乙無白亜〆 ♦ 2021/01/18(Mon) 18:21[29]
(苛立ち、焦燥。そんな息苦しさが彼の言葉から伝わってくれば、さっきまであんなに冷たく見えていた彼の寒色も今はなぜだか寒風の中で灯るマッチの火のように弱々しくむすめの紅玉に映るから、びっくりして白い睫毛をはたりと瞬かせた。)となり、(この時むすめの眸には、彼が大きな子どものように見えたのだ。その姿に何故だかここから逃げ出したいと語り怯えていた生贄の少女が重なって、気が付けば心配がるような音でそっと彼の名を呼んでいた。もう大好きなひとを信じられないと言われても不思議なことに哀しいとは思わなかったけれど、今度はまた別の感情が小さな胸のなかで蜷局を巻いている。彼のことをてんしさまのように優しいひとだと称したけれど、今この瞬間はっきりとそれは違うのだと認識した。)…………。(だって彼は死んでほしくないと言ってくれる。おんなじ色の人間を集めても、そのなかから見つけられるのだと言ってくれる。死ぬことだけがしあわせじゃないと、外はたくさんのきらきらしたものに溢れているのだと、約束が楽しいものだと教えてくれた。困っているような切ないかおばせを見てしまえば、心臓をギュッと掴まれたようなはっきりとした痛みが胸を襲って、紅玉を下へ下へと堕としてゆく。)…………わから、ない。(礎になることだけが、てんしさまへの恩返しだと思っていた。ゆえにいつもなら「できない」と即答するところを、けれど曖昧に濁したのはさっき見た彼の切ないかおばせが頭を過ったせい。あたたかな手がおりてくる。しあわせを増やしてくれる手。知らないことをたくさん教えてくれる手。大好きな手。御髪を乱す彼の手になされるがままにされながら、「あ」ふと眼差しを落とした先にふたつ並ぶ四つ葉を見つけては彼に報告するのだろう。「これでいいこと、ある、いいね」心からそう願った。)