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【3】(Every man is the architect of his own fortune.)

阿閉託夢〆 ♦ 2021/01/18(Mon) 05:52[48]

(東京都立呪術高等専門学校の広い広い敷地内、あちこちに建つ、寺社のような建造物のうちのひとつ。テーブルを挟み、五条悟と向かい合って座っていた男は、話を聞き、はあ、と盛大なため息をついた。そのまま上体を傾かせ、ぼふ、とソファに倒れる。「何、嬉しくないの?」と揶揄するように言われれば、二度目のため息をついた。)……嬉しくないし、はいそうですかって素直に頷けない。これで昇級? 冗談でしょ。簡単すぎる。女の子ひとり誘拐して、護衛という名の遊びに出かけただけ。……イクスの敷地内でザコ呪霊何匹か倒したけど、ほんとうにそれだけだ。これで終わりとは思えない。……五条先生、まだなんか隠してるでしょ。(普段は口数が少ない男も、何もかもを知られている五条悟相手には言葉がぽんぽんと出てくる。睨むような視線を向けても、笑顔ではぐらかされるだけだという事はわかっていた。行儀悪く足もソファの上に乗せて、仰向けの姿勢になる。古い木目調の天井を見上げながら、口からこぼれるのはため息ばかりだった。)……二級、二級かー……むり。むりむりむり。おれの術式が対呪霊向きじゃないの、五条先生がいちばんよく知ってんでしょ。おれ弱いんだってば。やだよ単独任務なんか、むりだって。昇級後の初任務で生徒を殉死させたいの? おれは万年四級でいいんだよ、四級で……ザコ相手の任務ちまちまやって、生きてくうえで最低限の金が稼げりゃそれでいーんだって。(古い天井を見ていると、生まれた家の事を思い出す。小学生の頃、あれが何かの目に見えて怖いと言っていた同級生がいて驚いた。世界には、あんなもの以上に、ずっとずっと恐ろしいものがたくさんいるのに。そういう恐ろしいものを、自分はずっと見ていたのに。)…………でも、(でも。自分は高専に入った。呪術師になる事を志した。いつまでも護衛という名のもとに、彼女と遊びまわっていられない事も、わかっていた。いつまでも、逃げ回っていてはいけない事もわかっていた。きっと、それを知らしめるための昇級審査だという事もわかっていた。彼女たちも、いつまでもここにはいられない。それだって、わかっていた。駄々をこねるのは、子供がする事だ。自分が護衛をしなくとも、高専の敷地内にいる限り、いや、高専から外へ出ても、五条悟が保障する限り、身の安全の心配はないだろう。ならば――)……でもおれ、弱いんだよなあ……二級、二級かあ……ねえ先生、おれでもさあ、その先――準一級とか、一級になれるかなあ……(四級から二級へ。昇級するだけの実力が、自分にあるとは思えない。奪還と護衛の任務が、昇級審査に相応しいとも思えない。けれど、ここにいる呪術界最強の五条悟が、自分を推薦し、昇級を認めたのだ。――二級に相応しい実力を、これからつけなければいけない。――けれど。けれど。幾度目かの大きなため息が、口からこぼれ落ちた。)…………次の任務って、さっそく二級の単独任務? どんなの? 場所は? 呪いの規模は? ギャラはいくらもらえる?(さまざまな逡巡を押し殺し、ソファに寝転がったまま、体を横向きにして五条悟を見る。「せめて起きて聞いてほしいなぁ」なんて言葉に「はいはい」と答えながら、起き上がって姿勢を正す。任務で地方に赴いた際、その土地の銘菓を買うようになったのは五条悟の影響だ。彼女にも、なにか喜んでもらえるようなお土産を買ってこよう。――その前に、無事に任務をこなさなければならない。ふと思いついて、口にする。)――あ、先生。高専の武器庫からさ、もうひとつふたつ、呪具貸してくれない? 「叡傑」には助けられてるけど、あれとおれの術式だけじゃ、二級任務はちょっと心配。……いや、わかってるよ、おれ自身がもっと強くならなきゃいけないんでしょ。わかってるって。でも一昼夜でどうにかなるもんじゃないでしょ。五条先生パワーで御三家には内緒でさあ……(言いながら、テーブルの上に広げられた資料に目を向ける。二級呪術師としての初の任務。これをこなしたら、自分でも、自分の事を二級に昇格したのだと認められるような気がした。だから、本気で臨むつもりだ。――お土産と共に、彼女に「ただいま」を言うために。)

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