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【5】(いま、こいねがわくは)

今波燈 ♦ 2021/01/29(Fri) 00:21[122]

(Xには、高専で酷い生活を強いられることになり逃げだして来たていを取って潜り込んだ。高専でよくして貰った証になりそうなものはすべて置いて来たし、前もって汚して置いた薄い衣服だけを更に寒さ厳しくなったこの季節にわざわざ身に纏う理由は他に無いと知ら占めるに買ってくれた筈だ。Xに戻って以降また少し体調の変化があったような気もするけれど、むすめのこころはそんなことに気を配っている暇はなかった。――そうして翌日。見る間に姿を変えたかなしい少女を、現実を理解できずに固まったのは可笑しな話では無かったことだろう。はくと息を呑んで、後退る。悲鳴と共に舞う死を前に、足の力を失いかけたところで我に返ったようにむすめも「早く!」とXにて再会した知人らと別れて逃げ出すことが叶ったのはそれこそ奇跡に近かった。共に逃げたってかまわなかったけれど、元より然程運動能力が高い訳でも無いし、一応贄の存在が今も認識されているともなれば共に在る方が危険だと踏んで別れて、 今に至る。)っ……。(いつかの光景がフラッシュバックする。否、希望を持っていただけ過日の方がましかもしれない。現実はずっとずっと残酷で、無慈悲な光景だった。歪みそうになる顔ばせと震えそうになるからだを叱咤して、止まりそうになる息と零れ落ちそうな涙をぐっと堪える。助けを待つ以外、今のむすめに出来ることはないなら。)逃げないと。――きゃ、(足を止めずに彷徨い走るしか道はない。とは言え、そろそろ上がった息を整えねば限界が来るだろう。そも、あの場から逃げる際にも無傷だったとは流石に言えない。朦朧とする頭の中で、阿鼻叫喚と高笑う声音とが木霊を続けていた。せめて少しでも安全なところはないかと物陰に身を隠しやすい空き部屋に飛び込もうとしたところでまた躓く。膝が擦れてじんわりと新たな痛みを覚えればまたみずからの力のなさと対峙することになって辟易するけれど、迫る恐怖を思えば落胆しきるにはまだ少し早いだろう。血の斑点を残したまま近場の空き部屋に滑り込んで、壁に背を預けてへたり込んだ。右手を当てていた左肩口から、ゆっくりと血が流れてゆく。乱れた息を整えんとおおきく息を吐いて。)

御調久遠 ♦ 2021/01/29(Fri) 23:14[123]

(数刻前、補助監督の胸倉を引っ掴んで危うく殴り倒しそうになったことは記憶に新しい。今も尚怒りが治まらない。それは上層部に対してか、隠していた少女に対してか、或いは斯様に不条理を突きつけてくる腐った世界に対してか。ああ、もうどうでもいい。今はただ、ただひたすらに──) ざッッッけんな!!!!!!!(一ヶ月前とは様変わりしたXの内部には、信じられないほどの呪いが犇めいている。階級は当時とまるで比べものにならない。遊んでいる余裕などないと瞬時に悟れば、ダガーを手に呪霊の体液を暴き、血肉を抉り、喰らう。黄昏の双眸を黄金に変え、細胞から膨大に流し込まれる情報を即座に脳で処理しながら今度は祓うために刃を振るい続けた。)ッ 、クソ……ッ。(しかし如何せん数が多い。今一番地獄に近しいこの場所で、血溜まりに落ちた肉塊を見遣れば嫌な想像も頭を巡る。最悪のヴィジョンを頭から追い出すように本日2本目の注射を首の静脈へと付き立てながら、今し方助けた信徒を振り返った。)オイ、テメエここの信徒だろ。イマナミのヤツはどこ行った。 あ゛?わかンねーだぁ?テメエらが生贄に捧げようとしたオンナだろーがッ!!!(殻になったシリンジを床へと叩きつけて凄んでやれば信徒はびくりと肩を震わせて、生贄の少女たちが逃げた方角を指さした。五条悟は恐らく今頃特級と派手にやりあっているのだろう。それで近くの呪いが引き寄せられてきているのか、悍ましい気配は一行に消えそうにない。転々と続く血の跡を見つければ、それを辿って歩みを進めた。言いたいことはたくさんある。見つけたらまずは一発、怒鳴りつけてやらなければ気が済まない。)イマナミッ! どこだ!!(阿鼻叫喚のなかでも聞こえるように、いっとう声を張り上げる。血の跡を辿りどこぞかの部屋の前へと着いたなら、躊躇なく扉を蹴破った。)

今波燈 ♦ 2021/01/30(Sat) 00:10[124]

(Xの中に至っては、何処にいても血生臭い匂いが鼻について、今も尚響き続ける轟音と叫び声が鼓膜を揺るがす。幾ら瞼を下ろそうとも死を貼りつけた顔ばせが、物言わぬ塊と化したひとだったものの姿が、視界から消えてくれない。幾ら消したくとも、流れる鮮血が、痛みがそれをゆるさなかった。いつかの話では恐怖が呪いを育てる訳だからおそれてはならないと思うけれど、間近に迫る死を前にして、ただひとりこころにも孤独を感じ続ける中で全くの無感情を貫けるほどむすめが強いはずもないのが口惜しい。とは言え、流れる血の割に多分大した怪我ではないものの寒さゆえか、はたまた単純にこの部屋にだって安全はない証左か――徐々に冷えてゆくからだを意識して、ああ死ぬのかもってぼんやり脳裏に過ぎるだけで済む辺り、よくも悪くも感情はまだ麻痺しているのだろう。その最中、あいたいとおもったのは今どうしているかも知れぬ家族ではなくて、このいのちを賭けてまもりたかったひと。いつだったか、むすめを迎えに来たと言ってくれたひと。襲い来る呪霊を前にして真っ先に顔ばせが浮かんだ、彼だった。むすめだって死にたくないし死のうとも思っていないけれど、これもまた己が価値を認められぬ報いと言うなら仕方ないかと半ば覚悟染みた思考が頭を擡げて、すぐ首を横に振る。今のむすめをつなぎ止めているのは多分意地にも近い独りよがりのそれ、支えらしい支えもないからひとりよわると危うい思考に走っていけない。瞼を伏せた、たまゆら。)、 みつぎ……?(まぼろしか、はたまた現実か。声が聴こえた。本当なら、反応すべきではなかったのかもしれない。その分、彼だけではなく“死”に見つかる可能性も高くなるからだ。今見付かってしまえば、大した抵抗も出来ないだろう。それなのに、消え入るようなかほそい声が漏れてしまったのは、多分むすめの弱さであり、偽らざるおもいゆえ。気の遠くなりかけた、朧げな意識を集めて扉の方を向いたところで。)ッ!(突如吹っ飛んだ扉を前に、びくりと怯えの色を確かにからだが跳ねた。それでも過日のように意識を張り詰め続けることも一気に覚醒して動くことも出来なくて、せめてとひどく緩慢に不安げな面持ちでそちらを見遣る。双眸に彼の姿が映れば思いがけず「――、」彼の名を呼んだはずだったのに、乾いた喉とくちびるではうまく声が出せなくて。)

御調久遠 ♦ 2021/01/30(Sat) 14:38[125]

(一ヶ月前と同じ面子に五条悟を加えて乗り込んだXには、此度保護されていた他の少女たちも全員まるごと囮として送り込まれたらしい。緊急招集を受けた折、集まった同輩らの貌はそれは酷いものだった。男も恐らく似たような面を晒していたに違いない。呪術師である以上憤怒を抑える術は心得ているとはいえ、今はそれを無理に抑えようとは思わなかった。蹴破った先に見えた部屋には幸か不幸か呪力の残穢はなく、血の跡へと眼差しを滑らせて──)見つけた。(壁に背を預ける形でへたり込んでいる、捜していた少女を黄昏に捉えては先刻までの怒りが嘘のように無感情な音が落ちた。けれどこめかみに薄らと浮かぶ血管は、その内に静かな怒りが燃えている証左。少女の前まで歩み寄れば、少女の貌のすぐ横に左足を突き立てるだろう。壁ドンならぬ足ドンというやつだ。)オイ、なにかオレに言うことがあるンじゃねーのか。(注射痕の残る首筋を隠すように手を置きながら、不機嫌を隠すことなく口吻に乗せる。囮作戦のこと、嘘をついていたこと。他にもこの身に言うことはたくさんあるだろうと、鋭い黄昏が少女のまなこを射抜かんとする。肩口を濡らす赤に気付けば無意識の内に眉間に皺を寄せていた。斯く言う男も酷い恰好だった。呪霊と己の血液で白衣はすっかり汚れていて、そこらじゅう傷だらけの穴だらけだ。けれど実際重傷というほどでもなければ、薬で痛みもあまり感じちゃいなかった。)

今波燈 ♦ 2021/01/30(Sat) 15:29[126]

(どうやら呼吸は刹那、止まる運命にあるらしい。聞き間違うことのない声が、やや乱暴に突き立てられた足から走る衝撃が、現実を知らせて信じ難いものを見たかのように双眸をまろく変化させ、身を強張らせる。次いで眉尻を下げ困った風な声音を隠すことなく、朧な視界に映し出すそのひとに掠れた声を上げた。)――、……怒りに来たの?(先程の呟きと言い、むすめを探していただろうその台詞にとまどいを隠すことも出来ず間抜けな問いを投げる。思考はまだ本調子ではないが、彼が此処にいる理由は大体想像がついたから問うこともなしに苦い口を開いて。)……ごめんね。御調を危ない目に遭わせるつもりじゃ、なかったんだけど、 結局足を引っ張って、御調に迷惑を掛けてたら、世話無いね。(むすめが作戦を受け入れたのも彼にそれを隠し通したのも、結局はそれが理由だ。彼の様相にいたましそうな視線を向けて、緩慢に瞼を閉じる。ふかく息を吐いたのち、再び瞼を押し上げてはみたものの、し目がちになってしまったのは居た堪れなさと情けなさゆえといったところだろう。先日の反省もあるから多くの言葉は語らず、右手を肩から外して――血塗れたてのひらを眸子に宿したなら見えぬように再び肩口に手をあてなおし、億劫そうに左手を使って彼の足を退けて貰えるよう押す形で力を加えよう。 まだ、感情は停滞を続けている。)

御調久遠 ♦ 2021/01/30(Sat) 17:08[127]

(出会ったら速攻で怒鳴りつけてやろうと思っていたのに、弱々しい姿を見てしまえば頭の中に渦巻いていた罵倒もどこかにいってしまった。少女の口から落ちた言葉を聞けば、怒られるようなことをしている自覚は多少なりあるのだなと舌打ちもしたくなる。補助監督より囮作戦の話を聞きはしていたが、これでなにも知らされずに此処に戻されたという線はないと確信した。知っていた上で、隠されていた。その事実がどうしようもなく腹立たしい。苦い「ごめんね」を聞けば殊更に、やり場のない感情がこみ上げてギリッと奥歯を噛みしめた。)そうじゃねーだろ。(聞きたいのはそんな言葉じゃない。少女の様子に沸々と鎮めていた怒りが再び湧き上がるのを感じては、隠しもせずに悪態を吐いた。足を引っ張るだとか、迷惑を掛けただとか。そんなことはどうでもいい。怒っているのはそこじゃない。相変わらずひとりで全てを抱え込もうとする少女の頑なな在り方に、どうしようもなくはらわたが煮えくり返っていた。)オマエ、囮にされるって知ってたンだろ。……ンで隠してた。 本気でオレに迷惑かけたくねえって思うンなら、黙ってンじゃねーよ。ソッチのほうが迷惑だ。(不機嫌な声色は存外静かだった。足を退かさんとする動きに抗うようにいっそう壁を蹴る足に力を籠める。左腕も壁に押し当てぐっと前屈みに躰を倒したなら、先刻よりも近い距離で少女を睨むだろう。)

今波燈 ♦ 2021/01/30(Sat) 19:03[128]

(否定される謝罪には眉尻を下げたままくちびるを引き結んで、ふかく息を吐く。視線は未だ彼の双眸を見遣ることもなく、そのくちびると首筋とに向けられていて。)そうだね、……こうなるって分かってたから。 御調は、知ったら折角助けたのにって上の人たち怒りに行くと思ったの。でも、そんなことしたら疎まれてもっと嫌な任務を与えられるようになるかもしれないじゃない。それに、一応上の人たちも秘密にするからには理由があるだろうって思ったのと、御調、昨日だって任務だって言ってたでしょ。これ以上Xにかかわることを知らないままで終われるなら、それで良いのかなって。 それこそ、私のことは“関係ない”って、解放されるかも知れなかったでしょう?(今となっては隠す必要性も理由も無いだろう。「御調、自分のことは後回しにしがちだしね」とむすめの安全には気を配る癖、みずからのことはどうでも良さそうに話す口吻が脳裏をよぎる。ぴくりとも動かない足には諦めたように手を下ろし、流石にこれ以上は無駄かと緩慢な素振りで彼の顔ばせを見上げるようにして見つめればそうと手を伸ばしかけて――そのまま定位置へと戻るように下りてゆく。)ごめんね。(結果はこのざまだと自嘲するような笑みが口許に浮かぶ。感情が戻ったと言うよりは、顔ばせがそうなることを知っているかのような無意識のものだった。)

御調久遠 ♦ 2021/01/30(Sat) 21:29[129]

(母に似たような視線を投げかけられてきたからか、昔から誰かに心配を向けられることがどうにも嫌いだった。生に執着が持てない身なら尚更だ。首筋の注射痕を見られたって、躰に空いた傷に気付かれたって、けれどもう隠そうとは思わない。少女が男に隠して行った理由はある意味予想通りで、だからこそ怒りも湧く。この惨状を思えば生きて出会えたのは奇跡に近い。言葉にした通り、本当にこの身の為を思うなら真相を話してくれたほうがまだよかった。それで喩え上層部に疎まれようとも、知らずに喪うより最悪な状況などない。)……ごめんじゃねえンだよ、バカナミ。(自分のことは後回し。そりゃそうだ。他人の心配をする癖、自分を振り返った試しは一度だってない。そも術式事体が人体に影響する自虐的なものゆえ、我が身の心配などしていたら術師なんぞ務まらぬだろう。やっと絞り出したような覇気のない声は、きっと何時になく弱く響いた。)死んでたかもしれねーンだぞ。(そんな想像、ここへ辿り着くまで幾度も脳裡に描いてきた。もし血溜まりに沈む少女を見つけてしまったら、この身に押し寄せる感情も容易く想像が適う。少女の左肩の裂傷を見遣れば、空いた手で貌の半分を覆った。溜息が零れる、行き場のない感情を外へと逃がすように。)オマエの安全保障してやるつったろ。……オレを嘘吐きにするつもりかよ。(安全を保障してやると一ヶ月前に言い切った。その言葉を今でも引き摺っている。囚われの身で自由を知らなかった少女が明るい未来を見れるようになるまでは、見守ってやろうと思っていたのだ。けれど所詮、少女からすれば男の自己満足にすぎぬのだろう。自嘲が零れた。)

今波燈 ♦ 2021/01/30(Sat) 22:17[130]

そうだね……さっき、死ぬのかなって思ってた。(恐怖もかなしみも何もなく、事実を語るように苦みを含んであわく笑った。恐怖を口にしてしまえば、堪えていた感情が一気に溢れて、泣いてしまいそうだったから。平素と異なる彼のさまには胸が締め付けられて眉尻を下げたまま、今度こそそうとまだ綺麗な方かと左手を伸ばす。動かすのも億劫ではあったけれど、叶うならその頬に触れよう。何を口にしたらよいのかわからなくて「御調、」と彼の名だけを静かに呼んだ。)……もう、して貰ったよ。 だから、お返しをしてあげたかったの。私が持ってるものなんてそんなにないけど、それでも出来ることがあるならしたいって思った。それに、何より、 御調に生きてて欲しいなって思ったから。(少しでもその安全をはかれるなら、それでよいと思っていた。眦を細めて語っていれば、自然と視界が滲んでゆく。触れることがもし叶っていたようなら、やわくその頬を撫でたことだろう。元々は人よりも体温が高い方だったし、多少冷えていたところでこの手が氷のように冷たいということもあるまい。)それともなあに、ずっと見ててくれるつもりなの? そこまでしてくれる理由が、ある? 私、そんなに危なっかしい子どもだった?(力ない軽口に冗句と本音を織り交ぜる。そこまで話したところで再びゆっくりと息を吐き、諭すような口吻で声を震わせた。)――ねぇ、御調。ちゃんとわかってる? ずっと私を見ててくれるって言うなら、御調は絶対に生きてなくちゃいけないんだよ。御調は、誰よりも御調のことをまもって、たいせつにしてあげなくちゃいけないの。

御調久遠 ♦ 2021/01/31(Sun) 00:49[131]

死ぬの、怖くねーのかよ。(男のように死が付き纏うような日常を謳歌しているわけでもない普通の少女であるのに。そこまで考えて、元は少女が生贄としてここに囚われていたのだったと思い出す。まるで慰めてくれているみたいに頬に触れる手は温かい。呼ばう声を聞けばどこか不機嫌そうな黄昏がじとっと少女を見つめるだろう。)お返しっつーならもっとオレが喜ぶようなコト、しろよ。ンなふうに隠されンの、マジで気分悪ぃ。(生きていてほしい。これまた予想通りの言葉が少女の口から零れれば、溜息と共覇気ない音が零れ落ちる。憤怒の炎はいつの間にか勢いを失くし、胸の内でぷすぷすと燻っていた。頬を優しく撫でてくれる手を払うことなく甘受して、軽い口吻には不貞腐れたような音で返す。)……せめてXっつー不安要素がぶっ潰れて、オマエが明るい未来を見れるよーになるまでは、見届けてやつるもりだった。(少女が高専を出て行くのもそれくらいだと勝手に思っていた。だからそれまでの間、少しでも少女の世界が広がるように、楽しみを見つけられるように外出に連れ出したり、そんなことをしようと考えていた。独りよがりの計画だ。)わかってンよ。長く生きろって厄介な呪いはもう生まれた瞬間に受けてンだ。けど、「絶対に生きる」なンて約束は出来ねえ。したくねえ。……生きるって大変なんだよ、死にたがりにとっちゃ特にな。(とはいえこんな仕事をやっているんだ、いつか唐突に死が訪れたって不思議じゃない。普通に生きていたってそれはおんなじことだろう。この世に「絶対」なんてない。言葉に宿る想いは時に呪いとなるとわかっているからこそ、それだけは交わしたくない約束だった。)

今波燈 ♦ 2021/01/31(Sun) 01:42[132]

……御調は? 御調は、怖かった?私が死ぬの。(顔ばせにあわい笑みを湛えたまま、ここに来ても尚答えを濁す。しかし、震え始めた声音では堪えるのもそろそろ限界を迎えるのだろうとも思うから、もう少しくらいはせめてと平静を装った問いを投げ掛けた。それから、ふ、と鼻腔から空気が抜けてちいさな笑いが漏れる。)何言ってんの、何しても大して喜んでくれない癖に。……でもね、生きてたらもしかしたらもっと素敵なことが待ってて、御調が嬉しいことも増えるかも知れない。 それに、隠さなくても気分悪くなってたでしょ。だったら、少しでも御調が安全でいてくれる方がよっぽど良いもん。(腕を持ち上げている体勢は少し辛いものがあるけれど、頬を撫でる手の動きは止まない。眉尻を下げて、呼気を落としたのはそれからすぐに。)私、見てないように見えた? でも、それなら……明るい未来を見てない方が、良いのかもね。だって、そうしたら御調は死ねないでしょう?嘘吐きになっちゃうんだから。(願うことは似ている癖に、互いにひとりよがりで見ているものが違うのだろう。そうと撫でていた手を下ろして、少しだけ浮いていた背を再び壁に預けた。)そこは、してくれないと。 ……知ってるよ。生きるのが大変なことなんて、前からずっと。だからこそ、言葉の力も、……約束を信じてくれる、誰かと一緒にいられる支えも、たいせつなんだと思うの。(むすめにとってそれは祈りであって願いであって希望だけれど、彼にとっては呪いらしい。「御調、」と再び紡いだ彼の名に精一杯のおもいをこめて。)

御調久遠 ♦ 2021/01/31(Sun) 16:21[133]

……オレの知らねーところで勝手に死なれンのは、嫌だと思った。(ここでも今頃、こうして少女と話している間に生き残りが呪霊に殺されているかもしれない。怖いというより、嫌だった。辛いというよりは、虚しいと思った。守れるだけの力があると自負しているだけに、知り合ってしまった以上、手の届く範囲であれば救いたいと願ってしまう。諭すような物言いには釈然としないようすでじとっと少女を見つめていた。)なにをしてもって言うほど、オマエがオレになんかしてくれたコトあったかよ。 それにこれのどこをどう見たら安全なんて言えンだよ、アホナミ。(特級さえ現れなければとは思うものの、所詮は結果論に過ぎぬであろう。思わぬ言葉が少女の口から飛び出せば、訝しむように眉を顰めて吐息した。)はぁ? ンだそりゃ、勘弁しろよ。もうすぐ二十歳になるオンナがいつまで経ってもひとり立ち出来ねえのはさすがにやべーだろ。(いつまでも面倒を見続けるのは御免だというように、軽い調子で肩を竦めてみせる。実際、いつまでもこんなことをしてられないのは確かだろう。他人同士ゆえこそ別れなければならない日が来る、学び舎に集う同輩たちとてそれは同じだった。)……悪い。それでもやっぱりオレは「絶対に生きる」なんて言いたかねえし、約束もしたくねえ。(少女の想いに応えることは、やはり難しい。嘘は吐きたくないから、容易に頷いていいものでもない。だから、)オレが久遠である限り、そう簡単にゃ死ねねえンだ。それで勘弁してくれよ。(それでどうにか納得してもらえないものかと、眉を下げた困り顔で妥協案を打ち出した。)

今波燈 ♦ 2021/01/31(Sun) 17:51[134]

ふふ、御調の方が子どもみたい。何で嫌なの、自分の言ったことが嘘になるから?(それとも、とはもう聞かない。聞けない。ただ、言葉にしなかったことそのものに悔いはなかった。彼が死にたがる以上、みずから危険を招くような真似は出来ないと思うから。彼が生を求めていない以上、どうしてむすめだけ求めることが出来るだろう。彼にすくわれたいのちだというのに。)ないなぁ、……それを御調が求めてないと思ったからね。 だから、それはごめんって言って――(廊下の外でまたおおきな音が轟く。未だ死の気配は遠退かず、寧ろ刻一刻と迫るかのようだった。思わず息を呑んで、言葉も止まる。)……そうでもしないと御調が死にたがり続けるなら仕方ないよ。(むすめはそんなに子どもではないつもりだけれど、それが理由になるならと困った風に笑って見せる。次いで、)できないよ、御調。だって、それでも私は御調が死ぬのは嫌なの。生きてて欲しいんだもん。 それに、その提案に頷けってことは、御調が私に“諦めろ”って言ってるってことと同じ意味だよ。分かってる?(彼の中の矛盾もさることながら、投げ掛けられる言葉の矛盾を突く。それでも、死にたがりで生き急いでる彼が、最後の最後で一歩踏みとどまって、生きたいと、生きようとしている理由がその呪いのせいだと言うのなら、むすめはそれに感謝せねばなるまい。だから紡ぐ言葉には何処までも責めるような口吻より、彼を引き留めるだけの価値もないむすめ自身に対する失望とかなしさをていして。)御調がそれでも私に“諦めろ”って言うなら、そうする。これは、御調が教えてくれた“自由”だから。 でも、そう言えなくて御調が困るなら――もっと困って。考えることから逃げないで、どうしたら良いかって一緒に考え続けてよ。(嘘でも肯いて欲しい訳じゃない、絶対何てこの世にあるとだって思っていない。それでも、気持ちだけでも求めるのはそんなにいけないことかと納得できずにいる。それが子どもたる証左と言われれば反論は出来ないだろう。こうして紡いでいるのもむすめなりの妥協と言えば妥協なのかもしれないけれど、それでもやっぱり諦められないものが、みずからの気持ちを誤魔化したくないものがそこにはあるから。)御調は、私がいなくなっても、怖くも無ければ寂しいって思えないのかもしれないけど。私は、御調がいなくなったらかなしいし、寂しいよ。御調がいなくなるのは、 こわいもん。(その結果、生きることが虚しくなることだってあるだろうし、つらくなることだってあるのだろうと思う。むすめの死に対する恐怖より先に紡ぐことになったそれがどんなに切ないかたおもいであろうとも、それはむすめにとっていっとうたいせつな理由。震える声音で訥々と紡ぎながら、膜を張った双眸から一筋のひかりが零れ落ちてゆく。)

御調久遠 ♦ 2021/01/31(Sun) 23:29[135]

知ってるヤツと知らねえヤツが死ぬのとじゃ、違うだろ。(最後は歯切れ悪くなったものの、事実だ。薄情なことに、今この時知らぬ誰かが命を落としていたとしても興味がない。どうでもいい。でも少女は既に知らないひとではないし、他人と割り切るには長く一緒に居すぎてしまった。守れる範囲で、護ってやりたいと想うほどには大切に感じている。開き直りにも等しき言葉を聞けば大袈裟に肩を竦めて呆れたような溜息まで吐いてみせたけれど、外より響いた音を聞けば警戒宿した黄昏が廊下のほうを見遣った。わかってはいたことだが、ここは安全な場所ではない。生きるとは言わないが、しかし生き続けることを望まれた躰なれば少女の言うように「生きる」ことはするだろう。だからそれでいいだろうと、せめて意思くらいは自由でいさせてくれと言葉を挟もうとしたものの、少女の滔々と語られる言葉に負けてぐっと音を飲みこんだ。頬を伝う涙を見てしまえば殊更なにも言えなくなってしまって、ぎょっとびっくりしたようすで黄昏を瞠った。自分が少女を泣かせているのだと思うと罪の意識が胸を刺して。)イマナミの気持ちは、なんつーか……オレに向けられンのが不思議なくらい、有り難いモンだと思ってる。(こんなにも本気で心配を向けられたことなど一度もない。偽りばかりに慣れてしまって、真っ直ぐに気持ちをぶつけられることに慣れずにいる。斯様に心を砕かれたのもはじめてで、有り難いものなのだと理解は出来ても正直どうしていいのかわからない。感情を持て余すように首へと手をやりながら、「泣くなよ」と一言。こんなふうにしか言葉をかけてやれないのがもどかしくて、苦し紛れの悪態を打った。「でもさ、」言葉を続ける。)そこまで言うンなら、一緒に考え続けてとか言うその前によ、まずは信頼させてくれよ。オマエのこと。 今日みてえにオレのため~とか言ってテメエ独りでぜんぶ抱え込んで、なにもかも隠しちまうようなヤツと「一緒に考え続けていきたい」なんて、少なくともオレは思えねえンだわ。 これからの話をすンなら、それからなんじゃねーの。

今波燈 ♦ 2021/02/01(Mon) 00:44[136]

……御調が悪いんじゃない。(唯の言い掛かりで八つ当たりだ、彼は何も悪くない。それでも一度感情が溢れてしまえば、一筋道が出来てしまえば流れ落つる想いを止める術はなかった。一気に思考が、感情が戻って来る。そんな場合じゃないと分かっていながら、大粒の涙が頬を伝って薄汚れた衣服に染みを作っていった。水分を含んだ服は少しずつ肌に張り付いて冷たい空気を含むのに、気にならぬくらいの熱に胸が詰まってくちびるが震える。力なく肩口に充てていた手も下ろし、視線も下へと落ちていったなら揺らぐ空気を必死に食んで。)御調が、そうやってひとりで生きて行こうとするから……ッ。隠さなかったら、御調がもっと危ない目に遭うかもって思ったら、言えるはずないじゃない! 私だって、(うまく空気が吸えなくて、しゃくり上げるように声が震える。泣き訴える顔ばせ何て歪んで可愛げも何もあったものじゃないだろうが、構うことなく痛いくらいにてのひらを握り締め、真っ直ぐに射貫くような視線を彼へと向けた。)私だって、ひとりでぜんぶ抱えたくて、好きで隠したくて、こんなとこに来た訳じゃない!もっと御調たちと笑って過ごしてたかったよ。離れるのも寂しかったし、こわかったよ……ッ。 でも!……でも、あの時、私がそんなことを言ったら、――たすけてなんて言ったら、義務みたいに生きて、死にたがる御調が、生き残ろうって思ってくれるって、どうしても思えなかった。私だって、 私だって、御調のこと、信じていたかったのに。(平素と異なる彼のさまに気遣っている余裕は今のむすめには無い。肩口の血は少しずつ乾き始めていて、動かせば痛みを訴えてきたけれど構わなかった。腰を浮かせて、両腕を彼へ伸ばす。彼の反応によっては乱暴に襟元を掴むだけに終わったかもしれないし、首に腕を回して縋るような形になったかもしれない。)御調が、泣かせてるんだよ……。(彼の正論に返す言葉もないはずなのに、無茶を押し付ける。「ほんとはね、」とささめく声音は轟音の中に消えてしまっただろうか。)御調にちゃんと伝わらないのも、私が、上手じゃないせいだって、分かってるの。勝手に拗ねて、勝手に私から見える御調の生き方を見せてやろうって、躍起になってただけだって。(――ごめんね。 泣き掠れた声でたった一言を紡げばそうと両手を引いて眸子を擦り、そのまま震えるからだごと顔ばせを隠してしまうつもりだった。)

御調久遠 ♦ 2021/02/01(Mon) 22:22[137]

(退屈な毎日。簡単な人生。減っては増える同輩たち。なにひとつとして代わり映えせず、虚しさが募るばかりで辟易している。けれど今目の前にある変化の兆しを掴めずに居るのは、抱えた矛盾のせいだ。どちらにも傾かぬ天秤の均衡が片側へ、生へと沈むことを拒んでいる。退屈を晴らすということは、虚しさから解放されるということは、つまりはそういうことだった。少女の心の叫びを、想いの吐露を聞いてなお、湧き上がるのはなんでそこまでこの身に執着するのかという疑問。否、理由はなんとなくわかっている。なれどなににも興味を持てない身の上ではどうしたって疑問が勝って、伸べられた両腕に思わず身を引いてしまったのも無意識のことだ。身長差的にも襟元を掴まれる形となったなら、男にしては珍しくたじろいで少女を見つめただろう。わかっている。自分が少女に寄り添えなくて、哀しませて、泣かせてしまっているのだと。震える躰は今にも消えてしまいそうなほど儚く黄昏に映るから、思わず指先を伸ばし掛けて──やめた。出来なかった。握りこんだ指先は、そのままだらりと堕ちていく。)それならオマエ、これからもオレの行動にいちいちビクついて、死ぬつもりなンじゃねーかって怯えながら生きてくつもりかよ。(少女をこんなふうに追い詰めてしまったのも自分の在り方のせいであると自覚はしている。けれどそんなんじゃ疲れるぞと、ちいさく肩を竦めてみせた。次いで否定するように首を振ったのは男の「死にたがり」についてだ。)言っとくがオレはここに死ににきたワケじゃねえ、オマエを助けるためにきたンだぜ。 それにその言い草じゃ任務の度にオレが毎回死にたがってるとか思っちゃってるみてーだが、そりゃ違えよ。言ったろ、厄介な呪い掛けられてるって。オレ、オマエが想像してるより死にたがりってわけでもねえよ。ンな任務で毎回死のうとか考えてねーし。呪いも弱えし。(死にたがりではあるけれど、だからといって毎回死にたいと考えて行動しているわけではない。その理由は呪いがあるからと言わざるを得ないがそれでも生きるために戦っているのは確かだろう。戦ってみなければ生死のほどはわからない、それはどの術師にも言えること。ちょっと無茶な戦い方をするだけで、男も他の術師と置かれている環境は大差ない筈だと自負している。)つかオマエ、オレに嫌われてえのか好かれてえのかドッチだよ。オレの生き方見せつけてやろうとか、それ、すげえオレへの嫌がらせじゃん。(先刻掛けられた「躍起になった」との言葉を思い出しては苦笑も浮かぼう。悪戯を仕出かした子どもを見守るようなあたたかい眼で、先刻届かなかった指先をもう一度少女へ伸ばす。もしも避けられなければそのまま小さな頭に手を置いて、くしゃりと頭を撫でんとした。)

今波燈 ♦ 2021/02/02(Tue) 00:03[138]

そんな生き方したくないから、今こうやって言ってるんじゃない……。(震えるのは寒さゆえか、もどかしさゆえか、はたまた苛立ちかかなしみか。むすめには判断できなかった。それでも、)疲れたくないから考えないなんて、それこそ諦めてるだけでしょう。 ……ついでにもう一つ訂正。御調は死にたがってるって言うより、何時死んでもしょうがないって諦めてるように見えてるって言ってるの。(泣き腫らした双眸は既に彼の方を向けられなかったけれど、しゃくり上げる息を止める術もないまま、掠れた声音でおもいを紡ぐことだけはやめない。「分かってよ、」ねえ本当に分からないのって、くちびるを食んだ。また泣き濡れた吐息がひとつ零れてゆく。)呪いなんかじゃないよ、願いじゃない。祈ったんだよ、生きて行く中で御調にしあわせを見つけてって。御調のことが、たいせつだから。――御調のことが、すきだから。 他の誰かじゃなくて、御調だからこんなにも嬉しいんだよ。(誰か知れぬひとが昔日に彼に掛けた言葉が本当にそうかは分からないけれど、重ね合わせるようにして紡いだそれははにかむような甘酸っぱさよりも切なく響く。力不足と知らされてかなしんだのも、ばかみたいに会いたくて仕方なくなったのも、このおもいが届かなくてくるしんだのも、むすめを助けに来てくれたって言ってくれた時胸があんまりにもあたたかくなって泣きたくなったのも、結局のところはぜんぶぜんぶそういうこと。)……嫌われたくはないし、好きになってくれるならそりゃ、…………ううん!好きになって貰えるとは思ってないもん。今まで、そうだったし。 だったら、御調が怒ったのと同じだけ、私だって痛かったんだって分かれば良いと思ったの。御調が私に明るい未来を見せてやりたいって思ったのと同じように、私だって御調にそう言う未来を見て欲しいって思ったんだよって。(本音だった。元より、誰かに好きになって貰えるような性格だなんて思ったことも無い。だから、旋毛に触れた手に驚いたことは否めない。びくりと肩を跳ねさせて顔ばせを持ち上げれば、我に返ったように顔ばせを隠すまで数秒と言ったところだろう。羞恥が襲ってまた再び床へ視線を戻すも、ちょっぴり困った風な心地に揺蕩うことになったのはひみつにしておくとして。)

御調久遠 ♦ 2021/02/02(Tue) 22:58[139]

発破かけなきゃ言わなかったろ、ここまで口割らせるのにオレがどれだけ苦労したと思ってンだ。(死に急がせたくないと、死から遠ざけたいと口を閉ざされてばかりでは気付きたくても気付けまい。遠回しで言われていたとしてもそれを察するどころか気付かぬ振りをする男なもので、尚更性質が悪かろう。溜息ひとつ。図星喰らえばバツが悪そうに双眸を逸らした。)呪術師なんざそンなもんだろ。実際、死ってのは理不尽だ。死ぬんじゃなくって殺されるってンなら特にな。悔いがないってほうがレアだろ。だから、(諦めている? 違う。それっぽく理屈を並べているだけで、少女の言うことが正しかった。いつ死んでもいいと思っている、生に執着はないし未練もない。されど少女はそれが嫌なのだと言う。涙で震える声が鼓膜を打つたびに、ひどく遣る瀬無い想いに駆られている。ひたむきな想いを言葉として聞いてしまったなら今度こそ逃げられなくて、だけれど受け止めるには純粋すぎてこの身には眩しくてたまらないから、逃げるように黄昏を泳がせて、やり場のない感情を誤魔化すように首に手をやった。)……だから、そーいうの。 願われたって、祈られたって、迷惑だってンだよ。その想いに返せるモンをオレはやれねえってのに。だからそーいうモンは他のヤツに向けてやったほうが報われるっつーか……そっちのほうが、幸せになれるンじゃねーの。(その場限りの好意とか割り切った関係とは違う、心からの想い。そんなものを向けられるような人間ではないと自覚しているからこそ過日の父を重ねては、少女の幸せすら引き合いに出して、遠ざける言葉もまろび出る。)ハッ。そこは「好きになってもらえるように頑張る」とか言うところなんじゃねーの?ンなのに仕返しとか、オマエほんッッといい性格してるわ。(愛らしい反応を見ればいつもの調子も戻ってくる。気負わぬよう明るく努めた口吻で、精一杯の皮肉を言ってやった。)

今波燈 ♦ 2021/02/03(Wed) 01:28[140]

……?(久しぶりに泣くだけ泣いたせいか、頭が少し晴れたのかもしれない。漸く違和を覚えて、涙が止まる。ついでに、随分と都合のよい耳を持つようになったようだ。まるで難問を前にした時のようにくっきりと眉間に皺を作って、まばたきを繰り返す。腫れぼったい瞼に赤くなった眸子は可愛らしさとは程遠いものだったろうが「言って欲しかったの?」と問うる声はそれを気に留めることもなく心底不思議そうな音色を奏でて。)御調、矛盾してない? 私を遠ざけたいのか近づけたいのかぜんっぜん分かんないんだけど。(それがむすめのしあわせと言うのなら、迷惑ならそのまま諦めろと突き放してしまえば良かった筈なのだ。信頼させろと苦労してまで発破を掛ける理由が、どうにも見当たらない。冷静になればなるほど彼の意図をはかりかねて訝しそうな視線が向かう。濃い血の匂いに死の気配が纏わりつく窮地の中、そんなことをしている場合ではないと頭では分かっているものの。)だから御調はレアだって? 呪術師だからは理由にならないよ。それなら、生贄でも囮でもあった私は死んでもしょうがなかったってことになるし。(彼の言うことが分からない訳じゃない。でも、彼が諦めないでくれたからむすめは今彼と話すことが出来ている。悔いがあったから、生に執着した。恐怖も痛みも彼方へ飛んで行ってしまう位には小首を傾いで必死に思惟を巡らせ続けよう。)返してくれないの? と、言うか。素直じゃないどころか捻くれが拗らせすぎてて今までは全然伝わって来なかったけど……あのね、御調。あいしてって言ってるように、聴こえる。 さっきの話だって御調が死ぬのは仕方ないって諦めてる癖に、諦めきれないからたすけてって言ってるように聴こえた。(迷惑だ、相応しくないと表向き拒絶して諦められなくなってしまうと悲鳴を上げているのに、結局こうして彼の手はむすめに触れてくれる。たいせつを教えてくれる。返して貰えずとも幸せは自分で決めるとか、報われるように頑張るだとか物語によくいる心が強いヒロインの台詞は求められたとしても言ってあげられないけれど、言葉をそのまま受け取らない分「勘違いだったらごめんね」と締め括りには苦笑って。)一緒にいたいと思って貰えるとは期待すると苦しそうだったしね。でも、気のせいじゃなければ思ってたより御調に好かれてたみたいでびっくりしてる。まぁ結果オーライってことでどう? 御調と付き合っていくにはこういう性格でもないと難しそうだから今となってはアリかな。(強がっている風に見えたってよい、眉尻を下げたままおかしそうに笑ったなら触れる手を捕まえんとそうと手を伸ばして「もうひとつだけ、良い?」何て一言。)

御調久遠 ♦ 2021/02/03(Wed) 23:03[141]

この間っから「言え」って言ってたろ。黙ってられンのが一番ムカつくかンな。(それが少女曰く仕返しで嫌がらせであるそうだから、上手いこと嵌めらものだと先刻までの怒りを思い出せば溜息も吐きたくなる。されど矛盾を指摘する言葉には首を傾いだ。)そうか? オレは約束果してえってだけで、別にオマエを遠ざけてえだの近付けてえだのは考えてねーよ。(根本的な在り方は来るもの拒まず去るもの追わず、であるのだが、此度去るものを追ったのは初めにも話した通り過日の男の言葉が縛りになっているからに他ならない。それは少女のことを大切だと想う心から来る庇護欲であるが、少女が男に懐く気持ちに対してこちらが強制するつもりはない。言い難そうに頭を掻く、この胸裏にある気持ちをどう言葉にしたらいいのかわからなかった。)そもそもオレの生き方がイヤだっつって、一緒に考えて行きてえつったンはオマエだろ。でも今スグそれをするコトが出来ねえから、そンならってオレが「信頼させろ」って条件言って、気持ちも返せねーよって忠告した上で、「それでもマジでオレと居てえと思うかよ?」ってハナシなんじゃねえの? 諦めるも、諦めねえも、強制するつもりはねえ。けど何度も言ってるように、オマエが明るい未来……いや、せめてXの脅威がなくなるまでは面倒てやりてえと思ってる。そのあとは、もうグダグダ言ったりしねーよ。(気持ちに応えてやれないから、少女の幸福を考えれば殊更、辛くさせるかもしれぬと思えば好意は別のほうに向けろと言いたくもなってしまう。そう、思ったのだが。)………………は?(あいしてほしい、たすけて、思い掛けない言葉を聞けば今日だけでもう何度ぽかんとした間抜け面を晒したかもわからない。そんな自覚はないのだが、もしかしたら自分では気付いてないだけで、そうなのか? そうなのかもしれない、とすら思う説得力があった。ゆえ「あー……いや、なんかもうそれでいーわ」とは何処か疲れたようでもあったろう。斯様に他者と言い合いをしたこともなければ、想いをぶつけあったこともない。ゆえ多少混乱しているのかもしれなかった。)勘弁しろよ、オレはもうンなふうにゴチャゴチャやんのは懲り懲りだぜ。確かに退屈はしねーが、すっげ疲れンだからよ。(少女を大切に思っているのは確かゆえ、軽い調子で言葉をなげる。尋ねるような言葉を聞けば、「ンだよ」と聴く姿勢をとって。)

今波燈 ♦ 2021/02/04(Thu) 00:47[142]

(ひとつひとつの言葉を拾っては脳裡でかみ砕こうと瞼を伏せる。ためらいを見せたのは一瞬だった。)返してくれないのはさみしいし、また泣いて拗ねてやるって思うからそこは応えてよって言うけど……御調がいないのは、きっと耐えられないから。グダグダ言ってよ、それで一緒にいようって言って欲しい。今すぐじゃなくたって良いから。 だって、――私は、あいたかったもん。ずっと。御調と喧嘩別れみたくなっちゃって、後悔してた。もう御調とあえないのかなって思ったら、かなしくて仕方なかったの。(もう、誤魔化して逃げるのも隠し事も無理もおしまいにしよう。欲しいものを我慢して大人ぶるのも、等身大のむすめを隠して子どもぶるのもそう。頑張ったって清らかな聖女にはなれないし、なりたくもない。零れ落ちる「本当に、ごめんね」は先程までとは全く異なる色をしていた。ありのままにこころを紡いであわく笑ったなら曇りも濁りも無く真っ直ぐに。)助けに来てくれて、ありがとう。御調が来てくれて、すごく嬉しかった。(言いそびれてしまっていたおもいを語る。心強くて、苦しいのにしあわせで、涙が出た一番の理由だった。間の抜けた彼のさまには「あ、いや、その、」と間違っていたかとおもはゆさに負けて視線を右往左往させたものの、彼のお陰も相俟って最終的には「適当だなぁ」と軽口を叩くだけにおさまって。)私もあんまりしたくはないけど、今回のはお互い様だって言いたい……いや反省してるからハーブティー位はご馳走するつもりでいるけど。 ねぇ、御調。私、ちゃんと言葉にするように頑張る。だから、御調もちゃんと手を伸ばしてね。(擦れ違って傷つけあいたくて一緒にいたい訳じゃないし、こわがりながら傍にいて欲しい訳じゃない。ただ、叶うなら“それ”はむすめでありたかった。彼が良かった。――このままどさくさに紛れて身を寄せてしまうことも考えたけれどそれはまた今度に取っておくとして、冷え切った手で触れた彼の手を包み願いを掛ければ漸く彼の手を解放して吐息をひとつ。)……帰ろう、御調。私、御調と一緒に高専へ帰りたい。

御調久遠 ♦ 2021/02/05(Fri) 01:18[143]

(──会いたかったか。そう問われれば、男の回答もYesだった。過日の会話を最期に死に別れをしていたらと思うと、今頃はやり場のない怒りの矛先を呪霊に向けて暴れまわっていたやもしれない。まあぶっちゃけ少女を見つけた時点で既に結構暴れまわったあとなのだが。少女の静かな心の告白を聞き終えたなら、一度深く息を吐いた。一度、改めて自分の心の中を整理するみたいに。)呪術師は続けるし、任務だって今まで通り請け負う。戦闘スタンスを変えるつもりはねえし、生きてえなんざ全然思えねえし、いつ死んだって可笑しくねえンだから「絶対」なんて保障は出来ねえが──今スグじゃなくてもイイってンなら、考えてやるよ。(どんなに考えたって、少女の気持ちに応えてやれる「絶対」という保障は矢張り出来やしないけれど、一方的に無理だの出来ないだのと宣うことはもうしない。僅かでもいいから少女がその可能性に賭けたいというのなら構いはしないだろう。幾度も耳にした謝罪とは毛色が違うと気付きながら「もう謝んな」と一言。心からの謝辞には意外そうに瞬いてから、)今更だな。たりめーだろ、オレは約束は破らない主義なンだよ。(一番初め。少女に懸けた安全保障はまだ有効期限内なのだからと、いつもの調子で不敵に笑んで見せるのだった。)どこがお互いさまだコラ。イマナミが仕返しとか考えねえで囮のこと洗いざらい話してたらここまで拗れなかっただろーが。(自分のことは棚に上げていけしゃあしゃあと、反省の色なく言って退けてから、)……ま。気が向いたらな。(手を伸ばす機会があるかどうかなんてわからない。ただ、あるとするならばそれは必然的に少女に向くのだろうと思ったから、「ンじゃ帰るぞー」なんてひらりと手を振りながら軽い調子で答えるのだ。)

今波燈 ♦ 2021/02/05(Fri) 07:58[144]

(むすめは、これまで誰にも期待を寄せて来なかった。期待しなければ裏切られることも無いと諦念は大人びた思考に拍車を掛けた。大人も子どもも関係なく、寂しいなら寂しいと一言紡げば良かっただけなのに。気づいた此度、僅かな可能性に賭けるつもりは更々ない。――ただ、彼を信じることにしただけ。ここまでむすめを追い掛けて来てくれた彼に、こいねがうことを決めただけ。そうして生きたい理由になったならきっとさいわいだ。むすめにとっての彼がそうであるように。眉尻下げたあわい笑みで「たいせつにしなくてもいなくなってもゆるさないから、そのつもりでね」そう、彼と結んだ約束を疑ったこと何てないのだから。)だからそれは御調が――(過去は結局堂々巡り。あの時彼に話していたら未来は違っていたかもしれない。でも、彼と交わる未来はなかったかもしれない。ふたりのあわいに横たわるifにおもい馳せながら、眼前の彼とぶつからぬよう一歩分位置をずらし、床に手をついて立ち上がらんと力を込めたところで再び轟音と衝撃が響いた。今度は、むすめのすぐ脇で。)ッ!(廊下を越え壁に大きな穴が空く。刹那双眸に映った何かを理解するより先、第二波が訪れバランスを崩したむすめはその穴へ吸い込まれるように落ちるだろう。そも血こそ止まったが忘れていた肩口の痛みも恐怖も、ついでに寒さも蘇ったむすめなら、第二波が無くとも足に力を入れられたかは分からないけれど。)

御調久遠 ♦ 2021/02/06(Sat) 00:59[145]

(想いを知ってしまった現状、少女との関係もこれまで通りとはいかぬだろう。男が態度を変えるつもりは今のところないけれど、釘を刺すような言葉が今後も何度も揉めるだろう未来を物語っている。もっともその未来だって任務次第ではあるかどうかわからぬものの、きっと地獄にいっても恨まれ続けるのだろうなと容易に想像できるから苦い笑みも浮かぶ。全く反省していない以上話が堂々巡りするのは必然か、されど口論に疲れていたとは言え呪霊の気配に気付けぬのはとんだ失態であったと振り返る。気付いたのは轟音と衝撃が襲い来る僅か前、どんなに反射神経が優れていようともたった数秒の内に人間の取れる行動なんて限られていて、奇襲に備えてダガーを構えるのが精々だった。)ッ! イマナミッ!!!(壁に空いた穴へと吸い込まれていく少女へと手を伸ばし、寸でのところで腕を掴んだ。最悪、怪我をしているほうの腕を引っ張ることになるやもしれぬがそこは我慢してもらうとして、グイッとこちらへ引き寄せるように腕を引かんと試みた。上手くいけば少女を抱きとめて、そうでなくとも自分よりも後ろへと少女を誘導したならば「下がってろ」と一言。姿を現した呪霊はなるほど、特級ほどではないがこれまでに対峙した呪いと比べると──)ハッ。こりゃまたイイ感じのが出やがったな! 丁度色々と持て余してたトコだ、遊んでやる。オレをガッカリさせンなよ!(呪霊へ向かって突っ込む最中、鎌鼬にも似た斬撃が繰り出されたが後ろに少女が居る手前避けるわけにもいかぬであろう。身体を庇うようにして前に出した腕が裂けるのも構わずに勢いを殺すことなく前に進んでダガーを揮う。飛び散る体液。落ちる肉片。グロテスクなそれを少女が視えているのかはわからぬが、男は躊躇なく指先に摘まんで、がぶりと咀嚼した。)

今波燈 ♦ 2021/02/06(Sat) 05:18[146]

(ふたり共にいられたとて、やさしいばかりの未来じゃないかもしれない。それでも言葉にせぬまま隠してすれ違ってしまうより、素直におもい語って揉める方が何倍もよいだろう。ぶつかる度にふたりが歩み寄り、寄り添い合い、未来におもい馳せて希望を願えるならそれこそさいわいだ。どうやら彼はひとりでは生きて明るい未来とやらを掴むつもりは無さそうだし、気を付けていないと。)ッ御調!(多分、昔のむすめだったなら手を伸ばすのをためらったことだろう。しかし、咄嗟にむすめの手は伸びた。それが何を示すかなんて、分かりきったことだ。以前語った空っぽな大丈夫なんかじゃなくて、彼と一緒なら大丈夫だって確信めいた情動が腑に落ちる。確かに掴んだその手に導かれ温もりに安堵したのも束の間、ひとまずは地に足をつけ彼の後方へ下がろう。)――御調!(再び彼の名を呼ぶ。此度の元凶たる少女の欠片ともなれば姿も見えたろうが、そうで無ければむすめに見えるのは彼が傷付いて闘う姿だけだったことだろう。目の前で舞う紅にまるでみずからが覚えた痛みかのように顔ばせを泣きそうに歪ませるも、むすめが出来るのは彼を信じて待つことだけ。こわいけれどこわくなんてない、結んだ約束を捕まえて戻って来てくれるよう何度だって「御調、」って――「久遠!」って願いを込めた名前を呼ばうだけ。しかし、立ち竦んでへたり込み掛けていたのはそこまで。壁に手をおき何とか足に力を入れたなら別の呪霊にでも出会って彼の足をこれ以上引っ張ってしまわぬよう、何より彼の姿を見守っていられるよう危うくならない程度を見計らいながら願いを届けられる距離までは近付くつもりだった。再び静謐が訪れれば覚束無い足取りなのに駆け寄ろうとさえする心算。壁についた手を滑らせていつかのように何も無いところでまた躓くことになったとしても、たったひとりどうしても譲れない――うしなえないいのちのあかりを求めて。)

御調久遠 ♦ 2021/02/06(Sat) 17:34[147]

──細晰喰術。(呪霊の肉を噛み潰した刹那、黄昏の双眸が金色に変貌する。細胞から流れてくる情報を即座に分析し、解明し、頭の中で呪霊の行動と攻撃の予測を立てながら生まれ持った身体能力を活かして敵の先手を打った。喰らった呪霊の呪力にある程度の耐性を得られるがゆえ、その術式がなんであれ気にする必要はない。階級があがれば呪霊も言葉を交わすようになるというが、コレも喋れはせずとも意思はあるのだと術式を以て理解する。祈りの籠められた呪いの名が鼓膜を震わせる。ゆえ躰が斬り刻まれようと無理にでも近距離戦へと持ち込んだなら、臆することなくその核目掛けてダガーの切先を突き立てた。)オレの勝ち。(此度も退屈は拭えず。だが今はそれでいい。いつか後輩に話したように、この身が愉しいと感じる時は終わる時なのであろうから。ダガーを引き抜けば大量の体液が噴き出ると共、呪霊の肉体は飛散する。呪いが消えれば必然的に術式も解け、双眸の色も黄昏へと還った。勝利は難しいことではない、されど男の術式の場合問題はそのあとだ。)ぅ、ぐッ…… クソ、っ、(強力な呪霊の血肉であるほどその反動から肉体に掛かる不可は大きく、躰に毒が回る速度も同様に速くなる。全身を刺すような痛みに襲われ思わず膝を付く。呪いの痣が躰に浮き出てきたのを見遣れば悪態を打って、医療ポーチを弄るなりシリンジに針を付けるまでは出来たものの、震える指先が注射器を落としてしまった。注射器が床を転がる音を聞けば舌打ちひとつ。少女がこちらへ来る気配を感じながらも、常のように軽い言葉を掛けてやれそうになかった。)

今波燈 ♦ 2021/02/06(Sat) 18:20[148]

(黄金のひかりを灯す双眸は、うつくしいのに危うくて不安が募る。呼吸どころか鼓動さえ止まってしまいそうな感覚を味わいつつ、それでも決して眸子だけは逸らさず現実をとらえようと彼を見つめていた。もう、気付かぬふりして自己完結してしまうのを止めたから。知らぬことはさいわいではないと、教えて貰ったから。勝利を確信した独言が鼓膜に届けば、ひとまずは安堵するように胸を撫で下ろして彼の元へと向かう。足の力が思うように入らない現状、壁に付いた手を滑らせてしまえば床と対面することになれど腕の力がうしなわれていないのだから何度だって立ち上がって歩み寄ることは出来よう。苦痛の声に胸を締め付けられながら、少しでも早く辿り着こうともどかしさに歯を食いしばったところで。)……?――、(注射器が足にぶつかる。咄嗟に拾い上げ、漸く彼の元へと近づくことが叶えばためらうことなくそっとその背に手を添えて「御調」と声を掛けた。次いでそうと彼の前に注射器を差し出し、)打てそう?(一言、端的に問うた。是が返って来るようなら心配そうな視線を向けつつも大人しくその行方を見守り、せめてと注射器を取る彼の手を支えんと片手を添えただろう。否が返って来るようなら急を理解し「何処に打てば良いの」と重ねて問いを投げ、みずから針を刺す覚悟だってして見せた筈だ。むすめには医療技術がないから手だって震えたろうしその分危険は増すだろうけれど、このまま放っておくよりも何倍もマシだと浮き出てきた痣が教えてくれたから。何方にせよ双眸に映ることになった注射痕にまた視界を滲ませそうになって、ぐっと堪えるかのようにくちびるを噛み締めたことだけは変わるまい。)

御調久遠 ♦ 2021/02/06(Sat) 23:04[149]

(自らの術式が死を招く。反転術式は肉体の治癒こそ出来るが解毒には至らず、ゆえ結局のところこの躰は薬が無ければ生きられない。薬物中毒もいいところだ。禁断症状のように躰が痛み、震え、痣が浮き出るさまなんと滑稽なこと。転がってどこぞへ消えてしまったものを探すなら新しいものを取り出すまでと医療ポーチへ手を伸ばしたところで、背に温かな手が触れたなら苦痛に耐える面で少女を見据えた。)……貸せ、(返す言葉は短くシンプルに。言うなり注射器を受け取れば、慣れたようすで乱暴に首の静脈へと針を突き立てた。これが一番手っ取り早く薬を全身に回す方法ゆえ、もう少しもすれば薬が効いて浮き出た痣も引くだろう。空になった注射器が軽い音を立てて再び床に転がる。不安げな少女を他所に廊下の壁へと背を預けたなら、フーッと深く息を吸った。)あとちょっとだけ休ませろ。 そしたらすぐここから出ンぞ。この調子じゃ、またいつ呪いが襲ってきたって可笑しくねえ。……オレひとりだったらよかったンだが、イマナミが居ちゃあな。(男ひとりだけならどうにもなるが、少女が一緒であれば無茶は出来ぬであろう。まずは一旦外に出て、恐らくは待機しているであろう補助監督に少女を預ける。それから本来の目的である生存者の救出にひとりで出直せばいい。そんなことを言えばまた拗ねるのだろうかと思いながら、されどただでさえ数が少ない呪術師だ、これだけの惨状を見れば働かぬわけにもいかぬであろう。少しばかり瞼を下しては休憩の姿勢。痣が引き始めているのは少女の眼にも明らかだったはず。)

今波燈 ♦ 2021/02/07(Sun) 00:03[150]

……ばか。(彼の背を撫ぜながら、消え入るような声音で呟く。助けてくれて、生きていてくれてありがとうって言いたかった筈なのに。消化できない感情の波に息を吐いては、彼の背を壁に託すのにシフトした手を添えそう。徐々に引いてゆく痣に安堵の息を零して顔ばせを和らげたなら「うん」と相槌を打ったのち、様子を探るように窓の外へ視線を向けた。呪霊相手に何の力になれないことがもどかしくて、せめて見えるものだけはと立ち上がって元凶に意識を向けようとしたのである。思わず一拍、沈黙したのは往生際の悪さゆえ。)……御調も私と一緒で言葉足らずのとこあるなって思うようになってきたから、一応聞くね。それ、どういう意味?私がいると御調たちが危なくて迷惑だってこと?それとも、退屈凌ぎに私は邪魔だってこと?(前者は分からなくもない、むすめに出来ること何て殆どないだろうから。今までのむすめなら拗ねても言外にそうだと理解して、任務に、誰かをすくうべく手を差し伸べる彼に大人しく従ったことだろう。しかし、むすめは決して善人では無いし願うことを諦めないと決めた。彼の方へ視線を戻しつつ震える声音は決意と共に。)私のこと庇うせいで怪我が増えるってことなら良いよ、分かった。両方ってことならちょっと悩むけど……そうじゃなくて、御調が無茶ばっかりするのを私が止めそうで邪魔だってことなら、御調が何て言ったってついていくからね。(こわくない訳じゃない。けど、彼をうしなうことはもっとおそろしい。それこそ、耐えられないくらい。彼がいない世界はさみしくて、かなしくて仕方ないから。 分からず屋で、ごめん。でも。 彼への信頼を示すようにぎこちなくともやわらな笑みを浮かべて見せながら、ためらうことなく膝をついてはそうと彼の手をつつむように両手を伸ばす。)私がいれば、御調は死ねない。死なない。 だって、御調は私との約束を守ってくれるから。そうでしょ?

御調久遠 ♦ 2021/02/07(Sun) 00:56[151]

(自分で自分の首を絞める、自虐的な術式であることは百も承知していることだ。ゆえ罵倒を象った心配の音が耳に届いたなら、もっともだと言うようにふっと淡く笑んでもみせただろう。自分で調合した薬だ、その効果のほどは一番身をもって知っている。痣が消えると共、徐々に躰から痛みが遠のいてゆけばゆっくりと伏せていた瞼を持ち上げた。そろそろ動けるな、と思ったのと、少女の怪訝そうな声を聞いたからである。)……そこ突っ込むトコかよ。(確かに言葉足らずである自覚はあるが、感覚としては少女に向けたものというより独り言に近いものだった。また面倒なことになりそうだなと面にありありとその心境を滲ませて、気怠そうに注射痕の浮き出る首へと触れる。)ついて行くから、じゃねえ。ついてくんな。 状況わかってンのか? 今さっき呪霊に襲われそーになったのはどこのどいつだコラ。(故意で呪いに襲われたのではないにしても、現実なんていつだって理不尽だ。ゆえ少女の所為ではないと男自身わかってはいるものの、こういうこともあるのだと理不尽な現実を突きつける必要だってある。ジト~ッとわざとらしく、厭味ったらしく少女を見つめながら言葉を続けた。)オレが約束したのはオマエの安全であって、「絶対」はねえつったろ。 オラ、ごちゃごちゃ言ってねーでさっさと行くぞ。また呪いに襲われてオレに怪我させたくねえだろ?(痣は消えて解毒も済んだとはいえ、傷が癒えたわけではない。制服は血塗れでボロボロだし、少女だって傷については同じだろう。自分の所為でモタモタしていたことは棚にあげて、男の手を少女の手を逆に取って立ち上がったなら、外へ出るべく足を進めよう。)

今波燈 ♦ 2021/02/07(Sun) 02:05[152]

分かってるよ、だから言ってる。襲われたいとは思ってないけど、それで御調の無茶しすぎるとこが止められるならそれで良い。結果的に誰かを助けられるならそれに越したことはないし、私がいてもいなくても御調のすることは変わらないでしょ?(彼の言葉は何時だって嘘が無かった。分かりづらい時も多いけれど、誰より誠実で真摯だ。気怠そうな彼には刹那押し黙る素振りを見せるも、何度だって選ぶだろう道が目の前にあるなら迷うことも無い。制御できぬ理不尽な現実を思えば強がりや意地が全くないとは言わないが、いっとうたいせつにしている本音の部分にも得心するかどうかの答えにも変わりは無いだろう。そのためにこの身が使えるなら使うことだって厭わない。死ぬつもり何て毛頭ないからなおのこと。つんと顔ばせを逸らし、視線だけ彼の方へと向けて。)それも分かってる。けど、御調がいなくなって私が「安全」だと思う? いっそそれで呪いが消えてくれるなら出会ってくれた方がマシな気もして来たけど……出来ることが中々見付からないのって悔しいね。(むすめにも制御できる呪力があれば手伝えただろうか。医療の技術でも磨けば治癒出来ただろうか。救出と言う点だけなら猫の手位にはなるだろうか。詮無き問いに答えは出まい。彼の手に促されるまま立ち上がれば大人しく外へ向かって足を進めたろうが、繋いだ温もりを離さぬように力を込めて深い呼吸をひとつ。それから、)ごめんね。 でも、ついて来るなって言われても追い掛けるから。(みずからのそれと同じように、“彼”の生を諦めたくない。諦めない。緊張で声は上擦ってしまったかもしれないけれど、言葉は真っ直ぐにその背へ投げた。)

御調久遠 ♦ 2021/02/07(Sun) 11:30[153]

はぁ~~~? オマエ、自分がナニ言ってンのかわかってンのか?それとも、足手纏いだからついてくんなって言ったほうがわかりやすいか?(少女の言い分も、先刻まで言い争っていた内容的にもわからなくはない。少女が居ても居なくても呪霊を祓うことに変わりはないが、気を遣って戦うという負担は乗っかってこよう。避けられる攻撃も避けられなくなれば、少女が忌避している未来だって訪れる可能性は大いにある。それを理解した上での発言なのだろうかと、敢えて厳しい言葉を選んで突き付けた。)ナニも今スグオマエを置いて行こうってンじゃねえ。外に行けば待機してる補助監督がオマエを保護してくれる、そしたら安全だ。 ……呪いに会ったほうがマシとか、それ、オマエほんとにオレに生きてほしいって思ってンのかよ。(人生イージーモードの男にとって呪霊を祓うことは然程難しいことではないとはいえ、基本的に呪いとの戦いは命懸けのものなのだ。ストックしている薬の残りも限られている。それと会ったほうがマシということは捉えようによっては死ねと言われているようなものであると、困ったように頭を掻くさまはどう伝えるか考えあぐねて何処か参ったようすでもあった。)だめだ。 外出たら問答無用で補助監督に引き渡すからな。大人しくしてろ。(階段を下りてはひとまず一階を目指す。そうしたならば窓からでも玄関からでも、なんなら壁をぶち破って外へ出ることも出来るだろう。間もなく一階へと降り立ったなら、呪霊の気配に気を配りつつ見覚えのある物置へと足を踏み入れて、庭へ通じる扉を開けた。)ホラ、行くぞ。……もう安全だ。(開け放った先、広々とした敷地の庭では生存者を保護している補助監督らが忙しなく働いている姿が少女の双眸にも映るはずだ。)

今波燈 ♦ 2021/02/07(Sun) 13:35[154]

御調こそ私の話聞いてた?迷惑だって言うなら「分かった」って言うけど、邪魔だって言うなら言わないって言ってたの。 私は自分だけの安全が欲しくてここに来たんじゃなかったのも、もう忘れちゃった?(知らぬところで無茶される位なら、せめてと言うむすめの譲歩である。生まれて初めて、むすめのいのちよりもたいせつだと思ったいのちのあかりをうしなわずに済む方法を必死に模索していた証左だ。「御調が無謀なことさえしなければ良いだけの話じゃない」と返すのも、薬のストックが少なくて生存率が減るなら準備を整えてからでないと“だめ”であることを示したいだけ。むすめにとってこのぬくもりがどんなにいとおしくて、尊いものか分かって欲しいだけ。離しがたくて、どうしても諦められない。耐えられないのは、何も真にこころだけではないのだろうと思うから。歩みこそ止めぬまま、随分と久方振りになったような感覚にさえ陥りそうな姿を双眸に映して安堵する一方艱難を前にして眉間に皺を刻む。)御調はだめばっかりだね。言えって言ってる癖に、矛盾ばっかり。言いたいことは言って欲しいけど、結局御調は私に言う通りになるお人形でいて欲しいの? そうじゃないなら、せめてちゃんと約束して。さっきだって、死にかけてたんだから。(真に優しくて物分かりのよい可愛い子なら、彼の手を煩わせないで済んだのだろう。そうなりたかった一方で、ありのままでいたい気持ちが葛藤する。足を止めて、繋いだ手に力を込めたのはそんな最中のことだ。手は離してやれなかった。心配の色は隠さないし隠せない。配ったこころは既に彼へ渡したものだから構わないけれど。)私のしあわせを本気でおもってくれるなら、誰かにそれを預けないで。本気で私の安全を求めてくれるなら、ちゃんと守りきってよ。 一緒に、遊びに行ってくれるんでしょ?一緒に考えるのだってそう。生きて傍にいてくれないと、出来ないことだよ。(むすめが好きになったのは博愛の英雄では無く彼だった。過日のささやかな約束さえ引き合いに出して、また願いを語る。滴こそ溢れることは無いが泣き濡れた眸子はゆうるりと彼を真っ直ぐ見上げて、どうにかあわく苦笑おう。)そうしたら、行ってらっしゃいって言ってあげる。――それで、お帰りって言わせてよ。ただいまって言って、私を安心させて。そうしないと、また泣いて拗ねてやるんだから。(面倒何て分かりきっている。それでも、それが生き延びねばならない理由のひとつになってくれるならそれでよい。知らず内に高専を出る際、ポケットの中に入れていたお守りが――中に忍ばせたジャーマンカモミールの欠片が、存在を放ってむすめに力をくれていた。)

御調久遠 ♦ 2021/02/07(Sun) 15:36[155]

じゃあハッキリ言うぜ、迷惑だ。オマエが居ると余計な怪我が増えるし、意識が散漫になる。だから外に、安全な場所に出たらついてくんな。(これだけハッキリと伝えれば流石にわかってくれぬものかと、黄昏をまっすぐと少女へ向けた。それが少女の安全を考慮した上での最善策であり、男が余計な怪我を負わぬためにして貰わなければ困ることなのであると。もっともこれは、ほんに少女がこの身の無事を願っているのであれば聞いてほしい、といったお願いに過ぎない。一刻を争う事態なれば高専まで薬を取りに帰っている時間などないし、階級の高い呪霊を前に無謀をするなというのも無理な話しだろう。後ろを歩いているであろう少女を振り返ることもしないまま、口からはもどかしい溜息ばかりがまろび出る。)思ってることを言えとは言ったが、叶えてやるとは言ってねえ。無理なモンは無理って言うに決まってンだろ、当たり前のことだろーが。(互いに譲れぬものがあるからこそ現状ぶつかっているのだと理解していても、先刻から少女に告げているように、この在り方を・考えを今すぐに変えることは難しい。ゆえ約束など結べるはずもなかった。次ぐ言葉を聞いてもそれに応えてやれぬ歯がゆさに奥歯を噛みしめて、庭に出るなり問答無用で繋いだ手を振り払う。大切に思うからこそ、信頼できる者に預けるのだ。危険な地帯に足を踏み入れてほしくないのだ。気持ちは同じであるとわかっているが、男はひとりの人間である前に呪術師だった。)──…だから、それが出来ねえってンだよ。オマエはさ、結局ンところ今スグ確かな約束がほしいんだろ?でも言ったよな、絶対の保障は出来ねえし、今スグは無理だって。それでもイイってンなら考えるってよ。(今すぐに生きると言う約束を結ぶことは難しく、考えてやってもいいと言いはしたが、それも絶対という保障はしないと告げたはずだ。言葉足らずの自覚はあるゆえ、伝わっていないのであれば自分が口下手な所為であろう。駆け寄って来た補助監督のひとりに声を掛けながら、改めて黄昏が少女を映して。)オレは呪術師の御調久遠だ、オマエだけの御調久遠じゃねえ。 心配してくれてンのはわかってる、けどオマエを守るためにずっと傍に居てやることは出来ねンだよ。(呪術師は誰かの護衛をするものではなく、呪霊を祓うものだ。守るといえども限度はあるし、日頃真面目に任務を熟すような男でないにしても命令が下されている以上、安全なところに連れ出した少女の傍にずっと居てやるなんてことは出来ない。)ンでもわからねえって言うンなら、勝手にしろ。 オレは生存者の救出に戻る。ま。この惨状で生存者が他に居るかどーかなんざわからねえけどな。

今波燈 ♦ 2021/02/07(Sun) 17:30[156]

(頭が痛くなってきた。どうしてここまで彼をいとおしく――たいせつにおもうのか分からないが、むすめにとって真実ならばそれこそ仕方ない。瞼を伏せてわざとらしいまでに大きく息を吐いては冷静にくちびるを開こう。)御調のお願いを聞くんだから、私のお願いだって聞いてくれても良いでしょう。叶わないって言ってはねつけてばっかりいるのは、今までの御調がそうだったから?(出来ることはあっても、叶わずに来た願いがある。ゆえの今だと理解していた。ゆえに掛けるおもいは「ねぇ、御調」と努めてしずやかに。)今すぐに全部分かってって言うのはもう言ってないよ、今の御調に出来る約束が欲しいって言っただけ。例えば、……そうだな。無謀な無茶をしないとか。(呪術師と言う役割上無理をするなとは言えないし、言ったところで受け入れられぬことは先程迄の話で承知済み。しかし、彼に下された任務が片道切符の特攻でないのなら、無謀な無茶は寧ろ誰しもが望むところでは無いだろう。勇敢な無理と、無謀な無茶は全く異なると思うから。手を振り解いてもなお、放って駆けていかぬのが彼の誠意と分かっているから傷よりたいせつな事実に意識を向ける。視線が交わらなくとも、その背にこの声が届くならそれでよかった。)……分かってる。だから、こうして話してるの。 “考える”って約束したんだから、大丈夫だって、それを信じて待ってろって言うならまだ分からないでもないけど……御調は最初から全部諦めようとしてない?(茶化すような場面でもなし。明るい未来の行方とやらは彼の手の中にあるのだろう、むすめが泣くのも笑うのも彼が理由となれば希望を見ていられるのも閉ざしてしまうのも彼の気持ちひとつだ。駆け寄る補助監督らに小さな会釈と共にあわく笑って片手で制せば、彼へ重ねておもいを捧ぐ。覇気のない声音は、むすめにしては少し弱弱しく響いたろうか。)良いよ、分かった。勝手にする。 けど、御調が帰って来るまでずっとずっと待ってるから。私のこと、忘れないでね。(脅しめいた口吻になってしまったものの今日のところはむすめにも負い目があるだけに、大人しく引き下がって彼よりも彼のことを信じて待つことにしよう。それこそ、いついつまででも。彼がむすめの不幸を願わぬなら、むすめの“生”を祈ってくれるなら、それはひとつこの世と結ぶ糸になってくれるだろう。むすめにだってねがうことがあるから、かなえたいおもいがあるから。たいせつだと、気持ちを強く持つのに立場は関係ない筈だ。いつしか物語で待つ側は苦しいものだと書いてあったけれど、本当にその通りだと独り言ちるように眉尻を下げたまま強がるように笑って。)行ってらっしゃい、御調。ううん、 久遠。――気を付けて。

御調久遠〆 ♦ 2021/02/07(Sun) 21:20[157]

どうしてオマエはンなに約束に拘るんだよ。死ににきたわけじゃねーつったろ。それとも約束がねえとオレのコト、信用出来ねえってか? まあ、オマエに信じて貰えるよーなコトしてこなかったのはオレだけどよ。これでも一応生きようって努力してンだぜ、じゃなきゃ薬なんざ打たねーで今頃毒で死んでるっての。(進んで死ぬつもりはない。なれど信用されるようなことをしてこなかったから、こんなにも話が拗れたのであろう自覚はある。ゆえ先刻の戦いで震える指先で薬を打たんと試みたように、呪いでも生きようとしている姿は行動で示したつもりだった。それでも心配のほうが勝るというのなら少女の信用を勝ち得なかった男の責任なのだろう。自嘲も滲む。多少の無茶と無謀は階級が上の呪霊を祓うにあたって生きるための策のひとつであると思っているゆえ、それすらも認められぬというのなら、男が呪術師である限り少女の不安は永劫取り除けぬのだろうとすら思ってしまう。約束がこの身と少女を縛るものとなるのなら、容易に結んでいいものでもない。ゆえに時間が必要だった。覇気のない声を聞いて、ひとつ息を吐く。)……なあ、イマナミ。それについては何度も言ってンだろ、いつ死んだって可笑しくねえンだから「絶対」なんて保障は出来ねえって。 オレは今スグ確かなモンをオマエにやれねえ、明確な約束もしてやれねえ。呪術師やってりゃ死とは常に隣り合わせだし、無茶や無謀やンなきゃ生きらンねえコトもある。それが我慢ならねえってンなら、それが辛くてどうしようもねえって感じるンなら、無理に一緒に居る必要はねえとオレは思う。なにもオレは、オマエを苦しめてえわけじゃねえ。(諦めるもなにも、元よりそういう次元の話ではないだろう。これまでの生き方を覆せだなんてはいそうですかと簡単に頷けるものではないし、考える=約束になるのだとしても、この世に絶対はない。これから時間を掛けて、自分の気持ちと向き合ったうえで、結果によっては少女の気持ちに応えてやれない可能性だってあるのだ。少女が男に懐いてくれている大切と、男が少女に懐いている大切は似ているようで恐らく違う。大切に思うからこそ、少女の不幸を願っているわけでもないからこそ、斯様に言葉を重ねられれば殊更に別の選択肢だって提示したくもなる。勝手にしろと告げたように、あとは少女の心に任せるつもりだ。それでも一緒に居ようと思うのか、諦めるのもまたひとつの選択だ。)──じゃあな、イマナミ。 行ってくる。(五条悟の勝利が告げられるまで間もなく。再び呪いの蔓延る敷地へと足を踏み入れれば、気のりはしないが生存者を探しつつ叶う限り呪霊の殲滅へとあたるだろう。無論、傷は増えたが無事に戻ってきたことはいうまでもない。)

今波燈〆 ♦ 2021/02/07(Sun) 23:02[158]

御調がこだわってたように思ったから気にしてたの。 例えば、私を誰かに預けようとしてるのだってそう。私は物じゃないし、庇護されなくちゃ物事を考えられないような幼い子どもでもない。御調が帰って来た時、ちゃんと無事な姿でお帰りって言えるようにどうしたら良いか考える位出来るんだよ。(頭ではむすめを信じられないから誰かを信じるのだろうと分かっているし、彼が進んで死のうとしてる訳じゃないことも分かっている。大事な呪術師と言う存在を守るためにむすめみたいなちっぽけな一般人こそ盾にしたって構わぬ筈のところを、彼がむすめの死を厭うてくれたように、先程庇ってくれたように、このこころだけでもそうしたいと思っただけの話で。不安もすべてなくせる何て思ってないし、そうして欲しい訳じゃなかった。不安はそのまま、おもいの籠った証だと思うから。彼がむすめを心配して、誰かに預けていこうとしてくれたように。瞼を下ろし彼の言葉を聴いたなら、緩やかに首を横に振ってちいさく笑う。もう大丈夫何て簡単には言うつもりもないが、再び開いた眸子は凪いでいた。)辛いよ、そんなの決まってる。でも、御調のことを放っておけない。聴こえた声を、なかったことにしたくない。御調にも、そうして欲しくない。私は、そっちの方が辛い。 だから、待ってるよ。私に出来ることを、精一杯して。ここで待たなかったら一生後悔する。――喧嘩だって沢山するだろうし、かなしいおもいも沢山するのかもしれないけど。さみしいおもいもするのかもしれないけど。もっと言えば、御調にもさせちゃうのかもしれないけど。 でも、そうさせて欲しい。御調のことをたいせつにおもっちゃったし、すきだなって、そばにいたいなっておもっちゃったから。(そばにいてほしいし、いつかおもいにだって応えてくれたらよいとは思う。それはむすめの知らないさいわいで、他の誰かじゃなくて彼にしか託せないと、こいねがいたいと思ったことだから。彼を信じた希望だから。それこそ、憧れていたときめきの欠片そのものだから。しかし、同時にそれだけじゃなくて一緒に幸福を探せたならもっとしあわせだとも思うのだ。それが、あいだと思うから。それこそが、寄り添うと言うことなのだろうから。呪術師としての彼も、ひとりの異性としての彼も、どちらもいてこそ今の“彼”だ。これまでの彼も、今の彼も、これから先の彼も、むすめにとってたいせつな“彼”だった。揺らがない、揺らげないおもい。ごめんの代わりに「うん」と返答し今度こそ静かに彼の背を見送れば、ある程度の怪我の治療は素直に受けて手伝えることを手伝う形で彼の帰りを待つことにしよう。今度こそ高専側の勝利が伝えられれば先ずはひと安心、気を引き締め直してXの行く末を見守った。 暫くののち、傷の増えた彼を見ての第一声は当然。)、――……御調!(縺れる足に構わず彼の方へと駆け寄って、彼の連れて来た生存者に手を貸し補助監督らに預けてから、震える手を伸ばし彼の温もりを確かめようとしたことだろう。良かったって、安心して涙が出て来る。この胸に込み上げるのはよろこびそのものともなれば、むすめがわらうのに然程時間もかかるまい。)……おかえり、御調。 ありがとう。(生きてくれて。帰って来てくれて。呪術師としての彼にも、二人でいる時のただひとりの彼にも声を掛ける。叶うなら、抱き着いてしまう位の心算で。やさしい彼を悩ませた代償も兼ねて治療は後程手伝うことにして、信頼に応えてくれた彼に待ってたよってしあわせを告げられたならそれがよい。絶対がない現実の中でたまゆらを紡ぐ今、二人でいられることに感謝しよう。)

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