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【2B】(憧憬の終着点。)

治葛静音 ♦ 2021/01/13(Wed) 00:48[33]

行きたいとこがあるの!(過日の買い物から数日後。高専の敷地内を行く彼を捕まえての第一声はそれだった。お願い付き合ってと両手を合わせる姿は見た目こそお願いの形式を成していたが、彼なら頼まれてくれるだろうという甘えはあった。なんせ「行きたい場所があるなら遠慮なく言えばいい」と、彼の鬼門からのお墨付きなのだし。移動手段が公共交通機関か過日と同じく車かは彼の判断に任せるところとして、装いは先日買ったばかりの白のパーカーワンピにダウンを合わせたラフなもの。彼が唐突な願いを了承してくれたなら、すっと差し出したのは一枚のメモ切れだ。足立区北千住駅。あまりにもシンプルな走り書きだけが記されている。)そこ行きたくて~…買い物とかじゃないし、何か用があるわけでもないんだけど、散歩?みたいな……。(平素無駄に溌剌とした声量を引っ込めて、ごにょごにょ紡ぐ間も視線は右へ左へと覚束ない。さて彼が――引いては高専側がどれだけ女の出自を知っているかは知らないが、少なくとも自らの口を開くのはこれが初めてだった。)……Xに連れて行かれる前に、お母さんと住んでたとこなの。連れてってくれる?

立花蓮 ♦ 2021/01/13(Wed) 03:00[35]

(仲間の呪術師が、「僕のことより甘やかしてんじゃな~い?」なんて軽口を聞き流す男の額に青筋を見る日も多くなっていたことだろう。山盛り抱えた荷物を持って帰ったあの日から、例の教師の態度が嫌に鼻につく。彼女に何を言ったか知らないが、断らない男だと思われているなら実に癪だ。実際一も二もなくYESを返した男では何の説得力もないかもしれないが、逃げられないものからは逃げずにさっさと片付ける主義なだけである。だからこの男、課題は出さないがテストの点はいい。閑話休題。)――北千住?(装いはあの日と全く同じ、制服の上にグレーのダウン。私服に興味のない男は、部屋着と制服以外の衣服をほとんど持っていないのだ。受け取ったメモをしげしげ眺め、脱出ゲームよろしく裏まで念入りに確認したあと視線を彼女に戻す。珍しくはっきりとしない物言いに目を眇めるも、特に追求する気はないのかゆるく腕を組んで片足に体重を偏らせるだけ。)……僕でいいなら。(返答と同時に両足の体重を等しくして、腕組みも解く。そのままスマホを取り出したのは、車を手配するためだ。電話先の相手から恙無く了承を得たなら、「行くよ」とせっかちな物言いで高専の門をあとにしようとするだろう。)――ついてきてほしくない時は、言いなよ。(あの日のように車まで向かう道すがらに伝えたそれは、決して北千住という街に行くまでのことではない。彼女が目的地としているであろう場所でのことだ。護衛が任務であるから、あまり離れるわけにはいかないけれど。多少のことには目を瞑る甲斐性くらいはあるつもりだから。)

治葛静音 ♦ 2021/01/13(Wed) 18:30[36]

(断られないだろうとは知っていた。けれどいざ彼の口から了承の言葉を引き出せば、やったと両手を上げて笑ってみせる。彼がすぐさま是を示してくれた根っこの理由など露知らず、「やっぱりくろ太郎てばあたしにめちゃくちゃ優しい…?」なんて自分に都合の良い考えを脳裏で繰り広げる女は然程頭がよろしくなかった。 学校に通っていた頃は、 特に『筆者の気持ちを答えなさい』的な設問の正答率が壊滅的だった。閑話休題。)んん、ありがとう……。(過日と同じく彼と車に乗り込みながら、女が纏う空気は随分と違っていたかもしれない。歯切れが悪く告げる感謝は、自分自身でもこれからどうしていいかわからない曖昧さゆえ。こつんと窓ガラスに頭を預けて、流れていく景色を興味もないのに眺めていた。)……くろ太郎の、(木枯らしに吹かれた丸裸の街路樹を見ながら、ロを開く。これも閑話休題だ。)くろ太郎のお母さんって、どんな人?優しい?(思いつく限りの疑問符をぽつりぽつりと紡いで、彼がどんな言葉を返してくれても、返してくれなくても、そのすべてを頷きながら受け止めようとする。お母さんって、どんな人だったっけ。もうとっくに朧気になり始めているその人の輪郭を、少しでも取り戻したかった。そうして車が目的地まで辿り着けば、のろのろと緩慢な動きで後部席を後にした。来たいと言ったのは己の筈なのに、見覚えのある場所に降り立った瞬間に顔を覗かせる臆病が、緊張を通り越していっそ吐き気すら誘引しそうだ。)うえ……っ、き、気持ち悪くなってきた吐きそう、吐く、   タピオカ飲んだら治るかも…!!

立花蓮 ♦ 2021/01/14(Thu) 03:58[37]

(優しいだけに見えているならそれがいい、敢えて「任務だから」と本当のことを告げる優しさは持ち合わせていないけど。だから本来、礼にも値しないのだ。)どういたしまして。(でも男は面倒くさがりで、嘘つきだから。当たり前みたいに受け取って、歯切れの悪さにも気付かないふりをした。暖房の効いた車内はダウンだと少し暑くて、窓に米神を預けるくらいが気持ちいい。あの日と同じように、景色が山からコンクリートジャングルへ変わってゆく。)――放任主義。好きにしなさいって、それだけ。(淡々と、抑揚なく。例えば高専への進学を決めた時。父がそれを是とした一方、母は賛成も反対もなかった。「自分で決めたことなんでしょう」と。それに頷いた時の男は、今ほどの覚悟で高専の門を潜ることになるとは思ってなかったけど。)……でも、しろ子の母親じゃないから。君の想像するお母さんが、正解なんじゃないの。(窓の外を見ながらの台詞は、随分と薄情な響きだったか。反射で窺い見る彼女の様子は、【陽炎】じゃ操れない。目的地で降りるまで、車内は不思議な静かさだっただろう。――まさか降りた瞬間、それが霧散するとは思わなかったが。)はぁ!? タピ……ああもう! ミスドで文句言うなよ!(緊張か嫌悪か、あるいは畏怖か。ふざけるならもう少しマシなことを言うだろうと、首元を掴んで彼女を引き摺っている今の光景が”甘やかし”なのかは、男では判断つかなかった。)

治葛静音 ♦ 2021/01/14(Thu) 23:24[38]

(見たこともない筈の彼の母親の話を聞いて、なあにそれとちいさく笑う。曰く放任主義。何だかそれが妙に想像できてしまった。親子の根っこに存在している信頼感ゆえだろうかというのはあくまで想像だけど。彼の言葉に記憶をひるがえして母の姿を顧みれば、やっぱりその輪郭はあやふやだ。)あたしのお母さんはめちゃくちゃ頑張り屋さんで、あたしとお父さんのことが大好きで、すごく優しかった……と、思う。(零す言葉は、半ば独り言のようなもの。記憶をなぞるというよりは、こうであって欲しいという願望を語っていただけかもしれない。なんせ、最後に顔を合わせたのはもう三年以上も前の話だから。中途半端に脳裏を掠めた面影のせいで一気に緊張がこみ上げてくるし、やっぱやめたと逃げ出したくなる心地だって嘘じゃない。けれど今この場には、彼がいる。理由はどうあれ頼めば側にいてくれる存在が、兎に角ありがたくて仕方がなかった。)ミスド!? えっ、食べたい!ポンデリング新しいの出てるかな!?(この手――ではなく首根っこでも何でもいい。引っ張ってくれる存在は、治葛にとってただしく甘やかし以外の何物でもない。数年ぶりでも土地勘はまだ残っているから暫くすれば「ミスドあっち!」なんて逆に彼を先導するように辿り着いたミスドにて、ドーナツ数個とタピオカを頼めば窓際の席に腰を下ろした。夕暮れ時の店内には、近隣の学校の制服を身に纏った生徒の姿も多い。きっと同年代だろう彼らの姿を横目で見ながら、緩く口を開く。)友達と、寄り道みたいなのも久しぶり!付き合ってくれてありがとね。

立花蓮 ♦ 2021/01/15(Fri) 02:44[39]

しろ子がそう思うなら、そうだよ。きっと。(無責任に言葉を並べ立てるのはこの男の得意とするところ。一般論、母というのは子どもを第一に思うのが普通らしいし。実際が彼女の言葉の通りだったとて、違ったとて、彼女がそう思うこと自体には何の罪もないのは事実だろう。慰めでしかない降車間際のそれが、車内に置き去りになっても構わなかった。)元気じゃん!? ったく……奢らないよ。(例え空元気だったとしても、しみったれているより余程いい。首根っこを掴んでいた手を離したのはそんな思いから。いつの間にか背を追いかける形となった男の口元にも、小さく笑みが浮かんでいただろう。下校時のドーナツショップはそこそこの賑わいで、他人の会話がちょうどいいBGMだ。男もポンデ黒糖とカフェオレを頼んで席に着く。窓の外の活気もよく見えた。)どーいたしまして。普段から山ん中にいるとあんま来ないから、お互い様。(中学の頃は、今と同じ注文で何時間も粘ったものだ。おかわり自由に甘えた単価の低い客は決して感謝される存在では無かっただろうけど、男には欠かせなかった。収入を得、山奥に引っ込んだ今となっては殆ど縁のないものになってしまったけれど。)……で? これからどうすんの?(マグの縁に口を付けながらの単刀直入は、決して追求や急き立てを意図したわけではない。その証拠に、焦った様子もなくふうふうと湯気に息を吹きかけている。)

治葛静音 ♦ 2021/01/15(Fri) 23:43[40]

(もう縁のないだろうと思っていた賑やかな店内に、内側からじわりと熱が浸潤していくのを感じる。ほんの少し前まで自分は高い壁の中に閉じ込められていて、抱いた夢は何一つ叶わず彼岸を渡るばかりだと思っていたのに。なのに今はドーナツを頬張り、もちもちとタピオカを頬張る日常を享受しているのだから不思議だった。これは奇跡だ。起きる筈のなかった聖夜の奇跡だと知っている――から、彼がいればと確固たる証拠のない勝手な自信を振り翳し、湯気の立つマグを両手で持ったままテーブルを挟んで正面に座る彼に視線を向けた。自分の知らない学生時代を垣間見たような気がして、知れず緩んだ口元が楽し気に紡ぐ。)くろ太郎がドーナツ食べたくなったら、今度からあたしが付き合ってあげんね。(それから、投げかけられた問には僅かに視線を泳がせた。揺蕩う湯気の先を追っかけながら、)…………お母さんに、会いに行って来てもいい?いきなりだし、びっくりさせちゃうかもしれないけど。高専を出たら、あたしお母さんのところに帰ることになると思うし!くろ太郎、ここで待っててくれたらうれしいな~…なんて……。(そこで漸く、視線を再び彼へと向けた。さて単独行動がどこまで許されるかは知らないけれど、どこかに出掛ける度について来てくれる厳重さだ。勝手なことを言っている自覚はあったから、平素よりも少しだけ声のトーンは落ちる。店内の喧騒にすら掻き消されそうな声量で「ダメ?」と加えて尋ねて、返事を待つ間はやっぱり柄にもなく緊張していた。)

立花蓮 ♦ 2021/01/16(Sat) 05:09[41]

――その時は連絡する。(いずれ去りゆく彼女と、どうせろくな死に方をしない呪術師。任務が終わって、真に彼女が解放されたその先。こうして二人語らうことなど、あるのだろうか。ふと、目の前のマグの中身に視線を落とす。憂う気もなく、少しだけ目を細めた。約束未満の答えが彼女のお気に召すかは分からぬものの、笑ってくれたらいいと思った。“しろ子”の文字列は、男から進んで活用することこそなかったけれど、しかし確かにスマホに登録されているのだから。舌先に乗せたカフェオレは熱くて、多くを含むことは出来ないけれど。あまくて、あたたかい。)……そのまま、高専に戻らなくてもいいんだよ。(思わず零れたのは、偽らざる本音。一口、カフェオレを嚥下してから続ける。)まあ、でも荷物とかあるし、そういう訳にもいかないか。とりあえず、親子水入らずしておいで。それくらいなら、多分大丈夫。(教師への報告はどうにでもなろう、己の舌先ひとつだ。騙されてくれる相手とも思えないが、融通の利かぬ人でもない。そういう意味で男は彼を信用していて、だからこそ彼女にも微笑を向けるだろう。彼女はもう塀の中にはいないのだ。行先は、帰る場所は、自分で決めていい。男が、そうであったように。「なんかあったらラインちょうだい」と、こともなげに付け足しながら、ドーナツを頬張った。)

治葛静音〆 ♦ 2021/01/17(Sun) 13:39[43]


え、連絡くれるの?ほんと?(思わず、ぱちりと瞬きを繰り返した。奪還だ護衛だと与えられたそれではなく、彼が示してくれた未来の可能性に自然と柔く緩んだ眦に春が翻る。それがどんなに僅かな可能性でもよかった。気紛れでもよかった。なんせ“くろ太郎”の愛称は、もうとっくに舌先に馴染んでしまっている。微睡に浸っている女は離別の欠片すら抱いておらず、「次はオールドファッションかなあ」など未来に思いを馳せていた。そうして、甘やかな空間――例えばホットミルクの上にポツンと落ちてくる蜂蜜のような、そんな優しさを彼の言葉が孕んでいるように聞こえて思わずドーナツを頬張る手が止まる。)い いいの?本当にそんなことしちゃっていいの? ありがとうくろ太郎、大好きっ!あっ、あたしのドーナツ食べといていいわよ!(言うが早いか、まだ皿に数個残ったドーナツを彼に託して急ぎ足で店内を出る。振り返って手を振るのは、行ってきますの挨拶代わりだ。そうして早足で向かう先。商店街の奥、古びた木造アパートの二階に、母は住んでいた。私と、――見知らぬ男と。本当は嫌だった。父の記憶が薄れていくようで。でももう大丈夫。離れてわかったの。これからは、お母さんがいてくれれば何だっていいから。ドーナツショップから然程離れていないアパートの二階、一番端の部屋。そこは母と自分の場所の筈だったのに、―――)………………うそつき。(零れた言葉は、自分の耳にだけ届いていればいい。入居者募集と張り紙が貼られた部屋。それが全部答えだった。いつか迎えに来てくれると言ってくれた母は、もういない。約束などなかった。二度も捨てられた気持ちだとは、身勝手なものだろうか。最悪の想像を受け止める覚悟をしていたのに、現実は想像の何十倍も冷酷だった。無人の部屋の玄関先に背を預けて座り込み、躊躇う指先はそれでもスマホを手にして、彼の名をなぞる。)……くろ太郎、~~~ッ迎えに来て。あたし。……くろ太郎のところに、帰りたいよ…。(幼い我儘だと知っている。彼がこの身を守ってくれる理由はあれど、心まで守る必要なんてないことも。それでも、縋らずにはいられなかった。今この瞬間、彼だけがたった一つの希望だったから。)

立花蓮〆 ♦ 2021/01/18(Mon) 03:43[44]

(あまりに気安く零された言葉に、頬張っていたドーナツを落としそうになった。ツッコむ間もなく彼女が慌ただしく店を出てゆけば、ぽかんとした間抜け面でそれを見送る男がひとり取り残されるだろう。手を振り返すことすら叶わなかった。)――人の気も知らないで……。(彼女の姿が見えなくなった頃。放心していた男がハッとして一瞬だけ背筋を伸ばす。そのあとすぐゴーグルを首に掛けるようにして下ろしたなら、前髪に手を差し入れるように頭を抱えた。溢れた溜息は、むしろ幸せを逃がすためだったかもしれない。どれほどの間そうしていただろうか、団欒を疑って居なかった男はゆっくりとドーナツを咀嚼していた。のちになって振り返れば、なんて愚かなことだったろう。彼女はXに“攫われた”などと話したことは一度としてなく、先の車内でもひどく自信無げだった。男も男で、『浄玻璃』で身を隠しながら付き添うことだって出来たのだ。)――……すぐ行く。どこ。(そう時間も立たぬ内にスマホのディスプレイに映し出された名前には、少しだけ怪訝に顔を歪めた。途中で意気地を無くしたのではと予想して、至極面倒そうに画面をスライドさせて耳に宛てがったのを後悔する。通話しながら席を立ちトレイをレジへ持っていったなら、まだ手を付けていなかった彼女の分のドーナツを包んでもらう。自分の分はその場で荒く噛み潰してカフェオレで流し込んだ。店員への礼もそこそこに包みを掴んで駆け出してゆくだろう。場所を聞き出せば一旦通話を切って、そのまま補助監督へ連絡を。言われた通りの場所を横流したなら、事情の説明もそこそこにスマホをポケットに押し込む。真冬の冷気が喉に刺さりながらも息荒くやって来たアパートの二階、座り込んだ彼女の前に現れた男は珍しく肩で息をしていた。)……帰るよ。(何処にとも言わず、手を差し出そう。いいや、彼女自らそれを取ることがなくとも、引っ張り上げるように男から手を取るはずだ。――無責任を言った。世間一般に照らして、彼女を慮れなかった。救われる覚悟ならきっととうにあるのだろうに、どうして、容易に光が閉ざすのか。救い出す以上のことをしてやれないのが、歯痒かった。程なくやって来た車に二人で乗り込んで向かう先は、当然のように高専で。寮の部屋前まで送る間、ふたりの間に会話はなかったかもしれない。けれど、最後の別れ際。)――僕は、ずっと“此処”にいるから。(それだけを言って、踵を返そう。嘘じゃない、言葉だけなら。「死ぬまで」という枕詞を省いただけ。それが彼女にどう作用するかなんて分からなかったけれど、藁でもなんでも、縋れるものになれればいいと。そう願ってやまなかった。)

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