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花はどこでも咲けるのよ、弐那。

久百合要〆 ♦ 2021/02/09(Tue) 01:38[89]

(卒業証書、とやらを受け取った。黒い筒に押し込められた紙っぺら一枚。紙自体には何の意味もないのに圧を感じる真顔で学長が手渡してくるから自然と此方の背筋も伸びた。寮からの引っ越し作業も週末に済ませてある。呪術師として生きていくなかでどこに住むかと考えて、実家の近くではなく都内を選んだ。人が集まれば集まるほど呪いも大きく強くなる。呪術師として生きると決めてから四年、求めるものは今も変わらない。強さだ。──ちょうど一年前、久百合要は準一級呪術師となった。次に目指すは当然一級呪術師だが、目の前に立ちはだかる壁は今までになく分厚い。一辺倒に鍛錬を重ねていても到達できないあと一歩、それを踏み込むために必要な存在に会いに行くために足先を向けたのは女子寮だ。今日は天気も良いし、ずいぶんと暖かくなってきた。もしかしたら部屋のなかではなく敷地内のどこかにいるかもしれないが約束しておらずとも会えるだろう。まったく顔を出さなくなるわけでもないけれど今日が最後の日となることは少し前に伝えてあるから、彼女は待ってくれているだろうという自信があった。出会い、助け、助けられ。任務は急に飛び込んでくるし日々の訓練だって欠かせなかったから、共に過ごせた時間は長いとは言いきれない。それでも己のなかでゆっくりと育んできた情はもう留めることができないところまできていた。)──弐那。(場所はどこにせよ、彼女の姿を見止めれば片手を上げゆっくりと距離を縮める。隣に立ちその旋毛を見下ろした。出会った時より幾らか身長も髪の長さも伸びただろうか。そっと伸ばした手の行き先はそのちいさな頭で、いつかと同じようにやさしく撫で下ろす。腰を屈ませて顔同士の距離を縮めれば、一緒に買いに行って選んだシャンプーの香りがした。)私は死ぬまで呪術師を続けるわ、絶対に自らこの場所から降りたりはしない。もっと強くなりたいの。……私を生かしてくれた両親のために、それから私のために。 ──だから、(一度言葉を切り、右手を差し伸べる。彼女を立ち上がらせるためではなく、この手を取ってもらうために。手のひらを上に向けていた。)……私と生きて、弐那。私のために。あとは……そうね、弐那のためにもなると、信じてる。(目は逸らさずじっとその藍色を見つめる。その澄んだ青色が力をくれるから。「生きろ」と彼女に願うことがどれだけのことか、すべては知らなくともそれなりに分かっているつもりだ。だから迷った。言葉にしなくても気持ちが伝わっていればいい、そんな日和も覚えた。でも結局求めてしまったのは弱さ故だ。だからこそ彼女とともに在りたいと願った。新たなのろいに、塗りかえさせてくれないか。)

三須原弐那〆 ♦ 2021/02/10(Wed) 00:40[102]

――や、  ったぁ……!(ひそやかに噛み締める喜びひとつ、女子寮の一人の部屋に静かに響いた。高揚する気持ちは素直に頬を染め、続いて難しそうな顔へと移り変わっていく。スマートフォンを両手で握ったまま。ううんと唸りながらベッドに倒れていく。こんな日は散歩に出ることも多いが、今日は彼の卒業の日。なんとなく、彼がここに来てくれる気がしていたのだ。――ちょうど一年前、三須原弐那は高卒認定試験にめでたく合格した。学校に通い直すことこそなかったものの、ここ自体が学校でもあるから、さみしくはなかっただろう。あの日思い出した大切な人たちの記憶を抱えて、情緒も感情もゆっくりと育っていっている。年相応になるまではいつまでかかるかわからなくても、不思議と不安はなかった。だってこうしてゆっくりでも、必ずやってきてくれる人のぬくもりをもう知ってしまったから。)――はい。……今出ます、久百合さん。(たった2音の自分の名前。でも呼び方で、その色で、彼だとわかるから。ベッドから起き上がって躊躇いなく扉を開け放った女は、ふへらと子供のように表情を崩して。いくらか伸びた体で背伸びして、出会った頃の彼と同じくらいに伸びた髪を彼に摺り寄せる。顔が近づけばその分気恥ずかし気にはにかんだ。綺麗な菜の花色のワンピースは、彼と一緒に出掛けた時に選んだものだ。――見てくれだけは年相応に成長して。その実まだ幼い瞳が瞬いて彼を見る。そわ、っとする心の機敏を今なら少しくらい上手に言葉にできるけれど。でも、)……二人で一緒に生きていく。そうですよね、久百合さん。(困ったみたいに眉を下げながら、仕方なさげに笑うのだ。本当は行かないでと言いたいけれど、何よりも彼の痛みの色を知るものとして、そんなことは言えない。だからせめて、呪いをかけるなら、二人一緒の色にしよう。彼の手に自分の左手をそっと重ねて。右手はその髪に伸ばされた。)あなたはあなたと私のために。それなら私は、私とあなたのために。……いきましょう、久百合さん。どこまでだって。(――ベッドに置き去りにされたスマートフォンには、都内大学の合格通知が表示されている。そうして今日もまた、新たなまじないを無垢な声で告げるだろう。) やっぱり、久百合さんが一番綺麗です。

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