治葛静音〆 ♦ 2021/02/12(Fri) 00:03[124]
(しょうがない?よくわかんない?彼の言葉に首をゆるゆる左右に揺らしながら小さく笑った。)あたしのことが一番大好きで大事って顔に書いてある気がするんだけど、勘違い? おかしいな。(図々しく図太い言葉は、彼の中に確かに己の居場所を見出してしまったからだった。面倒なことからは真っ先に逃げ出すだろうというのは今まで共に過ごした時間の中で十分感じ取れたし、彼自身の言葉でも教えてもらった。それゆえ今この瞬間に触れている手が何より特別な証のように思えてしまうから、緩む口の端にはどこか得意気な色だって滲んでいた。)そういうの、好きって言うのよ。覚えときなさ、 うわそれいつも持ち歩いてんの!? 好きどころか超好きじゃん、あたしもベッドのとこに置いてますけど……。似た者同士ね。……勿論よ、ずーっと一緒にいてあげる!(絡まっていた指先の温度に伴うようにじわりじわりと熱を帯びた脳髄が、一瞬で沸き立つ心地に目眩を覚える。ぎょあ!!なんて甚だ滑稽な悲鳴が口端を割って滑り落ちた。優位に立てたと思ったのなんてほんの一瞬、秒で攻守交替の現状を思い知れば地団駄を踏みそうな勢いで、)や、ヤなやつヤなやつヤなやつ~……!!! くろ太郎のくせに、もおおおお!(ジブリ宜しく零した恨み言の、それでも甘ったるいこと。結局は彼のことがどう足掻いたって大好きで、特別で、他の介在など許さぬ程の唯一なのだ。例えどんなにヤなやつだろうと、それだって全部全部が愛おしい。季節外れの温度を宿した頬を冷ますように両手でぱたぱたと仰ぎながら、そういえばと切り出すのは気恥ずかしい空気を誤魔化すためでもある。)詳しいことは今度話すけどー……。あたしね、もっかいお母さんと暮らすことになりそう。高専も出ちゃうけど、寂しがらないでね。……あたしはちょーっとだけ寂しいけど、“大丈夫”よ。(過日、投げかけられた問を思い出す。「此処出ても、大丈夫そう?」あの時は、ちっとも大丈夫じゃなかった。一人ぼっちになるのが寂しくて、心細くて、だけど今は彼がいる。離れたとてずっと繋がっているのだろうと信じさせてくれる存在がいるから、迷わず歩いていけそうだ。はにかむ顔を誤魔化すみたいに、両手を広げてえいと彼に抱き着いてみる。沖融たる温度に身を委ねながら、彼と生きる日々を願った。)