梵一期〆 ♦ 2021/01/14(Thu) 20:26[17]
(よしよし、よしよし。子どもをあやす手付きであると否定出来ない指先が時折、とんとん、と背を叩く。外にいた分、きっと彼女のほうが冷えていただろう。呼吸の落ち着きを感じ取る頃、ぎゅっと一層力を込めてついでに頬を擦り寄せてから離れた。名残惜しむ腕は彼女の肩から腕を伝って、「もお?」なんて不満げな、けれど冗談めいた声と共にだらりと重力に従うはずだった。やって来た提案に断るという選択肢はないし、むしろ期待がなかったといえば嘘になるくらい。他人の色を窺って大人ぶったところで、所詮は子どもだ。簡単に甘えて、握り返した手のひらはちょっぴり力んでしまったかも。)時間がなかったとしてもあるって答えちゃうお誘いだっ。もっと冬の朝のいいなってところ、一緒に探しにいこー。(ゆーら、ゆーら、繋がった手を揺すって、はしゃぐ心によって飛び出しそうな足取りをゆるく保つ。まず一歩、二歩、三歩。早起きは三文の徳を、みっつの良いことがあると誤って捉える頭があとふたつを欲張った。)あたしの初デートの相手、燈ちゃんになっちゃったな~。燈ちゃんは? 男のひととデートしたことある? 好きなひと、いた?(Xにいた頃は、それまでの話は意図して避けていた節がある。家族のことも、友達のことも、どう過ごしていたのかも。触れられたくなかったし、触れたらいけないもののような気がして。隣から彼女の顔ばせを覗き込んで、興味にきらめく双眸が無邪気に問えるのも、“あたしたち”の世界が好転したからだ。なにもかもが目新しい探検中、年相応に会話に花を咲かせよう。これはふたり仲良く迷子になって朝食に遅刻するまでの、のどかな日常の一幕。)