今波燈〆 ♦ 2021/01/03(Sun) 15:09[1]
(とうとうこの日がやって来た。正確には期限が明確に示されただけなのだけれど、むすめにとっては似たようなものだ。逃げ出すための準備はそれなりに整えてきたつもりではあるものの、現状幾らシュミレートしてみても然程成功確率も高く無いしまだ時機ではないと言い聞かせ、結局今日も昨日までと変わらずこの檻の中でまやかしの平和を享受する。人気の減った縁側に座り込んで、冷たくなった指先を握りこんだり爪先で引っ掻いたりを繰り返しては庭先を見つめていた。にびいろの空が重たくなったこころを示すようで、思わず口元には自嘲げな笑みが浮かぶ。もうすぐ雨が降るのだろう。瞼を伏せて、すうと息を吸った。)……ちょっと寒くなってきたかな。何か持ってくれば良かった。あったかいお茶とか。(まなうらに友人と呼ぶには些か弱い、さりとて知らぬ仲とは呼べぬ少女らの姿が浮かぶ。彼女らは今何を考えているのだろう。――彼女らの選択が直接むすめに関係することはないのだろうけれど、何事も無かった風に記憶から消し去ることも出来ぬくらいには無視出来ずにいた。しかし、考えても考えても答えが出ることはない。ひんやりとした湿り気のある空気を浴びていれば、少しだけ頭が冷えてゆく。ゆっくりと瞼を持ち上げて再び視界にこの景色を映したなら、徐に深く息を吐いて決意を胸に秘めよう。 そう、まだ時間はある。けれど、もう間もなく時機が訪れる。なれば、後悔だけはせぬようにいたい。改めた決意を胸に秘めつつ床に手を付け、勢いづけて立ち上がれば自室へ向かうことにしよう。むすめの顔ばせは何ら普段と変わらぬものになっていたはずだ。)