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【2A】(埋もれ木に花咲く)

久百合要 ♦ 2021/01/05(Tue) 22:41[18]

(話が違うと思うんですけど。――とは、任務完了の報告に出向いたはずの教師から”次の任務”を伝えられた時に思わず飛び出た一言目である。奪還したら終わりとは一言も言っていない、幼気な少女がまた悪い大人たちの餌食になっていいのか、うんぬんかんぬん。結局ああだこうだと言い包められて部屋を出たときには思わず盛大な深く長い溜め息が零れた。こうなることを予想できなかった過去の自分に、そして自分のこの反応すら楽しんでいそうなあの教師に。)……ったく、仕方ないわね。(あの日、そんな余裕はなかったとはいえ部屋にも寄らせず手ぶらで脱出させたのは他でもない自分だ。せっかく外に出ることができたのだからずっと高専内に留め置くのが可哀相という気持ちも分からなくもない。相も変わらず派手な柄シャツの上に制服を羽織り、その上に銀色の細い千鳥格子柄が薄ら見える黒いチェスターコートを纏い首元には赤色の柔らかなマフラーを巻いて。女子寮内の一室のドアを二回軽く叩いたのは、教師から告げられた出発日時の数分前。)──……弐那? ゆっくりでいいから、用意できたら行くわよ。(買い物の行先の候補は近場でいくつかあるが、まずは何よりも彼女の欲しいもの優先だろう。やがて彼女が部屋から出てきたのならば何が欲しいかと最初に問う所存で、扉横の壁に凭れかかる。コートのポケットに突っ込んでいる財布とスマホ以外は手ぶらのように見えるが、当然袖の中に呪具の元となる髪は仕込んできていた。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/06(Wed) 15:29[19]

(現状を悲観できるほどの人生を送ってこなかった。静観以外の選択肢を持ちえない少女は微笑んで、頷いて、そして静かにそれを受け入れる。高専という敷地の中で大人しく、声を荒げず、感情を揺らすことも無く、変わらぬ日々を暮らしている。あの日広く見えた世界は、夢だったのかもしれない。そう思い出した時だった。先生だと名乗った男に件の話を聞いた。その時は受け入れた。)──……はい、(そして、今の今まで、言われたまま準備をして待って、外に出るつもりだった。あの日手を取ってくれた彼の声を聞くまではだ。1着しか持たぬよそ行きはあの日着ていた黒と白の装いで。ドアノブにかけた手を一瞬止めたのは、返事が一拍遅れたのは、何故なのか。その理由は部屋を出ようとしてから知る。足が動かなかった。)……あなたの先生は、矛盾していると思います。ひさゆりさんの時間を頂かなければいけないくらいなら、外に出ない方がいいのではないでしょうか。(問われる前に言っていた。静かなほほ笑みで。ドアの隙間から声だけのぞかせるように。)服のサイズならこの服を参考にしてください。備品はありあわせで間に合っています。大丈夫です。(微かに震える声は早口だ。今まで必要があれば問題なくくぐれていたドアを、1歩も踏み出せないでいる。胸元に添えた左手が、服の上から心の臓のあたりを握った。)

久百合要 ♦ 2021/01/06(Wed) 21:35[20]

(ドア越しに声をかけてすぐに顔を出すとは思っていなかったが、まさか数センチしか開かないとは予想だにしていなかった。小さく開いた隙間に目を向けてぱちぱちと瞬きしたのち、凭れていた壁から身体を離し扉へ寄せてゆっくりと背を屈める。顔はほとんど見えやしないが、少しでも距離を縮めようと思ったから。)あの人が変であることは認めるけどね。弐那はもっとワガママになっても罰当たんないと思うわよ。(年頃――と彼女のことを呼べるほど年齢は離れていないが――の少女とはもう少しやりたいことを押し通すものではないのか。これまで抑圧されてきたのだろうから尚更。はあ、と思わず零れた溜息は誰に対してのものでもなく、強いて言えば”もったいない”彼女に対してだ。)……い・や・よ。(畳み掛けるように、一音ずつ。わざとあの日と同じように発音してみせた。これは確定事項なのだと分かりやすく伝えるために。)あのねえ、服のサイズなんてひとつ貰ったって参考にならないの。それにちゃんと試着しないと弐那に似合う服が分からないでしょう。備品だって好きなもの使った方が楽しいに決まってるんだから。(全然大丈夫じゃない。少しだけ開いたままのドアの隙間に左手を差し込んで掴む。またさらに顔同士の距離を縮めて、ぐ、と目に力を込めた。)──行くわよ、弐那。(任務だから、という理由付けは少しばかり忘れていた。まるで欲のないこの少女に人並みの、いやそれ以上の今しか味わえない楽しさを経験させてやらなければ気が済まない。そんな気持ちで。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/07(Thu) 16:47[21]

……違います、これが私のワガママです。(震える声が薄い微笑みと不釣り合いだろう。どこにいてもよかった。塀の中でも、この高専の中でも。たった一つ抱えるものを守れるならそれでよかった。いまだ一歩を踏み出せない少女を彼はあの日と同じように拒絶する。ドアの隙間越しでは瞳は真正面からはかち合わないか。そもそも少女が瞳を伏せていれば合うわけもないか。)……でも、(左手が心臓を抱える。取りこぼさないように。はなやかな彼に対する反論いくらでもできるはずなのにそれが出来なかった。力強い瞳を一度でも見てしまえば逸らすことはできないだろう。表面上は凪いだ少女のかんばせが僅かに惑う。心はそれ以上にかき乱されていた。ああ、外に出るのが怖いのだ。そこまで理解して。ああ、あの日と一緒だ。もう一度、理解した。元よりドアノブを握る少女の手に大した力は籠ってない。とびらという境界の向こう、彼という人間の眩しさは恐らくその見た目から来るものだけにとどまらない。特に、自分を持たない少女には、目が潰れそうになのに。)――……ひさゆりさんは、ずっと一緒ですか?(確かめるように紡ぐ。その光の下なら、まだ不安定な今でも、少しだけ歩ける気がしたから。)ひさゆりさん、わたしはわたしが死なないためにいま外に出たくありません。でも、あなたは“わたし”をあの日のように、守ってくれますか?(馬鹿正直に問うのだろう。伸ばした右手もあの日のように。)

久百合要 ♦ 2021/01/07(Thu) 22:51[22]

たいしたワガママね。(まるであの日の繰り返しだ。ここには倒すべき人間も呪霊もいないことだけが異なるが、ドア一枚の隔たりがどうにももどかしく感じた。彼女はすぐ傍にあるはずなのに目が合わないからか妙に遠い。はあ、と息を吐き出しかけたところで、小さく声が聞こえたから逆に静かに息を吸った。聞き逃さないように。)……でも?(彼女が外に出たくないと言うのならば、手間が省けたと手放しで喜ぶところだった筈。でも今は如何にして彼女を陽の元に引っ張り出すかを考えていた。これがもし少しでも此方の出方を窺うためのポーズであると感じ取ったならむしろ勝手にしなさいと突き放したかもしれない。彼女が本当に恐怖と闘っているのだと、そう思ったから手を差し伸べたくなったのだろう。) ……ずっと一緒よ。弐那の傍にいるわ。(隙間越しでも確実に見えるように大きく首を振って頷いてみせる。嘘じゃない。任務を全うするためには当然のことだ。)守るわよ。当たり前でしょう。貴女を無事にここに帰すと約束する。──だから、私と買い物行きましょうよ。きっと楽しいわよ、弐那に似合う服選んであげるから。(伸ばされた右手に、右手を重ねた。あの日のように。違うのは部屋の中から引っ張り出そうと力を込めなかったこと。ただ握りしめて待った、彼女の一歩目を。出てきてくれたのなら補助監督が運転席で待つ車まで連れていく算段だ。高専の敷地を出て近くの繁華街までは送迎してもらうつもりで。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/08(Fri) 22:22[23]

(でも、の続きを紡げない恐怖を初めて味わっている。なんだかんだと塀に囲まれた狭い世界に心が守られていたのだ。ちゅうぶらりんに浮く命を守るすべを探して、心のままに手を伸ばしたのはあの日と同じように彼だった。年相応にやわっこく丸っこい瞳いっぱいにに、明るい色の肯定が映って、息を呑む。息をする。)やっぱり、ひさゆりさんの近くは息をするのが楽です。(そして声に出す。震えが完全に止まったわけではなかった。今だ心臓は落っこちないように握っておかないとという気持ちがある。進歩があったのは右手。彼にぶつからないように扉を腕が伸びるだけ開いたなら、自分の色しか持たない彼と自分の色を持たない少女が向き合って。伸ばした手が取られたなら、徐々に恐怖が小さくなっていくだろう。)……買い物に出たことがありません。それでも楽しめますか?(問いかけの内容自体にあまり意味はなかったのかもしれない。答えを聞こうと一歩踏み出した足はあまりに自然で自分でも驚いてしまうほどだった。握しめた掌はあの日と同じなようで同じではない。「ひさゆりさんはきれいですね」誉め言葉と信用を一緒に乗せた言葉だって、相変わらず会話というものを理解していないように自分の思ったままを告げるようなもので。――それでも車に乗って、繁華街までやってきていた。繋いだ手を解こうとしないのは、迷子になりたくない子供のそれで。)ひさゆりさんの洋服もこちらで購入したんですか?

久百合要 ♦ 2021/01/09(Sat) 17:12[24]

(思い返してみても、やりたいことがない時など見つからない十九年であった。その全てが思い通りにいったわけではないし、どちらかといえば思い通りにいかなかったことの方が幾分も多い。それでも、いや、だからこそ諦めたくない。自分という存在を信じて手を伸ばし、足を一歩踏み出してくれるというのならば。正直に言って、ひとりで立つと決めた自分には”誰かの近くは息をするのが楽”という感覚は掴み切れない。でも彼女がそう言うのならばきっと本当にそうなのだろう。そう思うから、この手を離さないでやってもいいと思うのだ。)──そんなの、とびきりに楽しいに決まってるじゃない。(当然のことだとまた笑って、勇気を出した彼女をエスコートするべくゆっくりと手を引く。「毎日頑張ってるのよ」と無駄な謙遜はせずに自信の根拠でもある綺麗にまとまった毛先を指に絡めつつ「弐那も長い髪似合うと思うわ」とは隣のつむじを見下ろして。)私の?私のはもっと高専から遠いところよ。でもそこまで行くのは時間も勿体ないしハードル高いかと思ったの。だから今日はひとまずこの辺りで一通りお買い物ね。 ──さあ、何から見ましょうか。やっぱり服かしら、化粧水とかも欲しいけど荷物になるから最後……。(運転席の補助監督には数時間後の迎えを頼み車を降りたのなら手を繋いだままぶつぶつと独り言とともにショップが連なる中型のモールへとんでいく。)弐那、好きな色は?(ふと思い出したかのように隣の少女へ問うてみた。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/11(Mon) 16:03[25]

(まあるい双眸の奥でとびきりの意味を考えるまでもなく、彼ならそれを見せてくれるんだと思った。自分のために彼の傍に居ようとすることを否定もせず、胸を張る彼の隣を歩けば心なしか、身長が一センチくらい伸びたような感覚になる。「昔は長かったです。胸くらいまでありました」なんて、気脚気を足掛かりに淡々としながらも会話は続いていくか。送ってくれた車はどこかに止めるのかそれとも一回帰るのか、ともかくその後ろ姿を見送り。拭くと聞いて真っ先に思いつくそれの在処を尋ねてみるけれど。)そうなんですね。ひさゆりさんはいろいろな服を着こなせそうです。それも努力の一つですか?(服についてはこれ以外は特に何も。化粧品については「使っていたものを覚えています」と、薬局なんかでよく見るメーカーを告げるだろう。お手軽なお値段相応の品だ。共に歩く様は身長差だけ見れば兄弟の用かもしれない。ぼんやりとモール内を捉える瞳はあまりきょろきょろと動いたりはしない。ただ、始めてきた場所なのに懐かしいと思うのが不思議で。)……すきないろ、(遅れて反芻する。脳裏に浮かんだのは、たった一つ憶えている過去の光景だ。伸びてくる朱色の手。――ゆっくり一つだけまたたいて、彼を見上げれば、己の瞳を指さす。)この色です。(深い藍の色。ネイビーカラーの瞳一杯に彼を映して。)私には何の色が似合いますか?(これまた馬鹿正直に問うのだろう。)

久百合要 ♦ 2021/01/13(Wed) 00:32[26]

(あくまでも任務の一巻であるということを勿論忘れちゃいないが、それでも街に出ての買い物は楽しい。自然と逸る足取りを少しばかりゆっくりにさせるのは手を繋ぐ彼女がいるから。)そうよ、スタイルの維持も努力の一つ。筋トレもストレッチも欠かしたことないわ。弐那も今度一緒にやってみる?(当然自分と同じ程度のトレーニングをさせるつもりはないけれど、あの塀の中にずっと閉じ込められていたのなら平均の体力もないだろう。良ければ、の範囲であるから彼女の希望があればだけれども。「せっかく高専でお金出してくれるっていうんだからそれよりちょっと良いの買いましょ」とは化粧品の話題について。)──藍色ね。綺麗な色だわ。(見下ろし、深い青色を見返した。ゆっくりと笑みを湛える。本音だった。いつだってこうしてまっすぐ此方を見上げてくるその瞳の色が、光が、好ましく映る。)そうねえ、その藍色もとってもよく似合ってると思うけど……意外と黄色とかも似合いそうな気がするわ。(改めて全身見遣った後にひとつ例を挙げながら「まずはここにしましょうか」と手を引っ張り足を踏み入れたのはちょうど彼女の年頃が好んで着るだろう服のなかでも露出が少なめのブランドだ。当然女性客ばかりであるから派手な長い髪の男と正反対のような見た目の少女に対して視線を一定数感じたものの、男はまるで気にした素振りなく店内をぐるりと見渡す。それから一旦手を離し、丈が長めのワンピースを数種類――色は青、黄、赤、と様々だ――手に取ったのなら有無を言わせずそれらと一緒に試着室に彼女を放り込むつもり。)着れたら一枚ずつ見せて。気に入ったのがあれば遠慮なく言うのよ。似合うのも大事だけど、好きな服を着るのが一番いいんだから。(彼女が中に引っ込んだのなら、そのすぐ前で待機しよう。少したりとも目を離すつもりはない。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/13(Wed) 18:01[27]

やりたいです。軽い運動は体にいいと聞きます。体調管理はしっかりしていきたいので。……ひさゆりさんとは、違う理由でもいいですか?(身体のメンテナンスは大事だ。そこまで考えて、はたと自分と彼の間にあるずれを感じる。彼はどちらかと言えば、外見を磨いているように見えたので。ただしっかり生きていければと思う自分とは違うのではと。化粧水について頓着せずに頷いて見せるのもそういう理由だ。)……綺麗な人に綺麗と言われると、背中がそわっとします。(なんだか心もそわっとしたから、そのまま言葉にしてみた。はにかみを浮かべるには記憶とか感情とかそういうものが足りないけれど、ほのか緩んだ頬はいつもの綺麗な微笑みとは違うものだっただろう。モノクロのッ少女とお洒落な彼に振る視線には少女もまるで気にせずに。それどころか店内を目いっぱいに移してぼんやりとしている。少女にとっては一枚の絵のような空間だった。)いっぱいありすぎてよくわかりません。……?なるほど、分かりました。(よくわからない宣言から彼が服を手に取る様をじっと見つめて荷物を受け取り、返事をする。ここまでどの程度の時間を有しただろうか。理解力の名ささというよりは不慣れさだっただろう。抱えたワンピースは花束のように色とりどりだ。言われるがまま試着室にてもそもそ準備をし、一番最初に手に取ったのは、)――……どうでしょうか、似合いますか?(落ち着いた黄の色。からし色に近いそれは、ゆったりとした作りとシンプルなデザインが売りのようで。)着やすくていいです。あと、生地の肌触りが気持ちいいです。(くるくると回って感想を。また少し、表情が綻んだ。ふへ、と気の抜けたように。)

久百合要 ♦ 2021/01/14(Thu) 00:35[28]

もちろん、理由なんて何でもいいのよ。弐那がやりたいって思ったこと、なんでもやってみましょう。そうやって自分の好きなものを見つけていくんだから。(理由も目的も、別になんだっていい。やりたいことが出来なかった――もしかしたらやりたいことを見つけることすら出来なかったかもしれない――少女が『やりたい』と意思表示してくれることが十分成長だと勝手に少し感慨深く思えたりもして。)……そわっと? 弐那は綺麗だし可愛いわよ。(そわっと、の意味を少し図りかねるも、その緩む表情を見れば少なくともプラスの意味なのだろう。もう一度繰り返したのは当然お世辞ではなく、またそう思ったから口にしただけのこと。それから試着室にほぼ無理やり突っ込んだ彼女が装いを変えて出てくるまで、近くの壁に凭れて店内からモールの通路まで隈なく気配を探る。攻撃的なそれはひとまず見当たらず、ほっと息を吐き出した。)──……あら、やっぱりその色似合うわね。スカートのラインもいい感じ。(やがてカーテンの奥から出てきた彼女の全身に視線を巡らせ、にっこりと表情を綻ばせる。似合うだろうと予想して手渡したものでも、実際にさまになっているのをみるのは嬉しいものだ。ひとの初めて、に立ち会うことも。)そう、よかった。じゃあそれは買いましょう。 …本当ね、結構柔らかくて楽そう。(即決即断。さっそく購入を決めて凭れていた壁から背を離し距離を縮めたならその袖辺りに手を伸ばして生地を撫でてみる。その場でくるりと回転してみせるその笑顔にこちらも自然と口許がゆるんだ。どこか嬉しそうな彼女を見ているのは、それだけで悪い気分はしない。)ほら、次のも着てみて。(弾んだ声で次を促す。さあ、楽しくなってきた。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/14(Thu) 11:46[29]

(好きなもの、そう聞いて不思議そうな顔をした。二回目の綺麗、可愛いにも同じ顔をしただろう。そわっととは違う純粋な、分かりやすい感情はたやすく言葉になる。)そんなこと、考えたこともなかったです。(瞳はともかく。三須原弐那という人間について。好きなものだの容姿がどうだの、そんなこと考えたこともなかった。環境から見れば考える暇がなかったともいえるだろうが、少女自身がその解にたどり着くにはあまりに遠い。――今はただ、彼の言葉に反応して、そこに見える新しい感情に反応して、心に蓄積していく。綿雪のような柔らかいものを、ただただ。)ひさゆりさんがいうなら間違いありません。(お洒落な彼がいうなら、そんな信頼は静かな微笑みで告げるのに。彼に触りやすいように腕を上げたり、ひらひらと裾を揺らしたりしていると、気が付いたらだらしのないように口元が緩んでしまう。)私、昔はこういったお買い物が好きだったのかもしれません。何も覚えていないですが。(あんまりにそわそわして。うっかり口まで緩んだのは、促されるままに二着目の青いワンピースを着て彼の前に出た時だった。何の前触れもなく、何のきっかけもなく。少女が自ら自らのことを彼に告げる。まるで何でもない事みたいに。実際問題憶えてないんだから少女にとっては何でもない事なのだ。)

久百合要 ♦ 2021/01/15(Fri) 01:23[30]

(彼女がどんな思いで塀の中にいたのか、とか。いつから、とか。何故、とか。──家族はどうしているのか、とか。詳しいことはなにも知らないし、わざわざ此方から聞くつもりはなかった。ただ、今自分の目の前にいる彼女が笑い、思ったことを素直に口にできるというのなら。その環境を守ることはあの日自分が選んだ道の先にある。見返りを求めているわけでは決してないが、目に見えて与えられるのは嬉しいもので。)そんなに信頼されるのもなんだかむずかゆいわね。でも、弐那も気に入ったみたいで良かった。(確かに自信はある。あるけれど、そこまでまっすぐに向けられると少しばかり気恥ずかしい。からし色の裾を揺らす彼女の表情がやっぱり今までに見たことのないものに思えたから、それを見ている自分も自然と笑みが浮かぶ。)──そう。よかったわ。じゃあ今日は、ひとつめに出会えた記念日ね。(此方が話しかける前にみずから意思表示をしてきたことは、さて今まであっただろうか。ぱち、と大きくゆっくり瞬きをした。それからまたゆっくりと破顔して、瞳には柔らかい光が滲む。そっと伸ばした腕の行き先は青いワンピースに身を包んだ彼女の頭の上で、避けられなければそのままその頭を数度やさしく撫でるだろう。思えば、手を繋ぐ以外で意思を持って彼女に触れようとしたのは初めてだった。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/15(Fri) 10:06[31]

気に入っているように見えますか?……不満があるわけではありません。あまりそういうことを考えてこなかったので。(不思議の理由はたやすく言葉になる。むにむにと頬を包む手のひらで、確かに緩んだ口元を感じ取れば、ああ嬉しいのかと妙な納得をするのだ。「やっぱりひさゆりさんはすごいですね」称賛の理由は彼から見ればわかりにくいものだったかもしれない。)……ひさゆりさん、嬉しいですか?(出会ったのも記念日になったのも自分の方なのに、まるで彼が巡り合ったように笑うから。ついついそんなことも問うてしまった。頭を撫ぜる掌は自分のものとはずいぶん違うように思えて、それでいてどこか懐かしい。うっそりと瞳を眇めて、そのまま瞑って。味わうようにその温もりに頭を摺り寄せよう。それはさながら猫がねだるような、子供が甘えるような、そんな仕草だった。)こうされるのも、きっと好きだったんです。(言い訳じみた言葉になったのはなんでだっただろう。ともあれ、頭を撫でてくれる手が嬉しかったのは確か。――その後もファッションショーは続いただろう。ただ、一つ。たった一色だけ少女が手を付けない色があった。)――これはひさゆりさんの色なので、私はいいです。(鮮やかな赤のワンピースは、袖を通すこともなく。静かに笑んだ少女の手で彼へと返されるだろう。)

久百合要 ♦ 2021/01/16(Sat) 23:27[32]

……? 見えるわよ、分かりやすく。とっても楽しそう。(むしろぱちぱちと目を瞬かせてしまうくらいには予想外の問いであったと如実に伝えるだろう。「私は特になにもしてないわよ」とはすごいと言われたことに対して。だって本当に特別なことはなにもしていない、任務を遂行しているに過ぎないのだから。あくまで任務。──であるはず、なのに。)嬉しいわよ。弐那が新しいことを知っていくのを見ているのが、なんだかすごく嬉しい。──子どもの成長を喜ぶ親ってこんな気持ちなのかしら。(頭に伸ばした手のひらはすげなく払われるどころか、逆に心地良さそうであまつさえ頭を擦り寄せてくるから。まるで野生動物を手なずけたような気にさえなって、また撫でる。)じゃあまた撫でてあげる。(ふふ、とまた笑いながら手を離したのは暫く経ってから。再開されたファッションショーには「それも似合うと思うわ」「それはちょっと形合わないわね…こっちは?」等々お世辞無く感想を重ねたことだろう。)あら、そう?分かったわ、なら赤は無しね。(きっぱりとした否定は逆に疑問を生む。でも僅かに首を傾げたものの詮索はせず受け取った赤はラックへ戻した。購入を決めた数着は久百合の手によってレジへ、会計し受け取ったショップバッグもそのまま肩にかける。)まだまだ買うわよ、弐那。コートも欲しいわね、まだ寒いの続きそう。(さも当然かのように、少女に向けて手を差し出した。)

三須原弐那〆 ♦ 2021/01/17(Sun) 11:24[33]

(自分は嬉しいらしい。そして彼も嬉しいらしい。ご機嫌とは伝染するものなんだろうか。甘ったるく頭を寄せて撫でてもらってる間に、そんな思考すらどうでもよくなるようなふわふわとした気持ちに包まれた。当然のように表情はふへらと笑みにほどけ、次を約束してくれた掌を瞳を眇めて見つめた。キラキラとしたものを見つめる目だった。)いつか私もひさゆりさんみたいに、ひさゆりさんのことを撫でたいです。(それは嬉しいことをしてもらったからお返ししたいという単純な思考から生まれた言葉だった。別に撫でるだけがお返しじゃないのに、少女はあまりに何も持たない。塀の外から出てもそれは変わらなかった。今得ようとする途中で、知っていく最中なのだから、当たり前と言えばそうなのやもしれぬが。――再開されたファッションショーでも始終浮かれたような、ふわふわとした足取りで回っていただろう。花の色が一つ、二つ、彼の手で選定されていく中、一番最後まで残った―否、残してしまったその色は少女の手で切り離された。受け入れてもらったことに静かに安堵の息を吐き、荷物を持ってもらうことに疑問も抱かなかった。贄として大事大事にされてきたから?いいや、封じ込めた記憶の中にその答えがあるのだと、少女自身すらまだ気づきはしないだろう。)うん、……ひさゆり、さん。(――『弐那』そう呼ぶ背中が違う誰かと重なる。瞬間、別の赤が脳裏で弾けて彼の赤と混ざって、最後には彼の赤しか残らなかった。ぱちり、ぱちり、瞬きをしてそこにいるのが久百合要だということを確かめるように呼んだ。重ねた掌は、彼の方が随分あったかく感じて。ぎゅっと握るだろう。すがる様に。)……分厚くてあったかいのがいいです、コート。(静かに笑む顔はもういつも通り。――荷物を持たせっぱなしだということに疑問を抱くのは、もう数店舗先になりそうだ。)

久百合要〆 ♦ 2021/01/18(Mon) 00:49[34]

……撫でたいの?じゃあそうね、いつか私のことを褒めたくなったら撫でてちょうだい。(実のところこんな大柄な男を――人並み以上の容姿を保っている自覚はあれど、同じく人並み以上に大柄である自覚もある――撫でたいという心持ちは然して分からなかったが、少女の要望はできる範囲で叶えてやりたいという気持ちはある。だから笑って頷いて、いつかを求めた。この任務の終わりがいつになるのか久百合が決めることは不可能だし、自分にもそして彼女にも今日これから、明日、なにが起きるかなんてまるで予想はつかないけれど。いつか。――数着の色とりどりのワンピースが綺麗に畳まれ収められたショップバッグはそれなりの大きさだったが、重さも大きさも久百合にしてみればたいしたことはない。そもそも荷物はすべて自分が持つつもりで――如何に食い下がられようとそれは決して譲らない――差し出した手のひらへの反応が予想していたよりも遅れたように感じて首を捻り視線を移す。名を呼ばれればゆっくり瞬きと頷きを返した。繋いだ手のひらを握り締める強さは彼女と同じくらいに。何も言葉にはしなかったが「ここにいる」と伝えるためだった。)そうね。マフラーと帽子も買いましょうか。弐那は髪が短いから首元が寒いでしょ。(数時間後、迎えの車の前に現れた久百合の肩や肘にはめいっぱいの袋がかけられていたことだろう。服を買い漁ったあとには化粧品やら髪のケア商品やらも一気に買い込んだからそれなりに重くなっていたが、その顔は至極満足げだったはず。何故だか自らの買い物より、ずっとずっと充足感に溢れていた気がした。)

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