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【3】(泣くも笑うもあとやさき。)

立花蓮〆 ♦ 2021/01/18(Mon) 03:44[45]

――まさか、いきなり単独?(遡ること数時間前。突然の呼び出しは例の教師相手ならばさほど珍しいことでなく、応じる男の心境にも慣れがあった。内容もおおよそ察しがついていて、そのとおりの内容が無駄に整った顔から聞かされれば大きく溜息もついただろう。休憩室で男二人、ジュースでも奢っても貰わねばやってられない気分だった。「なにがいい?」と特段気にした風もなく小銭を入れる余裕っぷりも苛立たしい。本当に、なんでこんな男に命を救われてしまったのだか。どうして、柄にもなく見ず知らずのために命を張っているのだか。)なんで先生が僕を昇級させるのか知らないけどさ。向いてないって。マジで。すぐ死ぬよ。自信ある。(二級どころか、三級にすらなりたくなかった。なんなら、卒業後の進路は補助監督でいい。戦う手段は確かにあるが、一撃必殺に頼りすぎた手法ではいくらも戦えない。それを理解していない教師とは思えず、恨みがましい視線は珍しくストレートに彼へ注ぐだろう。受け取ったアップルジュースの蓋を開けて喉に注ぎ込めば、爽やかな酸味と甘味が咥内に広がってゆく。隣でカフェオレの缶を開ける音がした。)……まあ、俺は自分で此処に来たし、やれって言われればやるけどさ。――護衛外したあと、あの子、どうなんの。(既に見ず知らずではなくなってしまったよすがは、しかし切れるのが道理。そこまでは理解している。しかし彼女は、すでに辿るよすががない。助けるだけ助けて放り出す無責任に覚える苛立ちが素直に教師を睨んだ。「おーこわ」戯けて肩をすくめる様子で暖簾に腕押しを悟れば、もう一度の大きなため息。)……二級の仕事はやる。だからちゃんと、静音にも道筋立ててあげてよ。あの子、案外すぐ泣くからね。(出会った初日と、先日の北千住での一件。後者は涙を見せたわけではないけれど、きっと心が叫んでた。思い返して眉尻を下げた男の表情はありありと心配を描いていただろう。きっと喧嘩になるから、本人に直接は言わないけれど。なんだかんだ言って、男は教師を信頼している。“最強”だと疑っていないし、道理に悖ることをする人間ではないと。そうでなければ男はいま此処に立っていないし、この手が人を救えるとも思わなかっただろうから。飲み干したペットボトルを自販機備え付けのゴミ箱に捨てれば、そのままその場を後にしようとするだろう。「身の安全は保証するよ」背中に投げられた言葉に、後ろ手でひらひらと手を振った。今はそれで十分だった。程なく、担当の補助監督から連絡が入る。詳細は車内で、と寮に戻る間もなく校門へ向かうこととなろう――運転しながら聞かされる概要を留め置きながら、持ったスマホで呼び出した文字列は“しろ子”。ラインの送信画面を開いて、何かを送ろうとして、けれど別れを彷彿させるような単語しか出てこなくて、結局送ったのは「任務行ってくる。いい子でね」なんて、また不興を買いかねない内容だったけど。車窓に映る男の口角が上がっていたことを知る者は、きっとだれも居なかっただろう。スマホを突っ込んだポケットで、またパンダが爪にぶつかった。)

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