七竈王哉〆 ♦ 2021/02/12(Fri) 00:52[125]
(ヒビ、打撲、目が見えづらい。並ぶ言葉は彼女の口調ゆえか大したことのないものに聞こえるけれど、十分過ぎる程の怪我だ。あの家入の助手として働く程にまで成長した彼女に頼もしさだって覚えるが、彼女を守りたいと思う意地や矜持がゆえに表情には複雑な色が滲む。言外に滲ますこれからの道だって、きっと伝わっているのだろう。勘が良すぎるのも困りものだ。彼女の前だと、つい本音を曝け出し過ぎてしまうから。)いい女になっちまってまあ……。もっと怒っていいんだよお前は、ふざけんなー!ってさ。……でも、(そこで一度言葉を区切って、この身を包む温度に目を伏せた。添えられた手に促されるように視線を持ち上げれば、双眸が重なる。)……でも、悪いな。どんだけお前を不幸にしても、手放してやれそうにねえんだわ。(彼女の無垢な言葉に殻を剥がれるような心地を覚えるのはさてこれで何度目か、紡ぐ男の言葉に見えも衒いも憂いもない。庇ってくれたと彼女は言うけれど、すべては男の術式に起因する。これから先も巻き込む可能性は十分あると知っていながら、それでもこの温もりを決して他所へはやれぬと言う傲慢さは彼女の声で加速していく。彼女が差し出す覚悟が、言葉だけの物ではないと知っているから。差し出すものは、自分だって等しい質量を伴うものでありたい。重たい腕を持ち上げ彼女の後頭部へ手を回したなら、そのまま引き寄せ唇を重ねた。欲に溢れた唇が、噛みつくみたいに彼女を欲しがる。もうお互いに、何も知らない少年少女ではいられない。呪いを知る身は不動の平穏を得ることは能わず、進む先は地獄か修羅か。例えどんな場所だって、道連れるのはお前がいい。)