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【1】(とまどいと、希った聖夜の奇跡)

今波燈 ♦ 2020/12/27(Sun) 19:30[1]

(胡乱な光をその双眸に宿した少女が、捧げものとして選ばれたことを宣言する。そも復活の日の贄となるべく攫われて来たことを思えば、この籠の中で数年とは言え生き抜いて来られたことは奇跡とも言えるのだろう。分かっている。何時かこんな日が来るのだろうと心の片隅で考えていた。しかし、納得できるかは別だ。だからこそ、その前に逃げ出すことだって考えて準備もして来たけれど、今実行するとしてもその成功確率は決して高くない。加えて、むすめは憶病だった。逃げ出す勇気も覚悟も持てず、喜ぶことも悲しむことも無く、ひたすらその眸子に迷いだけを灯し唇を噛み締めてその日を待つ他ないのだと悔し気に歯を食いしばったのは夕食までのこと。嘆きや怒りに身を委ねている場合ではないと気持ちを切り替え、思惟を巡らせてやって来た聖夜――突如、Xの中が騒がしくなる。どうやら侵入者らしい。労いの言葉と共に承知した旨の一言だけを残して別れれば、後は単独行動がゆるされることになる。)……今がチャンスかも。(気がかりなことは山とあれど怖がっている場合ではないと腹を括ったなら、周囲の様子を探りながらどこかにある筈の外へつながる出口を目指す。黒曜に輝く長く真っ直ぐな髪と眸子を持ったむすめは、日頃の柔らかな印象を隠した少し幼げな容貌とは裏腹に、敵か味方かも知れぬ侵入者へ対しても警戒を怠ることなく、隠れ蓑になる箇所を捜し歩いては事態の把握に努めた。)

御調久遠 ♦ 2020/12/27(Sun) 22:04[2]

だりぃ。(胡散臭い宗教団体が力をつけてきているという噂を小耳に挟みはしていたが、こうも我が物顔で呪いが敷地内を闊歩しているとは。たかだか少女の奪還に昇級が付随する時点で概ね予想はついていたとはいえ、ダガーの切先を滴り落ちる体液を掃うように振りながら大きな悪態を吐き出した。下級であれば術式を使うまでもないとはいえ、そもそも昇級=興味なし、奪還任務=どうでもいい、そんな思考の男である。此度の任に名を連ねた下級生ほどではないが興味がなければ厭きるのも早く、足下で喚く呪霊を厭いたとばかりにいっそう力強く踏み付ければ耳障りな悲鳴と共、たちまちに飛散するのを冷ややかな黄昏の眸で見送って。)……ゲ。 靴汚れてンじゃねーかよ、サイアク。(潰した拍子か、或いは別のタイミングか。祓った呪いの数など数えちゃいないが、靴先が汚れているのは事実。目視しては短い黒髪を乱雑に掻き上げながら心底気怠そうな音を吐きすてて、どこぞに適当な布でも落ちてやいまいかと視線を巡らせたその瞬間。)──オイ、そこの。(今は物音ひとつとしない静謐な空間。少し距離が離れていようとも男の敵意を孕んだ低い声は恐らく届くであろう。)オマエだよ、オマエ。そこで止まれ。(この先の曲がり角を歩くもの、動くものの気配を察知しては、その場に縫い付けるよう言の葉を放つ。それで相手がどう出ようとも、気配へ──少女へ向けて足を進めることに変わりない。)

今波燈 ♦ 2020/12/28(Mon) 00:07[3]

(過日むすめに問いを投げた少女も脱出を試みているのだろうか。今も耳に響いて来る叫びが、知人のものでなければよい。夕食後、一人自室に戻ろうとしていたむすめは願う他無かった。緊張で指先が冷えていく感覚があったとしても、それに構っている暇はない。慎重に足を進めていたその時、耳馴染みのない声が何時しか静まり返っていた空間に響く。)っ――。(思わず息が止まる。彼が侵入者なのだろうか。そも侵入者は何人いるのだろう、その目的は一体?思考は止めぬまま、うるさい程鳴り響く鼓動こそが生きている証左だと言い聞かせて、視線だけを周囲に巡らせる。ここ数年で内部の地理は分かる範囲で全て頭の中に叩き込んでいた。目の前に飛び出すよりは近場の空き部屋に飛び込んで、もしもの時は窓を破って出る方が生存率は上がるだろう。生き抜く術としてそれなりに素直さを学んではきたものの、従順さを見せぬ可愛げのなさは生来のもの。日頃は下ろしている髪を手首につけていた黒いゴムで一纏めにしたなら、開け放たれたままだったその部屋の中へ身を潜め、彼が通り過ぎてくれるのを祈るつもりだった。先客がいると気付くまでは。)な、(明かりが灯されていなければ暗がりであることは可笑しなことではない。蠢く闇が――呪いが、異物だっただけで。目視は出来ずとも近付いてはならぬ気配だけなら何となく。多分。前にも後ろにも引けず混乱を余儀なくされたむすめは、困惑と恐怖の息がそのくちびるから漏れたとて、足の力は失わぬよう叱咤して。)

御調久遠 ♦ 2020/12/28(Mon) 02:42[4]

(そも“囚われのお姫様”とはなんなのか。任務に於ける情報不足など常のことだが、仮にも囚われの身であるのなら自由に動き回るのも難しかろう。低級とはいえ斯様に呪いが蔓延っている邸であれば殊更。或いは男たちが侵入したことによってイレギュラーが発生しているのか。声を掛けた気配が制止も聞かずに動き出すのを感じ取っては苛立つ心のままに舌打ちひとつ、歩調をはやめて角を曲がり、左手に慣れ親しんだダガーを握る。どこになにがいるのか。今宵だけでも既に多くの呪いを祓い、感覚の研ぎ澄まされた男には手に取るようにわかっていた。)  退け。(ゆえ開け放たれた扉の先、少女の向こうに蠢く異形をみとめた瞬の男の行動は速かった。白衣を模した黒衣の制服が薄闇にはためく。必要ならば少女の肩を押し退け前に出て、眼前の呪いへと歩み寄り紫電一閃。少女の眼に呪いが視えているかは定かではないものの、もしも視えていたとしたら瞬きの間の出来事であったろう。刃に付着した体液を振り払いながら、)次。 逃げたら転ばすぞ。(先刻少女が言うことを聞かなかった事例を鑑みて、まだ部屋の中にいるだろう少女へと掛ける言葉は脅しめいた。それに如何な反応を示されようと、黄昏色した眸が少女を捉えるまで間もなく。呟きと共、盛大な溜息が落ちるのはそれから数秒のちのこと。)こーいうのは他のヤツにやらせろってンだよ……。(見た目、13~18歳くらい。当て嵌まる。性別、女。当て嵌まる。あまりにもお粗末な情報だが、要はターゲットは複数いるということなのだろう。気怠さを隠すことなく音に乗せ、ダガーをホルスターへと仕舞った。)ついて来い。 こっから出してやる。(否を唱えさせる間もなく言葉を吐き出す横暴っぷり。視界に入れはしてもまともに彼女を視ていない男は、構わず踵を返そうとするだろう。)

今波燈 ♦ 2020/12/28(Mon) 12:22[5]

え、(肩に触れた手を皮切りに振り向いたものの、既にそこに彼の姿は無かった。前方に視線を戻した頃には先程と同じように静謐が広がっているだけ。暗がりに浮かぶ彼の姿だけが双眸に映り、危険が少し遠退いたことを知らせている。気が抜けたのかそのまま床へとへたりこんで。)……転ばすの?(随分と間の抜けた問いだった。その刃も黒衣の様相も見覚えのないものばかりでおそろしい筈なのに、むすめの眸子には混乱だけが浮かんでいる。思っていたよりも平和的な忠告に呆気に取られたかのような顔ばせで瞬きを増やし、恨み言を連ねる彼の姿を見つめることになったのも自然なものだろう。大体同い年位だろうかと、思惟を巡らせている内に歩き出した彼に慌てたような声音を上げて手が伸びてしまったのはそれからすぐのこと。)ちょっ、と!(待って、と続く筈だった言葉を呑み込む。助けて貰った癖、感謝も返事もしない無礼を棚におき、伸びた手も何事も無かったかのように引っ込ませて「……ゆっくり歩いてくれる?」と不遜な申し出だけを口にした。嘘でも立てないとは言えず、床についた手に力を込めて立ち上がっては覚束無い足取りで彼の方へと足を進めよう。)……あなたが、噂の侵入者?本当に出られるの?簡単に出られる場所じゃないんだよ。ついでに言うと、……あなたが誰かも、その目的も分からないまま、素直について行く程無知のつもりは無いんだけど。(日頃はぱっちりとした双眸も、今は鋭さを帯びて細まっている。寧ろそれこそが無知を表すと分かっていながら早口で捲し立てるのは、先程の彼の様子から彼が敵でない可能性を高めたことで期待も膨らんだためである。再びやってきた不安は両手を重ね、胸の前で握り締めることで震えを誤魔化してしまうつもりで。)

御調久遠 ♦ 2020/12/28(Mon) 15:40[6]

(男がチームプレーを不向きとする理由のひとつに他者への関心のなさが挙げられるよう、少女の混乱に気付きはしてもそれを気に掛けてやろうという心はなく、此度の任が不適任であるということも自覚済み。ゆえ溜息と共悪態がまろび落ちたわけだが、されどこの背を呼び止める音を聞けばまた別の話しで、歩みを一旦止めれば座り込む少女へと一瞥をくれもしただろう。)動けりゃ上々。(恐らくは立つのもやっとという状況下で甘えを吐かなかった少女の心意気に男は素直な称賛を送ったつもりでいるものの、紡いだ音は傲慢めいた。覚束ない足取りながら少女が歩き出したのをこの眸子にみとめてから、男も目的を果たすべく歩みを再開しようとしたのだが。)あ? 簡単だろ。オレと一緒にいながらこの程度でムズカシイとか言ってンじゃねーぞ。(震える掌を重ねるさまは、祈りを捧げる仕草にも似ていたか。早口に捲し立てられる言葉の数々は不安渦巻く少女の胸中を言外に伝えていたものの、前記した通り御調は気の利く男ではない。優しい言葉を掛けてやることは出来ぬものの、されど不安要素を潰すだけならば適うから、無遠慮な言葉を紡ぐ。さも当然と吐き捨てる理不尽に、されど厭味ったらしさはない。)呪術高専のミツギ。知りたきゃコイツでもテキトーに見とけ。(言葉で伝えるよりは眼で見た方が手っ取り早いだろうという魂胆で、ひょいっと少女へ放った物は列記とした高専の学生証。脱獄は容易だと示した。この身が何者であるか伝えた。あとは、)で。目的は“囚われのオヒメサマ”の保護。 つまりオマエ。(ピッと節くれだった細い指をひとつ少女へ突き付けてみせれば、もうこれ以上言葉は必要ないだろう。)──つってもオレは、オマエがどーなろうが構いやしねえンだ。ここに居たいってんならそうすりゃあイイ、駄々捏ねるオンナをムリヤリ連れ出そうって気はさらさらねえ。 選ぶのはオマエだ。

今波燈 ♦ 2020/12/28(Mon) 21:01[7]

(事象については何が何だかさっぱりだけれど、非日常と呼ばれる最中に在ることだけならば分かる。震えるくちびるを真一文字に引き締めて、先ゆく彼を追い掛けるように足を進めよう。問い掛けに対する律儀な返答にはひとつ瞬きののち「それ、答えになって無くない……?」と、訝しげな視線と眉尻の下がった笑み混じりの顔ばせとが向けられることになる。建前すらままならない辺り、ペースは乱されっ放しだ。)ミツギ、(彼の名を語り終えるが早いか否か、放られた何かを受け取ろうと慌てて手を伸ばす。てのひらの中で跳ねて落ちる――前に何とかキャッチ。安堵の息を吐きながら中を覗き見たものの暗がりではよく分かりそうもないし、先程の言葉だって流し聞いただけだから一先ず「……後で見とく。これは私が預かってて良いもの?一旦返す?」と後で確認する体を投げて置く。今むすめの意識を支配しているのは、突き付けられた事実の方だったから。)……なんで、今。(ぽつりと零れ落ちた疑問は、迷い子の拙さで。揺らぐ声音の頼りなさと言ったら無かった。)ミツギは、その女の子がどうなっても構わないって言うなら、どうしてこんなところに来たの?……その“囚われのオヒメサマ”が私だっていう保障も無いでしょう。(言葉だけを聞けば生意気ばかりで可愛げの欠片も無いが、他意はない。単純な好奇心と、もっと単純な自己保身。)でも、……良い、分かった。気が変わられても困るし。……私も、ミツギと、出るから。(出たいでは無く、出る。分からぬからと言って、この時機を逃す手も無いだろう。宣言することにだって意味は無いかもしれないが、それは極力足手纏いにならぬようにとむすめなりの決意表明だ。何時しか恐怖は薄れていて。)……それと。オマエじゃなくて、イマナミ。今波、燈。私の名前、ね。

御調久遠 ♦ 2020/12/29(Tue) 00:17[8]

ついてくりゃわかンだろ。(少女の怪訝そうな貌を見遣れば反応を愉しむように唇の端をシニカルに吊り上げて、ついて来いと告げるよう人差し指をくいっと動かす仕草もしてみせる。私論も私論。もとよりこの男にマトモに説明してやろうなどという気がない以上、こればかりは行動で示す他ないのやもしれぬ。放った物を相手に少女がちいさな格闘をしていたことなど露知らず、「要らなくなったら返せ」と告げる言葉の軽薄さで男にとって学生証の所在など心底どうでもいいことであると伝わるであろう。大切な学生証がどうでもいいなんてことは勿論ないのだが、生憎と突っ込み担当の同級生は此処には不在だ。花唇からぽつりと零れ落ちた言葉を耳で掬い取りはしたものの、ちらりと少女へと一瞥をくれただけで、詳細を尋ねるような野暮はしなかった。“どうして”を問われたならば黄昏の眸を少女へとしかと向けて、)退屈しのぎ。(けろりと言い放った。紡いだ動機は数ある理由の中でも最低の部類だろう。)それに間違ってたところでオレは困らねえし。もとより人助けなんざオレの柄じゃねーンだ、なんかありゃ他の連中がなんとかすンだろ。(そも少女奪還と名打っておきながら肝心な少女の詳細が伝えられていない事情を鑑みれば、間違いなどといったことは起こり得まい。されどそれを説明するのも面倒だと、気怠そうに少女へと伝えた言葉は酷く無責任なものであったろう。決意表明は背で受けとめ、来た道を戻るべく歩みを進めてゆく。「イマナミ」今し方聞いたその名を繰り返すように一度、なんとなしに唇へとのぼらせながら。)イマナミ。 オマエ、アイツら見えンの。(言葉と共、男の視線は前方に見える廊下の隅へと吸い込まれる。視線の先にはこちらをじっと見つめている、ひとつ目の小さな異形は蠅頭と呼ばれる呪いだ。)

今波燈 ♦ 2020/12/29(Tue) 13:33[9]

(自信に満ちた口吻に反論するよりお手並み拝見とばかりに、眉間にわずかな皺を寄せたままくちびるを尖らせて少しだけ足を速める。また少し彼との距離が縮んで、浮き彫りになった身長差をあらわすように彼の顔ばせを見上げたなら「わかった」と彼から預かった学生証を両手に包むようにして持ちながら一つ返事。ほんのすこし声音がやわらいだのも眦が下がって口角が上がり、笑みのような形が顔ばせに浮かんだのは少し緊張が解れた証左だったのだろう。なのに。)……。(開いた口が塞がらないとはまさにこのことだった。否、ある意味最も信用できる台詞なのかもしれないけれど。助けられる側としては不満を口にする権利もないが、Xが閉ざされた世界であることを思えば遠回りな心配で声を上げること位なら許されるだろうか。)……困らないの? もしかしたら、それこそ運命の出会いみたいなのが出来るかもしれないのに。囚われのお姫様って言う位なんだから、素敵な人かもよ。折角危険を冒して来たんだし、そういうミツギにとってご褒美みたいなのがあったって良いじゃない?クリスマスだし、プレゼントってことで。(柄じゃないことを今まさにしているのだと、彼を信じられているのはその自信によるものだろうか。胸中にたゆたう不確かな感情を支えに、彼の背を見つめながら歩みを進めて。)何?……あいつらって?(漸く彼に追いついて、彼の視線の先を追うことが出来る。目を凝らして廊下の隅へと視線を向けてはみたものの、目視できるものは埃くらい。一歩先へ進んでソレに歩み寄ろうとしたところで、むすめに再び襲って来たのは寒気と頭痛――先程と同じ、近付いてはいけないと警鐘が鳴る。)……私には、何も。けど、さっきミツギと会った時みたいに、近付いちゃいけない気がする。ミツギには何か見えてるの?

御調久遠 ♦ 2020/12/29(Tue) 16:54[10]

(得ている情報はふたつ。奪還対象の僅かな情報と、派遣されたのが近頃話題になっている胡散臭い宗教団体であるということだけ。ちなみに言われなければ今宵が聖夜であるということも忘れていた。投げられた話題にもまるで興味がありませんと言外に示すよう手持ち無沙汰になった手で乱雑に頭を掻いた。日々の出来事のひとつにすら興味を持てない男からしてみれば、此度の任務も、それに伴う昇級も、クリスマスプレゼントだってなにひとつ、)興味ねぇなぁ。プレゼントってンならまだケーキ喰ってたほうがマシだろ。 イマナミは憧れてンの?運命の出会いってヤツ。(もっともケーキの味なんてわかりはしないけれど。運命の出会いとやらに比べたらまだ有り難いなどと低く喉を震わせて、吐き出す音は嘲笑めく。なにも少女を嘲ろうという気持ちはないものの、唐突にそんな言葉が出てくるということは多少憧れもあるのだろうと、唇を零れていった言葉は所謂興味本位というやつだった。)……ま、見えてりゃこんなトコで生活出来ねえか。(予想通りの反応に独言、吐息する。蠅頭へと近付いていくさまを見遣れば「あんま近付くなよ」と警告をいれると共、万一に備えて警戒を強めることも忘れない。)見えてキモチのイイものじゃねえよ。 よかったな。このままここにいりゃオマエ、下手すりゃ死んでたかもしンねーぞ。(蠅頭が多いとはいえ四級程度の呪いもいる、そして呪いが集まる場所には決まって“大物”が隠れていることが多い。ゆえ、呪術師として忠告めいた言葉も落とそう。少女の事情を知らぬからこそ言える言葉でもあった。)

今波燈 ♦ 2020/12/29(Tue) 20:32[11]

いいね。クリスマスのイメージだとブッシュドノエルだけど、今食べたいってことなら甘酸っぱいいちごがたっぷり乗ったショートケーキが良いな。……ミツギは、好きなものとか興味のあることとかってないの?(それは他愛ない会話のつもり。未だ緊迫した世界に在る最中では些か呑気過ぎる気もするけれど、刺激された好奇心には敵わない。問うたものが反射すれば苦々しささえ滲んだ嘲笑みが自然と浮かんで「そろそろ良い意味での出会いはあってくれても良いんじゃないかとは思ってるよ」と一言。)まあ、それなら見えなくて良かったのかもしれないけど、それはそれで何か嫌だな……。(独り言もそこそこに「分かってる」と傲慢な返事をして見せたまでは良かった。死を匂わせる言葉に眉根が跳ねて、顔ばせから感情が消える。刹那のことだった。)どういう意味?……下手しなくても、遠くない内に死んでたよ。私は、復活の日の贄で、……教祖様のために生かされてたんだから。(同情を求めない淡々とした口吻の中で、徐々に冷たい怒りが滲む。苛立ちをそのまま声音に潜ませれば自然と顔ばせが鋭く歪んでゆくのも自然と言えよう。罪も悪もない彼に掴み掛らない代わり、両手で握り締めた学生証――を傷付けてしまうのは本意ではないから、片手だけを外してその爪をてのひらに食い込ませた。気持ちを落ち着かせる目的で徐に瞼を伏せながら震える吐息を漏らし、一度呼吸を止める。ゆうるりと瞼を持ち上げたなら。今度は深く息を吸って。)……ミツギは知ってて囚われのお姫様とやらを探してたんじゃないの? ここには、私以外にもそう言う生贄に選ばれた子たちがいる。ううん、これから選ばれる子だって、きっと。(歩んできた道を辿るように振り向いて、漸く迷いがまろびでる。)

御調久遠 ♦ 2020/12/30(Wed) 00:24[12]

イチゴって甘いもんなんじゃねーの? あんま酸っぱいイメージなかったわ。(以前高専の生徒らが甘い甘いと恍惚と苺を頬張っていたのと、見た目にも赤々と完熟しているものだから、すっかり苺は甘いものだと先入観が生まれていた。ゆえ少女の口から甘酸っぱいと言葉を聞けば意外そうに眸を瞬かせもしただろう。興味や嗜好の話題にはNOと肩を竦めてみせながら「今興味湧いたもんつったらさっきオマエに質問したコトくらいじゃね」などと他人事のように嗤うものの、興味が湧いたなどというわりに実際少女から返ってきた解答に返した相槌は「ふーん」のただ一言。ご覧の通りの飽き性だ。)そのまんまの意味。 ……へえ。宗教団体ってのはヤベーヤツらの集まりだとは思ってたが、ンなことしてやがんのか。呪いが溜まンのも納得だわ。(教祖様。復活の贄。これらの単語を聞いただけでも、今足を踏み入れているこのXという宗教団体が如何に常軌を逸した存在であるか理解できよう。されど無感情に吐き出す音にいずれも同情はない。もとより他人事。内情を聞いてなお男の心に関心は宿らず、紡ぐ言葉は人の心など持ち合わせていないのではないかと思うほど冷たくも聞こえよう。「つかオマエ、そーいう表情も出来ンのな」そう紡ぐ言葉は感心めく。共に行動してまだ1時間にも満たないが、感情の抑制に長けた少女だと勝手ながら認識していたゆえ、その鋭くなった眼光を、苛立ちが潜む声を、こちらに向けられるのは意外だったのだ。)知らねーし興味もねえ。 どこで誰がどんなふうに死のうと、オレにゃ関係ねーコトだ。わざわざ助けてやろうって気はねえよ。(興味なしとひらひらと手を振る仕草のなんと意地悪なこと。所詮退屈しのぎ。言われただけの任務。真実を知ってなお人助けに動くつもりはない。なれど少女のように意思を示した者に対してはこの限りではなく、酷いなりに男もちゃんと人間だった。)

今波燈 ♦ 2020/12/30(Wed) 02:18[13]

甘いのもあるし好きだけど、私は甘酸っぱい方が好き。 本当に外に出られて、まだあのお店が残ってたら、……お金が作れてからだけど、ミツギに差し入れてあげる。美味しいから、食べてみてよ。(興味嗜好の返事を聞いての反応はと言えばそっくりそのまま意外そうに何度も瞬きを繰り返す。刹那的な感想は胸中にのみ潜ませて、今度ははっきりと訝し気に眉根を寄せた。)ねえ、さっきから説明になってなくない? 呪いが溜まるって言うのもよくわかんないんだけど。(失礼なことに飽き性だとか変わり者だとかの印象を抱くことはあっても、彼が冷たいとは一度とて思わなかった。だからこそ、こうして厭うことなく彼と共に歩いている。無条件に人を信じるほど純粋でもないむすめが、こうして彼と向き合っていられる。寧ろ、そんな相手に対して睨むような視線を向けるむすめこそ横柄だろう。「納得の出来る理不尽とそうじゃない理不尽と位はあるから」と口火を切ったのち。)……ごめん、ミツギが悪い訳じゃないもんね。(指摘されて、漸く感情の揺れを自覚する。制御し切れぬ理不尽と認識していたとは言え、素直さを学ぶ内に糊塗が下手になったのだろうか。――一拍。深呼吸をして、一度だけ強く閉じた瞼を開いた時、すうと波が引くように顕わにしていた感情が薄れる。眉尻と口角を下げ、困った風な顔ばせ。穏やかさを張り付けたそれ。)助けて貰う立場の私が言うのもなんだけど、本当にミツギ何しに来たの……。 暇は潰れた?(何とか平静を装っても、直ぐにそれが崩される。先程握り締めていた手も目頭を押さえて溜息が漏れる手伝いをするだけになるのだから、やはり調子は乱されっぱなしと言ってよいだろう。しかし、話はそれで終わらない。)……ねえ、ミツギ。此処から出口は遠い?ミツギがいれば、私も、ミツギも、安全なんだよね?

御調久遠 ♦ 2020/12/30(Wed) 12:09[14]

イマナミさ、真面目って言われね? ま。そこまで言うなら奢られてやンよ。(義理堅いというかなんというか。差し入れと聞けばきょとんと眸を瞠りもしたが、そこまで言うのなら余程のものなのだろうと冗談めかして相好を崩す。味はわからない。なれど無粋を告げる気はなく、見た目で楽しめるものがあるのは事実ゆえ。わからないとの言葉にはそりゃそうだ、なんて思いつつ。)見えねーヤツに説明してわかンのかよ。(この言いようである。気怠さを隠すこともせず、どうせわかりはしないのだからと厭きれ面で音を吐く。斯様に協調性など欠片もない男であるから対人関係は壊滅的、付き合える人間などごく少数。か弱い少女ひとりに睨みつけられたところで気にするような男ではなく、その唇より謝罪が落ちれば寧ろどうしてそうなるのだと怪訝そうに眉根を寄せるだろう。)あ? オレの言葉でイラついたンだろ、ならイマナミが謝る必要ねーだろ。気にしてねーし。(感情の発露は悪いことではない。怒りも、哀しみも、悔しさも、そうして表に出せることは人間らしさの表れであろうと、気にしてないと語る男の面に渋さはない。なんの情ものらない貌は、男が本当に気にしてないのだと伝えるには十分だろう。)言ったろ、柄じゃねーンだよ。オヒメサマの救出は端っから他のヤツらに任せるつもりだったしな。(相変わらず悪びれもせずに不真面目を吊り上げた唇へとのぼらせる。有意義を問う音へは「それなりに」と暇が潰れたことを告げながら。)距離なんざ憶えてねーよ。 ま。傍に居る限りは見殺しにはしねえ、安全かどうかは──…(言いかけて言葉を飲み込み、歩みも止める。少女が歩みを進め続けようとしたならば、少女の進路を妨害するように手を翳してみせるだろう。)ハッ。 丁度イイや。見てな、ンでテメーで決めろ。オレと居て安全かどうか  なァッ!(進行方向、前方。地より這い出る呪いの腕を確認すれば、好戦的な笑みに狂犬の片鱗をのぞかせて。呪霊が頭を見せた瞬間、地を蹴り即座に距離を詰め、左手に握ったダガーを呪霊の脳天めがけて高々と振り下ろす。決着がつくまで数十秒、苦戦はない。)

今波燈 ♦ 2020/12/30(Wed) 20:23[15]

さあ? でも、ケーキは楽しみにしてて。(中学まではさほど目立つようなタイプでも無かったし、そもここでも過ごすようになってからは言われるほどのことをして来なかった。この最中に在るからこそ冗談で終わらせるにはもったいない、約束にも満たないやさしい未来のはなし。やわらいだ顔ばせは自然と浮かんだものだった。)見えないから分かんないって知ろうとしないのは違うでしょ。(ああ言えばこう言う。とは言え教えて貰う側であること位は自覚しているから縋って追い掛けるほどのことはせず、ささやかに恨めしそうな視線を向けるだけ。)……そう。(ぱちりと意外そうにまた瞬く。感情を顕わにしても、自然と抑制する形を取ったとしても、彼がむすめに対する態度に変わりはない。理想とするむすめの姿を押し付けたりしない。――彼は、むすめが出会ったことのないタイプの人間だった。嘘も見えぬ台詞を頭の中で反芻しながら、)柄じゃなくてもするかもしれないし、したって良いでしょう?……私のことオヒメサマってことにして、連れ出すことにしたのだってそうじゃない?私を見つけたのは不運だった?(別段真面目不真面目を問うつもりも非難するつもりもないから、純粋な疑問を投げ掛けるだけに留まる。「それは何より」と付け加えたのだって、不遜な口吻なれど他意はない。)それは別に疑ってないけど、(そこで言葉は途切れる。不思議そうに視線を落として、翳す手を見つめたたまゆら、思考の追いつかない事象が再び訪れた。「っ、ミツギ!」今日一番の声が上がって、構えるように学生証を抱えて縮こまる。)――ミツギ、(思うところがないとは言わないし、やはり何が起こってるか分からない。分からないけれど、何かが起きたことだけは分かっていた。彼の危なげのなさは見て取れたとて、不安げな声が漏れる。頼りない足取りで彼の元へと歩み寄ろうとした先で、何も無いそこで躓くとは思わずに。)

御調久遠 ♦ 2020/12/30(Wed) 23:54[16]

(ショートケーキとはどんなものであったか。眼差しを逸らし、手持ち無沙汰に指の関節をパキンと鳴らしながら暫しの思案。触感は柔らかくて、やや生乳くささがあって、少しの脂っぽさが口に残るものであったように記憶しているのだけれども。呪いにするつもりは毛頭なく、それこそ冗談のつもりで聞いてはいるが、やわらいだ少女の花貌を目にしてしまえばどうしたってそんなことを考えていた。)めんどくせ……。 わーったよ、こっから出たら教えてやる。(背中に突き刺さるものを感じればわざとらしく大袈裟に肩を竦めてみせたのち、気怠さを全面的に押し出しながらひらりと片手を振ってお手上げ降参のポーズ。柄だのそうじゃないだの、議論するまでもなく既に答えは出ていよう。ふ、と息を吐く。あの時だって任務だのなんだの、深く考えちゃあいなかった。)オレがオマエを連れ出したのは、オマエがオレと出るつったからだ。そうじゃなきゃオヒメサマだろーがなんだろうが置いてってた。 不運だの恵まれてるだのンな細けえコトは考えちゃいねーし、どちらにせよオマエの言うようにこうして一緒に居るだけでもう既に柄じゃねーコトしちまってンだよ。オレは。(連れ立って歩いているのは少女がオヒメサマだからってわけじゃないし、柄じゃなくったって決めた以上相応の責任は持つ。それでいいだろって、憂さを晴らすように挑んだ呪い退治は手早く鮮やかに。少女に呪いは視えずともこの体捌きは見えようから、呼ばれた名に応えんとそちらを振り返ろうとして、)  なにやってンだよ。(とは、少女に向けた言葉ではない。すぐに少女の許へと歩み寄り、見下ろす形で傍に立った。その片足は少女からみれば不自然に浮き上がっていただろう。実際、少女の足許で悪さをしていた蠅頭を踏み付けている。)ドジ。(幼稚な罵言は今度こそ少女へ向けての言葉だ。くつりと喉を低く震わせばっさりと言い捨てながら、「立てるか?」と空いてる右手を差し出した。)

今波燈 ♦ 2020/12/31(Thu) 02:39[17]

(彼の事情を知らぬからこその言の葉を理解せぬまま、ほんのり笑みを深めて見せる。二人で歩みを進める静謐が揺るがされてしまえば「約束ね」と何処か満足げな声音でささめいたのだって掻き消されてしまうだろうけれど、胸中に覚えたぬくもりは消えやしない。そうだねって頷いて見せたのも、素直じゃない感謝の証だ。――しかし、それも一瞬で遠退いた彼と言う存在に不安を覚えて、はくと息を呑むまでの安寧である。彼が地に足を付けるまで、怯える暇もなかった。残像のように運ばれてやってきた風が通り抜けていくのを肌で感じて、身構えた体勢を解く頃になって漸く止まっていた思考が動き出す。彼の名を呼んだのも、彼の元へ歩き出したのも、無意識のようなもの。だからこそ、油断して招いたハプニングは唯の報いと言えるのだけれど、「っ、」と声を呑んだ通り、恥ずかしいものは恥ずかしい。再び静けさが戻って来た世界では、床とむすめの体とが対面した音は大きく響いたことだろうから尚更だ。音ばかりが派手で怪我と言えば、両膝についたささやかすぎる擦り傷くらい。それより学生証を離さぬよう握り締めたがゆえに顔を庇った際にぶつけた頬の行方が気がかりだけれど、傷とは言えぬ代物であるしそも羞恥で頬も朱に染まっているだろうから、顔を上げての第一声は慌てて取り繕うような言い訳で。)こっ、これは、ミツギがいきなり先に行っちゃうからで――。 ……ミツギ、何してるの?(不自然に浮いた足に気付いたのは、言い訳を始めて少ししてから。失礼だと口にするのも子ども染みていて、結局は少々不貞腐れた心持を誤魔化すように口を噤み「……立てる」と返答。おずおずと手を重ねあわせたなら、彼の手を借りて立ち上がろう。あたたかい、ひとの手だった。)安全かそうじゃないかは分からないけど、……ミツギ。後悔したくないから、一つだけお願いを聞いてくれない?

御調久遠 ♦ 2020/12/31(Thu) 14:42[18]

(呪術師に悔いのない死などない。ゆえいつか訪れるだろう凄惨な死を呪わぬよう、なににも興味を持てぬ空虚な心を埋めんと男は呪いを祓っている。「約束」というものもこの魂を生へ結びつける縛りになるゆえそう易々と交わしていいものではないが、やはり否と声をあげることは出来なかった。ただ、その想いが近いうちに昇華されればいいと思いながら。ひとより優れた身体能力を生まれ持ってしまったがゆえにこのような空っぽな男が出来上がったとはいえ、優れた能力は呪術師としてこの上ない宝である。それこそやる気になれば躓いた少女が地面とこんにちはする前に受け止めることも出来ていたやもしれぬが、さんざ口にしているように人助けには非積極的な男であるもので、最低なことに高みの見物をしていた節もある。派手な音が立てば意地悪にもふはりと笑みを深めもしたが、さすがに怪我を見て笑うほど下劣に堕ちちゃいない。)あー、悪かったよ。 ナニってそりゃ──…ンなコトより怪我、ヘーキかよ。(頬にさした紅色は羞恥だけではないと気付いたならばつが悪そうに眼差しを逸らしもしただろう。なにしているのと少女が問うたものが足許にあると知りながら、安否を問うように話題を無理矢理にでも怪我のほうへと持っていったものの、内心、これ以上なにも説明しないままでいるのは難しいだろうと感じてはいる。足許で暴れる蠅頭を抑え込むように今ひとたび強く踏み付けた。)あ?お願い? ンだよ、言ってみな。聞いてやれるかどーかは別だがな。(重なった少女の手を引いては立ち上がる手伝いをしながら、声が届けば訝しそうに首を傾げつつ言葉を待つ姿勢。)

今波燈 ♦ 2020/12/31(Thu) 16:35[19]

(彼の身体能力の高さについては疑うべくもないが、此度の失態に彼を絡ませるつもりもなかった。呪術師としての戦いを理解出来ておらずとも、結果的に何らかの脅威から再び守られたのだろうことだけは彼の言動から見て取れたから。羞恥ゆえの恨めしそうな視線は溜め息ひとつで濁してから、不自然に途切れた話の行き先を辿るように視線を戻して「そりゃ?」と駄目押しの一言。怪我と聞いて漸く意識を肌へと戻せば、なるほど確かに熱を持っているところがある。学生証を持ったままの手の甲をそうと頬に押し当てて、もう片方にも触れた。無事に体勢を整え、再び彼を見上げたなら先ずは「ありがとう」と感謝を述べて。)だいじょうぶ、……たまにあるの。ほら、血も出てないし、痕になるようなものじゃないでしょ?別にミツギのせいじゃないし、謝らなくてもへいき。(たまに、ではなく、よく、でもある。しかし、それこそ蛇足だろう。重なっていた手を逃がさぬようにぎゅっと力を込めて、言葉を選ぶ。差し出せるものも無いむすめは彼に無理を強いるつもりも無く、ちょっとした彼の様子も見逃さぬようにとうかがいながら。)ミツギが危ないって、これ以上は無理だって判断したらそこまでで良い。少しだけ遠回りをして……皆がどうなったのか、知りたい。外に出たがってた子たちが、どうなったのかって、そういうこと。(彼と会ってからと言うもの、選択ばかりだ。自らの意思で、自らのために。得手不得手を問えるものでも無し、外へ出た後の不安だってない訳じゃないけれど、口にせぬまま終わらせては悔いを残すことになるだろうと判じるに容易い。もちろん、付け加えた気がかりが失礼なものになると分かっていて口にする辺り、無意識に底意地が悪いことについてはむすめの反省すべき点だろうけれど。)……ミツギ、教徒の人たちと会ったらどうする?

御調久遠 ♦ 2020/12/31(Thu) 18:21[20]

(とどめのダメ押しを喰らってしまえば愈々退き際を悟る。観念したようすで緩慢に首筋へと手をやっては「呪い、祓ってンだよ。nowで」と白状すると共、靴底で不愉快に喚く呪いを咎めるようにぐりぐりと踵で押し潰す。少女の手に学生証が握られたままでいることに気が付けばもしやと予感が過り微か眉を顰めもしたものの、怪我事情を聞けば意識はそちらへ。これだけ呪いが蔓延る場所であれば想像できる事象であるとはいえ、困ったもんだとキイキイ煩い元凶を見下ろした。)やっぱ影響受けてンのか。 イマナミ。オマエここで生活してて体調悪くなったコト多いだろ。(眼には視えずとも呪いの影響は現れるものだ、蠅頭でも一般人には厄介であることに変わりあるまい。ゆえ少女をちらりと見遣り、告げた言葉は問いかけではなく確信だった。やわらかな少女の手と違い、大きく節くれだった男の手は武器を握りしめた数だけ硬く厚い。そう握り心地のよいものでもないだろうから少女が無事に立ち上がればすぐに離すつもりであったのだが、繋がりに力が加わったことを感じれば手許を一瞥もしただろう。)……ナニをお願いされるかと思えば、そンなことかよ。(身構えて損したとばかり肩を落とすさまは、男に気を遣ってくれている少女に対して失礼極まりない態度であったろう。だが実際、男にしてみればどうということのない願いだった。言葉を挟む隙を与えぬよう間髪入れずに唇を開く。)構わねえ。 つっても地図が頭に入ってるワケじゃねーンだ、どこを見てえのかある程度候補絞ってオレに教えろ。(つまり方向の指示さえ貰えれば少女の意思に従うと、けろりと答えてみせるだろう。次ぐ言葉も等しく軽い。)さあな。ンなモン向こうの出方次第だろ。(いざとなればひとを傷つけることも厭わぬ姿勢を示し、「行くか」と促すよう言葉を掛けた。足に呪力を籠め、蠅頭をしっかりと踏み潰して祓うことも忘れずに。)

今波燈 ♦ 2020/12/31(Thu) 20:29[21]

……うん。 ん?……うん。(分かっているようで分かっていないとはこのことなのかもしれないが、分かった風を装ったところで意味もない。相槌を打つだけに留め浮いた彼の片足の下をじいと見つめてはみたものの、やはり感じ取れるのは得も言われぬ何かだけ。眉間に皺を寄せたまま手を伸ばすか考えて、両手が埋まっていることに気付いて結局四肢さえ動かさない。羞恥も鈍い痛みも混乱の最中にあっては大した残滓を残すことも無く、せめてと足元と彼とを交互に見遣っては「呪いは、形になってるものなの?」と本の中だけで生きる空想上の単語と現実とを結びつけようと藻掻いて。)影響? まあ、そりゃ、ある程度は……でも、別に大したことはなかった、と思うけど。(体調不良もある程度のハプニングも日常茶飯事ともなれば、当然感覚は麻痺する。内外で起きた体調不良の違いを語れる訳でもなし、今日のことだって感覚が鋭敏になったからだと説明されてしまえばむすめは得心してしまうのだろう。その程度の認識だった。異性の手なんて触れたのは数えるほど、然もそれが家族や信徒以外のものともなると尚更だ。異性らしい、頼り甲斐のある手。それを説明するのは何だかおもはゆいから口に出すつもりはないけれど。)なっ、 ……ありがとう。って言っても、私も何処って候補がある訳じゃないんだけど……まず、あっち。本当に逃げ出すつもりなら多分部屋に籠ってることは無いだろうし、食堂も出発したところだから……庭とか、そういうところ。(一瞬の動揺ののち、安堵するように顔ばせをやわらげて感謝を告げる。信徒に見つかれば、連れ戻される危険があることは承知で見て回ることを決めた。だからこそ彼の返答を咎める立場にもなくて「……、人に見つからないと良いんだけど……」と強張った声音で独り言ちては信徒に見つからないことを祈ろう。振り返った先を指差して、踏み出した足取りは迷いながらも確実に人の気配と音とが響く渦中を目指して。)

御調久遠 ♦ 2020/12/31(Thu) 23:35[22]

(案の定の反応を見遣れば「ホラな」と言わんばかりに吐息して、かったるそうに眸を伏せる。そも面倒だからと少女に“呪い”がなにであるのか説明しなかったのは男ゆえ少女に非はないのだが、斯様に視えない相手と言葉を交わすのは久方ぶりで何処から話しをしたものかと頭を捻っていた折、呪いについての質問が飛んでくれば肯定を示すように頷いた。)ああ。想像つかねーだろうが、呪いは生き物だ。鬱陶しく啼くし、そこらじゅう動き回りやがる。斬れば体液も出るしな。(階級が上になると人語を解する呪霊もいるくらいだ。いっそ化物と称したほうが少女には伝わりやすいやもしれないと、呪いの容貌を見下げて思う。)大したコトねーンなら結構。 ま。こっから出りゃ違いがわかンだろ。たぶん。(壁に囲われた陰鬱とした呪い蔓延る日本家屋よりマトモな場所など日本に幾らでもある。ひらりと手を振りながら無責任な言葉を吐き捨てて、あっちと示された方角へと眼差しを向けたなら「あいよ」と暢気な相槌ひとつ。強張った少女の声を拾えども一瞥をくれたのみで気の利いた言葉をかけるようなことはなく、されどふと唇を開いては会話が途切れぬよう努めることはしただろう。)そんなイッパイ居んのか、“復活の日の贄”ってヤツ。(道中問いかけるは少女にとってあまりいい話題ではなかったやもしれないが、言葉を続けるのには意味があった。足は確実に生き物の気配渦巻く場所へと向かっている。足取りは止めぬまま、真意を捉えんと黄昏が少女を見据えて。)オマエ、ソイツらに「連れてって」って言われたらどーすンだよ。(純粋な疑問を音にした。)

今波燈 ♦ 2021/01/01(Fri) 09:57[23]

(気怠そうな彼の様子に気付いていたとて、前言撤回はしない。説明を受けての想像した“呪い”の姿は如何にもおどろおどろしい蠢く存在であって、思いがけず顔を顰めてしまった。聞きたくないと耳を塞ぐことも信じられないと目を塞ぐことも簡単で、けれどどうしてもそれを選べずにいる。知らなければそうすることも出来ただろうけれど、既に存在することを知ってしまったから。とは言え、まさか人語を解するようなものが存在するとは夢にも思わないでいる辺りまだまだ理解は甘い。)霊感みたいなのがあるかどうかとか、そう言うので見えるかが決まるの?それとも訓練すれば、私でも見えるようになる?(彼が語っていた学校の存在は耳馴染みのないものだったけれど、学生証と名乗りの際に用いたことから察するにそれと無関係ではないのだろう。思惟を巡らせながら歩みを進めていればの返答には「ありがとう」と慣れを伝える代わりに感謝を告げ、承知するような頷きをひとつ。言われてみれば確かに先程の悪寒と頭痛は和らいだような気もするが、実感は薄かった。)一杯……かは分からないけど、片手では数えられないくらい。ただ、逃げたがってた子は選ばれてない子の中にもいるから、……今私が戻ってるのは、私の自己満足なんだと思う。私はミツギに会えたけど、……会えずに死んでたのは私かもしれないのにって、罪悪感を少しでも減らしたくて。(緊張で指先が冷え、感覚が鈍くなっていく。結局、むすめは憶病なだけなのだろう。こうして戻ることに実質的な意味はないと頭の中では理解しながら、例え軽蔑されたとしても嘘を吐く理由が見当たらなくて迷うように声を震わせる。問われたそれにも答えが見付からなくて、)……どうしよう。(心許ない返答しか出来やしない。むすめの欠点と理解しているから、双眸の光を揺らがせて「待って、今考えるから」とひとまずは時間稼ぎ。)

御調久遠 ♦ 2021/01/01(Fri) 18:51[24]

霊感……まあ似たようなモンか。 状況によっちゃあ普段視えねーヤツも呪いが視えちまう場合もあるが、呪力の有無は先天性だかンな。訓練すればどうこうなるモンじゃねーよ。(霊感とは言い得て妙だ。考えるような間を開けたのち、紡いだ音は納得したようでもあったろう。呪術師の家庭に生まれても才に恵まれぬものがいるように、こればかりは努力でどうにかなるものではないとハッキリと首を振り否を示したのは少女に下手な希望を懐かせないためでもある。もっとも先の説明をしたうえで呪いを視たいなどと思う変わり者はそう居ないだろうが。)へえ。 そーいう感覚はオレにはよくわかンねえが、イマナミが満足すんならそれでイイんじゃねーの。(正義感など欠片もなければ、少女の口から贄の数を訊いておきながら無関心な音も落ちる。喩え意味のない行為でもそれが少女の安寧に繋がるのであればその気持ちを否定するつもりはなく、他者の気持ちにも興味が懐けぬ空虚な男は気怠そうに頭の後ろで腕を組んだ。ただ肝心の本題へ触れた折、戸惑いが耳朶を打ったならば怪訝そうに少女へと眼差しを向け、揺れる双眸を見据えるだろう。)信徒に見つかる心配はしておきながら、その可能性は考えてなかったのか? ま。もしも縋られたとして、決めンのはオマエだ。そン時は好きにしな。(連れて行ってと縋られたとして、手を取るも見放すのも少女の意思に委ねると言外に伝える男の歩みは止まらない。)ただし、オレが保証するのはオマエの安全だけだ。それだけは憶えておけよ。(正義のヒーロー?否、そうではないと口許を彩る不敵な笑みが告げている。称すならアンチヒーロー、そっちのほうが相応しかった。)

今波燈 ♦ 2021/01/01(Fri) 22:32[25]

ふうん、……因みにみえる場合ってどんなの? さっき言ってたジュジュツコウセン?はミツギみたいな人たちがいる場所のこと?(みえなくて安心するような残念なような、複雑なおもいが胸中にうまれる。確実に理解したことと言えばむすめが足手纏いにしかなり得ないことくらい。その証左に沈黙が一拍訪れることになるが、疑問はそれだけではないと直ぐに持ち直して問いを続ける。それはむすめが本当にききたい話の前置きとして。)ま、全く考えて無かった訳じゃないよ。ただ、一緒に行こうって言うのは簡単だけど、それだけミツギに負担が掛かるってことじゃない?人数が増えるってことはそれだけ見つかる可能性とかも増えるってことだと思うから。(むすめの危険が増えることは自ら招いたことだから理解し得ても、彼のことまではそうと言えなかった。言い訳めいた口吻の中に織り交ぜる本音はどこまでも身勝手で辟易する気持ちもあるけれど、止まぬ歩みと諭すように紡がれる言の葉がむすめの決断と声とに力をくれる。)責任は、持たない。持てないから。けど、それでも一緒に行くって言うなら、行こうって言うよ。(彼が意思を支えてくれるから、躊躇いながらでも決意を語れる。彼がいてくれるから、他の誰かを気に掛けることが出来る。それに気付いたのは窓から差し込んだ星月の明かりが彼の笑みを鮮やかに照らし出したたまゆら。とくんと胸が高鳴って見惚れたことも、大きな瞬きをして見せながらも時間が止まったかのような感覚に陥ったことも一生のひみつにしよう。頬に上った熱も抱き締めた学生証も、夜の闇が隠してくれるはずだから。「――ミツギ、 ありがとう」と漏れた声音はいっとうやわらかなものだった。)そ、そんなこと決めちゃって良いの?もっとかわいくてまもってあげたい子とかいるかもよ。(そこまで彼に言って貰える理由が見付からなくて、照れ隠しは軽口めく。もっと素直に、嬉しい気持ちをさっきみたいに言えたら良かったのに。しかし、そんな緊迫感のないやり取りも光と人の声が漏れる部屋に近付けば肩が跳ねて息を呑むことで歩んでいた足と共に止まる。信徒の声だ。)

御調久遠 ♦ 2021/01/02(Sat) 01:11[26]

どんなってンな詳しく知るかよ。そーいうのは五条サンにでも訊いとけ。 そ。呪術高専ってのはオレみてーな呪術師育てるガッコのコト。ついでにさっき言った「五条サン」ってのはそこのセンコーな。(呪い。呪力。呪術師。いずれも少女がこれまで生活する上で無縁の言葉なれば、すぐさま理解するのは難しかろう。滔々と語りながら頭の片隅に此度の元凶たる呪術師最強の貌を思い浮かべる。さて、件の適当教師は今頃なにをしているのやら。)そりゃそーだ。つっても見つかったところでオレにとっちゃあハプニングのひとつにもならねーと思うがな。(日々呪霊を相手にしている身、たかだか人間に見つかったところでどうということもなし。信徒が術師であるとは聞いてはいないし、喩えそうであっても負ける気はしないと笑う貌は傲慢だ。決意の宿る凛とした声を聞いたなら「リョーカイ」と少女を一瞥し、覚悟を肯定するよう頷いて。ありがとうとやわらかな声が届いたならば、礼を言われることじゃないだとか、確かそんな言葉を返そうとしたのだ。けれど窓辺より差し込む仄明かりに照らされた少女の花貌を見た刹那、言葉は声となる前に瞬きと共消えてしまった。その代わり、手持ち無沙汰に首筋へと手をやった。)一度オマエを連れてくって決めた以上、他のオンナに乗り換えるつもりはねーよ。めんどくせーし。(両の手で守れる人数は決まっている。それに初めに声を掛けたのは男ゆえ、今更人を変えるつもりはないのだと改めて言葉にして伝えよう。少女が足を止めたのと同じく男もまた部屋の異変を感じ取れば歩みを止め、し、と自己の人差し指を唇に宛てて静かにと少女へ指示を送る。開いた扉の隙間からは「侵入者」「贄の子ども」「捜索は」そんな言葉もちらほらと。聞き耳を立てて暫し、中の気配が動き出したことに気付けば少女の細腕を掴む手を伸ばして。)イマナミ、隠れンぞ。(ひとまず身を隠すべく、近くの部屋へと引っ張りこんでしまおうと。)

今波燈 ♦ 2021/01/02(Sat) 14:06[27]

呪術師……。因みに、みえなくても私にその呪いを弾くこととかは出来たりする?(呪う側の人間をそう表現する本の中の世界もあったはずだが、これまでのことから鑑みるに呪いとやらと戦うひとのことを指すのだろう。ゆっくりと彼の語る呪いにまつわる話の輪郭が見えてくる。次いで彼への興味ゆえに彼のことを問おうと口を開いて「ミツギは、」と声を掛けて、いち、に、さん――「ううん、何でもない」とくちびるを閉ざした。うまく言葉にならなかったからだった。話の終わりには応じてくれた彼に「ありがとう」と感謝を述べて。)……ミツギ、不器用って言われない?誤解されて損するタイプでしょ。ミツギは損って思ってないのかもしれないけど。(戦闘に長けていることも、それ以外の面でだって彼が頼れる存在であることは否定出来ない。出来ないのだけれど、素直に表すにははにかみが強かった。喜びもまた然り。その代わりにと紡いだ彼の印象こそ不躾なものであるにもかかわらず、撤回する気は微塵もないのだから可愛げのなさはここに極まれる。幸か不幸か早くも信徒の会議室と思しき部屋に辿り着けば顔ばせを引き締め、壁際に沿う形で立ち位置を変えて返事の代わりに相槌をひとつ。震えるくちびるのあわいを結んで、呼吸を忘れぬように、自己を見失わぬように両手で学生証を握り締める。耳をそばだてて話の流れを追っていれば更なる情報を得ようと身を乗り出す体勢になりかけたものの、彼の手の力が伝わったのが先だった。)――! うん。(意識を彼へ戻すことで、自然と強張りもやわらいだことだろう。彼と共に再び暗がりが支配する室内へ飛び込んだなら、先ずは部屋の中を確認しようと目を凝らす。しかし目を凝らす程広くもないそこは、どうやら物置として使われているらしい部屋なのか些か埃っぽさが拭えない。)

御調久遠 ♦ 2021/01/02(Sat) 20:13[28]

ムリ。 だからオレら呪術師なンてモンが居るんだよ。(呪いを祓うために。まだまだ説明不足であることは否めぬものの、ここを出て高専預かりにでもなれば教員らがもっと上手に教えてくれるはずだからと男の説明は杜撰極まる。名を呼ぶ声を聞けば少女へ黄昏を向け「なンだよ」と不思議そうに声をあげもしたが、すぐに唇が閉ざされてしまえば訝しそうに首を傾いだのち、肩を竦める仕草のひとつでもしてみせたはず。)ンだそりゃ。誤解もナニもオレはオレだ、他人にどう思われようが関係ねーよ。(不器用かはさておき、誤解もなにも自分はただありのままを晒しているだけ。他者に興味がなければ如何思われようがそれこそ知ったことではないと嗤って一蹴。喩え信徒に見つかろうとも任務達成に支障は来さぬとはいえ、回避できるものはしていくのが正解だろう。少女の手を腕を掴む形で引っ張りこんだその場所は予想以上に狭く、暗く、埃っぽく、蠅頭の姿もちらほら見える陰湿な場所だった。)……物置か? ま。少しの間凌げりゃ御の字だ。(なれど隠れている身なれば呪いを祓うのも面倒で、廊下側の壁へと背をつけたなら身を潜めんとする。その間も少女の腕を離さなかったのは外に意識が向いていたがゆえ、つまり忘れていたからだが、廊下より気配が消えたならふっと吐息もするだろう。)……行ったか。 ──ン? なあ、イマナミ。そのトビラ、庭に繋がってンじゃね。(指さすはこの部屋に備えられたもうひとつの扉。建物の構造的に恐らくは庭に繋がっているであろうと当たりをつけては緩慢な足取りで近寄ってみようと。)

今波燈 ♦ 2021/01/03(Sun) 00:08[29]

(語れる言葉がなくて、眉尻を下げたままあわい笑みを作る。もし問うにしても今、ここでなくてはならない理由が無いから。)だから言ったじゃない、ミツギは損と思って無いかもだけどって。(器用に生きることが正解ではないし、彼がそれでよいなら寧ろそれこそ間違いない。むすめの分かりづらい照れ隠しの感謝であって、それ以上の意味もそれ以下の意味もなかった。可愛げのない含み笑いの前ではどんな返事も聞き流してしまうことになっただろうけれど。)た、ぶん……。(ふたりぼっちの物置の中。また少し息が詰まるような感覚になって眉を顰め、押し出すように息を吐いた。ほんの少し、気持ち彼へと身を寄せたのは無意識のことであったけれどその事実に気が付くより先、意識は指し示された扉の方へ向かう。彼と共に扉へ歩み寄ったなら迷うことなく取っ手を握ってそうと庭へと続くその扉を開き、一度だけ視線で誰もいないことを確認してから飛び出したことだろう。)っ、(拓けた空間ともなれば隠れる場所も無いが、夜空に浮かび始めた雲が仄明かりをおぼろにしてくれる。夜露に濡れた草に滑りそうになりながら駆け込んだ茂みの奥に、ちいさな空間があった。ひそやかな集まりや、かくれんぼの時によく使っていた場所だった。誰かいた形跡は無くもないけれど、既にそこに人影はない。争った形跡も無しともなれば、安堵するように足の力が抜けた。目頭を片手で押さえ、ゆっくりと長息する。)……多分、本当ならもっとちゃんと確認してまわらなくちゃいけないんだろうけど……(一つ一つ部屋を回っていくのは得策では無いし、先程の部屋で信徒の報告を待っていられるほど余裕がある訳でもない。さてどうするか。決断の時だ。)――行こう、ミツギ。(瞼を強く閉じて、思惟を巡らせた。ここでの生活を思い返しては、くちびるを引き結ぶ。しあわせとは言い難くとも、まやかしとは言えふしあわせばかりではなかった。それでも。暫しの逡巡を見せたのち、ゆるやかに瞼を押し上げてはっきりと声を上げる。ここでする、最後の覚悟にするためだった。)

御調久遠〆 ♦ 2021/01/03(Sun) 02:52[30]

(勘当されされてから彼是四年、呪われた生だった。つまらない人生を物語る如く深く濃く皺の刻まれた祖父の老いさらばえた醜貌を見なくなっただけ昔日よりはマトモになったとはいえ、呪いは今も身を蝕んだまま。ゆえ否定されることはあれど在り方を肯定されたのはこれが初めてのことで、だからと繰り返さた音には「ソーデシタネ」と如何にも適当な言葉を投げる反面、頭を掻く手には微かな羞恥も滲もう。少女の腕を掴んだままであることをすっかり忘れていたくらいだ。信徒に見つからぬよう身を潜めている最中、距離感がある程度バグッていたところでそれを気に留めることはなかっただろう。扉へ歩み寄る頃には漸う少女の腕を開放し、念のための警戒は怠ることなく少女の行動を見守る姿勢。閑静とした薄闇を駆ける少女の背を静かに見据え、今は武器を持たぬ両の手はポケットへ忍ばせて、ゆっくりと緩慢な動作で少女の向かった茂みへと歩みを進めていく。なににも興味を懐けぬ空虚な男は終ぞ少女に掛けてやる言葉すら思い浮かばず、唇を開いたのは少女より決意の言葉を聞いてからだった。)……いいンだな。(いいのか?とは訊かない。庭に面する各部屋の窓を確認していくことも出来ただろうが、わざわざ男からそれを提案することもしなかった。少女の覚悟は既に受け取った、ならば是非を問うのは野暮というものだろう。少女の心を見定めるよう、じ、と黒曜の眸を真っ向から見据えたのち、密かに唇の端を吊り上げる。)そンじゃあイマナミ、暫くイイ子にしてろよ。(告げるや否や男の行動は速かった。無遠慮に少女との距離を詰めたなら身を屈め、華奢な少女の躰をひょいっと肩に担ぐ。そんな狼藉を働こうとするだろう。さりとて少女は花も恥じらう乙女、少しでも否を示されればおんぶくらいの妥協はしてみせよう。目の前には逃走を阻むかのように高い壁が聳えている。なれどもそれも天より授かった身体能力と呪力を籠めた渾身の蹴りで難なく突破を果たしたなら、物音に気付いた信徒が集まってくる前に早々にこの場を離れてしまおうと。)──外の世界へようこそ、オヒメサマ。(軽口は建物の上を軽々とひょいひょい飛び越えている最中に。心地よく吹く夜風に短い御髪を揺らしながら「いいクリスマスになったろ」などとついでに冗談めかした嗤いも宵の閑静へと落とし、人攫いの黒いサンタクロースは寒夜を駆けた。壁を越えた先に広がる外の世界は少女の眸にどう映ったのか。それはまた後日、高専で聞くことにしよう。)

今波燈〆 ♦ 2021/01/03(Sun) 13:06[31]

(減らず口を叩こうとして、結局僅かに笑みを深めるだけに留める。緊張感のなかったやり取りが消え去るのはこの非日常の中では一瞬のことで、自由になったからだは何かに駆り立てられるかのように一目散に足を進ませただろう。普段は小綺麗にしている身なりであるにもかかわらず、靴下に泥や砂が付いても茂みの枝葉に髪や服が引っかかってもその足は止まらなかった。茂みが揺れて彼が追い付いてきたのを理解して振り返れば、彼越しに日本家屋の全貌が双眸に映る。明かりの点いている部屋はまばらで、明かりの点いている部屋にも点いていない部屋にも誰かしらがいるのだろう。刹那の躊躇いをあらわすのは先程と同じ、あわい笑みを浮かべたことだけ。)……うん。(そして、頷く。きっと、もっとよい方法は山ほどあった。それでも、思い至らなかった方法をもしすべて思い付いたとしてもその道を選んだかは分からない。すべてを確認して得心することは不可能だと分かっていたし、何よりこれ以上の危険を冒す真似は避けたかったからだ。逃げたいと語った子らの行方は知れず、贄に選ばれた少女らの行く末だって気がかりではあるけれど、時間切れが近いこともまた事実。彼から向けられる真っ直ぐな視線に怯みかけても「後は、私も信じるつもりだから」そう強がるように笑って変わらぬ決意を示して。)えっ?(疑問符がくちびるから飛び出した矢先、ふわりとからだが宙に浮いた。思わず上げかかった悲鳴を息ごと呑み込んで、咄嗟にバランスを取ろうと彼の服を握り締める。傍目では分かりづらくとも肉付きのよい胸囲だとか単純にからだの重さだとかを気に掛けている身としては「み、ミツギ!?」と声を上げずにはいられないのだけれど、声が彼に届くのが先か、勢いよく地面から遠退くのが先か。どちらだったにせよ胸裏を占めていた憂いも吹き飛んで、空を飛んだのかと思い違うほどの出来事だったことに変わりはないだろう。)う、ん、……呪術師って……(一体。こころからの呟きは夜の空気に溶けてゆく。あんなにも高く、厚かった壁がこうも容易く突破できるとは。まんまるに開かれた眸子に感嘆の息が漏れて瞬刻、我に返ったむすめは安定した捕まりどころが見付からず、彼との話し合いを求めたに違いない。)――そうだね。(希った、夢にまで見た外の世界は煌めくばかりに色とりどりのひかりで満たされている。彼の背におぶさりながら聖夜の風を切る中で、まずは冗談を返すように同意を示そう。それから、聖夜にやって来たサンタクロースが起こした奇跡に感謝して「メリークリスマス、ミツギ」とささめき、やわらかな笑みを浮かべながらそうとその肩に額を押し当てた。)

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