治葛静音〆 ♦ 2021/01/29(Fri) 18:20[60]
(一方的にこちらが仕掛けたにも関わらず、視線に恨みがましい色を込める棚上げ精神も我儘が許される気安さを把持していると推察したからだ。この程度で嫌われるのなら彼は今目の前にいないだろうと、免罪符を手に入れてしまったのなら嫌味もデコピンも痛みは感じない。寧ろ額への一撃だって戯れの一種と判じれば、ふくふく笑ってしまうのも無理からぬ話。)そかそか、いろいろあたしが初めてかあ……。(初めて。単純明快な言葉がこの心臓を拍動させる原動力となって、追従する足取りが自然と軽くなる。何もかもが初めて尽くしの彼は治葛にとって間違いなく特別な存在であるから、彼もそうであればいいなというのは胸裏に秘めた願い事。そうでなくとも今日も当たり前みたいに手が差し出されるから、らしくない考え事も瞬きの間に霧散してしまう気がした。)「ピンチだったらまた助けに行くよ」ってカッコよく言ってくれないの? あたし、助けてくれる人はくろ太郎がいいな。(五条先生よりも、と付随させた言葉は所詮照れ隠しの諧謔の類。重ねたてのひらの温度で溶けた唇の稜線が、加えて我儘を告げるのにもう迷いはない。助けに来てね。嫌いにならないでね。それからもうひとつ。)死んじゃ嫌よ、くろ太郎。….ごめんね、この前五条先生と話してるの聞いちゃって。すぐ死ぬとかアンタが言うから、……死んだら殺す。絶対やだ。意地でも生き残って。(力を持たぬ己が呪術師である彼の生き様に口を出すことに躊躇いがないわけではないけれど、これは肩書きなどない治葛静音から立花蓮へと向けた純粋な希求だ。視えない身が無為に望んでいいことではないと躊躇いだって生じるが、曰く真っ先に放り出す人間が今もこの場にいてくれているという事実が、我儘を加速させていく。)……立花蓮くん!(ふいに、名前を呼ぶ。緊張や期待や思慕やあらゆる感情が綯い交ぜになって、微かに頬に熱が集まるのを感じながら、)次に会ったら、あたしアンタに言いたいことあるの! ……ちゃんと聞いてよね。(寄る辺をなくした日の寂寞が癒えたわけでもないし、これからの囮作戦とやらを思えば不安だって込み上げてくるけれど。それでも、どこまでだって歩いていける気がした。未来を愛おしく思える気がした。ただひとつの光が、今日も進む道の先を照らしてくれるなら、それだけで。)