bbs topadmin

【1】(袖振り合うも多生の縁)

梵一期 ♦ 2020/12/27(Sun) 21:21[1]

(押入れの奥で、膝を抱えていた。固く閉じたまなうらに描くのはつい数刻前の出来事。ケーキやチキンも、ツリーのきらめきすらないつまらないクリスマスを少しでも彩りたくて、少女たちにチョコレートを配ったり、取り寄せたポインセチアを飾ったり、ささやかな演出が最後の思い出となるのかもしれない。「様子を見てくるから隠れていなさい」と焦燥を滲ませた母の瞳に映る一期はもう娘ではなく贄であったのだって、気付かないふりをして。――ひとり取り残されてから、どれだけの時が過ぎただろう。侵入者があったわりには、叫び声のひとつさえ届かない。そっと開いたふすまの向こうは、冷ややかな闇に包まれてひどく静かだった。まるでもう人っ子ひとり残っていないみたいに、あるいは聴覚を失ってしまったみたいに。どっ、どっ、と脈打つ鼓動が全身を震わせる。ひと月先に迫った明確な死より、不明瞭な今のほうが余程おそろしかった。侵入者とは、何者だろうか。大人たちは、少女たちは、何より母は、無事だろうか。)―――ママ………(僅かな吐息に乗ったか細い声がいやに大きく響く。彷徨う爪先は目の粗い網タイツだけを心許なくまとって、跳ね上がるアイラインが勝ち気さを助長する眦も情けなく下がっていた。暗闇に紛れるに適さない淡い髪もキャップを被ったところで、背を隠すほど伸びていては意味を成さないだろう。息を殺して、壁を伝い歩く姿は格好の餌だ。)

阿閉託夢 ♦ 2020/12/27(Sun) 23:43[2]

じんぐるべーる、じんぐるべーる、すずがーなるー……きょーおーはー、たのしーいー、くりすーまーすー…………楽しくない。まったく楽しくない。めんどくさい。帰りたい、ケーキ食べたい……(天然パーマの、中途半端な長さのぼさぼさの黒髪をがしがしと掻きむしりながら、足元に寄ってきた低級呪霊を呪力を込めた蹴りで祓った。万年四級とはいえど、この程度の呪霊ならば術式や呪具を使うまでもない。高専所有の呪具である九鈎刀も、腰に下げたままだ。大きな大きなため息をついて、男は周囲を見回した。)……ていうか……情報少なすぎでしょ……なんなんだよ、ここ……呪いでいっぱいだし……「囚われのお姫さま」って、特徴くらい教えてくれ……(情報量が圧倒的に少ない任務。いつもならば、「めんどくさい」と姿をくらましている所だ。けれど、これは五条悟の推薦による昇級試験。男には、それを無碍にはできない理由があった。しかし。)……うーん……おれが帰っても、ほかのやつらがなんとかするよな……昇級しなくても死ぬわけじゃないし……やっぱ帰るか……帰ろ……(踵を返そうとして、行く手に浮遊していた低級呪霊を手刀で祓った。小さく吐息をこぼしたその時、聞こえてきたのは。)………………(少女が、母親を呼ぶ声。ここから去ろうとしていた足を止めて、もう一度、周囲を見回す。そうして、壁伝いに歩く少女を見つけたならば。ゆっくりと、そちらに歩み寄る。)おまえ……あんた……きみ……?(紅い双眸は眠たげに細められていて、顔には何の感情も浮かんでいない。ぶっきらぼうな声は、年頃の女子に対する呼び方さえ覚束なかった。)……きみを攫いに……違う……奪いに……それも違う……そう、助けに来た者です。……一緒にここから出よう。(そうして、声音も表情にもなんの感情も浮かばせないまま、手を差し伸べた。――この少女が、五条悟の言う“お姫様”かはわからない。面倒だからそういうことにしてしまえという思惑は、口には出さずにおこう。)

梵一期 ♦ 2020/12/28(Mon) 02:09[3]

(人の気配なぞ察する必要もない生活を送ってきたとはいえ、声を掛けられるまでその存在に気が付かないくらい余裕を失っていた。ホラー映画を観た時、一期はきゃあきゃあと叫び声を上げるタイプであるし、最後に行ったのはもう記憶のおぼろげな幼い頃になるけれど、遊園地のお化け屋敷やジェットコースターでもそうだ。しかしいざこうして現実の恐怖を体感してしまうと、叫び声はおろか返事の一つすら出てきやしない。訝しんで寄せた眉が下がっていた眦を釣り上げて、覇気のない瞳を鋭く見つめ返す。見たことのない人物はすなわち侵入者であり、刃物までぶら下げているともなれば、警戒心をむき出しにして身を守るよう胸の前で手を握った。差し伸べられたそれを取らないとの意思表示でもある。)たっ、助けるってなにから?(上擦った声が震える。攫うだ奪うだ不穏な言葉の後に助けだなんて。彼がたとえ善人であろうとも今はまだ判断する術をもたないから、)あんた、だれなの? なんで、どうやって、ここに入れたの?(こうして問いを重ねるしかない。逃げるように距離を取ろうと下がり続ける足は、とうとうかかとが壁に触れた。心まで追い詰められた気になって、きゅっと喉の奥が締まる心地がした。)あたし、外には出たくない。って言ったら、それで刺す?(震える指先は伸び切らずいびつな曲線を描くけれど、たしかに彼の腰元を指し示す。少なくとも、復活の日を迎えるまでは死ぬわけにいかないので。)

阿閉託夢 ♦ 2020/12/28(Mon) 03:47[4]

(警戒されている事がわからぬほど、鈍くはなかった。行き場を失った手を引き戻して、手のひらを見つめる。――さて、どうしたものか。)……助けるのは……えーと……ここから……? きみ、生贄にされちゃうんでしょ。それって、死ぬってことでしょ。……死んだらそれで、なにもかもおしまいだから……助けようと……(普段、ろくに他人とコミュニケーションをとっていない男の口からは、上手い言葉は出てこない。面倒くさい任務を押しつけやがって、と、心の中で五条に恨み言を吐いた。顔を上げれば、攻撃の意思はないと示すようにひらひらと両手を振ってみせて。)……おれは、アトジ。ここには……その……なんていうか……普通の人にはない……ちょっと不思議な力で、ちょちょいっと……(高専や呪術の事を詳しくは言えないし、決して饒舌ではない男の言葉はさらに鈍くなってゆく。言いながら、めちゃくちゃ不審人物だな、なんて自分でも思っていた。――その瞬間、)……あ。(彼女と自分のあいだに、空中からべちゃ、と音を立てて呪霊が降り立った。間髪入れず、鋭い爪が生えた長い腕が彼女の方へ伸ばされる。三級程度か。そう判断すると、彼女に差し伸べた右手で、腰に下げた曲刀を取った。地を蹴って跳ね、真上から刃を呪霊に叩きつける。真っ二つになった呪霊は、不愉快な鳴き声を上げながら消えていった。先ほどよりも近くなった距離から、しゃがみ込んで呪霊を祓った姿勢のまま、無表情に彼女を見上げる。)――この刀は、……おれの力は、呪いを祓うもの。きみを――ひとを傷つけるものじゃ、ないよ。

梵一期 ♦ 2020/12/28(Mon) 20:22[5]

(すこし、驚いた。まあるく瞠目した瞳は次第に降下して、冷たい床をぼんやりと映す。すべてを知られているのか、このXという狂った教団のことを。戸惑いにゆらめく声はぽつりぽつりと言葉を零してゆく。)死にたくないし、生贄にもほんとはなりたくないけど……でも、でも。(本音を伝えるにはひどくまごついて、これ以上の説明は難しい。なにせ一期本人が己の感情を理解しきれていないのだから。かぶりを振ることでやはり助けの手は取れないのだと、示すほかなかった。幸いにして、どうにも彼はあまり意欲的でないふうにみえるし、随分と胡散臭い話までしてくる。この場を切り抜けるのは存外難しくもないのかもしれない。)ねえ、やる気ないみたいだし、みのが――っ!?(見逃してよ。そう言い切る前に、なにかが起きた。視覚的に捉えることはもちろん、その鳴き声すら一期には届かなかったが、たしかに、今、なにか危険を及ぼすものがあって、おぞましいとすら思った刀によって助けられたことだけはよく理解していた。恐怖に震える足ではうまく踏ん張れない。ずるずると腰が落ちれば、目線の高さが合わさるか。)――ありがと。……アトジ、さん。呪いとか、今のもよく分かんないけど、このままここにいたら生贄になる前に死んじゃう? ママも危ないめにあってるのかな。(だらりと床へついていた手は彼へと伸びかけて、しかし折れた膝へ着地した。今の今までいやいやと首を横に振っていたのに、得体の知れぬなにかに太刀打ち出来るのは彼と分かるや否や縋ろうとする己が浅ましくてならない。)

阿閉託夢 ♦ 2020/12/29(Tue) 02:08[6]

(やる気の感じられないぼんやりとした双眸を、幾度か瞬かせる。――彼女が五条悟の言う“お姫様”ではないのだろうか。違った女の子を連れていって、マヌケだと大爆笑される未来が一瞬見えて、かぶりを振った。だって、)……ここ……Xに、人質でもとられてる?(彼女は死にたくないと言った。ならば、たとえ彼女が“お姫様”ではなくとも、助けだすのが道理だと思った。――呪霊の姿が完全に消えてなくなれば、ふぅ、と細く長く息を吐いて。へたり込んでしまった彼女と視線の高さが合ったなら、刀についた呪霊の体液を振り払ってから、無表情に、もう片方の手で呑気にひらひらと手を振ろう。)どういたしまして。……えーと……おれがいま祓った……斬ったのは、人間の負の感情から生まれる「呪い」が形になった……バケモノみたいなもんで……ここには、それがうようよしてる。……たぶん、ものすごく危ないもんを飼ってるか、持ってるか……(特級呪霊がいるか、特級呪物でも持っていて、それに寄せられているのか。学校や病院でもこんな呪いの濃さはない。ふたたび周囲を見回して、自分にもわからないこの状況をなんと説明したものかと、頭を掻きながら彼女に視線を戻した。)生贄になる前に死ぬかはわからない……けど……でも、ここがよくない、危険な場所なのは確か。……母親もここにいるの。置いていけない? だから逃げられない?(ヤンキー座りのようなガラの悪い姿勢で、しかし声音は穏やかに問うた。そして、ゆるりと首を傾げる。)

梵一期 ♦ 2020/12/29(Tue) 20:02[7]

人質じゃなくて………、信じてるんだよ。(諦めたような冷たい声が出た。言葉として吐き出した音は目を逸らすことを許さないとばかりに胸に突き刺さる。誰が、とはとても口に出来やしなかった。緩慢に顎を上げて、なにかがいたであろう宙を見る。こうして襲われた事実を知っても、あの人が心配するのは娘の安否ではないのだろう。虚無だ。)呪いってだれかに恨まれてるとかそういうこと? まあ、ここをよく思ってるのなんかまじめな教徒くらいだから不思議じゃないけど。(ただしく理解するより、納得できる形に落としたほうが良い気がした。ひとつひとつを解き明かすのには膨大な時間を要しそうだと感じるくらい、彼は別の世界で生きているようだったから。それに触れてしまった今、一期の世界も在り方を変え始めているのだが。)うん。置いていけないけど、連れてもいけない。ママは教祖様に救われるのを待ってるの。心の拠り所をなくしたら、生きていけないひとなのよ。(そう告げれば、信仰者が誰なのか明確になったろう。まっかな瞳を見つめて、困ったように眉を下げて笑った。続く発露と共に次第に視線は降下してゆく。)ほんとにあたしが死んじゃうってなったとき、目を覚ましてくれるんじゃないかって期待してたんだ。でも侵入者が出たって聞いたとき、ママは教祖様に捧げる生贄が傷つけられたらどうしよってそういう心配をしてた。なのに、あたしは今もママを心配してるし、逃げられない。……ばかみたいね。(かち、かち、膝に乗せた指先が爪を弾く様を見ていた。自嘲したところで、そう簡単に縁は断ち切れない。)

阿閉託夢 ♦ 2020/12/30(Wed) 01:23[8]

……新興宗教なんて、ろくなもんじゃない。歴史ある宗教が偉いってわけじゃないけど。……少なくとも、ひとの命を奪うような宗教が、(言葉を一旦区切って、空いた手を振り、寄ってきた蝿頭を祓った。ばしゅ、と何かが潰れて弾けたような音は、彼女にも聞こえたかもしれない。)まともなわけない。宗教はひとの心の安寧のためにあるのに、生贄なんかにされる子の、きみの心はどうなるの。――……呪いってのは……恨みももちろんだけど、辛酸、後悔、恥辱……そういう人間の負の感情すべてが“呪い”を生む。……おれと一緒に来るなら、もっと詳しく教えてあげる。(もちろん、そんな誘い文句に彼女が乗ってくれるとは思っていない。「どう?」と首を傾げたのは、男なりの冗談のつもりだった。そうして、首を傾げたまま、彼女の言葉を聞いていた。最後まで聞き終えれば、ため息をついて頭を掻く。それまで表情のなかった顔の眉間に皺が寄り、不愉快そうな色が浮かぶ。)……クソだな。親は無条件に子供を愛して慈しむもんってのは大間違いだ。クソな親は改心なんかしない、くたばるまでクソなまま。そんで、あんたはそうやって期待して裏切られ続ける。――そうやって、死ぬまで期待して、死ぬまで裏切られ続けんの? 死ぬ瞬間も、「やっぱりママはあたしのことなんか大切じゃなかった」って絶望して死ぬの? あんたは、それでいいの。(言うと、ゆっくりと立ち上がり、刀を腰の鞘に戻した。そしてズボンのポケットから煙草を取り出せば、一本くわえて火をつける。――気に入らなかった。彼女の母親が、ひたすらに。)

梵一期 ♦ 2020/12/30(Wed) 19:51[9]

(ぼんやりと見上げたただの闇にまたなにかいたらしい。彼の手がくうを切ったときに微かに鳴った音は、呪いの話を聞いていなければ空耳や耳鳴りのたぐいだと判断してしまう程に些細なものだったけれど、たしかに鼓膜を震わせていた。超常現象で片付ける他ないような存在に知識欲をくすぐられたとて、やはり首を縦に振ることは叶わない。ううん、と唸るような声が竦めた肩と共に吐き出される。)今つぶしたの、どんな見た目をしてるの?(けれどこうして、彼が答えをくれる限りは興味本位の問いを投げさせて欲しかった。)―――…………、(くちびるを開いては噤む、荒々しく告げられた言葉のどれもが耳に痛かった。ただしいことだから。反論の余地もなかったから。動く気配に上げた顔ばせはちいさな灯りを映してから、額を膝に預けた。いいの? よくない。全然、よくなんかない。幾度と横に振る首は強い否定だ。)裏切られたくない。絶望したくない。ほんとは期待もしたくない。全部こわいし、こわいのはやだよ。(瞼を開いてしまえば涙が流れてしまいそうだから、きつくきつく閉じて。言葉ひとつ吐き出すにも嗚咽がせり上がってくるから、何度も喉でつかえて。たったこれだけ外に出すにもひどく呼吸が乱れている。弾いていた爪先は、いつしか膝に食い込んでいた。)……昔はね、やさしかったんだよ。料理がへたくそでね、毎朝一緒に目玉焼きを焼いて、ママのはいつも黄身が割れちゃって笑ってた。そういう思い出が邪魔してくるのかな。アトジさんに着いていくべきなんだと思う。逃げたいって、思うよ。でもクソみたいになっちゃっても、ママをなくすのもこわいんだ。

阿閉託夢 ♦ 2020/12/31(Thu) 00:23[10]

(一般人に呪術や高専の事を詳らかにしてはいけない。けれど、この状況で今さら隠すも何もないだろう。まずい事になったら責任は五条先生にとってもらおう。そんな事を考えながら、スマートフォンを取り出した。)……呪いが形になったバケモノを「呪霊」っていって……強さで特級から四級に分けられてるんだけど……いまのは、四級にも満たない「蝿頭」っていうザコ。……見ようによっちゃかわいくなくもない……けど、ひとに憑くとよくない。(言いながら、指先を使ってスマートフォンの画面に絵を描いていた。「……こんなの」と彼女に向けた画面には、四肢と羽を持ち、餅のような形の頭の、目玉がぎょろりとした生物。自分で一度見直して、「似てるよな……?」なんて首を傾げていた。)…………そんなに力入れたら、痛いよ。(煙草を口にくわえて、空いた手を彼女の手に伸ばしてそっと指先だけで触れる。彼女にふりかからぬよう、真上を向いて煙を吐き出した。――説得なんて自分のガラじゃない。それに、正論では人を説得できない事を知っている。でも、ならば好きにしろと放っておけるほど情が薄くもなかった。言葉を探すよう、頭をがしがしと掻く。)……じゃあ、今すぐ母親を捨てなくてもいいから、……とりあえず……お試しで、ここ、出てみない? 出た後の生活は、高専が……五条先生が……、……いや、おれが保障する。外の方が、絶対楽しーよ。ケーキとチキン食べてさ、シャンパン……シャンメリー飲んで……テレビでくだらないお笑い番組観て、夜ふかしして、明日は昼まで寝て……その後のことは、その後で考えよう。(言いながら、携帯灰皿に短くなった煙草を放り込む。どう? と尋ねるよう、視線を彼女へと向けた。)

梵一期 ♦ 2020/12/31(Thu) 19:38[11]

ようとう……えっ、かわい……。仲良くなれたりできるいいやつはいないの? あたしにも見えたらいいのにな。(離れた目玉は爬虫類みたいで、むき出しの歯はげっ歯類みたい。羽は天使のそれを思わせるちぐはぐさと、もちっとしたフォルムが愛らしかった。こんなマスコットキャラクターが見えていたら、この淀んだ世界も少しは楽しめていたかもしれない。きらりと瞳を輝かせて、場にそぐわない和やかな空気も今はしんと静まり返っている。控えめに触れた温度にびくついて力は簡単に抜けていく。やけにあたたかく感じたそれに応えるように爪先を軽く引っ掛けた。指にはめた目玉モチーフのリングだけが、彼をみている。)お試しって、……そんな気軽に出ていいのかな。戻りたくなったら、戻ってもいい?(小さな深呼吸を幾度か繰り返して、落ち着いた声が聞く。俯いたまま、片手で瞼のあわいに溜まった雫を拭い去りながら、)嘘でも、いいってことにしといて欲しいな。(願望を口にした。外に出れば簡単に戻れやしないことも、戻ったとて贄としてでなくもっとシンプルな死が待っているかもしれないことも、頭の片隅でよく理解していた。けれど、逃げるという選択肢を取るには、そういう余地が必要だった。――ゆっくりと首を上げて、背筋を伸ばす。対面する顔ばせは不安や怯えに蓋をした覚悟の色が滲んだ。多少湿り気は帯びていようとも真っ直ぐに向けた瞳は彼と似たあかみを纏っている。)梵一期、です。(言い出せなかった自己紹介を漸く。ゆるく弧を描いたくちびるはもうひとつ希望を告げようか。)ケーキは切り株のやつがいいな。

阿閉託夢 ♦ 2021/01/01(Fri) 07:07[12]

……おれの絵が上手いから。(かわいいという評をいただいた事に、満足げに頷く。実際、スマホに描かれた絵は小学生が描いたようなレベルなのだけれど。)……呪霊は、人間に仇なす存在。家来みたいにして使いこなせる術式を持ってる呪術師もいるけど、おれにはむり。ああ、術式っていうのは……それはいいか。……呪いなんか、見えないほうが絶対いい。普通に、…………、……呪いは、おれみたいな呪術師が、陰でこっそり祓ってりゃいい。そんで、きみみたいな子は普通に、幸せに暮らしてればいいんだ。(一度言葉を区切ったのは、彼女はこの狂った新興宗教の中で暮らしていて、決して“普通”ではいられなかったのだと思っての事。けれど、その後に“普通”と言い直したのは、これからは普通に、普通に幸せな暮らしを送ってほしいと願っての事。彼女の指のリングが視界に入れば、「……それ、かわいい」と、抑揚のない声で呟いた。)――いいよ。お試しで外に出て、しばらく過ごして、それでもやっぱりここがいい、母親が放っておけないと思うなら、戻ってくればいい。おれはそれを止めない。自分の生き方を決めるのは、自分だから。……いちご……ちゃん? さん? ……そよぎさん……? “お試し期間”のあいだ、よろしく。(彼女の呼び方に迷って首を傾げながら、「……阿閉託夢」と自分もフルネームを名乗って、あらためて手を差し伸べた。そうして、一度夜空を見上げる。)――ブッシュドノエルか。おれもあれ、好き。帰りに買っていこう。サンタと、ちっこい家と、雪だるまが乗ってるやつ。(ゆっくりと、彼女に視線を戻す。はじめは何の表情もなかったその顔には、柔い笑みが浮かんでいた。)

梵一期 ♦ 2021/01/01(Fri) 20:31[13]

ふつうに、しあわせな暮らし……できるかな、今からでも。(ママがいなくても、喉元で押し留めた言葉を吐き出してしまったら脆弱さに負けてしまいそうな気がして。なるだけ明るさを意識した声を出す。そうすると忘れてしまいそうな遠い記憶が呼び起こされて、胸の奥に仄かなあたたかさを感じることが出来るから。力を込めた足は多少よろめきながらも一期ひとりの力でしっかりと立ち上がる。「いい趣味してるじゃん、アトジさん」茶化すような笑いを含ませながら、己の意思で、普通の幸せに向かって踏み出す一歩だ。)呼びやすいのでいいよ。えーっと、アトジさんはタバコを吸ったりシャンパンが飲めるようなオトナのひと? 呼び捨てたりくん付けは生意気かな。名字と名前ならどっちで呼ばれるほうが多い?(学生ふうにはみえる。けれどここへ来てから同年代といえば同性のみで、いまいち異性の年齢は区別できなかった。頭のてっぺんから足の爪先まで、見定めるように瞳を眇めたところで答えは見つけられるはずもないので、首を傾いで問うた。)こちらこそ、お世話になります。……外に出るまででいいから、手は繋いでて欲しいかも。(一度は拒んだ手をしっかりと握り返す。空いた手はかっこわるい己の発言を気まずそうに頬を掻いて、これも何度目かのお願い。広大な敷地のどこかにいる母という存在に引き戻されてしまいそうな不安が残っていたから。)ふふ、砂糖で出来たサンタさんは譲ってくれる? やる気ないひとかと思ったけど、怒ったり笑ったり出来るんだね。あたしはママに怒ったり出来ないから、容赦なく言ってくれたのは結構うれしかったかも。(照れくささに視線を下げると、繋がった手をぶらぶらと揺らした。お気楽な空気に変えてしまうのは、外への純粋な楽しみと怖気づく心を振り払おうとする気持ちが半々くらい。)

阿閉託夢 ♦ 2021/01/02(Sat) 16:35[14]

できるよ。……おれも、そうだったから。……いや、べつに生贄として閉じ込められてたわけじゃないし……いまいるのも特殊なとこだけど……でも、幸せ。テレビ観て、マンガ読んで、ゲームして、休みの日はぶらぶら出かけたりして、先輩とか後輩とか同級生がいて、先生がいて……そういう“普通”が、すげー楽しい。……そよぎ、ちゃん、は、まずなにやりたい?(小さな閉じられた世界の外には、“普通”という幸せがいくらでもあるのだと、彼女に教えてあげたかった。呪術師としての任務をろくに行っていないのは、今は黙っておこう。呼び名に少し迷って、彼女に視線と問いを向ける。望む事があるのなら、叶えてあげたかった。)……18歳。東京都立呪術高等専門学校、3年。立派な未成年の学生。……苗字なら、アトジくんでもアトジちゃんでもなんでも。……下の名前、きらい。(本当は酒も煙草も許されていない歳だけれど、ちっとも悪びれない。呼び名に関しては、リクエストをひとつ。同級生には、下の名前で呼ばれるたびに文句を言ってどついている。彼女にはまだ音で名乗ったのみだけれど、このまま漢字を説明せずにいたかった。“お願い”には、「いいよ」と頷いて、強すぎない程度に彼女の手を握り返そう。)……じゃあ、サンタはそよぎちゃんので、雪だるまはおれの。……やる気ないし、怒ったり笑ったりあんまりしないひとだから、……安心? していーよ。今日は特別。そよぎちゃんの“ママ”に怒ったのは、…………あ。(ぼんやりとした無表情で訥々とこぼしていた言葉が途切れたのは、呪力で強化している五感が、呪霊ではなく、人間の気配を察知したから。一度後ろを振り返ってから、)……そよぎちゃん、(空いた方の手で、手をつなぐよりももっと近い距離に彼女を手招いて。抵抗されぬなら、そのまま彼女の体に両手を回して、抱きかかえてしまおう。)……追手が来たから、逃げます。準備はいい?

梵一期〆 ♦ 2021/01/02(Sat) 19:44[15]

そっか、そうなんだ。じゃあね、………テレビ観て、マンガ読んで、ゲームして、ぶらぶら出掛けたい!(思慮はたった数秒。咄嗟になにかひとつを選び取るのは難しかったし、彼の日常に溶ける幸福が随分と魅力的な音として耳をくすぐってきた。テレビはここでも観ることは出来たけれど、番組はひどく限定的であったし、マンガは大昔に読んだきり。ゲームには触れたこともない。壁の外の景色はどんなものだったっけ。期待に満ちた瞳がきらめいて、やわい曲線を描いた。そして弾む声は一度吐き出すと留まることを知らないらしい。)UFOキャッチャーで大きなぬいぐるみを取ってみたいし、タピオカに並んだり、プリクラとか、遊園地のジェットコースターも子ども用じゃないすごいやつ乗ってみたい。学校も、制服着てみたりとか。――ぜんぶ、出来る? ……いっしょに。(外へ出て、それから先は? 生活は保証してくれると言ってくれたからには、彼は暫く傍にいてくれるのだろうけれど。なにもかも頼り切ってしまうのもいかがなものか。控えめな視線と共に、尻すぼみな確認が落っこちた。)あはっ、アトジくんわるい子なんだ。4つも年上なら、あたしからすればもうオトナみたいなもんだけど。(くるりと瞬いた双眸はくしゃりと細められた。咎めることがないのは、一期がそういうことに憧れを抱く年齢だからかもしれない。熱を生む手のひらもお願いの承諾にもご満悦だった顔ばせが、引っ掛かりを見つけて片眉を釣り上げた。)安心はちがくない? 特別を知っちゃうとまた欲しく……―――?(振り返った先を見ようと外す視線はしかし、招かれる手によって未確認に終わる。不思議そうに歩み寄って、どうしたの、と発せられるはずだった声は突然の浮遊感のせいで短い悲鳴に取って代わった。)準備って、え? こういうこと!? えっと、正面から出る気ならそこは右に行ったほうが――(近道も抜け道も、一教徒相手ならば一期のほうがうわてだ。落っことされないようひしとしがみついた肩の向こうに、見知った影を認める。だけど、大丈夫、ママじゃない。思わずぎゅっと込める手の力。単なる落下への不安だけが理由ではなかった。――そうして、追手を撒く頃にはもう、外へ出ていただろうか。)………いつかアトジくんの昔話もおしえてね。(“そうだった”過去、名前がきらいな理由、ママへの怒りの裏側。大きなことでも小さなことでも、知りたくなってしまったから。耳元へささやくお願いは、いつか叶えてくれたらいい。)

阿閉託夢〆 ♦ 2021/01/03(Sun) 07:26[16]

……テレビもマンガもゲームも、おもしろいのいっぱいある、おれの部屋に。貸してあげる。出かけるのは――おれは、映画館とか、本屋とか、服買いにいったりだけど――……(年頃の女の子が喜ぶような所は思いつかない。けれど、どこがいいかと悩む前に、ぽんぽんと彼女の口から紡がれたものだから。頼もしい、というように目を細めた。)……UFOキャッチャーはしばらくやってないし、タピオカに並んだことはないし、プリクラは撮ったことないし、遊園地も行ったことないけど。……一緒にやろ。ぜんぶ。UFOキャッチャー以外、おれも初めてだ。学校も、行ける。同じ学校ってわけにはいかないけど、そよぎちゃんが通う学校のこと、聞かせて。――ぜんぶ、一緒に、ひとつずつやってこう。(おぼろげだった未来のビジョンが、彼女の言葉によって輪郭を確かなものにしてゆく。遠い未来の約束をできる力は、いまの自分にはない。けれど、近い未来なら。「……大丈夫」と、小さく添えた。)…………14歳の子に……「わるい子」って……おれ18歳……いや、そう、大人。18歳はもう大人です。煙草と酒はほんとはまだだめだけど、もうだいたい大人のようなもん。(見た目からもう少し近いと思っていた彼女との歳の差を知れば、なんだかショックを受けたふう。14歳は、自分から見ればまだまだ子供だった。彼女にも自分にも言い聞かせるよう、大人、と繰り返すのだった。――彼女を易々と抱き上げてしまえば、)……軽い。ほら、おれのほうが大人だった。(なんて呑気に言いながら、「右ね」と頷いて、しかし向かったのは右ではなく、一度屈んで、大きく跳ねて、右上の屋根の上へ。彼女には見えない角度で、地面に向けて中指を立てて舌を出しておこう。「ナビゲートして」と彼女に頼んだならば、広い敷地内、屋根の上を次々に跳び移りながら――高い壁の外へ。)……任務かんりょ……いや、まだか。(高専に帰るまで、いや、彼女に“普通”の幸せを知ってもらうまでが任務だ、きっと。そっと彼女の体を下ろそうとした、その時。ささやかれた言葉には少し考えて、)…………気が向いたら。……まずは、ケーキ屋。(手をつないで、もう片方の手で、「行こう」と道の先を指さした。そして、一歩を歩き出そう。この任務を、最後まで遂行するために。)

name
icon
msg
文字
pass