三須原弐那〆 ♦ 2021/01/17(Sun) 11:24[33]
(自分は嬉しいらしい。そして彼も嬉しいらしい。ご機嫌とは伝染するものなんだろうか。甘ったるく頭を寄せて撫でてもらってる間に、そんな思考すらどうでもよくなるようなふわふわとした気持ちに包まれた。当然のように表情はふへらと笑みにほどけ、次を約束してくれた掌を瞳を眇めて見つめた。キラキラとしたものを見つめる目だった。)いつか私もひさゆりさんみたいに、ひさゆりさんのことを撫でたいです。(それは嬉しいことをしてもらったからお返ししたいという単純な思考から生まれた言葉だった。別に撫でるだけがお返しじゃないのに、少女はあまりに何も持たない。塀の外から出てもそれは変わらなかった。今得ようとする途中で、知っていく最中なのだから、当たり前と言えばそうなのやもしれぬが。――再開されたファッションショーでも始終浮かれたような、ふわふわとした足取りで回っていただろう。花の色が一つ、二つ、彼の手で選定されていく中、一番最後まで残った―否、残してしまったその色は少女の手で切り離された。受け入れてもらったことに静かに安堵の息を吐き、荷物を持ってもらうことに疑問も抱かなかった。贄として大事大事にされてきたから?いいや、封じ込めた記憶の中にその答えがあるのだと、少女自身すらまだ気づきはしないだろう。)うん、……ひさゆり、さん。(――『弐那』そう呼ぶ背中が違う誰かと重なる。瞬間、別の赤が脳裏で弾けて彼の赤と混ざって、最後には彼の赤しか残らなかった。ぱちり、ぱちり、瞬きをしてそこにいるのが久百合要だということを確かめるように呼んだ。重ねた掌は、彼の方が随分あったかく感じて。ぎゅっと握るだろう。すがる様に。)……分厚くてあったかいのがいいです、コート。(静かに笑む顔はもういつも通り。――荷物を持たせっぱなしだということに疑問を抱くのは、もう数店舗先になりそうだ。)