと引けば、着席を促せるだろうか。)護衛がなくなっちゃったら、ずっとこんな感じなのかな。……お試しも終わり。あたしね、――(迷うくちびるが震える。発声を拒むように喉の奥が締まるけれど、嘘はつけなかった。数呼吸分の間を挟んで、決意を孕む瞳が彼を射抜く。)Xには戻りたくない。(戻らないとは、くだんの件に阻まれて紡げない。きれいに笑って安心を与えたかったのに、なんだか、うまく笑えなかった。)ママよりもアトジくんが大好きになっちゃったのかも。(おどけるはずだった声も妙に上擦るものだから、気まずそうに揺れる視線を手元へ落とした。)

阿閉託夢 ♦ 2021/01/24(Sun) 07:23[55]

……行きの新幹線で寄れたらいいなって観光名所調べて、結局そんな余裕なかったってのを毎回繰り返してる……むなしい。でも、いつかそよぎちゃんと行くからいい。(強がりでも、無理に自分に言い聞かせているわけでもなかった。都内のあちこちに遊びに出かけたように、もっと遠い所にだって、いつか。「会津若松城行って、喜多方ラーメン食べよう」と、具体的なプランも口にしておこう。)育ち盛りのうえに、働かされ盛りの男の食欲をなめちゃいけない。――そよぎちゃんはどっちがいい?(紅茶かカフェラテ。淹れに行こうとしたけれど、手を引かれ、結局、ふたたび腰を下ろした。彼女の言葉に、なんと返せばいいのかすぐには思いつかず。フォークを手にして、チーズケーキを見つめていた。沈黙が落ちれば、窓の外からは小鳥の鳴き声が聞こえてくる。渋谷や新宿と同じ都内だとは思えないな、と思考が脇に逸れて、ふ、と呼気が漏れた。そして、ゆっくりと顔を上げ、彼女にまっすぐ視線を向ける。)――……おれはさ。クソみたいな田舎のクソみたいな家から、逃げ出してここに来て。呪術師になるしか道がなくて。でも、強くなるのも怖くて、やっぱりずっと逃げてて。……でも、そよぎちゃんのおかげなんだ。そよぎちゃんが笑ってくれるのを見て、こんなふうにひとを笑顔にできるなら、もっと頑張ろうって、ちゃんと自分の人生と向き合って、強くなろうって思えた。ぜんぶ、そよぎちゃんのおかげなんだ。……そよぎちゃんは、おれの意識を、人生を変えてくれたひと。だから――……もし、そよぎちゃんが戻りたいって言っても、戻らせない。“ママ”よりも、もっともっと、おれを好きになってもらう。(護衛は今日で正式に解かれ、これまでどおり、たくさんの時間を共にする事もできないのに。それでも、この望みだけは譲れない。わかっているから、「……勝手だね」とこぼして苦笑しながら、フォークでケーキを掬った。口に運んで咀嚼すれば、「……美味い」という言葉は自然にこぼれて。)

梵一期 ♦ 2021/01/25(Mon) 00:10[56]

(室内との温度差にじんわりくもる窓の外から、それを物ともせず午後の陽が射し込んでいる。隣り合って座るふたりへ暖を分けるような、そんな気さえしていた。けれども、やわい熱に反して、この沈黙を重く感じてしまうのはどうしてだろう。眼差しだけは逸らすことなく、しかしそれが却って言葉を探す彼にプレッシャーを与えてしまっただろうか。かち合う視線が妙な緊張を生む一方で、すっかり馴染んだ紅に安堵を覚えたのも確かだ。彼と良く似た緋が僅かに細められた。)勝手じゃないよ。アトジくんが勝手なら、お互いさまだもん。(自嘲を孕む笑声を残して、一度ブレイクタイム。チーズケーキの感想に「でしょ?」なんて得意げな言葉を落として紅茶とカフェラテを一杯ずつ淹れた。どちらも好きだから、余ったほうをもらおう。そうして話は続けられる。)アトジくんが昇級の話をしてるの、聞いちゃったんだ。そのときすごくさみしくて、昇級なんかしないきゃいい、ずっと護衛でいてって思ったし、今もどうしたらずっとそばにいてくれるかなって気持ちは残ってる。これ以上好きになっちゃったら、もうどうなるか分かんないよ。(ふふふ、吐息を漏らすように冗談を挟む。戻らせないとまで言わせてしまった今、どうしたって苦しくてたまらない心を押し殺すために。)おうちのことは、なんて言ったらいいか分かんないけど、でもアトジくんが呪術師になってくれてよかったな。アトジくんじゃなきゃあたしきっと外には出られなかった。だから改めて、助けてくれてありがとう。(ふにゃりと眦を蕩かせて、甘いお土産を漸く口にした。)アトジくんとはこれからも遊びにいくけど、会える時間が減ったのは独り立ちの時期なのかも。(護衛だったからとはいえ友だちと称するには、距離が近すぎる自覚はある。ぽつりと溢した声はやけに寂しくて、叶わないけれどすぐさま撤回したかった。)

阿閉託夢 ♦ 2021/01/25(Mon) 22:03[57]

……そよぎちゃんに、自分を重ねてたんだと思う。怪しい宗教団体に自分の子供を置いてって、生贄なんかになるのを止めようともしない親と、うちの親と。(一呼吸置いてから、「……ほら、勝手だ」と繰り返した。彼女に断罪してほしいのか、そんな事はないと否定を重ねてほしいのか、自分でもわからない。困らせるような事を言ってしまったと、「……ごめん」、小さな謝罪の呟きが落ちる。こっち、と取ったカフェラテには、砂糖も入れて。)……おれも、……そもそも昇級なんか興味なくて。ずっと万年四級でいいと思ってた。でも、そよぎちゃんが笑ってくれたから。そんなふうに、ひとを笑顔にできるなら、もっとがんばってみてもいいかって思えた。……結婚するかぁ……(彼女のおかげで努力に向き合う事ができたのに、そのせいで彼女にさみしい思いをさせていたら元も子もない。チーズケーキを食べながら口にした言葉は、冗談めかすわけでもなく。一緒にいられる方法として、思いついた事をそのまま口にしたふうであった。)……そよぎちゃん、十四だからまだ結婚はむりだな。……独り立ちなんてまだしなくていいよ。だって、そよぎちゃんはまだ十四歳だ。ほんとなら、母親にも父親にもめいっぱい愛されて、まだまだ甘えていい歳だよ。……おれがそれを120%カバーできるとは言わないけど、……もっと甘えて、わがまま言って。それも、自己満足かもしれないけど……――ここから出た後の生活、高専が保障するんだろうけど……一緒に暮らす?(“結婚”よりは現実的な策として。「それくらいのお金ならあるよ」と笑ってみせよう。ひとりにしたくなかった。助けるだけ助けて、自分は前を向けるようになって、それじゃあさようなら、なんて言いたくなかった。それが、彼女の独り立ちを妨げる結果になったとしても。)

梵一期 ♦ 2021/01/26(Tue) 01:56[58]

それじゃあ――………あたしを救って、14歳のアトジくんも救われた? そしたら一石二鳥ってやつだよ。(結果として彼にとって都合の良い下心があったとて、良いほうへ転じたのだから勝手だって良い、肯定が一期の出した答えだ。「ううん」と首を振る口許はにこりと弧を描いていた。けれど、冗談とも読めぬ"結婚"の単語が動揺を呼ぶ。二度見、三度見、頭の中で反復して、少し眉が寄る。)16歳だったら結婚するの? 結婚は好きなひととしかしたくないよ、あたし。アトジくんは好きだけど……そういうのかは、分かんないし。アトジくんは? 好きじゃないのに結婚は、勝手だよ。(むっとくちびる尖らせて、彼の二の腕あたりをパンチ。いつかしたように、力のなくトンと当てる程度の軽いものではあったけれど。)あたしの名前ってね、一期一会の一期なのよ。だからひととの縁を大事にしてきたし、助けられて恋をして結婚までしたら、一生に一度、すごく名前通りの人生って感じだよね。――恋ってなんなんだろ。誰かを好きになったこと、ある?(一緒に暮らすのだってひどく甘い誘惑だ。お陰で否定も肯定も示せない。口の中で甘く広がるミルク餡とバターの香りを紅茶で流し込んだ。提案に乗るのもいいかもしれない。名前のつかないこの感情を恋と定義してしまうのもありなのかも。だけど、)このままじゃアトジくんに依存しちゃうような気がするの。独り立ちっていうか、アトジくん離れかな。あのとき助けた子はこんなに立派になりましたーって、そういうの、恩返しにならない?(今はまだ寄り掛かったままだ。ちゃんと己の足で立っていなくちゃ意味がない。まだ大人にはなれないけれど、そろそろ子どもでもいられないから、踏み出そうとする足は急ぎすぎているだろうか。窺う瞳は不安にゆらめいた。)

阿閉託夢 ♦ 2021/01/26(Tue) 23:24[59]

――……うん。……そっか。それなら、よかった。(彼女の口から紡がれた言葉は、自分の頭では決して達する事ができない結論で。感心したように、二、三度、ゆっくりと頷いた。けれど、勝手、と言われてパンチを受ければ、不思議そうに首を傾げてみせて。)……現実的な落としどころとして結構アリかと思ったんだけど、ナシだったか……“恋”も“好き”も“愛”も、わかんないな。……小学生のとき、いいなって思ってた女の子がいて、でも、その子にも気持ち悪い、怖いって言われた経験くらいしかない。(色恋沙汰とは無縁の人生。普通の高校生ならば、きっと恋も謳歌しているのだろう。けれどここは呪術高専、イクスよりはずっと恵まれた環境とはいえ、普通ではない事は確かで。フォークを一旦置いて、カフェラテのカップを手にする。口に運ぶ途中で、「――ああ、」と声を漏らした。)……ひとを呪って殺したいって気持ちとは、真逆のものだってことはわかる、恋とか好きとか愛とかって。呪いのことなら、よくわかるしなんでも知ってるのに。(恋っていうのはこういうものだと、甘酸っぱい話のひとつやふたつ、できたらよかった。普通の幸せを彼女に教えてあげたいなんて思い上がりだっただろうかと、いまさら思う。この短期間で、いったい彼女にどれだけの事をしてあげられたというのだろう。カフェラテの甘味が、舌に苦かった。)……恩返しなんてしなくていいし、そよぎちゃんはまだ十四歳なんだから、甘えて依存して楽するべきだと思う。……おれはそよぎちゃんのなにかの決心を邪魔しようとしてるかな。……してるね。……やっぱりさ、勝手なんだ、おれは。そよぎちゃんを手元に置いておいて、そよぎちゃんに笑ってもらって、おれはこの子を助けた、この子を笑顔にしてる、おれはヒーローだって思ってたいだけ。(頬杖をついて、カップをテーブルに置く。彼女に視線を向ければ、「……困ったもんだよね」と、他人事のように苦笑を浮かべた。)

梵一期 ♦ 2021/01/27(Wed) 01:01[60]

ええ、好きも? あたしアトジくんにはけっこう好かれてると思ってたのに。恋まではいかなくても。(一期が彼に抱く“好き”はそういう好きだ。恋愛未満で友情とも毛色が異なる、暖かな感情。共有した日々の楽しさと、離れた日々の寂しさ、彼もまた己を同じくらい大きな存在としてくれているのではなんて、勘違いも甚だしかっただろうか。拗ねたくちびるを尖らせて、けれど幼い頃の話に「今はかっこいいのにねえ」と溢してはその矛先も変化していた。)恋は分かんないけど、愛なら分かる気がするよ。ママがママじゃなくなっても、離れたくなかったのは愛してたからだと思うんだ。今でもきっとまた顔をみて謝られたりしたら……絶対ないけど、そうなったら許しちゃうもん。アトジくんへの好きも愛なのかな。この先なにされても嫌いになれないし、反省してたらいいよって言っちゃう。まあアトジくんはあたしの嫌がることしないけどさ。(愛の定義なんて知らないけれど、許しを与えることは一種の愛だと一期は思う。意味もなくカップの中の紅茶を揺らしながら、勝手だという話に耳を傾けた。ああどうやら、勘違いでもなかったようだ。ひとりになりたくないのは、きっと彼のほう。)ほんと、困っちゃうよ。(肩を竦めて見せるのはわざとだ。かたちはどうあれ“好き”な人に必要とされて、拒むのはあまりに困難だから。徐ろに立ち上がって、冷蔵庫からこれまたホールサイズのレアチーズケーキを取ってくる。味変と、効果はないかもしれないが気分転換に。)ちゃんと決まるまで言うつもりはなかったんだけど、ここを出ることになったらね、パパのとこに行きたいの。あたしがそばにいなくてもアトジくんがヒーローなのは変わらないよ。だからやっぱり今すぐじゃなくてもアトジくん離れは必要な気がする。依存は良くないよ、お互い。もしどっちかになにかあったりしたとき、共倒れじゃん。(囮の役目が脳を掠める。万が一なにかあったとき、彼はどうなるだろう。彼にもしものことがあれば、一期は立ち上がれない。だからこそ彼にはそうなって欲しくなかった。)

阿閉託夢 ♦ 2021/01/27(Wed) 05:05[61]

そよぎちゃんのことは、好きか嫌いかって言われたら、もちろん好きって答えるけど……じゃあ“好き”ってなんだよって言われても、説明できない。かわいいと思うし……笑ってる顔をもっと見たいと思うし……もっと一緒に遊びに行きたいし、一緒に過ごしたいし……(小学生の方が“好き”という気持ちをわかっていそうだな、と自分でも思う。「カッコよくないよ」という反論は、明らかに照れから来ているものだった。)――そよぎちゃんは、大人だね。例えばおれが、呪詛師になっても嫌いにならない? ……ああ、呪詛師って、呪力を使ってひとを殺して金儲けするヤツらのこと。(愛なんて、とてもではないけれど口にはできない。わからないし、自分にその感情はない気がするから。意地悪な問いだと自覚しているから、視線は合わせなかった。レアチーズケーキが置かれれば、バスクチーズケーキを綺麗に平らげてから、あらためて「いただきます」と手を合わせて。さっそく口に運ぶと、「美味い……」と、その時ばかりはなんの悩みもないような、幸せそうな表情になるのだった。)…………そっか。……共倒れ、いいじゃん。運命共同体みたいで。……うそ。……お父さんは、ちゃんとそよぎちゃんを愛してくれるひと? 甘えられるひと? それなら――それなら、いい。よくないけど、いい。おれじゃダメなんだな、父親には敵わないんだなって拗ねるけど、さみしいけど、そよぎちゃんが笑ってられるなら、それでいい。(矛盾した気持ちを、そのまま言葉にした。さみしい、もっと一緒にいたい、けれど彼女が幸せならばいい。どれも本当だった。かすかな笑みを浮かべながら、ふと思い出したように、)――あ。そよぎちゃん、手だして、手。

梵一期 ♦ 2021/01/27(Wed) 18:59[62]

説明は、……あたしも難しいけど。考えるな感じろってやつなのかも。恋は理屈じゃないってのも聞いたことあるよ、映画で。(恋や愛に限らず、感情を論理的に紐解くのは不可能な気がして閉口した。恋は落ちるものだともいう。数週間、数ヶ月、数年後いつになるかも分からないが、理解出来る日が来るといい。お互いに。不詳に惑う姿へ向ける眼差しはどこまでもやわい。穏やかではない仮説にだって、ふふんと笑って見せた。)ならないよ。(嫌いにも、呪詛師にも。行儀が悪かろうとテーブルに肘を立てて、手のひらで顎を支えた。少しの間そうして、視線が合うようならにこりとするし、そうでなくても音は紡がれる。)アトジくんがほんとのわるい子になっちゃったら、あたしがいい子に戻してあげる。死ぬまで諦めないから覚悟したほうがいいよ。(彼が彼でなくなってしまっても、一度握った手は決して離しはしないだろう。誰がどんな形で阻もうと、母と彼は違うのだから。彼が溢した幸せを勝手にお裾分けさせてもらって、一期もまた頬を綻ばせるけれど、“いいじゃん”にはパンチだ。)昔のパパのままならね。あたしのヒーローはパパのヒーローでもあるって、アトジくんいっぱい感謝されるよ。――……そよぎたくむになっちゃえば?(結婚だとか、そういうのよりもっとフラットな発露。救出劇のすべてを伝えれば、彼の故郷の事情など知らずとも愛を向けるような人だ。親の愛のなんたるかを知って欲しいとは、余計なお節介に違いないだろうけれど。)なあに。まだお土産を隠してる?(受け皿にした手のひらにはなにが乗るか、それとも。)

阿閉託夢 ♦ 2021/01/28(Thu) 23:45[63]

恋愛映画なら、おれも結構みてるもん……『ノッティングヒルの恋人』とか好き。……でも、自分の身にふりかからないとわからないんだろうな。それか、すごく時間が経ってから「あれは恋だった」って自覚する場合もあるだろうし。(考えれば考えるほど、今の自分に答えを出すのは不可能に思えて。――結局、)結婚も同棲もなしかー……(そんな、はじめの地点に戻るのだった。不吉なIFを口にした後、視線を上げれば笑顔の彼女と目があって。数秒で、その視線を逸らして苦笑した。)……じゃあ、おれ、呪詛師になっちゃおうかな。そしたら、そよぎちゃんがずっとかまってくれるんでしょ。おれ、こう見えてかまわれたがりだから。(しばらく沈黙して、チーズケーキを口へ運んだ。それを嚥下してから、)……うそ。そよぎちゃんの気持ちを裏切るようなことはしたくない。――……そよぎたくむかあ……いいなあ、それ。ちなみに、婿入り? それともおれがそよぎパパの養子になるの?(なんて細かいことを尋ねて、小さく笑った。己の苗字も名前も大嫌いだけれど、その片方から解放されるなら、そして彼女と家族になれるのなら、そんなに幸福な事はない。梵託夢、という字面を思い浮かべながら、ジャージのポケットから出したのは、黒いリボンがかけられた真っ赤な正方形の小箱。「プレゼント」と言いながら彼女の手の上へ。)一緒に買い物行ったときにこっそり買ったんだけど……渡すタイミング逃してて。おれの好きなブランドなんだ。このピアスとおんなじとこの。(と、自分の耳を指さす。箱の中には、ゴールドの細いチェーンに、ティアドロップ型のごく小さな三つのダイヤ、そしてそれより少し大きめの紅いルビーひとつが等間隔にぶら下がったブレスレット。少し考えてから、)……そよぎちゃんの、独り立ちへの餞別。(そう付け加えた。)

梵一期〆 ♦ 2021/01/29(Fri) 19:53[64]

(確かに、と言いたげな首肯をひとつ。無自覚であるからこそ、初恋は実らないともいうのかもしれない。残念な声に「ん~」とゆるく間延びした音を溢した後、)まだ早いんだよ、たぶん。あたしは子どもだけど、アトジくんだって恋を知らない子どもだってことだ。いつかアトジくんがアナを、あたしがウィリアムを見つけるまでとっとこうよ。結婚も同棲もさ。(未だ見ぬアナの姿にぴりりとひりつく心には気付かないまま、「ハリウッド女優にならなきゃ!」なんて冗談に笑い含んだ。)――もぉ~~。そんなアマノジャクみたいなことしないで甘えにくればいいじゃんっ。(むくれたくちびるが不満を吐き出すけれど、“旦那さんなアトジくん”と“お兄ちゃんなアトジくん”の妄想でも始めれば自然、愉楽にやわぐ。宙に浮かべたふたつに目移りするみたいに、双眸が左右へ揺らいだ。どちらにしようかな、でも、神に委ねるくらいなら)“お試し”、だよ。恋人ごっこと兄妹ごっこ、どっちからにする?(冗談と本音の歩合は半々くらい。高級感溢れる箱がやって来たので、恋人ごっこが先かもしれない。頭上に現れた感嘆符と共に弾かれるように彼の耳を映す。そうして数度、開いた箱との間を往復してから、おそるおそる手に取ろう。なにせ、どの角度から見ても己には背伸びをしすぎた輝きが眩しすぎるので。)ほ、ほんもの……?(袖を捲くった手首にそっと通してみる。思いの外腕に馴染むそれをしげしげと見つめる瞳もまた、宝石に負けないくらいの輝きを宿していたことだろう。餞別はあまりに寂しい響きだけれど、しゃんと己の力で地に足をつけて彼の隣へ並び立てるように、まずはXから本当の意味で解放されにいこう。どんな危険が待っているかも分からないまま、ただ明るい未来だけを目指して一期は笑う。)離れてるときも、アトジくんがそばにいるみたいね。(だから、なにがあってもだいじょうぶ。)

阿閉託夢〆 ♦ 2021/01/31(Sun) 19:14[66]

情操教育をほどこされてる……そよぎちゃんの方がずっと大人じゃんね。何年かして、おれだけやっぱり恋愛がわかってなくて、そよぎちゃんに「恋愛ってこういうものだよ」って教えられる未来が見える……(実際、精神面では彼女の方がずっと大人だと素直に認めるに至ったのは、一緒に過ごす時間の中での事。そんな未来でも悪くはないのかもしれないと薄く笑った。「そよぎちゃんならなれるよ」とは本気の言葉だ。)……素直に甘えられない性格なので……、……甘えたくて呪詛師になってたら世話ないな。……ちゃんと言うようにする。――……(恋人ごっこか兄妹ごっこ。どちらにするかと言われれば、本気で悩みだしてしまう。「そよぎたくむ」になれるなら、どっちだっていい気もした。けれど、恋人と兄妹では大違いだ。――こんなふうにアクセサリーをプレゼントするのは、兄妹よりも恋人の方が近いだろうかと、彼女の反応を見ながら考えていた。)うん、ほんもの。似合う似合う。そよぎちゃんはもっと派手めなのが好みかなとも思ったんだけど、おれの好きなブランドで買いたくて。給料三ヶ月分――ほどではないけど、ちゃんと任務で稼いだお金で買いました。(言ってから、「……もっとちゃんとしたかっこで渡せばよかった」なんて呟きが漏れる。ここの所、まともに顔を合わせられていなかったものだから、トレーナーにジャージなんていう格好つかない服装で渡す事になってしまった。けれど、)――でしょ? おれのピアスと、そよぎちゃんのブレスレットと、おんなじデザイナーが作った、おんなじブランドのアクセサリー。離れてても一緒。(自分の思いを彼女がくみとってくれたなら、そんなに嬉しい事はない。ひょんな事でできた彼女との縁だけれど、これから離れ離れになって、別々の生活を歩む事になるのだろう。自分を常にそばに感じていてほしい――なんて、きっとわがままだ。彼女が、愛のある普通の幸せな生活を送れるようになって、不要になるならばそれでもいい。それまでは、支えになりたい。――いつの間にか食べ終わってしまったチーズケーキを「もっと食べる」とおかわりしよう。またいつか、こんなのんびりした時間を共に過ごせたらいい。)

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