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白亜。俺たぶん、手紙は一生書けねえな。

近嵐隣〆 ♦ 2021/01/29(Fri) 05:58[65]

白亜さ、花火知ってる?(裏山からの帰り道、眦を赤く染めた名残はあれど声色に水っぽさはもうない。笑っていてほしいと言われた直後に涙ぐむ事態なんざ無論予期しちゃいなかったが、涙の理由をうまく説明出来るはずもないから、問われたとて気づいたら出てたくらいの返答が精々だったろう。花火の既知を問うたのは、“帰ってくんなら、預かんなくても一緒に使えば良くねえ?”の提案のもと、マッチには暫し彼女の部屋の留守を任せようと告げた後のことだった。)空にでっかく打ち上がんのも良いけど、手で持ってやんのも結構楽しくて俺は好きなんだよな~。やろうぜ、今度。(必要そうであれば擬音だらけの花火解説を交えてやろう。曖昧だった“今度”は少女の意思を知ったことで輪郭を得たから、楽しい約束を積み重ねるように徒に増やしていった。Xに対しては意識的に使っていなかった言葉が無意識にまろび出ていたのに自ら気付けば、つないでいた手に力を込めて注意を誘おう。)上の人らがどう考えてんのかは正直わかんねえけどさ、俺は、此処もお前が帰って来ていい場所だと思ってるよ。(それが許されることならば、もうひとりに脅えなくていい。帰ってきた敷地内の地面をザリッと蹴って踏みしめた。)

(昔から、文字で感情を伝えるのが苦手だった。そも考えをまとめて喋る事自体が不得手だから、理路整然とは縁遠い。声を発すれば軌道修正は一瞬だけれど書き言葉はそうはいかなかった。メールより電話、手紙なんて以ての外だからこそ、置き手紙の発想になんて至る訳もなかった。彼女の口から聞くまでは。)……また拗ねられっかな、これ。(ほとんど初めて作った赤い折り鶴は、完成形からして既に縒れている。広げた羽の部分へ黒いマジックで記したはみ出しそうな文字を見つめながら、昼間を思い返して薄く笑った。贈り物と言うにも、手紙と言うにも烏滸がましい。たった一言、“死ぬな”の文字は、信頼から零れ落ちた懸念であり、約束であり、祈りだった。――翌1月22日、夜明け前。任務へ出発する直前に寄った彼女の部屋の前にて、物音を立てぬようにドアノブに小さな袋を引っ掛けた。少々くたびれた赤い鶴と、小さな硬化ケースに入った二つの四つ葉のクローバー。)…………、(もう一度顔を見ておきたい衝動に駆られて思わず唇を割るけれど、あえかな呼気が廊下の空気に入り混じるだけだった。最後になるかもしれないからなんて、縁起でもない思考回路を無理矢理投げ捨て踵を返す。制服のポケットには、寒色の鶴が一羽だけ眠っていた。)

乙無白亜〆 ♦ 2021/01/30(Sat) 03:25[67]

知らない。(花火とは。異国の文化に寄り添った童話や児童文学には中々出てこないものであったので、ふるふるとかぶりを振ると共にそう答えた。やっと彼のかおばせが見えた時には赤く染まった眦を不思議そうに指摘したものだが、理由を聞けばそっかの一言で納得。彼と過ごすようになってからというもの、「わからない」感情に突き動かされることはむすめにもよくあった。けれど彼いわくいろいろ使い道があると言ったマッチの使い方はいまだピンと来るものはなく、だからその使い方も処遇も彼に一任したはず。それよりも今は、未知なる花火への想像を巡らせるのに忙しい。)うん。こんど、しよ。 はなび、きらきら、すごく楽しみ。(一通りの説明を受けてむすめがいっとう喰いついたのは案の定「光る」という言葉だ。またひとつ未来への約束を重ね、曖昧にしようとしたものを確かにしていく。そしたらもっともっと、てんしさまとの話し合いも頑張れる気がした。繋がりがいっとう強くなれば傍らの彼のかおばせをどうしたのって告げるよう、ゆるりと小首を傾いで仰ぎ見る。思わぬ言葉に瞠目したのはすぐのこと。)……そうだと、いいな。(すっかり歩きなれた地を踏みしめて、そっと息をつく。ここを眼下に見下ろした折、Xに居た頃よりもたくさんの記憶が脳裡を巡れば薄情にも自覚する。ここは、どこよりもあたたかかったと。)

(むすめがドアノブに引っ掛けられた贈り物に気付いたのは、翌1月22日の早朝のことだ。敬虔な生贄であったむすめの朝は早く、今は祭壇へ祈りを捧げぬ代わりに鶴を折ることに費やしている。けれど静謐な朝の空気を窓を開けて室内へと取り込んでいる最中にふと彼のかおばせが物思いの脳裡に浮かべば、任務前の見送りは叶うだろうかと身支度を整えてからドアノブに手をかけて違和に気付いた。小さな袋に入っていたものはふたつ。加工が施されたあの日の四つ葉のクローバーと、ちょっぴり頼りない赤い鶴。贈り主が誰かなんて考えるまでもない。紙飛行機しか折れないと、言っていたのに。天穹を羽ばたく鶴の翼へかけられた祈りを目の当たりにすれば、そこから溢れてくる想いに溺れてしまいそう。 昨日はてんしさまへの信頼もあって真正面から彼の心配を受け取ることが出来なかったけれども、今はただ純粋に彼の想いを嬉しく思った。)となり。(ドアノブに引っ掛かった小袋が雄弁に告げている。たぶんもう、彼は行ってしまったんだろう。ありがとうの代わりに大切に大切に大好きなひとの名前を紡いで、目的を失えばいつもの日課の折り紙をはじめようと部屋へと引き返す。今日の朝食はおにぎりでも食べてみようかな。Xに着て帰る修道服のポケットに祈りの鶴を潜ませながら、新たな挑戦へ一歩を踏み出した。)

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