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(志だけはひとかど)

西風千鶴 ♦ 2021/01/10(Sun) 21:54[2]

(本来ならばもっと早く、どこかで気がつきそうなものだが――知識だけでは生き残れないと、千鶴が悟ったのはあの日だった。絶望的に非力だった。もし彼にその気があれば自分など、赤子同然だっただろう。考えただけでゾッとする。そうして深く反省した。育成方針を誤っていた、と。)……ッ、はぁ……も、むり………っ(反省して、どうなるかというと――高専に身を寄せて数日後。凍てつく風にふるえながら、千鶴は敷地内を走っていた。この3年間はたとえるなら、知識にステータス全振りの状態。けれど知識があったところでパワーやスタミナが底辺じゃ、使いものにならないと知ったから。体力をつけたいと相談すると、すべての基本はランニングだよとひとりの女生徒が教えてくれた。だから早速借りたジャージで、校舎の脇を走ってみたのだが。)……うそ、でしょ……こんな、きつい、のに……っはぁ、まだ…10分しか…走ってないの………?!(ぜぃぜぃと上下する肩に、規格外の軟弱が浮き彫り。気分が悪い。頭が痛い。慣れないことを急にしたせいで、軽い脱水になりかけていた。青白い顔でふらふらと、壁に手をついて進んでゆく。)脱水には……ナトリウムと…鉄……じはんき………どこ……?(知識全振りの甲斐あって、対処法なら完璧にわかる。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/11(Mon) 02:00[4]

(生まれてこの方、むすめは走るという動作をしたことがない。むすめが出歩く時は常に信徒の誰かに手を引かれるかたちであったし、そも急ぐという行為と無縁な生活を送ってきた身の上だ。日差しを知らぬ白磁の肌は汗を掻いたことすら一度もなく、喉が乾いたら飲むことと手渡されたスポーツドリンクを片手に、この日もむすめはのんびりゆっくり歩いていた。傍らに誰かを伴わない自発的な外出はXに居た時こそ一切しなかったものの、高専に連れて来られてからはそれも少しずつ変わり始めている。行動範囲は校舎のなかのみと言い含められているゆえ、日除け対策の帽子やサングラス、今時期必須の防寒具を身に付けていなくとも問題はない。足の赴くまま、それは丁度渡り廊下を歩いていた時のことだった。紅玉が壁沿いに見覚えのあるかおばせを捉える。Xに居た生贄のひとりだ。けれどなんだか様子がいつもと異なっているように思えたから、「ちづる」と壁に手をついて歩く彼女のほうへと近寄ったのはきっと好奇心であったのだろう。)かお、まっさお。 からだ、いたい? これ、のむ、する?(彼女のかおばせがひどく青褪めていることに気付いたなら、どうしたのだろうと不思議そうに首を傾ける。されど苦しそうだということだけは理解が出来たので、手に持っていたスポーツドリンクをひとまず差し出すことにした。)

西風千鶴 ♦ 2021/01/11(Mon) 15:53[5]

(息は整ってきたものの、失われたミネラルは補給しなければ戻らない。自動販売機か、あるいはその場所を知るだれかの姿を求めて進む千鶴は、さながら亡霊のようだっただろう。たしかに運動はしてこなかった。だけどまさか、ここまで基礎体力がないなんて。初日にして既に挫折寸前、不甲斐なく足を引きずるけれど――こちらに歩み寄る少女に気付けば、ほんのりと笑みを浮かべてみせた。)白亜ちゃん。ごめんね、びっくりさせちゃったね。(たどたどしくも言葉を重ねて、こちらを案じる優しい子。はずかしいところを見られちゃったなとばつが悪そうに眉を下げながら、「からだ痛くないよ。」と首を振る。)からだの中のお水がね。ちょっと、足りなくなっちゃったの。だから飲む、させてもらえると、わたしとっても助かるな。(大袈裟じゃなく心から、砂漠でオアシスの如き幸運。本当にいいの?という念押しを形式として挟んだなら、ましろく優しい天使の申し出に遠慮なく甘えさせてもらおう。ひと口、ふた口と含むにつれて、波が引くように治まる不調。さすが、スポドリの名は伊達じゃない。)ふぅ……。ありがとうね、白亜ちゃん。もう大丈夫。元気になった。(血の気の戻った顔ばせで、千鶴はにっこりと笑いかける。半分以上空いたボトルは、あとで未開封のものを返そう。)……白亜ちゃん、ここでの生活はどう?困ってることはない?(会話する余裕も取り戻せたなら、まず気になるのは少女の現状。救出された生贄の中に彼女の姿があったことは、正直すこし意外だった。Xを信頼していたこの子が、みずから離れることを決めるとは。)……助けてくれたおにいさん、優しい?(きっと理由はそれなのだろうと、思えば表情が柔くほころぶ。)

乙無白亜 ♦ 2021/01/11(Mon) 17:42[6]

(青褪めたかおばせを見てどうしたのだろうと不思議に思いはしたものの、驚いたということはないとふるふるとかぶりを振っては否を示した。Xに滞在している間は信徒と共に在ることが多く生贄の少女たちと言葉を交わす機会はあまりなかったけれど、だからこそ優しくして貰ったひとのかおばせはよく憶えている。痛みがないことを知ればほんの少し紅玉をやわらげて、)いい。 ちづる、のむ、して。(念を押すような言の葉にはこくりと頷いて意思を伝える。体中の水がなくなるというのがどういうものか瞬時に理解は出来なくても、それで彼女が楽になれるということだけはわかったから頷かない理由などなかった。ペットボトルの中身を口に含んでから暫し、彼女のかおばせに心做しか精気が戻ったように感じては「よかった」と謝辞も素直に受け取って、現状を問われたならば冴えたブルーグレーの眸をじっと見上げて音を紡いだ。)へいき。 ここ、あったかい。べんきょうも、教える、してくれる。(ここでの生活ははじめてづくしだけれども、現状、平穏に過ごしていることは常と変わらぬむすめの在りようをみてもわかるだろう。それに、この場所の居心地のよさは他ならぬ彼女も強く感じ入っているはずだから。)うん。 となり、とてもやさしい。てんしさまと、おんなじ。(こくこく、頷きながら助けてくれたひとのことについて語るむすめの紅玉はいっとう生の輝きを帯びる。むすめが慕うてんしさまとおんなじくらい優しいひとなのだと、謳うように囀りながら、)ちづる、たすけるしたひと、やさしい? ……しあわせ、ふえる、した?(この身を連れ出してくれたひとがいるように、彼女も恐らくそういうひとがいるのだろうと思い至れば、好奇心のまま穏やかに首を傾ぐだろう。)

西風千鶴〆 ♦ 2021/01/12(Tue) 18:10[9]

(大人へのアピールに関係なく、千鶴は案外社交的だ。特に年下の子らのことは、なにかと構ってやりたがった。無意識下で兄にもらった愛を、返そうとしていたのかもしれない。彼女と言葉を交わしたのはほんの数回程度だったけれど、雪のように美しい髪や宝石に似た紅の双眸がとても印象に残っていた。純真で、ゆえにとても危うい。つい気にかけてしまっていたのは、自分だけではないように思う。)そうだね。あったかくて……みんな元気で、ごはんもおいしくて。 勉強も?そうなんだ。白亜ちゃん、がんばって勉強してるんだ。(見仰ぐ紅を受け止める瞳が、そっと優しく細められる。不自由はないとわかってはいたが、少女の口から聞けばあらためて安堵が素直に声に載った。そうして、ひかりを宿す瞳に、千鶴は確信を深くする。どれほど彼を信頼しているか、その表情を見ればわかった。)…っ、そう。となり…くん? わたしも今度、お話ししてみたいな。白亜ちゃん、紹介してくれる?(てんしさま。 少女の紡ぐその一言に、僅かにふるえた薄い唇。けれどすぐさま微笑み直して、努めてあかるく言葉を継いだ。この子はまだ信じてるんだ。あいつらを、優しい人だって。胸が怒りでしずかに燃えて、けれど同時に浮かぶのは、少年への感謝の気持ち。助けてくれてありがとうと、いつか直接伝えられたらいい。)え? それが、わたしを助けてくれた人はね――(すごく意地悪で、いやなひとなの。 もしも相手が彼女以外なら、そんな憎まれ口を言っただろう。けれど少女の純粋な瞳は、千鶴を不思議と素直にさせた。脳裏をよぎる無邪気な笑み。一度言葉を切ったあと、はじらうように甘く笑って、こくりと首を縦に振る。)――…うん。とっても優しいひとだよ。あかるくて、強くて、優しいひと。わたしもね。しあわせ増える、したよ。(「白亜ちゃんとおんなじだね」。照れくさそうに破顔する。こんな台詞を当の本人に披露できるのはいつになるやら、それはまた別のお話として――温かいものを飲もうと誘えば、少女は応じてくれるだろうか。もしも時間が許すなら、もうすこしだけ一緒にいたい。)

乙無白亜〆 ♦ 2021/01/12(Tue) 23:21[12]

(むすめがXをあたたかくて居心地のいい場所であると感じていたのは信徒への過度な妄信もさることながら、生贄の少女たちが向けてくれた優しさあってのものだった。傍らには常に信徒の存在が在って、独りで居てもみんなの輪のなかには進んで加わらなかったむすめであるからこそ憶えているかおばせは少ない。そういえば以前「千鶴ちゃんはおねえちゃんみたいだよね」と誰かが呟いていたことを憶い出す。姉がどのような存在であるのかむすめにはわからないけれど、ただ、話していると心がぽわぽわする。見つめられると、心がじわじわとあったかくなる。暗い空に瞬くお星さまを優しく見守る、お月さまのようなひとであると思った。)ちづるは、べんきょう、ない? わたしも、みんないる、思わなかった。でも、みんなかえらない、して、てんしさま、さみしい、してるかな。(ここでもむすめが一番に考えてしまうのは大好きと慕う信徒のこと。咎められることを恐れる幼子のように、或いは遠く離れてしまった恋人を想うように、紅玉がちょっぴりの憂いを孕んで下を向く。)うん、となり。おおきくて、やさしくて……それで、ね、外にしあわせ、ある、教え、してくれたの。 うん。ちづるも、すき、なる思う。(好きなひとに好きなひとのことを「好きだ」と褒めてもらえるのは、とっても嬉しいことだから。震える唇にも、明るく取り繕ってくれている彼女の優しさにも気付かぬまま、無垢なむすめは紹介の件にもひとつ返事で頷いて、答えをまつようにじぃっと明月の瞳を見つめていた。軈てその唇より彼女にとっての英雄の鱗片が零れたなら、ぱちり、紅玉をしばたかせて。)ちづる、いいえがお。(そのかおばせに咲いた甘やかな笑顔は、今まで見たなかでいっとう優しく、それでいてあたたかいものだった。ゆえにむすめも吊られるように紅玉を穏やかにとかし、)しあわせ、ふえる、すてきだね。(どこか作り物めいたむすめのかおばせも、この時ばかりはぬくもりを取り戻したように色付いて、おんなじを喜ぶように素敵だねと囀った。あたたかなお茶のお誘いにはもちろんこくりと頷いて、あとすこしだけ穏やかな時間を一緒に過ごしたはず。)

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