七竈王哉〆 ♦ 2021/01/04(Mon) 17:56[16]
(本来ならば、一発派手にぶちかましてやる筈だったのだ。ド派手に彼女を救い出し、昇級への功績に加えて少女からの称賛という褒美に等しい其れを得る筈だったのに。 ──ちなみに、呪いの見えない彼女にとっては当然生み出す幻影だって映らないのだろうけれど、それについてはすっかり抜け落ちているあたりその場を突っ走ろうとするお頭の程度は知れよう。物の見事に不発に終わった術式に込み上げた羞恥は男にとって最も忌避すべき感情の一つであるから、それを振り切るようにして彼女を抱きかかえた所作は聊か乱暴であったかもしれない。「うるせえ失敗してねーし黙れブス!」と吐き出す稚い暴言だって所詮は照れ隠しの範疇だ。 とはいえこの腕は捕まえたお姫様を落とすつもりはないし、 彼女が離れようとしないのなら尚更。)強そう、 じゃなくて強いんだよ。 覚えとけよ、 俺の名前。 お前を助けたのが誰か、 ぜってえ忘れんな。 (無遠慮にその胸に自身の名を刻むことすら躊躇わぬ傍若無人を振り翳し、踏み出た外の世界は存外呆気ない空気が漂っていたかもしれない。たかが壁一枚程度しか離れていないその場所は誰かにとっての日常だ。けれどこの当たり前が、彼女の虹彩を涙で満たす理由足るのだということは多少なりとも感じているから。彼女を地に下ろし、夜に溶けるその髪をくしやりと撫でてやったのは〝よくやった〟の意。)どーいたしまして。俺は、 “お姫様”がお前じゃなくても連れてってたけど。……結構根性あんね、お前。(未知の者との対峙に怖気づかないところだとか、或いはその恐怖も飲み込もうと振舞うところだとか。非力なくせして諦めず蓄え続けていただろう知識だとか、そうした強さは不十分とは言え欠片の称賛を手向けてやりたいとは思うもの。檻から出た少女は、既に憐れな贄ではない。あの壁向こうに存在し消費される有象無象ではなく、彼女ひとりしか持たぬその名前を呼んでみたくなった。)千鶴。お疲れさん。