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【4】(白という字も墨で書く。)

立花蓮 ♦ 2021/01/21(Thu) 20:55[47]

人使いが荒すぎる……。(二級術師とは、かくも多忙なものなのか。昇級を言い渡されてからこちら、息つく暇もなく東奔西走していた男はやっとの思いでたった一日の休息を得る。無論、寝に帰ったりはしていたけれど。年明けの浮かれっぷりも次第に日常を取り戻してきた最近。時は流れて、一月二十一日。彼女を塀の外へ出してからもうすぐひと月となるその日、男は気まぐれに彼女の部屋の呼び鈴を鳴らすだろう。応答がなくて初めてスマホを取り出すつもりだが、もし扉の向こうから彼女が顔を出してくれたなら。)散歩しない?(きっとスマホで連絡を取ったとしても全く同じ文言で誘ったはずだ。護衛の任務は既に解かれたも同然。だからこれは、完全なプライベート。もちろんそれを自ら進んで説明する男でもなかったけれど。了承が得られたなら、田舎だからこそのだだっ広い校内を当て所なく歩き回るつもり。時々、ベンチに腰掛けて休んだっていい。――あの日以来、純粋な多忙によって彼女へ連絡する機会は少なくなっていた。元々まめな男でもない。しばらくぶりの時間の共有が彼女に何を齎すかなど分からぬけれど、男は普段どおりだ。特に此方から積極的に話すでもないが、彼女が何かを言えば応えただろう。これまでもそうだったように。さわりと、空風が枯れ葉を揺らす頃。珍しく男から口を開いた。)……此処出ても、大丈夫そう?(――そう。普段どおりの声音を、意識して。)

治葛静音 ♦ 2021/01/22(Fri) 00:15[48]

(いかにも偉そうな雰囲気を纏って目の前に現れた男の言葉に、「うさんくさっ!」と返し――ていただろう、以前の治葛であれば。調子の良いことを言う大人も、誰かのためと謳ってこの身を利用する大人も、Xにいる間に散々見てきたから。けれど話を聞き終えて、この時ばかりは静かに頷く以外の選択肢など持ち合わせていなかった。わかりました、と。小さく呟いた声は自分でも驚く程淡々とした響きだった。もしこの身が少しでも彼の役に立てるのならば、“いい子”でいられるなら、何だってよかったのだ。聞けば彼は多忙を極めているらしく、まともに顔を合わせることも叶わないまま数日が過ぎていく。顔を合わせたところで何を伝えれば良いかもわからなかったから、却って好都合だったのかもと思っていたのに、)ほえっ、く、くろ太郎!?任務行ってたんじゃなかったの?い、行く!(いざ彼が顔を見せてくれたのなら、そんな悩みも秒で吹っ飛ぶ単純っぷりも健在だった。白のニットワンピースにスニーカーをつっかけて、慌てて部屋の外に飛び出し彼の隣に並んで歩き始める。もう随分と歩き慣れた校内だから、今更目新しいところはない。そうでなくとも、きっとずっと彼の顔だけを見ていたがった。まるで、この目に焼き付けるみたいに。まるでそんな考えを見透かすように、投げかけられた問に息が止まる。 いい子に。いい子でいたいと思うのに、ならば頷かなければと思うのに、)…なんで、そんなこと聞くの?(考える先よりも、子供じみた疑問符が零れ落ちる。)

立花蓮 ♦ 2021/01/22(Fri) 00:56[49]

(五条悟さえ預かり知らぬことを、この男が知るはずもない。上層部から存在を認知されているかすら怪しいところだ。ゆえにこそ、純粋に最後の日となろう今日を彼女と過ごすことに躊躇いなどなかった。此処暫くは護衛も名ばかりであったくらいだ、今更任務が終わろうと代わり映えのない毎日がやってくるだけ。――少し、静かにはなるかも知れないけれど。)今日は休み。久々の。(無事に顔を出してくれた彼女にふっと微笑む男の表情は柔和だ。あの五条悟が”身の安全を保証する”とまで言ったのだから、少なくとも男に憂うところはなにもない。彼女が言うから、怪我だってしないように心がけている。元々痛いのも、キツイのも好きじゃないけど。散歩は、嫌いじゃなかった。ぼうっとただ歩くだけでもいい、途中で立ち止まって空を眺めるのだって好きで、この男にとって、暇は退屈じゃなかった。ダメ人間になれる時間が、好きだった。そんな自分が、騒がしいまでだった僅かな日々を名残惜しむ理由なんて、ないはずなんだ。)――……さびしんぼでしょ、きみ。(一瞬だけ言いにくそうに口元を窄めたけど、堪え性がないからすぐに観念。妙に此方を見てくることには気付いていた。寝癖でもあるのかと、ゴーグルを首に下げて手櫛を入れてみる。そのついでにちょっと、後ろ頭を掻いてみたりなんかして。少しだけ気恥ずかしそうに目を逸らしたのは、ありもしない寝癖を恥じているのだということにしておこう。)

治葛静音 ♦ 2021/01/23(Sat) 01:27[50]

(睡眠欲を第一と掲げる彼のことだ。久々の休日となれば日がな一日惰眠を貪っていたいものではと思ったのに、こうして足を向けてくれたことがとびきり嬉しくて仕方がなかった。冬の景色の中に先取りした春を咲かせるような笑みは、きっと自覚以上に緩みきっている。けれど護衛が終わるとなれば、こうして散歩をすることだって少なくなるだろう。多忙の彼に己のために時間を割いてくれとは、きっと言えなくなる。なのにそんな小さな決意すらも容易く瓦解させるのが、彼だった。)さびしんぼって、……あたし、そんなに子どもじゃないわよ!?(拗ねた風采は所詮ポーズだ。尖塔と化した唇で否定したとて、図星を指された下手な誤魔化しであることに自分でも気づいている。本当は誰かがいなくちゃ生きていけない丸裸の弱味を優しく掬い上げられたようで、泣きたくなるのをぐっと堪えた。そのまま知らぬ存ぜぬを貫き通したいのに、気恥ずかしさの滲む彼の所作に胸の奥がきゅうと苦しくなって鈍痛を訴えた。年相応の少年らしさを滲ますその仕草が、何だか近づいた距離の証拠のようだと思えてしまったというのは自惚れだろうか。熱のこみ上げた涙腺を誤魔化すように、ぴたりと足を止めて両手を広げてみせた。元気です、そんなアピールをするみたいに。)もしかして心配してくれてる?ありがとねっ、でも平気!結構器用なのよ、あたし。だから、……くろ太郎がお世話してくれなくても大丈夫だし、……もう迷惑とかも、かけないわよ。大丈夫。

立花蓮 ♦ 2021/01/24(Sun) 00:29[51]

子どもだよ。僕も、君も。――大人になんて、なりたくなくない?(なんてったって、法律で守られている、れっきとした未成年なのだし。背伸びは嫌いだ、出来ることなんか少ないほうがいい。万年人手不足の呪術師として走り回っている自分だとてそう思うのだから、つい先日まで”囚われのお姫様”なら尚更――とは言え、子ども扱いされて嬉しい人間が多くないことなど百も承知。開き直りにも似た堂々とした態度ながら、揶揄めいた語気が悪戯な笑みを助長する。それは先までの気恥ずかしさを誤魔化すためでもあったろう。けど。)……誰かに、なんか言われた?(肯定も否定もせぬまま、両手を広げる彼女へ振り返るように正面から向き直る。一歩距離を詰めれば、抱きしめられそうな近さで。)平気じゃなくていいんだよ。器用じゃなくていい。てか、そんなの今更じゃん。(高い塀の中で彼女を見付けた日、渋谷での買い物に付き合ったあの日。”外”に爛漫と目を輝かせた女の子。外に出た途端、泣きじゃくった女の子。帰りたいと、自分の名前を呼んだ女の子。感情の発露がいつも素直で、わかりやすい女の子。驚かされたことは何度もある。)――迷惑だと思ったことは一度もない。だれ? 決めつけたやつ。(五条悟ではない。あの人は他人で遊ぶことこそあれ、他人を弄ぶことは少ない人だ。――珍しく、男の物腰から怒りが漂う。問う声は、静かで、低い音だった。)

治葛静音 ♦ 2021/01/25(Mon) 00:02[52]

……あたしは、……。(投げかけられた疑問符に差し出す答えは見つけられず、中途半端に震えた唇が空気をひとくち食べただけ。難しいことだらけの大人になんてなりたくないけれど、子どもって 何だっけ?塀の中で生きるばかりだった数年の空白、加えてこの手を握ってくれるはずだった母の温もりも失くした今、大人にも子どもにもなれない曖昧な境界を彷徨っている。自分の中でも正しい答えを見つけられぬまま、続けて問われれば今度こそ思考が停止。近づく距離に、跳ねた心臓まで止まらなかったことに安堵する始末。)誰にも何にも言われてないわよ、くろ太郎ってば変なの。任務続きで疲れちゃった?(囮作戦とやらが成功すれば、向こう数年の面倒は見てもらえるのだと言う。そうすれば彼の手も煩わせなくて済むのだと過日言われたのは事実だ。けれど、誰に言われたわけではない。彼にとって己が迷惑だと最終的に断じたのは自分で、ゆえにこそ、彼が否定するのならばそのまま優しさに触れていたいと思うのに。)……なんで、そんな優しいことばっかり言うの。あたし、いっつもくろ太郎のこと付き合わせて、迷惑かけてばっかなのに…。(珍しく怒気を孕んだその声が、彼の本気を言外に物語っている。嬉しい。とびきり。なのに素直に微温湯に浸っていられない理由だけは明白だ。自覚した途端、情操が優しい逃避ではなく対峙し難い現実を呼ぶ。涙腺が熱を持って、あと少しで落涙必至の所で留まり小さく唇を開いた。でも、と。零した音は震えていたかもしれない。)でも、優しくしてくれても結局、皆いなくなるじゃない……。

立花蓮 ♦ 2021/01/25(Mon) 03:39[53]

(何も男だって、自分が全くの子どもだと思っているわけではない。きっと子どもで居たいと思う程度にはもう子どもでなくなっていて、大人になりたくないと思う程度には大人である自覚もなかった。十代なんてそんなもんだろうと、達観に過ぎた価値観が枯れている自覚のみがある。間近な距離で見つめる蜂蜜色の瞳は、水の膜を張っていた。ちょっと綺麗だと思うくらいは、許されたい。)――おまけに泣き虫。(先ほどの怒りなど無かったかのようにふっと笑って、ぐいとその目尻を強めに撫でる親指は、少し痛いくらいかも知れなかった。)……べつに優しいから言ってるんじゃないよ。嘘は得意だけど、言ってもないことを信じ込まれるのは嫌い。(ストレートな物言いは素直さを濾しに濾して鋭利な成分だけが抽出されたような響き。悪気のない、思ったままだからこそたちが悪い。)居なくなる? ――僕が?(半分は、母のことを言っているのだろうと思った。”経験”からくる言葉だろうと。けれど、ふざけているつもりもなく首を傾げる様子はいっそ滑稽であったかもしれない。確かに最近任務で忙しくしていたから、そのせいだろうか。率直に「ごめん」と紡いだのが、正解なのかすらわからない。)……もしかして、心配されてるの、僕のほう?(あっけらかんと言い放つさまは、もはや間抜けですらあった。疲労も馬鹿に出来ないと思う程度には、頭が、自分に都合よく解釈している自信がある。)

治葛静音 ♦ 2021/01/25(Mon) 17:53[54]

泣きっ……!?(言い返そうとして、さすがにぎゅむと口を噤んだ。現在進行形で両目一杯に涙を湛えた状態で反論したとて何の威力も持しちゃいないのは明白だろう。加えて彼の親指が目尻を撫でれば、いよいよ堪え性のない涙腺が緩んで壊れて抗う間もなく涙が零れた。ぐさりと心臓に刺さるような一言だって、涙腺に宿る熱が加速する理由になる。嫌いの単語に内省した胸裏が血を垂れ流すような心地を覚えるけれど、その実嫌じゃなかった。濾過され尽くした鋭さは、逆に本音なのだろうと衒いなく信じてしまえるから。「言うてくろ太郎、あたしに嘘ついたことあんまないでしょ」と零した言葉は、殆ど独り言に近かったかもしれない。続けて投げかけられた疑問符とすっとぼけたその表情に純粋な瞠目の宿った瞬きがひとつ、ふたつ零れ落ちて、)……他にいるわけないでしょ〜が!?(なけなしの矜持が決壊した。)いっ、今あたしに一番優しくしてくれてるのくろ太郎よ!?あんたにそんなつもりはないかもだけど!いつも優しくしてくれるし助けてくれるし、たまにちょっと性格ひん曲がってるなって思うこともあるけど……。くろ太郎がいてくれると、安心するの。嬉しいの。いなくなったらどうしようってここ最近ずっと心配しっぱなしよ!?だから嫌われたくないって思ったのに …あたしのいい子ちゃん計画あっさりぶち壊さないでよ、このおたんこなす……。(刺されて穴の開いた琴線から、いっそ墓まで持って行こうと思っていた本音が一気に溢れ出す。けれど発露の切欠は他でもない彼なのだと責任の所在をぶん投げ、気まずそうに視線を足元に落とした。ずび、涙と一緒に出て来た鼻水を啜る音が響く。)

立花蓮 ♦ 2021/01/26(Tue) 18:31[55]

――……。(目を見開く。すこし驚いた。零れた涙にではない。――「僕は嘘つき」だと言えば、大抵誰も信用しない。男が好んで使う常套句だったけど。)……じゃ、「嘘つき」が嘘じゃん。(涙のついた親指を舐めて、ちょっと笑った。意識はしていなかった。だって彼女の前じゃサボるわけにもいかないし。五条悟から言われた任務だし。あとからあとから脳裏に浮かぶ言い訳染みた思考が、なんだか自分で可笑しい。彼女の心の叫びが木霊すれば、「おお」と若干身を仰け反らせる。ぱちぱちと繰り返される瞬きが素直に男の当惑を語るだろう。)いや、だってそれは此処に連れてきた責任あるし……任務は先生が勝手に取ってくるし……。(たじたじである。それはもう、分かりやすいくらいに。)……嫌われたくないって思うの、遅くない? 嫌いになるならとっくのとうになってると思うけど……。(”いい子ちゃん計画”とやらが、一体全体どんな計画だったのかは知らない。きっと此方に心配を掛けまいとして、此方をうんと心配してくれる計画だったのだろうけど。どうにもピンと来ないのは、振り回されることにとうに慣れきったあとだからか。問う声は、いつもよりすこし覇気に欠けていた。ボリボリと後ろ頭を掻いたあと、)泣かないでよ。悪いことしてる気分になる。(そっと肩を抱き寄せたら、その顔を自分の胸に押し付けることは叶うだろうか。塀の中から連れ出したあの日も泣いてた女の子。連れ出したこと自体に悔いなんかないけれど、君の涙はいつも正解を分からなくさせるんだ。)

治葛静音 ♦ 2021/01/27(Wed) 01:09[56]

嘘つきが嘘で……んん……?てことはめちゃくちゃ正直者ってこと……?(ぐるぐる脳内を駆け巡り始めた疑問符にしばらく思考が停止して、けれど数秒後に「なんでもいーや」と笑ってみせた。そう、結局何だっていいのだ。彼が彼であるならば。面倒くさがりでじじくさい嗜好をしてて嘘つきなのか正直なのかよくわからなくて助けてと言ったら手を差し伸べてくれて、こんな取り留めもない吐露だって聞いてくれる彼なら、彼だから、なんだって。)そんな狼狽えながら責任とか言われても説得力皆無よ!?くろ太郎五条先生に言われたら一生あたしのお世話するつもり!?てゆか とっ、とっくのとうにって……嘘でしょあたしそんな面倒くさいことしてた……?(相手が動揺を見せればその分強気の発露は続くけれど、己の振る舞いを振り返ればさっと血の気が引いていく。心当たりがあり過ぎるゆえの百面相だ。曰く泣き虫な性惰はちょっとやそっとじゃ変わらないから、そう簡単に今日も涙は止まらないだろうなと思っていたのに。)     (秒で止まった。呼吸も止まりそうになった。突如触れた温もりはその優しさに反してあまりにも鮮烈で、喉まで出かかった叫び声をぎりぎり飲み込むので精一杯。)……泣いてる女の子がいたら、くろ太郎全員こうやって抱きしめるの?(彼の服の裾をぎゅ、と掴みながら問いかける。女の子に慣れてないでしょと言ってのけたのは初めての邂逅の時で、それは今でも変わらない。でもどうなんだろう。わからなくなったけど、どちらでもいいけど、)……あたしだからって言って欲しいな……嘘でもいいから……。

立花蓮 ♦ 2021/01/27(Wed) 03:03[57]

(「ばーか」と溢れた呼気が、ささやかに笑った。)そゆとこ、嫌いじゃないよ。(考えることを放棄したに等しいセリフは、妙に楽観的な響きに聞こえた。実際、男はどちらかというと正直者であったろう。己の欲求や、願望に対して。我慢が苦手だと言い換えてもいい。そういう意味では似た者同士かもしれない、とも思いながら。)一生……?(妙にハッとした様子で顎に添えた。ちょっと真剣に考えてしまう。僅かな時では答えが出そうにないので、一旦保留としよう。百面相は自分の分野じゃない。)してるでしょ。取引持ちかけてくるし、その日に大泣きだし、かと思えば元気に109連れ回すし、タピオカとか言うし……。(わざとらしく指を下りながら数えてやった。彼女の顔が青くなったのを見れば、少しだけ溜飲が下がった男は呆れたように眉も下げたろう。――まさか声にならない叫びを間近で聞いているとも思わぬから、当然耳を塞ぐために彼女から手を離したりもしない。)――さあ。女の子泣かせたの初めてだから、わかんない。(嘘をつかぬなら、とことんまで。そう思ったのは、現時点、単なる悪戯心でしかなかった。決して誠意とかそんなんじゃない。)てか、それ言ったら、君も助けてくれた人なら誰でもいいの?(そっと、やわい力で肩を押した。彼女の目を覗き込む。)……違うでしょ?(どこか確信めいた声音で問う男の口角は、ひどく柔和に持ち上がっていた。)

治葛静音 ♦ 2021/01/28(Thu) 00:41[58]

(嫌いじゃない。即答で却下されない“一生”。眼前に並ぶ予想外にじわりと胸の奥が熱を持つのに、それだけでは満足出来そうにないから不思議だった。元より我儘な自覚はあるけれど、彼の前ではそれが殊更顕著になったり臆病になったりと忙しい。指折り数えられる今日に至るまでの思い出を「やめて!」「やめろバカ!」と制止しようとするけれど、青くなったり赤くなったりの百面相となれば怒気も威力も然程感じられないだろう。そうして続く言葉がこれまた嘘じゃないのだと察すれば、もごもごまごつく唇が開いて閉じて、意味を成さぬ一連の動作を繰り返した。今までよりも近い位置で重なる双眸から目を反らし、)……命がけて助けてくれた人なんて、くろ太郎が初めてだもん。あたしだってわかんないわよ……。(嘘など鼻から孕まぬ台詞は確かに誘引される混乱のさなかに放たれる。耳奥で響く心臓の音がやけにうるさく体温だって上昇の一途を辿るけれど、知らないのだ。こんな感覚は。こちらの内情を見透かすみたいな疑問符を投擲された瞬間、沸騰しかけた血液が脊髄を介さず女を愚直な行動に走らせた。卒倒しそうになるのを堪えてすっと息を吸って、背中を反らして反動をつけて、――ゴンッ!! 甚だ鈍い音共に繰り出した攻撃は、シンプルな頭突き。彼の額中心を狙ったそれがクリティカルを生み出せたかはさて置き、互いに無傷では済むまい。色んな意味で。)いっ、だあ……!(額を抑えながら眦に涙を浮かべ、続けて口にするのは突飛な行動に対する弁明だ。)く、くろ太郎が くろ太郎のくせに、 きゅ、急にカッコよく見えた……どういうこと…!?

立花蓮 ♦ 2021/01/28(Thu) 03:22[59]

い゛っ……!(予期せぬ痛みに反射的に呻き声を上げ、両手でそこを抑えた。それに伴い彼女も解放することとなろう。俯く顔は身を守るように竦められた肩に埋もれている。その後、歯を食いしばるような間を置いて、ようやっと彼女のほうを睨む男は、涙目だった。)なんで? え、なんで?? 格好いいと頭突かれるの??(疑問符ばかりを投げ掛ける様子は、男の混乱を伝えるには十分だろう。睥睨を寄越す視線だって、信じられないと切に訴えている。ゆっくりと首を元に戻す間も、慰めるように己の額をさすりながら。)命の恩人に頭突きかます女の子も初めて見た……。(別に恩を売ったつもりもないけれど、今ばかりは恨ましげに呟く嫌味を許してほしい。その権利があるはずだと信じてやまぬ男が、彼女の額を指で弾く。さっさと引っ込めた。)――僕だって直接手を取って助けたのは初めてだよ。僕、能力的にも雑魚だから。逃げることばっか考えてる。(普段の調子を取り戻す意図もあって、散歩を再開させようと歩み出す。彼女らついてきてくれるだろうか。)人を助けるのはいつも他の仲間だった。それでいいって、今でも思ってる。(不意に、彼女を振り返る。手を差し出した。)だからさ、嫌われるとか、いなくなるとか、考えなくていーよ。そゆこと、やるなら真っ先にやる人間だから。(悪びれもせずに、柔く笑った。自分の手で初めて救い出した人。きっと、特別な理由なんてそれで十分だ。)

治葛静音〆 ♦ 2021/01/29(Fri) 18:20[60]

(一方的にこちらが仕掛けたにも関わらず、視線に恨みがましい色を込める棚上げ精神も我儘が許される気安さを把持していると推察したからだ。この程度で嫌われるのなら彼は今目の前にいないだろうと、免罪符を手に入れてしまったのなら嫌味もデコピンも痛みは感じない。寧ろ額への一撃だって戯れの一種と判じれば、ふくふく笑ってしまうのも無理からぬ話。)そかそか、いろいろあたしが初めてかあ……。(初めて。単純明快な言葉がこの心臓を拍動させる原動力となって、追従する足取りが自然と軽くなる。何もかもが初めて尽くしの彼は治葛にとって間違いなく特別な存在であるから、彼もそうであればいいなというのは胸裏に秘めた願い事。そうでなくとも今日も当たり前みたいに手が差し出されるから、らしくない考え事も瞬きの間に霧散してしまう気がした。)「ピンチだったらまた助けに行くよ」ってカッコよく言ってくれないの? あたし、助けてくれる人はくろ太郎がいいな。(五条先生よりも、と付随させた言葉は所詮照れ隠しの諧謔の類。重ねたてのひらの温度で溶けた唇の稜線が、加えて我儘を告げるのにもう迷いはない。助けに来てね。嫌いにならないでね。それからもうひとつ。)死んじゃ嫌よ、くろ太郎。….ごめんね、この前五条先生と話してるの聞いちゃって。すぐ死ぬとかアンタが言うから、……死んだら殺す。絶対やだ。意地でも生き残って。(力を持たぬ己が呪術師である彼の生き様に口を出すことに躊躇いがないわけではないけれど、これは肩書きなどない治葛静音から立花蓮へと向けた純粋な希求だ。視えない身が無為に望んでいいことではないと躊躇いだって生じるが、曰く真っ先に放り出す人間が今もこの場にいてくれているという事実が、我儘を加速させていく。)……立花蓮くん!(ふいに、名前を呼ぶ。緊張や期待や思慕やあらゆる感情が綯い交ぜになって、微かに頬に熱が集まるのを感じながら、)次に会ったら、あたしアンタに言いたいことあるの! ……ちゃんと聞いてよね。(寄る辺をなくした日の寂寞が癒えたわけでもないし、これからの囮作戦とやらを思えば不安だって込み上げてくるけれど。それでも、どこまでだって歩いていける気がした。未来を愛おしく思える気がした。ただひとつの光が、今日も進む道の先を照らしてくれるなら、それだけで。)

立花蓮〆 ♦ 2021/01/30(Sat) 23:18[62]

(嬉しげに反芻されれば、解せぬと言わんばかりに唇を尖らせるだろう。もしまた彼女にデコピンをする機会があれば、今よりもっと強くと心に誓った。繋がる手のひらを痛いくらいに握り込んだのはさらなる報復以外の何物でもなかったけれど、効果の程はあまり期待していない。)……助けに行くのはいいけどさ。「二度とピンチになんてしないよ」って言うところじゃないの、それ。(何故、危難に見舞われる前提の話をするのだろう。少なくとも今この時点、男は彼女を危機に陥れるつもりはさらさらない。困ったように眉尻を下げて笑った。五条悟より頼りになる呪術師なんて、他の誰もいないのに。それは誰より男自身が骨身にしみていて、だけど、だからこそ。)――……。(瞠目する。特に聞かれて困る話をしていたわけではないけれど、本人がその場に居たなら言わぬであろう文言をさんざん垂れ流した自覚はあって。逆の手で口元を覆い隠して、羞恥に耐えた。大きく息を吸って、吐いて、脈を整える。)まあすぐ死ぬ方だとは思ってるけど……(実際、呪術師をやっていると同胞が死ぬのは然程珍しいことではない。幸いにして、男はまだ顔見知りを見送ったことはないが、見送られる側になるのは早いだろうと踏んでいる。だが、今日明日に死ぬつもりでもなかった。だから妙に心配されていたのかと心中納得したなら、「大丈夫だよ」と無責任な台詞を吐こうとした、その矢先。名前を呼ばれる。正しい名だった。声音が孕む緊張に思わず背筋を伸ばして、驚きに瞬きを繰り返す双眸が彼女に向けられる。大仰な宣言に、最後は小さく笑うだろう。)なに今生の別れみたいなこと言ってんの。(馬鹿にする意図はない。ただ、単純に可笑しくて。いま言えばいいのに、と思ったけれど、彼女の真剣な様子に今は白旗。ぎゅっと、もう一度繋いだ手を握り込んだ。)楽しみにしてます、治葛静音さん。(日が沈む。夜が来る前に、鋭い光が標となって帰路を照らすだろう。今日も帰ろう、一緒に帰ろう。二度目の危難などまるで想像していない男はきっと、彼女の安穏とした未来を疑ってなんていなくて。もし例え、本当にこれが今生の別れだったとて。此処から、彼女の幸福を願うつもりだったんだ。)

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