乙無白亜〆 ♦ 2021/01/24(Sun) 23:43[51]
(持ち方のレクチャーを受ければ手許へと目線を落としつつ、言われた通りに角っこのほうを支えてみせては「こう?」と不思議そうに彼女を見つめた。送りの誘いにはこくんと頷いて、こっちと自分の部屋のほうへ向かって足を進めた。)おとうと……あかり、かぞく、おそとに、いるの?(聞き慣れない単語を拾っては、ゆるく首を傾いで問いかける。お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、妹、弟。Xのなかでもよく聞いた言葉、むすめには無縁なもの。けれどそれを家族と呼ぶことは知っていて、そこが子どもの帰る場所であることも知っている。のちに紡がれた音を聞いて、紅玉がじぃっと黒曜を見上げた。まっすぐ、心を伝えるように。)帰る。 てんしさまのところ、わたしのおうち、だから。(だってむすめに家族はいない。だから帰れる先はXしかない。誰かに頼まれたからとかそんな理由ではなく、自らの意思で。ちょっと長いお出掛けから家に戻るような感覚で、むすめは淡々と語った。)おはなし、するの。にえ、なるは、いやって。 わたし、にえ、なるために、たすけるされた、けど……てんしさま、おはなしすれば、わかってくれる、思うから。(そう信じたい。むすめの記憶のなかに在るてんしさまは、あたたかくて優しいひとであるから。想像するのは明るい未来だけ。だから声は沈まないで前を向いている。)あかりも、てんしさまと、おはなし、するの?(たぶん隣を歩いているだろう彼女のかおばせを伺うように見仰いでは、そんな問いを落とした。ただ家に帰るだけのむすめは、囮作戦などの詳細は一切理解していないゆえ。部屋につくまでの間、そうして他愛ない言葉を交わしていた。)