乙無白亜〆 ♦ 2021/01/12(Tue) 23:21[12]
(むすめがXをあたたかくて居心地のいい場所であると感じていたのは信徒への過度な妄信もさることながら、生贄の少女たちが向けてくれた優しさあってのものだった。傍らには常に信徒の存在が在って、独りで居てもみんなの輪のなかには進んで加わらなかったむすめであるからこそ憶えているかおばせは少ない。そういえば以前「千鶴ちゃんはおねえちゃんみたいだよね」と誰かが呟いていたことを憶い出す。姉がどのような存在であるのかむすめにはわからないけれど、ただ、話していると心がぽわぽわする。見つめられると、心がじわじわとあったかくなる。暗い空に瞬くお星さまを優しく見守る、お月さまのようなひとであると思った。)ちづるは、べんきょう、ない? わたしも、みんないる、思わなかった。でも、みんなかえらない、して、てんしさま、さみしい、してるかな。(ここでもむすめが一番に考えてしまうのは大好きと慕う信徒のこと。咎められることを恐れる幼子のように、或いは遠く離れてしまった恋人を想うように、紅玉がちょっぴりの憂いを孕んで下を向く。)うん、となり。おおきくて、やさしくて……それで、ね、外にしあわせ、ある、教え、してくれたの。 うん。ちづるも、すき、なる思う。(好きなひとに好きなひとのことを「好きだ」と褒めてもらえるのは、とっても嬉しいことだから。震える唇にも、明るく取り繕ってくれている彼女の優しさにも気付かぬまま、無垢なむすめは紹介の件にもひとつ返事で頷いて、答えをまつようにじぃっと明月の瞳を見つめていた。軈てその唇より彼女にとっての英雄の鱗片が零れたなら、ぱちり、紅玉をしばたかせて。)ちづる、いいえがお。(そのかおばせに咲いた甘やかな笑顔は、今まで見たなかでいっとう優しく、それでいてあたたかいものだった。ゆえにむすめも吊られるように紅玉を穏やかにとかし、)しあわせ、ふえる、すてきだね。(どこか作り物めいたむすめのかおばせも、この時ばかりはぬくもりを取り戻したように色付いて、おんなじを喜ぶように素敵だねと囀った。あたたかなお茶のお誘いにはもちろんこくりと頷いて、あとすこしだけ穏やかな時間を一緒に過ごしたはず。)