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【1】(“おうさま”は、準備された心に降り立つ)

西風千鶴 ♦ 2020/12/27(Sun) 22:11[1]

大丈夫。かくれんぼと同じだよ。みんな得意でしょう?ちいさくなって、静かにしてるの。(それは代わり映えしない夕食を終え、眠ってしまうにはまだ早いころ。怯える年少者たちの手を取り、西風千鶴はやわく笑んでみせた。各々が“とっておきの場所”目指し散ったのを見届けたあとに、自身は3階の自室へ駆ける。ノートに手紙、それから写真。すこしの所持品を入れたサコッシュだけをひっ掴むと、すぐに来た道を引き返した。)――…侵入者。(その異分子が自分にとって、吉凶いずれかはわからない。それでもここに囚われ3年、初めて目にした綻びだった。騒ぎに乗じて抜け出せる? どうしてここに侵入なんて? 交渉することはできないだろうか? 思考はとりとめもなく零れて、どうしよう頭が回らない。逸る鼓動を押さえつけんと胸元を乱暴に握りしめ、はたと気づけば歩みが止まった。渡り廊下はほの暗い。月は雲に隠れて見えない。)…そもそも、話ができる相手じゃないかも。出会い頭に襲われたら…、≪肘から親指2本分横≫。それから――(付け焼き刃の護身術が通用すると思っているあたり、聡くもそれ以上に無知だった。記憶を順番になぞりながら、中庭を見下ろす窓へ歩み寄る。寒さも厭わず開け放つと、鎖骨の下で切り揃えられた濡羽色が風に舞った。センターパートの前髪かき上げ、なにかを乞うように空を見上げる。灰とも青ともつかぬ瞳は、月の輪郭を探している。)

七竈王哉 ♦ 2020/12/28(Mon) 04:16[2]

見つける・担ぐ・連れてく!作戦はシンプルがいっちばんだろ、ほら行くぞ!(時を同じくして任務に乗り込んだ同輩達の誰かに告げた男の台詞は、今日も今日とてシンプルだ。領地内に蠢く呪いの気配は数だけの取るに足らない物ばかりだし、二級術師への昇進が懸かっているとなれば突っ込んでいくことに躊躇う筈もなかった。術式を使う必要もなさそうだし、さっさと対象を捕獲して連れて帰るのが最善だろう。とはいえ囚われのお姫様とやらの情報は皆無に等しいし、まずはその姿を見つけるために平屋の屋根へと駆け上る。高い場所から見渡せた方がいいだろなんて持論を掲げながら、)――……見っけた!(距離、十数メートル。反対側に位置する平屋の開け放たれた窓の向こう側に佇む一人の少女の姿を見つけて、狐目が楽し気に輝いた。目標を捉えれば後は突っ走るだけ。制服の下に着込んだ派手なパーカーのフードを翻すようにして屋根の上を駆け、少女がいたと思しき位置までやって来ればそこで一瞬だけ呼吸を整えるべく息を吐いた。けれどそれもほんの一瞬で、宛ら蝙蝠のように屋根の端にぶら下がる。彼女からして見れば、突如眼前に男の顔が表れたような図になるか――その反応も然程気にせず、にっと口角を緩めた笑みは今日もチャラけた風采を漂わせている。黒茶の髪が微かに揺れた。)なあ、お姫様ってアンタで合ってる?(初めての対面は、逆さまの視界にて。)

西風千鶴 ♦ 2020/12/28(Mon) 14:01[3]

(耳がほんのり赤く染まる。凍てつく風に晒されるうちに、すこし冷静を取り戻せた。侵入者との接触がないまま騒ぎに乗じられれば最高。交渉出来る相手なら、人質になるのも悪くない。ここを出たあとに反故にされても、どのみち助からないのなら、今日も来月もおなじこと。試す以外の選択肢はない。)……。(ひとたびぎゅっと瞼を閉じて、フ…、と長く息を吐く。どの展開に転ぶにせよ、相手の動きが知りたかった。“見つかる”じゃだめ。先に“見つける”。そう結論付けると同時、細い睫毛を持ち上げて、中庭に視線を向けようとするけれど――それよりもずっと近い場所に、ふたつの愉快気な硝子玉が現れた。ヒトの目? なんで、こんなところに?)きゃ …っ…、 ……!(喉から出かかった悲鳴は、すんでのところで抑えこむ。代わりにまるくなった双眸で、蝙蝠男をまじまじ見つめた。同世代の、男の子だ。やや軽薄な印象の笑みは、ちょっと場違いなほどにあかるい。)あなた、……、…それ、足どうなってるの……?(ささやくような声色なのは、大人が気付くのを嫌ってのこと。お姫様、と呼ばれたならば、怪訝そうに眉根を寄せて。)なんのこと……? …、「侵入者」さん。忍びこむ場所、間違ってない?ここは宗教団体Xだよ。お姫さまなんてどこにもいない。いるのは“名誉の”生贄だけ。(警戒は未だ解かぬまま、対話続行を試みる。さりげなく窓から後ずさり、彼との距離を広げながら。)

七竈王哉 ♦ 2020/12/29(Tue) 02:41[4]

(零れかけた悲鳴に思わず緩めた口元は、任務中という緊迫した空気には聊か不釣り合いだったかもしれない。けれど、反応の良い女は好きだ。素直な感情を映じて緩む口角はそのままに、ぶら下がったまま視線を重ねる。)足?気合。(ドシンプルな回答を雑に投げ、少しだけ体を揺らす。呪力も何も関係ない、単純な身体能力の成せる技だった。とはいえ何時までもぶら下がり状態なのは少々堪えるところがあるので、揺らした体の反動を利用してそのまま開け放たれた窓から室内へと侵入を試みる。「よっ」なんて軽い掛け声と共に窓枠に腰を下ろし、じわりと距離を広げる彼女へと視線を遣った。ほんの数歩で手が届く距離だ。例えば彼女が逃走を図ったところで難なく追いつけるだろうと踏む男は、無理にその距離を詰めようとはしない。つまるところ、彼女のことを舐めきっていた。食えない教師から与えられた情報はあまりにも簡素で簡潔で不足しているが、それでも彼女の口振りから脳内でぱちりぱちりとバラバラのパズルが重なっていく。同年代の少女。お姫様と称される特別な存在。――成る程、ビンゴだ。)侵入者ってのはもうバレてんのね。ここの奴ら、呪いも見えねえポンコツばっかりかと思ったら結構やるじゃん。……つーかアンタさ、“名誉”って、マジで言ってる?(蠢く呪いは取るに足らない下級のものばかり。敵となるような呪詛師もいない。ならば少しばかりの無駄話をする余裕はあるだろうと、足を揺らしながら目の前の少女に投げかけた問は純粋な好奇心だった。だって、)何かのためにテメェが犠牲になるとか、クソくらえだって思わねえ?

西風千鶴 ♦ 2020/12/29(Tue) 12:10[5]

き……気合いでどうこうなる格好じゃな ってあ、ちょっと、落ちたらどうするの……?!(戸惑うばかりの自分に対し、蝙蝠の彼は余裕の表情。わざと危ないことをしたがる子どもにあわてる母親みたいに、千鶴はおろおろと眉を下げる。けれどその身のこなしを見るに、余計な心配だったようで。)………。雑技団のトップスターかなにか?(遠回しの称賛をささげた。背中に冷たい壁の感触。もうこれ以上の距離は取れない。)のろ、…?見えないって、なにが……、……、見かけない顔だから。侵入があったことは全員知ってるし、上から指示も飛んでるの。見つからない場所に隠れてろって。(呪い。耳朶を掠めた不穏なフレーズ。わずかに瞳を細めるも、本能的に深入りを避けた。それより彼の目的を探ろうと、唇を開きかけたけれど――)――…、(さらりと投げかけられた問いに、思わず押し黙ってしまう。薄い月光背負う狐目を、真正面から見つめ返した。マジで言ってる? そんなはずがない。その双眸はしずかに燃えて、でも間違いなく、揺らいでもいた。)……思うよ。儀式なんてばかみたいって。でも家族の……兄のためなら、わたし、……。(ぎゅう、と音がするほど強く、十指でサコッシュを握りしめる。そこには先刻届いたばかりの、兄からの手紙も入っていた。あの笑みを思い返すといつも、千鶴の反逆は萎れてしまう。逃げ出してやる。兄のためなら。3年飼い慣らしているジレンマ。)……ねえ。あなたがここに忍び込んだのは、お姫さまに用があるから?その子を見つけてどうするの?(それでも、千載一遇の好機。みすみす見逃すこともできなくて、迷いながらも言葉を継ぐ。)

七竈王哉 ♦ 2020/12/30(Wed) 02:39[6]

(彼女が戸惑いの色を見せれば見せる程、反して男の口元を彩る喜色は色濃くなるばかり。遠回しな称賛だって当然正しい形で受け取って、「お褒めの言葉をどーも」なんて笑みと共に告げれば退路を失ったらしい彼女に視線を遣った。度胸はそこそこ、けれど未知に無防備に足を踏み入れる無茶をするタイプでもないらしい。言葉の節々から彼女を形成する情報を拾い上げながら、何となしに投げた一言は所謂地雷であったのだろうと推察することは容易かった。静かに、けれど確かに反骨の色を宿す双眸は燃えているように見えるのに、紡がれる言葉は反してか細くか弱いものばかり。家族のため。兄のため。ただそれだけで彼女がここにいる理由が朧気に掴めたような気もするけれど、その指先は答えを求めようとはしなかった。きっと、聞いたところで分からない。献身的で美しい自己犠牲の精神は、七竈と対極の位置に在る。彼女の指先を見遣って、ふうん、と小さく零した声は夜半の空気に溶けてゆく。)俺の理由なんて、どうでもいいっしょ。あんたがそれを知っても、俺がやることは何も変わんないしさー。(言って、窓枠を蹴って一気に彼女と距離を詰める。その頭横の壁に両手をついて、自身の両腕を彼女の退路を断つ檻としながら――夜の色した髪を見下ろした。)俺が捜してるお姫さま、多分あんただね。「見つける」、クリアだ。んじゃ次、担がれんのとおとなしくついて来るの、どっちがいい?

西風千鶴 ♦ 2020/12/30(Wed) 09:12[7]

(こちらは侵入者との遭遇に心を乱されているのに、相手はたいそう上機嫌だ。飄々としたその物言いに毒気が抜かれそうになるのを、憮然とした表情で堪える。それでも心の脆い部分に指を差し込まれてしまえば、顰め面も長続きしなかった。声がちいさく、細くなったことに、千鶴自身も気付いていた。)……そっちはそうでも、わたしは変わるかもしれないでしょう。内容によっては協力し――(ずかずか踏み込んできたくせ、さほど興味なさそうな「ふうん」。むっとした表情を浮かべて、果敢に反論に挑んだ。けれど威勢よくいられたのも、彼が離れていたからで――あっ、と息を吸ったときにはもう、その檻の中に囚われていた。怯えを色濃く載せた瞳で、それでも気丈に睨みつける。からだが触れてしまいそうな距離で異性の熱を感じたのは、生まれてはじめてのことだった。)っ、わ、わたし……?…、担がれるなんて、荷物みたい。もっと丁重に扱ってほしいんだけど。(そして、突然の「あんただね」。これまでのどこで確信したのか、彼の姫君拝命と相成る。困惑しつつ、また減らず口。“見つける”を取られた時点で、劣勢は確定だったけれど。)女だからって舐めないで。わたしこれでも賢いんだから。こういうときの対処法だって――っえい、 ……あ、あれ? くぅ……ぬあぁ……!(腕の急所、肘から親指2本分横。押さえる場所は完璧だった。けれど千鶴が両手で必死に、歯を食いしばって押し込んだって、鍛え上げられた高専生には痛くも痒くもないだろう。絶望的に非力だった。傍から見れば哀れな贄が、男にすがる図にしか見えない。)

七竈王哉 ♦ 2020/12/31(Thu) 01:20[8]

(何気なしに紡ぐ言葉が、彼女の心臓の柔らかな部分に爪を立てたのだろうという自覚はある。傷をつけておきながら興味なしと言わんばかりの一言が、彼女の機嫌を損ねる理由になることも分かっていた。けれど謝罪を口にするつもりはなく、これ以上余計な言葉を発さぬようにと己を律したのが男にとっては珍しい譲歩だった。――そんなにしんどそうなら、全部捨てちまえばいいのに。なんて、飲み込んだ言葉は着地点を失って溶けて消えた。距離を詰めれば途端に動揺するのは、力の差を感じたからということだけが理由ではないだろうというのは都合の良い推察か。正解でも不正解でも構わなかった。今まで己に都合よく全ての物事を受け取って生きてきた男の判断力は此度も同様で、)お、近いの照れる?担がれんのが嫌なら、お姫様抱っこでもしてやろっか。賢い奴は自分のこと賢いって言わねえと思うんだけど、………  、…………、……………ぐう。 あっ、悪い。寝てたかも。どうした?(気合で屋根にぶら下がれる程の身体能力だ。当然非力な少女の必殺技など偏に風の前の塵に同じ程度の影響力しかないから、わざとらしい寝たふりも謝罪も所詮彼女を揶揄うための冗句である。度胸も勢いもあるが、腕力は非力。また彼女に纏わる新たな情報を記憶の端に止めながら、それから「暴れんなよ」の一言と共にひょいとその体を担ぎ上げた。宛ら荷物のように彼女を担ぎながら、)力はないけど、狙う場所はいいセンいってたね。何、格闘マニア?(緩く投げかける疑問符からは、やはり緊張感が欠落している。)

西風千鶴 ♦ 2020/12/31(Thu) 03:00[9]

(至近距離で見下ろされると、その身長差がよくわかる。まとう香りにも低い声にも異性を感じずにはいられなくて、瞠る睫毛がかすかにふるえた。それでも煽るような口ぶりは、見え透いた嘘で突っぱねようと。)…っ うぬぼれないで。照れてません。 お姫様だっ …そうだね。姫だって言うんなら、それくらいはしてもらわないと。してほしくないけど。(初手で驚かされてからずっと、彼に主導権を渡したままでいることが悔しい。一矢報いてやるとの気概で、渾身の力をぶつけた。けれどこちらの顔が赤くなり、ゼィゼィと息が上がっても、痛ぇのいの字も聞こえてこない。ついにはベタな寝たふり付きで、効いていないと揶揄われたなら)~~~っ、どうもしない。今の忘れて……!(本当に不本意なことだけれど、この場は白旗を認めるのだった。――わかったも嫌だも告げぬうちに、からだがふわりと宙に浮く。「きゃあ…っ」ちいさな悲鳴も今度は抑えが間に合わなくて、不安定な体勢がすこし怖い。思わず彼にしがみつき、からだをきゅっと強張らせる。)違う…あれは護身術。独学で覚えたの、いつか役に…立つかなって……(徐々に声量が萎むのは、まったく役に立たなかったゆえに。いいセンいってたの評がなければ、もっと落ち込んでいたかもしれない。)…、ねえ。もしかしてあなた、わたしを人質に幹部と取り引きしたいの?それともわたしをどこか別の――"外"に運ぼうとしているの?(さておき。暴れて落ちるのは避けたいので、おとなしく担がれたままで問う。言動から推察するに、そのいずれかが妥当だと思った。)

七竈王哉 ♦ 2020/12/31(Thu) 21:40[10]

(隠しきれない動揺をきっと本人も自覚してなお、強がる姿は可愛らしいし面白い。くつくつと喉の奥で小さな笑い声零しながら、素直な白旗を見届けた。)忘れられっかな、「ぬあぁ……!」だっけ。やべ、夢に出て来そう。別に落としたりはしねえからさ、俺に任せてな。(ぽんと担いだ側の手で軽く彼女の体を叩いて、それから元来た道を帰るべく窓枠にぐ、と片足を乗せる。建物の内部状況が分からないのだから、余計な散策は不要だろう。最短ルートで任務遂行を目指そうとするけれど、彼女から投げかけられた問に一瞬だけ動きが止まる。)取り引きなんて面倒なことしねーよ。ンなことしなくても、お前一人連れてくくらい余裕だし? それにお前もさ、“外”。出たいんだろ?(言って、窓の外に視線を遣った。彼女がどのような経緯でこの場にいるのか分からない。どうして囚われのお姫様とやらになっているのかは分からない。背負っている物だってあるのだろうけれど、それでも、彼女の目は白い壁の向こうへの捨てきれない願望を湛えているように見えたから。任務上の付き合いだ。彼女との関係はこの場限りになるだろうとは思えども、好奇心をそのまま口に出すことに躊躇いはなかった。とは言え、彼女の返事が肯定であれ否定であれ、次に男が取る行動は変わらないのだけど。彼女が何かの言葉を発した瞬間、再び窓枠にかけた足にぐっと力を込めて、)……口閉じてろよ、舌噛んで死にたくないだろ!?(勢いよく、窓の外へと飛び出した。彼女を抱えたまま階下に飛び降りることだって、呪力を操作すれば容易いこと。両足でしっかり着地したなら楽し気に口元を緩めてみせて、)よっしゃ行くぞお姫さん!しっかり捕まってな!(聖夜の脱出劇、いよいよ開始だ。)

西風千鶴 ♦ 2021/01/01(Fri) 00:59[11]

! だ、だから忘れてってば……!うぅ…夢の中ではぜったい投げ飛ばす……っ(こちらのペースを乱しては笑い、追い討ちをかける侵入者。少年みたいな無邪気さと言えばほほえましくも思えそうだけど、普通に悪趣味で苦々しい。それでもこの状況下では、その悪趣味が心強かった。任せてなと請け負うぬくもりに、うん、とかぼそい声で頷く。軽薄だけど、残虐じゃない。脅迫も洗脳もしようとしない。この高い高い壁の内側の、どの大人よりもむしろ彼は、)………、……たぃ(推測のひとつが否定される。そして耳朶を打つ青年の、出たいんだろうと問う言葉。瞳が開け放たれた窓へと――その向こうへと吸い寄せられる。彼の言葉が同情や、共感を含まないからこそ、千鶴の心も素直になった。生きていたい。死にたくない。生贄なんてなりたくない。出たい。 出たい。)外に、出たい………っ!!(この塀のなかで今はじめて、千鶴は本当の望みを言った。悲痛に掠れたその声で、切望は伝わるだろうか。だからと続けようとした声は、けれどあえなく遮られる。)舌…? それ、どうい  っき、きゃああぁ………!!(風切音と、浮遊感。からだを包む冬の空気。飛び降りた、と理解した瞬間、ザッと一気に血が冷えた。これまで以上に強い力で、彼にしがみつき瞼を閉じる。着地の振動と彼の合図とでおずおず睫毛を持ち上げたなら、信じられないと目をまるくした。)なっ……さ、3階から落ちたのに無事なの……?!着地の速度はたしか50キロ…あり得ない。どうして……あなた、ほんとうに……何者なの………?(動揺で、平素よりずっと回る舌。蝙蝠だって大概だったが、この高さから落ちて無傷とは、いよいよ普通の男の子じゃない。)

七竈王哉 ♦ 2021/01/02(Sat) 00:31[12]

夢でも俺に会ってくれんの?そりゃ光栄!(からからと頑是ない悪餓鬼宛らの笑みを零すことに、一切の遠慮はなかった。いつだって軸にした己の欲求をぶれさせない男の耳にとっては、いい子ちゃんの自己犠牲なんかよりも素直な欲求の方がずっとずっと居心地が良い。耳朶を震わす声は痛切な響きを持していたけれど、だからこそ彼女の本音なのだろうと思えば口元が笑みを模るのも無理からぬ話だった。誰かの願いを手放しで叶えてやる程お人好しではない。けれど現今耳朶打つ言葉が持つ響きは、確かに七竈の心に火をつけるに足る熱量を持っていたから。この少女の願いに応えてやりたいというのは、他ならぬ七竈自身の欲求だ。高い場所に登って飛び降りて、身体能力に物を言わせた所業は日常茶飯事ではあるけれど、彼女の吃驚を引き出すことが叶ったのならば僥倖。)こんくらい朝飯前だっつの、俺を誰だと思ってんだよ。呪術……、(そこでふと、口を噤む。そういや任務については触れてはならないと、あの食えない教師からお触れが出ていたことを思い出す。ならば己の身の上を明かすのも得策ではないのかと、男にしては珍しく思考を巡らせて、)……王様よ?俺に出来ねえことはねえ!!(彼女が姫ならば、現今彼女を救い出す己はその立ち位置が相応しかろうと笑ってみせた。平素から天上天下唯我独尊を地で行く男だ。王様を自称することに躊躇いはなかった。そのまま来た道を戻ろうと顔を上げ、けれどそこで一度ぴたりと動きを止める。視線の先には、黒く蠢く影がひい、ふう、みい。――呪霊だ。)……なあ、お前。“アレ”は見えてねえんだな?(言って、影を指さす。)

西風千鶴 ♦ 2021/01/02(Sat) 11:42[13]

(外に出たい、と口にした途端、それしか考えられなくなった。喉を掻きむしるほどの渇望。兄を助けたい、家族を守りたい、それだって本音に違いないけれど、自分が生きていてこその話だ。本当は、大事なひとがしあわせになるのを、この目できちんと見届けたかった。天国なんて遠くからじゃなく、同じ世界で。すぐそばで。)わからないから聞いてるんだけど…。……? じゅ…、 ?(そんなふうに思ったそばから、天国行きを覚悟する落下。跳ねる心臓を落ちつかせつつ、得意気な彼に反論した。なにか言いかけて止まる唇に、訝しむようにまばたきをする。そのまま二の句を待ってみれば、)お …え?…なん……?(予想だにしない返答に、ぽかんと口が開いてしまった。王様。憚らず自称する単語。それを聞かされたところで結局、どこの誰かはわからないまま。「答えになってないんですけど…」不服げな声が漏れるがそれでも、)……まあたしかに、あなたえらそうだし……王子様とか騎士よりは、王様のほうが似合ってるかもね。(俺に出来ないことはないと、豪語する笑顔は頼もしかった。この“王様”の目的も、連れ去られる先もわからない。けれど彼こそは間違いなく、この運命を焼き切る焔だ。いのちの期限まで残りひと月、二度とは巡らぬ絶好のチャンス。絶対に手離してはならない。そのために準備してきたのだから。)なに、……? “アレ”……? 暗くてよく見えない。(示された方角へ目を凝らすけれど、当然千鶴にはなにも視えない。ほのかな警戒を感じ取れば頭に浮かぶのは追っ手のことで、無意識に四肢が強張った。声をひそめて、尋ね返す。)……だれかいるの?…教団の……?

七竈王哉 ♦ 2021/01/03(Sun) 19:16[14]

(偉そうという言葉に対し、返すのは当たり前だろと言わんばかりの笑顔だ。偉そうではなく実際に偉いんだけどという言葉を一先ず飲み込んだのは、少し離れた場所に呪霊の影ゆえ。敷地に魍魎跋扈する呪霊達は全て取るに足らぬ下級のものばかりであるし、相変わらず男に焦りの色は滲まない。それどころか、彼女に力を見せつけるいい機会に恵まれたと笑みを色濃くするばかり。)お前にゃ見えてねえだろうけど、ここには山程いるんだよ。人に害を成す“呪い”……教団の人間なんかよりもよっぽど厄介な奴らがさ。ま、俺に任せてりゃ全部大丈夫だ!(背負っていた少女を地に下ろし、代わりに制服の懐から取り出すのは花札――一見何ら細工のない普通の其れだ。けれど呪力を込めた札は、七竈が呪霊を祓う術となる。)骨牌幻影、『呼意故囲』!!(祓う術となる――筈だった。もし、今日の運気に恵まれていれば。しかし引いた札は揃いも揃ってカスばかり、発動する筈だった術式はうんともすんとも言わずに不発に終わるから、傍から見れば七竈は単純に花札を引いただけの男に見えるだろう。)…………おい。(振り返って、一拍。それから彼女が何か言うよりも先に、再びその体躯を抱え上げた。先程とは違う、所謂お姫さま抱っこという形で。)やっぱこのまま逃げるぞ、捕まってろ!(懐に下げた呪具である刀で応戦することだって考えたけれど、派手に騒いで信徒に見つかれば容易な筈の脱走も面倒なことになるだろう。ならば取るに足らぬ下級呪霊などそのまま放置してしまえと、彼女を抱えたまま出口へと目掛けて走り出す。外の世界まであと少し、そこでふと口から零れた疑問は殆ど無意識のもの。)そういや、お前名前は? 俺は王哉。七竈王哉な。(彼女との縁は、今日だけのもの。壁の外に出て高専にその身を引き渡せば、晴れて自分はお役御免となる筈だ。そうした希薄な縁でしか結ばれていない相手の名前など知らなくたって問題はないけれど、――狭苦しい世界の中に閉じ込められていた少女のことが。誰かの為にその身を犠牲にしていただろう愚かで献身的な少女のことが。少しだけ気になった。)

西風千鶴 ♦ 2021/01/04(Mon) 00:32[15]

(どう皮肉っても前向きに受けとる、男のふてぶてしさたるや。呆れつつもその性分が、すこし羨ましくもあった。ずるいのだ。さっぱり笑う顔ばせを見ると、無遠慮な言動さえもうっかり許してしまいそうになる。)呪い……。……えっ、ちょっと、…なにして……?(呪い。そういえば、渡り廊下でも言っていた。なにかの暗喩なのだろうか。この教団ほど厄介なものなど、そうそう在るとも思えなかったが――そこで思考が途切れたのは、荷物を降ろした彼のからだから好戦的なにおいがしたゆえ。なにをする気かはわからなくとも、穏やかじゃないことだけは察知した。地面にへたりこんだまま、なにかを取り出す手元を見つめる。いつか本で読んだことのあるそれ。花札。――を、なぜここで? 尋ねる間もなく詠唱が始まり、)……、……。………?(そして終わった。数枚無言で引き抜いて、しかし なにもおこらない。お戯れですか? 懲りずに一言、皮肉ってやろうと唇開くも問答無用で抱き上げられて。)ひゃ……っな、なんなの、今なにか失敗したでしょう絶対……!(膝裏に感じる掌の熱。先よりさらに強い密着に、囀ずる声が上擦った。それでも振り落とされないように、言われたとおり彼にしがみつく。派手なパーカーの胸元あたりをぎゅっと両手で握りしめながら、顔は前方に向けられた。どんどん近付く出口、夢みたい、わたし本当に外に出られるの? 彼を見上げた双眸は、期待と緊張がないまぜになった、黎明の色をしていただろう。)七竈…王哉、……強そうな名前。 わたしは、千鶴。……西風千鶴。(短くそれだけ伝えると、睫毛を伏せて息を吐く。「…きみなりくん、」ふたたび王を射抜く虹彩は、草の葉に溜まる朝露のように透明なしずくで満ちていた。)たすけてくれて、ありがとう。(すなおに紡ぐ。王様と真名を交わし合い、贄はましろの檻から抜け出す。)

七竈王哉〆 ♦ 2021/01/04(Mon) 17:56[16]

(本来ならば、一発派手にぶちかましてやる筈だったのだ。ド派手に彼女を救い出し、昇級への功績に加えて少女からの称賛という褒美に等しい其れを得る筈だったのに。 ──ちなみに、呪いの見えない彼女にとっては当然生み出す幻影だって映らないのだろうけれど、それについてはすっかり抜け落ちているあたりその場を突っ走ろうとするお頭の程度は知れよう。物の見事に不発に終わった術式に込み上げた羞恥は男にとって最も忌避すべき感情の一つであるから、それを振り切るようにして彼女を抱きかかえた所作は聊か乱暴であったかもしれない。「うるせえ失敗してねーし黙れブス!」と吐き出す稚い暴言だって所詮は照れ隠しの範疇だ。 とはいえこの腕は捕まえたお姫様を落とすつもりはないし、 彼女が離れようとしないのなら尚更。)強そう、 じゃなくて強いんだよ。 覚えとけよ、 俺の名前。 お前を助けたのが誰か、 ぜってえ忘れんな。 (無遠慮にその胸に自身の名を刻むことすら躊躇わぬ傍若無人を振り翳し、踏み出た外の世界は存外呆気ない空気が漂っていたかもしれない。たかが壁一枚程度しか離れていないその場所は誰かにとっての日常だ。けれどこの当たり前が、彼女の虹彩を涙で満たす理由足るのだということは多少なりとも感じているから。彼女を地に下ろし、夜に溶けるその髪をくしやりと撫でてやったのは〝よくやった〟の意。)どーいたしまして。俺は、 “お姫様”がお前じゃなくても連れてってたけど。……結構根性あんね、お前。(未知の者との対峙に怖気づかないところだとか、或いはその恐怖も飲み込もうと振舞うところだとか。非力なくせして諦めず蓄え続けていただろう知識だとか、そうした強さは不十分とは言え欠片の称賛を手向けてやりたいとは思うもの。檻から出た少女は、既に憐れな贄ではない。あの壁向こうに存在し消費される有象無象ではなく、彼女ひとりしか持たぬその名前を呼んでみたくなった。)千鶴。お疲れさん。

西風千鶴〆 ♦ 2021/01/05(Tue) 10:46[17]

ブ……っ もうっ、あなたねえ……!(勢いだけで押しきるような暴言にまたも絶句する。だって今のはあきらかに、なにか繰り出す流れだった。ついさっき会ったばかりだけれど、多分この男は派手好きだ。あれだけの啖呵を切ったからには、あっと驚く仕掛けがあったはず。誤魔化すように罵る言葉に、確信はさらに深まった。こんな非常時じゃなかったら、案外かわいいところもあると思えたのかもしれないけれど。)……正義のヒーローは名乗らないのが美学じゃないの? さすが王様、自己顕示欲もぎらぎらなんだ。(覚えとけよ、忘れんな、と自身を誇示するその声に、なぜだかすこし胸がきしむ。伏せた睫毛をふるわせて、目の奥に強く力を込めた。待ちわびたこの瞬間を、脳裏に深く焼きつけるために。)……忘れないよ。ぜったいに、一生忘れない。(呟く声は届いただろうか。彼の胸元に顔をうずめて、くぐもって聞こえないかもしれない。それでもいい。きちんと見つめて呼ばう名前で、きっと伝わったはずだから。――外の世界に広がっていたのも、内側と同じ静寂の夜。けれど瞳に映るものすべてが、真新しくて懐かしかった。自分の足で踏みしめる地面。帰ってきたという感慨が、からだを静かに満たしてゆく。不意に髪を撫でるぬくもりと、言外に滲むねぎらいの言葉に、ようやく緊張も和らいで。)この3年で鍛えられたの。≪幸運は、準備された心に降り立つ≫。いつか必ずチャンスが来るって、信じて息を潜めてた。たくさんたくさん勉強しながら――、…攫われて外に出るパターンは、さすがに想定外だったけど。(すいと睫毛を持ち上げて、澄んだひかりをたたえた瞳で。)待ってたの。あなたを。3年間ずっと、待ってた。(ちいさな唇が紡ぐ台詞は、大袈裟だけど、真実だ。待ち望んだ幸運は今、男の子になってここにいる。感極まって胸が苦しい。千鶴と名を呼ぶその声も、無防備な心にじんと響いた。泣いた顔なんて見せたくないと、押し止めるのは頑なだろうか。数度まばたきをくり返し、やおら眉を下げた少女は――)きみなりくんこそ。(大粒の涙のかわりにそっと、咲き初めの花の淡さで、笑った。微笑みと呼ぶには薄い機微でも、たしかに今宵はじめて、笑った。)

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