三須原弐那〆 ♦ 2021/02/08(Mon) 10:48[65]
(ゆったりとした彼の笑みも、緩やかな溜息も、心臓を撫でてその動きを後押ししてくれるように感じた。生きている。噛み締めるように確かめた言葉に、また意味を続けられれば、涙が出そうになるくらい嬉しかった。この温もりを確かめるように、強く握られた手をちょっとだけ揺らしてみる。夕焼け空に還る親子がそうするような幼い仕草だった。)……たくさんいいます。ひさゆりさん、おはなししたいことも、やりたいことも、……たくさん、あります。いっしょに、……(してくれますか。そこまで声にならなかったのは、呼吸が途絶えたからではなく。息をして、穏やかに微睡んで、身体が休めと言っているから。心が、ここは安心できる場所だと言っているからだ。補助監督が手配した担架に乗せられて運ばれるまで、意識を失おうとずっとずっと彼の手を握っていただろう。彼にすべてを預けていただろう。そのうち瞳から、流れ落ちる涙がひとつふたつ。穏やかな微笑みがそれがかなしさではないとつげ、痛々しい傷跡はそれがこうして生き残ったからこそだと告げる。巡りゆく日々が来るなら、時期に未来を考えなければいけない時が必ずやってくる。それでもどうか、そこに彼がいてくれればいいと願うのだ。唯一好きな赤。ボロボロになりながら生き残った日。瓦礫の中で握りしめた温もり。――「生きたい」と思わせてくれたあなたと、幸いを分かち合えたら。それは、とてもとても嬉しいことだから。)