御調久遠〆 ♦ 2021/01/03(Sun) 02:52[30]
(勘当されされてから彼是四年、呪われた生だった。つまらない人生を物語る如く深く濃く皺の刻まれた祖父の老いさらばえた醜貌を見なくなっただけ昔日よりはマトモになったとはいえ、呪いは今も身を蝕んだまま。ゆえ否定されることはあれど在り方を肯定されたのはこれが初めてのことで、だからと繰り返さた音には「ソーデシタネ」と如何にも適当な言葉を投げる反面、頭を掻く手には微かな羞恥も滲もう。少女の腕を掴んだままであることをすっかり忘れていたくらいだ。信徒に見つからぬよう身を潜めている最中、距離感がある程度バグッていたところでそれを気に留めることはなかっただろう。扉へ歩み寄る頃には漸う少女の腕を開放し、念のための警戒は怠ることなく少女の行動を見守る姿勢。閑静とした薄闇を駆ける少女の背を静かに見据え、今は武器を持たぬ両の手はポケットへ忍ばせて、ゆっくりと緩慢な動作で少女の向かった茂みへと歩みを進めていく。なににも興味を懐けぬ空虚な男は終ぞ少女に掛けてやる言葉すら思い浮かばず、唇を開いたのは少女より決意の言葉を聞いてからだった。)……いいンだな。(いいのか?とは訊かない。庭に面する各部屋の窓を確認していくことも出来ただろうが、わざわざ男からそれを提案することもしなかった。少女の覚悟は既に受け取った、ならば是非を問うのは野暮というものだろう。少女の心を見定めるよう、じ、と黒曜の眸を真っ向から見据えたのち、密かに唇の端を吊り上げる。)そンじゃあイマナミ、暫くイイ子にしてろよ。(告げるや否や男の行動は速かった。無遠慮に少女との距離を詰めたなら身を屈め、華奢な少女の躰をひょいっと肩に担ぐ。そんな狼藉を働こうとするだろう。さりとて少女は花も恥じらう乙女、少しでも否を示されればおんぶくらいの妥協はしてみせよう。目の前には逃走を阻むかのように高い壁が聳えている。なれどもそれも天より授かった身体能力と呪力を籠めた渾身の蹴りで難なく突破を果たしたなら、物音に気付いた信徒が集まってくる前に早々にこの場を離れてしまおうと。)──外の世界へようこそ、オヒメサマ。(軽口は建物の上を軽々とひょいひょい飛び越えている最中に。心地よく吹く夜風に短い御髪を揺らしながら「いいクリスマスになったろ」などとついでに冗談めかした嗤いも宵の閑静へと落とし、人攫いの黒いサンタクロースは寒夜を駆けた。壁を越えた先に広がる外の世界は少女の眸にどう映ったのか。それはまた後日、高専で聞くことにしよう。)