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【5】(散るならまた今日に咲け 何回だって)

三須原弐那 ♦ 2021/01/29(Fri) 19:16[51]

(地獄だった。あちこちに召し上げられた骸が転がり、未だ命を抱え込むものは塵のように哀れに舞う。それは少女にだっていつ降りかかってもおかしくない災いだった。たった一つ抱え込んで、顔を青くして、すくむ足を必死に動かして、ガチガチと震え出しそうな歯を食いしばる。先ほどから1人、2人くらいか。彼と似た様な制服を着た人間を見かけたが、だれもが必死に生きながらえているという状態だった。ゆえに少女は立ち止まらない。廊下を渡り走り、開けたホールの隅を縫う様に突っ切って、また次の部屋へ向かおうとしたところ。) あ、 (ヒュ、と息が詰まった。目の前で人間が何かに貫かれたのだ。体の真ん中に大穴を開けられたその人は、当然大事なたった一つを取りこぼしたのだろう。頭が真っ白になりかけた。目の前が真っ赤で、もう久方ぶりに着た服も黒いのか赤黒いのかわからない。叫びたい、泣きたい、止まりたい、もう、逝きたい。)──っ、(それでも、少女は立っていた。ネイビーの瞳を大きく見開いて。)……ごめん、なさい、(ドアを閉じて踵を返し、小ホールへと戻るが、こちらも凄惨な有り様だ。もう息をしているのは少女だけかもしれない。血塗れた床、ゴミのように転がされる亡骸、空に伸びる朱色の手。脳裏で呪いが木霊する。『生きろ』──重なるように、彼の声が聞こえた気がした。──弐那。)……死にたくない、生きて帰る……!(崩れそうな足を踏ん張った。彼がいつか、ネガティブはダメだと言っていたから。)生きる、生きる、生きる、生きる……!!(何回だって唱えよう。これが私の本心だ。)

久百合要 ♦ 2021/01/30(Sat) 00:40[52]

(ぶん殴ってやろうか。囮作戦を知って無意識に零れ落ちた声だ。運転席の補助監督の肩がびくりと跳ねたから「ごめんなさい」と額に指先押し当てて謝る。明日も生きていたい。自分は言わずもがな、だ。──とっくに戦闘が始まっていた其処は有象無象の気味悪さに包まれていた。袖から引っ張り出した髪で生成した弓から言葉通り矢継ぎ早に矢を放ち、立ちはだかる呪霊を貫く。どこまでもキリがない。持久力に自信はあったがいつの間にか息が切れていた。)……っ、は、どんだけいんのよ…ッ、調子良いはずなのに…!(矢を番い生存者を立たせ、時には抱きかかえて外へと運ぶ。幾度となく繰り返しているうちに砂埃やら何やらで薄汚れた頬を拭い、綺麗に結った筈の髪は綻び始めていた。)──…ッ! 何やってんの私、こんなとこで死んでたまるかっての…!生きるって、あの日決めたんだから、(素早く飛んできた特級呪霊の一部か、それにあてられた何かに右腕を制服ごと肌を、肉を切り裂かれる。弾けるような熱さに続いて突き抜けるような痛み。ぐ、と呻き唇を噛み締めた。流れ落ちる血を留める暇はない、見つけなければいけない人がいる。激しく息を切らしたままひた走り、幾つめかドアを開いた先に見えたのはしっかりと己の足で立つ少女。纏う色はよく分からなかったけれど、でも分かった。唯一と。)弐那!(生成した短剣に似た刃物を投げ打ち、彼女に迫る黒い霧を払った。力を込めたことで利き手の右腕からまた血が溢れる。そんなことはまるで厭わず駆け寄った。生きている。大丈夫。ふたりとも生きて、立っていた。)──逃げるわよ。

三須原弐那 ♦ 2021/01/30(Sat) 10:33[53]

(目の前から感じるプレッシャーが霧散した。気がした。とうとう幻聴でも聞こえたかとそんな考えが、はっきりと消え去っていく。)ひさゆり、さん……久百合さんっ、!!(美しい彼、唯一綺麗と思える赤。なんでここにとか、どうしてとか、そんなことを考える間もなく、気が付けば駆けだしていた。黒い服はもうボロボロのどろどろだ。顔だって髪だってぐちゃぐちゃ。でもそんなこと構わずに彼の胸の飛び込むように抱き着いた。そこでようやく、彼の腕から大嫌いな赤色が流れていることに気が付いた。)怪我、怪我してます、ひさゆりさん、!(息を詰まらせて目を皿のように見開いて叫んだ。胸元の黒いリボンを解いて、せめて止血をと手を伸ばすが果たして役に立てるだろうか。変わらずここは地獄の底。逃げ惑った自分の体力は限界に近いし、彼だって随分負傷しているように見える。息が乱れて声が震えていた。逃げる。頭には入ってきているのに。)……あしでまとい、です、わたし。ひさゆりさん、(考え事がうまくできなくて。心と喉がそのままつながったみたいに、首を振ってこたえた。文脈も何もなっちゃいない。けれどもそれは、確かな拒絶。)にげて、ひさゆりさん……もうやだ、わたしだけ、……みんないなくなるの、もうやだよ……!!(震える少女は咽ぶように叫ぶ。だったらせめて彼だけでも、と。)

久百合要 ♦ 2021/01/31(Sun) 01:05[54]

(駆け込んできた彼女をしかと抱き留め、まず上から下へ視線を巡らす。掠り傷や煤埃の汚れはあれど動けなくなってしまうような傷は無さそうだと僅かに安堵の息を吐いた。この右腕では彼女を抱え上げながら走ることはできないから。呼吸するたびに傷口から血が溢れ、流れていく。)良かった、怪我ないわね…!? 私のは大したことないわ、走れるから。(本当ならば怪我したことを隠し通したかったがバレてしまっては仕方ない。緩く首を横に振りつつも彼女の手当は受け入れよう。動いてはいるから神経は切れていないだろうがだいぶ深く切れているらしく、細いリボンによる止血は焼け石に水、という言葉が近いかもしれない。今そこまで痛みを感じていないのは興奮状態にあるからだ。)……なに、 馬鹿なこと言ってんのよ。弐那を置いていけるわけないでしょ…! 私だって嫌よ、…もう私は、私は――大切な人を、死なせたくないの。(両肩にそれぞれ手を置いて視線を重ね、彼女と同じように首を横に振る。嫌よ。もう一度、むずがる子どものような声が零れ出た。これは我儘であり懇願だ。そして何としてでも彼女を生きて連れ帰るという決意の表れ。)敷地のすぐ外には車が待機してるし五条先生が負けるわけない。近付いてくるのをぶっ倒して、走るの。それだけよ……できるわ。(自分に言い聞かせていた。できるって。声が少しふるえたけれど、それでも瞳は力強く少女を見つめていた。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/31(Sun) 09:59[55]

(彼の両手に肩を掴まれ、その言葉に大きく体びくつかせてを目を見開く。皿のような眼が徐々に焦点を彼に合わせていき、荒い息が咽ぶように響いている。止血を試みて血で濡れた両手が彷徨い、指先だけで彼の両頬にそっと触れた。嫌いな朱。好きな赤。綺麗な彼のあか。――ああこのひとは、自分と同じものを抱えているのだ。両者に食い込む傷跡がどんな名前かはわからないけれど、大切な人は、もういないのだと。解ってしまった。)……わたしは、あなたの為にも生きたいと思って、いいんでしょうか。久百合さん。(自然とあふれる涙を止めるすべはない。彼のために逝きたかった。それがどれだけ残酷なことか知ってしまった。)信仰が本当に力を持つなら……私は、あなたの決意を信じたい。あなたの言葉を、信じます。(何故だろうか、言葉にすればそうできる気がしたのだ。逝きたくて、生きたくて、死にそうで、死にたくなくて。心も顔も装いもぐちゃぐちゃでも、懇願が力になるのなら。)……たすけて。(ずっと誰かに言いたかった言葉を、今ここで彼に捧げよう。誇り高く美しい人。いまだ拙く組みあがっては崩れていく心の中でも、彼の瞳は、変わらず綺麗だ。醜く歪んだこの世界の何よりも。――少女にはわからずとも彼にならわかるだろう。生餌を探して蔓延る呪いが数体、またこちらに迫ってきていることを。)

久百合要 ♦ 2021/02/01(Mon) 01:05[56]

(彼女の指先をあたたかく思えたのは彼女の手があたたかいからか己が冷えているのか。ただ、あたたかくて安心したことだけが確かだった。)思うのは貴女の自由よ、弐那。 でも、……そう思ってくれたら、私は嬉しい。(他人の思考を強制することも許可を出すこともできやしない。ただ言えるのは此方の気持ちだけだ。生きてほしい、逝ってしまった方が例え楽でも。そんなエゴを。)ありがとう、……信じてくれて。その言葉が私の力になるわ。(己の力で進むと決めた。もっとも早く強くなれる道だと思っていたからだ。でも違うのだと他ならぬ彼女が教えてくれたから。)……まかせて。一緒に、いきましょう。(行く。生きる。出会った時より少し伸びた髪をそっと撫でた。何としてでも連れ出さなければと再び走り出す間際――頭に触れていた腕に力を込めて引き寄せ、肩口に顔を埋めさせる。)ッ、そのまま動かないで、(また短剣に似た刃物を生成し振りかぶった右腕で迫る呪霊に向けて擲つ。矢を放つよりもコントロールが難しく急所を外したために一撃で仕留めきれず時間を食った。──弓はもう引けない。)…よし、行くわよ弐那。特級呪霊の近くには強い呪霊が集まるから少し遠回りでも避けて進みましょう。(血は流れ続けている。貧血で頭が回らなくなる前にと脳内でルートを定め、小ホールから廊下に繋がるドアを開いた。動くものは何もないことに僅かに安堵しつつ走り出そう、左手で彼女の手を握ったまま。運が良ければ角を曲がって見つけるは低級、悪ければ――。)

三須原弐那 ♦ 2021/02/01(Mon) 22:28[57]

(じわりとインクが水に溶けるように、彼の言葉が心に広がっていく。ただ頷くことしか出来なかった弱さを今だけは許してほしい。泣き喚くのはもうやめるから。どうかこのあたたかな感情に、心に、名前を付けるだけの猶予が、未来が、欲しい。)……ありがとう、(受け入れてくれて。ゆるしてくれて。勝手にそう思っているわけでも、そう思えるだけの言葉を彼はくれたから。受け入れた指先にひかれるまま、動かないように彼に預けたその身はもう震えていなかった。――相変わらず体はガタガタだし服はボロボロだ。それでもこの両足で立っている。)分かりました。……今給黎さんは、……もうどうしようも、ありませんか。(特別彼女を慕っていたわけでもないのに、そんな言葉が転げ落ちたのは何故だろう。恐らくそれは無自覚の同情で、無意識の欲求だった。今までの全てが意味もなかったのだと無に帰していく中で、救いが、意味が、欲しかったのかもしれない。右手で彼の手をしかと握り、走り続ける中。曲がり角の先で何かが壁をぶち破ったのが見えて思わず目を瞑った。目を開いてもそこに見えるのは、それが今給黎朔の末端部分だ。禍々しいそれに何人もの命が奪われた。)……あ、れは、だめです……久百合さん、(たとえ彼が戦う人間だとしても、いやだと首を振って腕を引くだろう。遠回りの道中に彼女と彼の担任が突っ込んできたか、今給黎の一部がここまで届いたのかは定かではないが。本能がそう告げていた。)

久百合要 ♦ 2021/02/02(Tue) 00:41[58]

(腕の中から聞こえてきた予想外の問いに虚をつかれたように目を瞬かせた。決して彼女を薄情だと思っていたわけじゃない。ただ、殆ど目に見えて”どうしようもない”だろうものに対して今この場所で問われたことに少しだけ面喰った。)……どうしようもない、でしょうね。彼女はもう戻れない。でも、……だからこそ早く終わらせてあげるべきよ。(覆水盆に返らず。起きてしまった事実は変えられないから、それなら今できる最善を選ぶしかないのだ。特級呪霊として認定された彼女の対処は教師に任されている。そして彼は負けないだろう。なれば自分に今できることは別にあった――筈なのに。)──……ッ!(ひく、と喉がふるえた。まだ距離はある、しかも末端部分だ。本体は教師と交戦中だろう。なのに背筋が凍るような圧迫感は今までのどの時よりも桁違いで。逃げようと片足を後ろへ動かそうとして、ぴたりと止まる。──目が合った、と思った。逃げられない。背中を向けたその瞬間に体を貫かれると本能的に察した。)……弐那、ここから動かないで。背向けちゃダメ。…できれば目も、逸らさないで。(苦行を強いていることは百も承知。繋いでいた左手を外し、短剣を続けざまに放ちながら駆け出した。コントロールが効きづらい今、近接戦に持ち込むしか選択肢はない。倒せなくとも怯ませて道を開けさせなければ、未来はないのだ。)…ッ、!(長物の刃を突き刺したと同時、脇腹を黒い何かが掠め肌を切る。)

三須原弐那 ♦ 2021/02/02(Tue) 17:13[59]

……終わったほうがいいものも、あるんですね。久百合さんは、たくさん見てきましたか?(だったらそれはとても悲しいことではないかと、思った。温もりを確かめるように、確かめさせるように抱きしめて。絶望のさなかにある希望は彼だけだと知っていた。起こってしまったことは変えられないと知っていた。――それなのに、もしもを望んだ罰だろうか。)っ、ひさゆりさんっ!!(いかないでと言いたかった。言えなかったから、離れ往く手のひらに叫ぶだけ。目を背けようとしたって逸らせなかっただろう。その圧に、それに立ち向かう彼に、少女の瞳は皿のようになったまま釘付けだ。一秒が何倍にも薄められているような刹那、うっすらと感じ取る危機感。)――危ない!!(フラストレーションに任せて叫んだ時には、黒い鋳薔薇のような、禍々しいなにかが彼の脇を掠めて。そのままこちらに向かってくる。瞬きをしようにもできないくらいの、短い時間に起きた出来事だった。彼の脇を掠めた一閃はそのまま少女の脇を貫いた。) 、(叫ぶ間もない。それはとっさの行動。彼と一緒に体を動かすようになってから少しだけ、ほんの少しだけ機敏になった両手がそのまま肉を貫く呪霊を掴んだ。刺しっぱなしの方が血が出ないのを知っていた。――身体の真ん中を貫かれた父親だって、そうやって最後まで息をしていた。)うあ゛……とうさ、かぁさん、…ねえ、さん……ひさゆりさんを、たすけて……!!(ばち、ばち、記憶がはじけるままに呼んだ。大事な人、今だけでいい、あの時自分だけ残った理由を、ここに記させて。)

久百合要 ♦ 2021/02/02(Tue) 23:16[60]

見てきたわ。それに、これからもたくさん見ることになると思う。(一を零にはできない。希望と現実と絶望の狭間で生きていくと決めたのだ。それが如何に修羅の道でも、逃げ道がすぐ隣にあったとしても。──彼女の叫びを、背中に感じて。いかないで、と言われた気がした。それでも止まることは出来ないから短剣が刺さったタイミングでその懐に飛び込みつくりだした長物の刃を深く刺した、その時。)──……ッ、弐那!(すべての攻撃が自分に向くと何故思い込んでいたのか。脇腹を掠めた痛みよりも視界の隅を走っていった其れに意識を奪われる。嘘であってくれと願いながら振り返った先、脇腹を貫かれた彼女の姿に悲鳴に近い声が溢れた。どうしよう。どうする。何が最適解だ。一瞬の間に色んな可能性を浮かべては切り捨て、浮かべては切り捨てて。その中で反射的に駆け出していた。)…っ、弐那、そのまま……ッ!(生成した刃物を呪霊に投げようとして――己の髪先に押し当てる。呪具に転変させる媒体である髪は、切ったばかりであればあるほど強い攻撃力を有すから。ぶつりと一房、ニ十センチくらいを切り落とし、すぐに生成するは銃に似た其れ。複雑な形状は呪力を大幅に消耗するけれど今使わずしていつ使うのか。一緒にその身を掴み、至近距離で弾をぶち込んだ。負傷激しく怯んだのか呪霊が引いていくのを見止めて彼女を抱き留めるべく手を伸ばす。)…弐那、 弐那……!(しなないで。)

三須原弐那 ♦ 2021/02/03(Wed) 15:53[61]

(彼の叫びをこの耳で確かに聞いた。倒れるわけにはいかないと改めて思った。たくさんの悲しいを見てきた彼。たくさんの悲しいを見ていく彼。その悲しいの一つにはなりたくないと、確かにそう思ったのだ。両手両足に力を入れて踏ん張る。意識の隅で彼がこちらに走ってくるのを感じていて。信じていた、現状を切り開く美しい赤を。何かが爆ぜる音が、した。)──……い ぅ゛、(脇腹の肉から何かが抜けていく。苦しそうにうめく声はあれど、血を吐くことはなかった。熱い傷口を塞ごうと無意識に押さえる両手が嫌いな赤に染まっていく。とうとう膝から崩れ落ちて。それでも、彼の声だけはどこか鮮明に聞こえていた。震える右手を彼の方へ。そのまま崩れ落ちていくだろう。)ひさゆり、さ……ひさゆり、さん……よかった……怪我、しけつ、しないと……(彼も脇腹を抉られているのを見た。視界は俄かに霞んではいるが、しっかりと彼の方を見つめているだろう。術式について尋教えてもらったことはあっただろうか。いずれにせよ、一部が切り取られたぐしゃぐしゃの髪で、ボロボロの装いで、血や土に塗れた彼を見つめて、ふへらと気の抜けた笑みを見せるのだ。)……ひさゆりさんは、……こんな時でも、とびきりきれいで、すね。(こんな時に見合わずに、どうにかこうにか生きていた。血濡れた両手だって、今は、不思議と気にならなくて、笑った。)

久百合要 ♦ 2021/02/04(Thu) 22:30[62]

(少しでも気を抜いたら思考が真っ新になってしまいそうだった。手のひらの指の隙間から砂が零れ落ちていくような。必死に思考を繋いで、足を動かして。今まで練習で何度も何度もつくりあげたはずの銃は、記憶のなかのそれより少しばかり形を違えていた。焦ったのだ。銃身がまっすぐ生成できたことだけでもよかったと思うべきか。)……弐那……ッ!(此方に伸ばされた手を握り、もう片方で崩れ落ちる身体を支える。腕の痛みも脇腹の痛みもどこか遠くへいっていた。)、弐那、馬鹿言ってんじゃないわよ…!私より弐那が先に決まってるでしょ、(見上げてくる瞳と目が合って、くしゃりと表情が歪む。彼女の身体を引き上げて凭れさせ、幾つも傷ができている制服の上着を脱いだならすぐさま生成した刃物で躊躇いなく引き裂き、血が溢れ出し続ける彼女の腹に服の上から力強く巻いて結んだ。彼女は痛いだろうが、ここで遠慮なんてしていられない。)──……は、は……。……ほんと、ばかね。(彼女は知らない筈だ。久百合が「美」による縛りを自ら課していることを。美しいと自負があるほど、強くあれることを。自分では今の自分を綺麗だなんて、まるで思えなかった。髪ゴムをどこかに落として広がった髪は一房切り取られているし全身薄汚れているし汗だくだし。それなのに彼女はとびきり綺麗だと言う。下手くそな笑みが零れて、赤く染まったその両手を拾い上げ再び握りしめる。比喩でも何でもなく、身体の奥底から力が湧いて出てくる気がした。)

三須原弐那 ♦ 2021/02/06(Sat) 19:03[63]


……おこってますか?ひさゆりさん。(こんな時に聞くことじゃないことを、今じゃないと聞けないから馬鹿正直に口にした。痛みは熱をもってじくじくと体を蝕んでいるのに、なんだかひどく穏やかな気持ちになって微笑んでしまう。彼の腕の中に同じ体温をもって居られることがなんと幸福か。たくさんの間違いをして、たくさんの遠回りをして、でもこれは本当の本当。)いきてて、よかった……です。(馬鹿だと言いながら苦しそうな彼の表情に胸を痛めることも、文字通り締め付けられる傷口に顔を顰めてうめくことも、ふたりで息をしていなければできないことだから。甘んじて受け入れよう。血濡れの手が彼の手を握りしめて、縋るからだはぼろぼろだ。)……ほんとですよ、……ひさゆりさんのあかは、わたしがゆいいつすきな、あかなんです……いきてる、あかですから(これはきっと彼に一度だって言っていないこと。死に逝く色だと嫌いになったこと。たくさん思い出した中でも、変わらない事。でも彼は、変わらず美しいのだ。眩しそうに眇めた瞳は変わらず、苦しそうだけど穏やかだ。彼が笑ったから、少女もふへらと気の抜けた笑顔をした。そのうち、ゆったりと船を漕ぎだしそうだ。よく見れば目元にはうっすら隈があるだろう。体が休息を求めているせいもあるだろう。それでも手も身体も彼に預けたまま離さない。もう離せないかもしれないとも思った。何度離そうとしたって、迷ったって、結局その手を求めてしまうのだから。)

久百合要〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 00:01[64]

……怒ってないわよ、呆れただけ。(傷に障るからもう話さないで。そう伝えたいはずなのにつられたようにへらりと笑みが零れる。たしかに呆れているはずなのにどこまでもまっすぐな彼女がどうにもこうにも愛おしく思えて。はあ、と落ちた溜め息は責めるようなものではなく何処か柔らかさを含んでいた。)えぇ、……生きてるわ。私も、弐那も。これからまだまだ、楽しいことたくさん出来るわよ。(痛みがあるということは、生きているということだ。わたしたちには明日がある。明日をまた、生きていける。手を握り締める力をほんの少しだけ強めた。わたしは此処にいる。そして彼女も此処にいる。ボロボロでも、もう立ち上がれない程に疲れ果てていても。)……そう。唯一好きな、赤ね……。──それ、嬉しいからまた言ってくれる?(彼女が段々と目を閉じる時間が長くなっていくことに分かりやすく焦りを見せ、呼吸がさらに変になっていないかだとか心臓の鼓動だとかを確かめてからほっと息を吐き出した。恐らく貧血と疲労と、その他諸々。──特級呪霊が消えたと、敷地内に漂う緊張感が薄れたことで気付いたのはついさっきだ。駆け寄ってくる足音に顔を上げるとそこには補助監督の姿があって、思わず長く吐き出した息に含まれるのは安堵の意。終わった。生きている。右腕の傷に走る痛みを殊更自覚した今ではどう頑張っても彼女を車まで運べそうにない。担架を頼みながらその手をずっと握っていた。自分のそれよりちいさくて、細くて、すぐに折れてしまいそうで。でも勇気があって、強くて、あたたかい手のひら。離したくない。自分ひとりで強く在ろうとするよりも誰かが傍に居てくれる方が強くいられるのだと知った。それは誰でもいいわけじゃないことも。──幸せであれと願う。いつからか、私の隣であればいいとも願っていた。)

三須原弐那〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 10:48[65]

(ゆったりとした彼の笑みも、緩やかな溜息も、心臓を撫でてその動きを後押ししてくれるように感じた。生きている。噛み締めるように確かめた言葉に、また意味を続けられれば、涙が出そうになるくらい嬉しかった。この温もりを確かめるように、強く握られた手をちょっとだけ揺らしてみる。夕焼け空に還る親子がそうするような幼い仕草だった。)……たくさんいいます。ひさゆりさん、おはなししたいことも、やりたいことも、……たくさん、あります。いっしょに、……(してくれますか。そこまで声にならなかったのは、呼吸が途絶えたからではなく。息をして、穏やかに微睡んで、身体が休めと言っているから。心が、ここは安心できる場所だと言っているからだ。補助監督が手配した担架に乗せられて運ばれるまで、意識を失おうとずっとずっと彼の手を握っていただろう。彼にすべてを預けていただろう。そのうち瞳から、流れ落ちる涙がひとつふたつ。穏やかな微笑みがそれがかなしさではないとつげ、痛々しい傷跡はそれがこうして生き残ったからこそだと告げる。巡りゆく日々が来るなら、時期に未来を考えなければいけない時が必ずやってくる。それでもどうか、そこに彼がいてくれればいいと願うのだ。唯一好きな赤。ボロボロになりながら生き残った日。瓦礫の中で握りしめた温もり。――「生きたい」と思わせてくれたあなたと、幸いを分かち合えたら。それは、とてもとても嬉しいことだから。)

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