bbs topadmin

【2A】(重くなるとも持つ手は二人。)

立花蓮 ♦ 2021/01/07(Thu) 00:14[20]

(まさか泣かれるとは思わなかった。初対面の男に対して、嘘の取引を持ち掛けるような強かな子だったから。たとえそれが行き当りばったりの苦肉の策だったとて、嘘つきを自称するこの男がまんまと乗せられた事実は変わらない。あの日ぎょっとしたのはそういうわけで、ただ任務の簡略化を目論んでいただけの男がましろくまろい感謝の言葉に覚えた罪悪感は嘘じゃない。)――買い出しの話聞いてるよね。さっさと行くよ。(でも、高専生と同じ寮の一角に居室を与えられた彼女の元を訪れたのは、だからというわけではない。自分は決して母の代わりになる気はないし、あの日の涙を拭ってやりもしなかった薄情者だ。護衛という任務がなければ、“バイバイ”しただろう。無遠慮に何度も彼女の部屋をノックして急かしたなら、制服の上にチャコールグレーのダウンという簡素な出で立ちの男がドアの向こうで待ち構えていることが彼女にも知れるはず。持ち物もポケットに入れたスマホのみだ。報酬が入る口座とオンラインペイを直結させているので財布はいらない。彼女が五条から資金を得ているのかは知らなかったが、多少なら大丈夫だろう。無事に対面を果たしたなら、「立川でいい?」と目的地を確認したあと、)てか、しろ子スマホ持ってる? 連絡先。迷子、困るでしょ。(本日の目的よりも先に憂慮を潰しにかかる男は、あいも変わらず性格が悪い。)

治葛静音 ♦ 2021/01/07(Thu) 04:08[21]

(まさか泣くとは思わなかった。見栄と虚勢だけが武器だった数年間、意地でも涙を流すことはなかったから。そういうわけで、長年封じ込めていた涙を引き出すきっかけになってくれた彼に対して、存外純粋な感謝を抱いているというのが本音だ。彼があの時何を考えていたかなど相変わらずちっとも知らず、それゆえ買い物に同行してくれるのが彼だと知れば胸裏に芽生えたのは「やった楽しみ!」なんて単純明快な感情である。何だかよくわからないド派手な絵画のプリントがされたオーバーサイズの白パーカーに黒のMA-1を合わせて、真冬にも関わらずデニムのショートパンツという服装はその浮かれ具合を反映しているかのようでもあったろう。)もー、ちょっとは待てないの?あたしと出掛けるのが楽しみなのは分かりますけど、ね……。(意気揚々と部屋を出て、彼の姿を見たと同時に零す言葉は文字以上に喜色が滲んでいた。なんせ久しぶりの外出だ、冗談の一つが飛び出たって許されたい。)立川、ちょい地味じゃない? どうせなら渋谷とかは!? 竹下通りでクレープも食べたいし、 あっスマホ? うんうんあるある、五条先生に貰ったの。(言ってボディバッグから取り出したスマホを扱う手つきは未だたどたどしいけれど、連絡先を交換することくらいは叶ったろう。まさか面倒ごとの可能性を潰されているとは思わぬ女は、一先ず目的地へと向かうその道中も他愛ない会話を繰り広げたがった。)もしかしてあたしの呼び名、しろ子で定着しそう? あっ、ねえねえくろ太郎、(こっちはそろそろ定着しそう。)五条先生と仲良いの? かっっっっっっっっこいいよね、五条先生。彼女とかいると思う!?

立花蓮 ♦ 2021/01/07(Thu) 06:15[22]

(五条悟はきっとこの状況を楽しんでいる。任務の追加を言い渡された時だって、両目は相変わらず見えなかったがあれは絶対ニヤけてた。買い物はもっぱら通販で済ませる男への嫌がらせの線もあるが、彼女はきっと、世間一般に言う女の子らしく、買い物好きだろう――とは、勝手な印象だけれど。部屋から出てきた彼女の装いと態度を見るに、勘違いでもないように思う。あの日のように頭のてっぺんから足先までを眺めてしまったのは、無意識だった。)……見てるだけで寒い。(言わずもがな、ショートパンツから覗く足のことだ。思わず男がダウンの前を閉める。)楽しみにしてるのはどっちだか。風邪ひいても知らないよ。(先の涙もそうだが、ひねくれた男には素直な感情の発露が少し眩しい。任務だからという後ろ暗さを、スマホに視線を落とすことで誤魔化した。受け取った彼女の連絡先、登録名は当然“しろ子”だ。)渋谷ァ? また遠いとこを……僕は別にいいけど、クレープは必要なもん買ったあとに時間があればね。(会話が始まればどちらともなく歩き出すだろう、見ての通り高専は東京都とは名ばかりの山奥だ。メインの移動手段が車なこともあり、街へ出るだけでも一苦労とはこれから身をもって知ることになる。校門前の長い鳥居を抜けた先には、補助監督とその車が待っているはずだ。)はいはいなんですかしろ子さ、…………。(ずっこけそうになった。危ない。何とか踏ん張る。)ゼッッッッッッッタイ居ない。アレについていける人がいたらむしろ同情する。(米神を抑えながら強く言い切った。そうだ、あの人顔はいいんだった。目隠しのせいもあって忘れがちな事実を、苦虫を噛み潰したような顔で思い出す。用意された車の元までやってくれば、車道側側に回り込んで後部座席のドアを開けた。)悪いこと言わないからやめときな。僕より性格悪いよ、あの人。(言いながら乗り込んだなら、運転席の補助監督に「渋谷だって」と行き先を伝えよう。カーナビのアナウンスが、2時間半後の到着予想時刻を教えてくれる。)

治葛静音 ♦ 2021/01/08(Fri) 02:39[23]

おしゃれは気合よ、芸能人も言ったわ。(彼が零した感想に対して胸を張るが、その実ぶっちゃけ寒かった。鼻を啜ればずび、と間抜けな音がする。風邪の気配を少し遠くに感じつつも尚この格好で行くと決めたのは、彼が言う通り「楽しみにしてる」のだ。登録名はこちらだって“くろ太郎”。)これではぐれても安心ね、くろ太郎がちゃーんと迎えに来てくれるもの!(楽し気に双眸を緩める女は、やっぱり連絡先の交換が面倒ごと回避のためだなんて理由は思いつかない。Xに居た時だって笑ってはいたけれど、現今口元を始終にこにこと彩る笑みからは緊張感がすっかり抜け落ちてしまっている。迷子になろうが何だろうが、彼が来てくれると手放しの信頼を寄せてしまっていた。)渋谷、本当に行ってくれるの?やった! あのね、109で買い物したい~! タピオカも飲みたい! ……えっ、てことは先生フリーなの!? あたし、ワンチャン可能性ないかな!? ていうかあたし達には結構優しかったわよ、先生。お金もちゃーんとくれたし。なのに性格悪いって……はは~ん、くろ太郎。もしかして先生に怒られたことがあったりする?(車内という狭い空間では、逃げようと思っても逃げられないだろう。彼の退路が喪われているのといいことに、思いつく限りの疑問符を投擲する笑みはひどく楽し気だ。話題の大半は主に「五条悟」について。あとは「くろ太郎ってすごい呪術師になるの?」だとか。「他の皆元気かな」とか、治葛が始終口を開いていたかもしれない。)

立花蓮 ♦ 2021/01/08(Fri) 04:44[24]

(呆れ半分、感心半分。気だるげな視線で憂いげに零れた溜息の成分はそんなところだ。ファッションに限らず、男には気合というもの自体が縁遠かったから。前を閉めたことで確保された保温性を担保に、ポケットのカイロを彼女に投げ渡す。風邪を引いて欲しいわけではない、面倒が増えるので。)おま、はあ? 抑止力として作用させてぇ?(迷子防止とは、迷子防止という意味だ。決して迷子になってもよいということではない。鳩が豆鉄砲食らったような顔をしたら、存外本気で乞うような間抜けな声が出た。行くけど、行くけども。そんな歯噛みが据わった視線に乗るだろう。)お上りさんかよ……今日の目的わかってる?(はしゃぐ彼女を少し落ち着けたくて、デコピン。痛くないはず。)さすがに恩師が犯罪者になるのは勘弁なんですケド。(時すでに遅そうだけど、とは言わないでおく。狭い車内でなかったら足を組んでいた。)……怒られたことは、ないよ。あの人いつもヘラヘラしてるし。(車が動き出せば、窓に頭を預けて外を眺めた。いくつもの木々が流れてゆく。その間彼女が齎す話題に逐一答えてしまう男も、退屈は嫌いだ。「俺は三流で一生を終えたい」とか「元気でしょ。君には負けるかもだけど」とか、色々。彼女が飽きれば沈黙が流れるだろうし、二時間ずっと続いてもさほど苦ではない。一時間もすれば多少街らしくはなってくるだろう、そうして徐々に窓の外が都会のていをなしてゆく。渋谷についたなら、とりあえず道玄坂近くの路肩に停めて降車しよう。補助監督とはまた後で合流の手筈を整えて、)んで、109だっけ。こっちでいいの?(バタン、扉を閉めれば車はすぐにも去っていくだろう。男もすぐに彼女と並び立つ。目の前にはどデカく109と書かれたビルが聳えているし、ひとつ向こうのそれとは比べ物にならないがそこそこ大きなスクランブル交差点もある。家電屋の威勢も煩くて、問い掛ける声は少し大きくなってしまった。ちなみに、109が二つあることを彼女は知っているだろうか。道玄坂方面、筒状の外見をしたビルのことだとは思うけど。目的地がもう一方のほうなら、TSUTAYA方面を指さすつもり。)

治葛静音 ♦ 2021/01/09(Sat) 03:41[25]

(投げられたカイロをしっかりキャッチして、ふくふく笑う。にんまり緩んだ頬はもう何をしたって緩みっぱなしという段階にすら到達しそうな一歩前、最早何を言われたって痛くも痒くもないと言わんばかりの調子で彼の言葉ひとつひとつにうんうんと頷きを返す始末。鋭さを感じるような視線にだって、「頼りにしてるね」なんて笑ってみせた。)もっちろん、デートでしょ!! あだっ、(額へ送られた一打に思わず零したのは、痛みを感じたわけではなく条件反射。ぽんぽんと躱す言葉の応酬の中、「恩師なの?」「男なら一流を目指してこそでしょうが!?なんで!?」なんて、いつの間にか好奇の中心は彼のことへと切り替わる。聞きたがっていたあの顔面偏差値5億の教師のことについてはまたおいおい。ひとつ答えを聞けばまたひとつ、或いはふたつもみっつも聞きたいことが溢れてくるのだから始終会話が途絶えない車内は外の風景と反して賑やかなものだったろう。気怠い雰囲気は相変わらずなのに、言葉を交わすことに存外抵抗はないらしい。まっくろのくろ太郎に対して、また色が増える。そうして到着した大都会、想像以上、記憶以上の人通りに瞬間停止しそうになった頭がぐるぐると回った。そりゃもう間抜けなツラを晒しながら、自分とは違って動じる素振りのない彼に思わず一歩すすすと身を寄せた。)そう!うん、ここ! うわすごっ、眩し……。(久方振りの外の世界にうっかり柄でもない臆病が顔を覗かせそうになるけれど、当然込み上げてくる好奇には勝てなかった。意気揚々と踏み出す一歩、あれもこれもと一階から最上階まである程度見て回り、挙句「やっぱ最初のとこに戻ろ♪」なんて言ってのけるさまはさて彼の目にどのように映っていたかは定かではない。漸く意識がこちら側に戻って来たのは、両手じゃ持ちきれない程の服を買った後だった。出掛けに件の教師に渡された、出所不明のブラックカードの財力に感謝である。)ん~~~~~っ、買った!満足っ!付き合ってくれてありがとね、 あ。(そこで思い出したように、間の抜けた単音をひとつ零した。)くろ太郎は、何か欲しいものとかないの?

立花蓮 ♦ 2021/01/09(Sat) 05:09[26]

……こんなんデートに入るかよ。(多く交した受け答えの中で、窓から視線を外さずに言ったそれだけが、彼女に聞かせる為の響きではなかった。頬杖で覆った口元で、わざと音をくぐもらせる。言動の端々に感じる信頼なのか単なる微笑ましさなのか、とかくぬるい温度にこちらがふやけてしまいそうだ。五条悟が助手席に乗っていなくて助かった。忘れるな、これは任務だ。あの男が恩人であることも、自分が普段サボり魔であることも、降車する頃の彼女は知っていよう。勿論血腥い話は一切していない。一応進んで迷子になる気はないらしい彼女の袖くらいは掴んでおこう、せめて建物に入るまでは。流行の発信源を自負する渋谷の中心へ乗り込んだなら、その後の記憶は男にはほとんどない。そもそも女子の買い物に付き合った経験などないので、店に目星もつけず建物に入るということ自体が初めてだ。当然最初に行った店など覚えておらず、うっかりまろびでた「マジ?」は、渾身だったに違いない。買い物を終えて生き生きしている彼女をよそに、男はすっかりげんなり生気を旅立たせていた。眉間には解せぬと言わんばかり縦皺が三本。)どういたしまして。(言いながら、彼女の片手分の荷物を奪い取る。両手を塞ぐのは単純に危ないから。)……僕? ないよ。通販派だし。(便利すぎる世の中は、たとえあんな山奥でもしっかり物流を行き渡らせている。男が街に出ること自体稀だった。)それとも何、デートらしくオソロイでも欲しくなった?(ほんのちょっとの復讐心。横から顔を覗き込む男の鼻が、彼女のそれに触れそうな程の距離での問いかけは、爽やかなまでの微笑みでもって。)

治葛静音 ♦ 2021/01/10(Sun) 04:17[28]

(くぐもる言葉を呑気な耳が拾うことは叶わず、車窓の外に流れる景色を追っかける双眸は彼の心の内に気づけない。けれど知ったことは今日一日でもたくさんあって、その一つ一つを忘れずに記憶の中に留めておきたがった。何だかんだ言いながら、女にとって彼はあの閉ざされた世界から救い出してくれた“恩人”なのだ。彼にとっての五条悟が、そうであるように。とはいえ相手が誰だろうとあっちへこっちへ連れ回すことに対して一切の抵抗を破棄して、歩き回れば回る程水を得た魚の如く輝きを増していく女が純然たる希求を満たすのに要した時間はおよそ数時間。まるで対極を絵に描いたように生気を失うその顔を見てにやにや笑い、「マジよ!!」と返す声はとびきり勇ましい響きをしていただろう。)え~、すごっ、通販?で買えるの?便利な世の中になったわねえ……。(機械世代に置いて行かれたかのような間の抜けた言葉は、ただしく純粋な感想だった。あの壁の内にいた数年間、外界との情報を遮断されていたゆえ同世代の相手に比べて圧倒的にそういった能力が欠落してしまっている。荷物を半分持ってくれるその手に一方的に厚意を見出しながら、それじゃあ次はと踏み出す一歩は不発に終わった。) ぴゃ (突然視界を遮るようにして割って入ってきたその顔と、その距離に、まろび出た単音はそりゃもう間抜けな音をしていた筈。)ばっ、ばばばっばばばか!?べっつにそんなの欲しくないし!?欲しいのくろ太郎なんじゃない?!(ペットボトルに近寄った猫みたいにぴゃっと一歩後ろに遠のいて、うるさい心臓に無意味な拍動はやめろと信号を送りたがるが当然不発に終わる。亜麻色の三つ編みの先をゆるゆるひとさし指で巻きながら、「あ」唐突なそれと共に彼の背後を指さした。特設会場に置かれているのは、某動物園のグッズたち。)これはちょっと欲しいかも!?ねえどう!?(言って、指先で持ち上げたのはパンダのマスコットキーホルダー。手のひらにすっぽり収まる程度のサイズだ。買ったところで大きな邪魔にはならないだろうと推察して、)パンダ、可愛くない?黒と白、あたしとくろ太郎でちょうどいいじゃーん!

立花蓮 ♦ 2021/01/10(Sun) 17:06[29]

(ジェネレーションギャップと言えばいいのだろうか、これは。言われてみれば確かに、軟禁生活で通販の自由があったとは思いにくい。空いた手でスマホを掲げて、密林の愛称で知られる通販サイト、その中の買い物履歴を開いてみせる。直近の買い物は湯たんぽ式のネックピローと、顔をすっぽり覆うドーム型枕。)これ、こないだ届いたやつ。部屋から一歩も出ずに買い物完了。しろ子も今のうちに五条先生のカード情報登録すれば、好きな時に買い物出来るんじゃない?(あの人無限に金持ってそうだし、とは言わないでおく。一応、他人の金なので。とはいえ他人の金だからこそ、提案自体を冗談とするつもりもないのだけれど。飛び退くように下がった彼女の様子をしたり顔で眺めながら、スマホを仕舞うついで両手をダウンのポケットに入れる。ゆらりと彼女へ向き合いながら距離を詰めようとすれば、彼女は更に下がるのだろうか。総毛立つ猫へ向ける顔はイタズラで、楽しげだ。有り体に言えば、そう、ニヤニヤしている。けれど彼女の意識が己に背後に迎えばそれも打ち止め。振り返った先で細い指先がナスカンを引っ掛ければ、素直に目を丸くして。)――パンダ?(ここから山手線で正反対の場所にある、知名度日本トップクラスの動物園。さらにそこの一番の人気者は、こんな所にまで出張しているのか。手のひらより一回り小さいそれに顔を寄せてしげしげと眺める。)ふーん……。(少し思い悩む素振りを見せてから、彼女の指先で揺れるそれと、壁に掛かる同種の物を見比べたのち。男もおもむろにひとつ指に掛けて、反対の手を彼女に差し出す。)しろ子にしてはトンチきいてるじゃん。採用。(彼女が差し出した手のひらの‪意図を察してくれるなら、直後レジへ向かって会計を済ませるつもりだが、さて、彼女の反応やいかに。)

治葛静音 ♦ 2021/01/11(Mon) 03:33[30]

へ、部屋から一歩も出ずに…!?そんなこと許されていいの…!?ていうか何この買い物、くろ太郎ほんとにあたしと同じ年?(覗いた画面に並ぶ商品に、思わず小さく噴き出した。まるで今時の若者とは思えぬ癒しを求めた快眠グッズに、くしゃりと双眸が緩む。甘えられる相手には甘えてしまえの精神がゆえ、悪魔の囁きかのような彼の提案に乗らぬ選択肢は持ち合わせちゃいなかった。最近手にしたスマホはちょっと操作するのも四苦八苦、協力を求めながら登録したカード情報がいつか出番が来るかどうかは先の未来の楽しみとしてしまおう。喜んだり焦ったり、感情ジェットコースターの己とは違いどこか余裕すら感じさせる相手を見れば逆立つ毛はしばらく落ち着きそうもなかった。胸裏でざわつく言いようのない羞恥や焦りやその他諸々の感情がいっしょくたになった複雑な心地を誤魔化す方法など知らぬから、いっそ物理的に噛みついてやろうかなんて野生児宛らの考えが行動に移るまであと3、2、――そこで彼がこちらに向けたてのひらに、ぱちりと瞬きを零した。もう一匹、彼の手の中にいるパンダと、それから己の手の中にいるパンダと。そのふたつの間で視線を何度かいったりきたりと往復させる最中、とびきり間の抜けた表情を呈していた自覚はあった。おずおず差し出したパンダが無事彼の手のうちに渡ったなら、きっと会計までもあっという間だったはず。その流れを隣で見遣りながら、「あたしが本気だしたら一休さんも裸足で逃げ出すわよ」なんて絞り出した言葉は戸惑いを誤魔化すためのもの。もしかして、もしかしなくても、)もしかしてそれ、くろ太郎が買ってくれたの?先生とか学校のお金じゃなくて?

立花蓮 ♦ 2021/01/12(Tue) 03:48[31]

(やはり知らなかったのか。文明の利器の力は素直に借りることにして、ついでに高専の金の力も大いに借りることとして、カード情報を登録してしまおう。その際、スマホの基本動作や検索の仕方なども教えつつ。)うっさい。快眠に命かけてんの、僕は。湯たんぽなんかは女の子も使うでしょ。(ダウンの襟に埋もれさせた唇を尖らせた。いかにして労力を使わず日々を過ごすかに注力している男にとって、睡眠欲は唯一最大の欲求と言っていい。とはいえそれが枯れている自覚はあるのか、気恥しげに目元を眇めるだろう。まさかヴァンパイアよろしく血を見る可能性があったことなど知る由もない男は、差し出した手に目をぱちくりさせる彼女の反応を待った。当社比、根気強く。間抜け面だと揶揄しないのは己にもつつかれたくない腹があるからで、無言がつらいのは今ばかりはきっと男のほう。だから、無事にパンダが手元に来てくれたなら柄にもなく安堵したろう。「ん」と短く返事した後すぐレジへ向かったから、悟られないといい。「歴史上の人物と張り合うなよ……」と軽口を零す頃にはもういつも通り――の、予定だったけど。)……そういうこと、気付いてもツッこまない。野暮でしょ。(ピッ。顔を見ぬまま、いそ冷たい程に淡々とした台詞を紡ぎながら、店員に差し出されたバーコードリーダーにスマホをかざせば決済完了。当然ながら、男は教師の口座もカード番号も知らない。「すぐ付けるんでそのままで」包装も何もされてない二匹のパンダを受け取れば、邪魔にならぬ店前の通路まで出てから、)ん。(突きつけるように差し出せば、指先でパンダが揺れる。そういえば誰かがパンダのしっぽは皆白いのだと言っていた。それを確かめるつもりなどなくとも、視線は自然とそこに注がれる。もうひとつは、既にしれっと男のポケットの中だ。)――次、何買うの。生活雑貨買えてないでしょ。(急な話題転換は、さっさと受け取れという催促でもあったろう。もうこの建物に用がないなら、センター街を抜けた先のロフトなんか、彼女が好きそうだと思いつつ。)

治葛静音〆 ♦ 2021/01/13(Wed) 00:15[32]

(欲しいものが容易く手に入る時代は便利だ。指先ひとつで何でも手に入れられる特権は得たし、今日だってそう。欲望の赴くままに両手いっぱいぶんの買い物だって出来た。それだけでも十分満たされているのに、たった一つのキーホルダーがそうした希求を越えた喜びになるなど誰が予想していただろう。少なくとも、治葛はちぃとも予想していなかった。一日中ぐるぐる彼を連れ回すばかりだと思っていたから、自発的──とまで言うと図々しい気がする。なんせ殆どねだったようなものだ。けれど彼が自分で買ってくれたキーホルダーを、まるで宝物を扱うみたいにして両手で受け止めた。きらきら瞬きのたびに輝く双眸はずっとパンダに夢中だったから、彼の視線がどこに向けられているのかなど露知らず、「パンダの尻尾って白いの!?」 ──零した感想は無意識のもの。片割れが既に彼のポケットの中に仕舞われていることには気が付けたけれど、うっかり揶揄を投げそうになって慌てて口を噤んだ。例えば睡眠第一の枯れた嗜好を口にする時、覗く表情は存外年相応の少年の物だった。突っ込んじゃったらそういうとこも見れなくなるのかも?くろ太郎素直じゃなさそうだしな?なんて、浮かんだ感想を全部喉奥に飲み込んで、それを誤魔化すようにキーホルダーをボディバッグにつけた。白黒シンプル配色のマスコットが揺れるさまを見て、んふふと楽し気に笑う。)あのね、あとは可愛いマグカップとかも欲しい〜!あそこで使ってたやつ、地味なのばっかでつまんなかったの。くろ太郎選んでよ、ねっ!(はしゃぐ気持ちを伝えるように空いた片手で彼の手を引いて、ちっとも地理を知らない大都会に一歩踏み出す。彼がいるならなんて大それた理由を掲げるつもりはないけれど、それでも小さな信頼をまた寄せたのは事実だ。繋いだ手が、どこまでも連れて行ってくれる気がした。)

立花蓮〆 ♦ 2021/01/13(Wed) 02:28[34]

(言い渡された任務に過ぎない。彼女が呪霊も見えぬ非術師である以上、いずれ高専からは出ていくのだろう。Xという宗教団体については、あのあと少し調べた。欲しいものが容易く手に入る時代は便利だ。それは何も物品のみに限った話ではない。ネットの海を少し泳げば、オカルトじみた話題の中にたゆたうその存在を見つけるのは存外容易かった。――胸糞の悪い話だ。何を復活させたいのかなんて知ったこっちゃないが、どうせ碌なものでない。呪霊呪物のたぐいなら、いいやきっとそれが確定しているから高専に持ち込まれた案件なのだとは男でなくても察せたところ。いつしか脅威は除かれる。そのための呪術師で、そのための任務。正味、昇級に興味のない男はそれが分かっているだけで十分だった。まっとうな死に方が出来るなら、碌でもない死に方を知らないなら、それがいい。)――らしいよ。(だから、こんな小さなよすがを大事そうにしないで欲しい。そっけなく返答だけして、該当箇所から視線を外す。どこを見たいわけでもなく泳がせた。彼女はもう光の下に出ていて、その先の道はいくらもある。手渡したそれがあっという間に居場所を見つければ、男の手もポケットへ戻ってゆくだろう。チャリ、と爪とナスカンがぶつかる音がした。)はぁ? なんで僕が選ぶの。女の子が好きなやつなんてわかんないよ。(異議を唱えるような口振りで、しかし引かれた手を振り払えない男の態度は矛盾しているように見えるだろう。繋いでいなきゃどこに行くかわからない、なんてのは言い訳だ。何処にでも行けばいいと思う、たとえいつかこの手が離れても。けれど今暫く、彼女が高専の庇護下にある間――男の目が届く間は。振り回されるのも任務のうちだと言い聞かせて、人混みうごめく大都会を泳ごう。保護監督の迎えを呼ぶのはさて、いつになるやら――)

name
icon
msg
文字
pass