西風千鶴〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 01:30[70]
(眠る彼の手をけして離さぬまま、どのくらいそうしていたのだろう。ほんの数十分だったようにも、数時間だったようにも思う。)! 王哉くん……っ 大丈夫……?! 待ってた、 …待ちくたびれたよ……王哉くん、ぜんぜん…起きないから……っ(意識が戻ったことに気づいて、瞳にふっと安堵が載った。つっけんどんな口ぶりに負けじと恨み節を紡いだけれど、やわらかくほころぶまなじりがよほど素直に喜びを伝えるだろう。彼のようすを窺えば、声こそ平素の覇気がないものの痛みは感じていないと見える。家入硝子の施術にあらためて深い敬意を表すとともに、後日きちんとお礼に行かなきゃと心に書き留めた、そのとき――彼の唇がなにか言いたげに薄く開くのに気がついた。けれど耳朶に触れる音はなく、不思議そうに首をかしぐも、)なあに……、 ……! どこか痛い? 硝子先生、 呼ぼうか、(患部の異変かと思い至れば、瞳がおろおろと不安げに揺れた。招く手にいざなわれて立ち上がり、ベッドの手前側に両手をつく。そして半ば覆いかぶさるように、そっとからだを彼へと寄せた。重力にしたがう黒髪が、肩口をさらりと撫でては落ちる。無意識のうちに息を詰め、紡がれる音をしずかに待った。表情の変化を見落とさぬよう、じっとその顔ばせを見つめながら。)