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【1】(明日の花は咲きますか)

三須原弐那 ♦ 2020/12/27(Sun) 20:48[1]

(施設内を渦巻く音の全てをただ音と認識して。律儀に言いつけを守っていた。隠れろと言われて思いついたのは“自室に居てはいけない”ただそれだけ。出来るだけ静かに走って、走って、たどり着いたのは施設内の片隅にある炊事場。大きな業務用ともいえるような冷蔵庫と戸棚の間に、滑り込んで押し黙る。年ごろの少女らしい細い体躯を包むのは白いワイシャツと黒いプリーツスカート。ホウ酸団子の欠片が落ちている床に躊躇いもなく膝を抱えて座り込み。柔らかそうな印象すら抱かせるおっとりしたかんばせに不似合いな、少年のような黒のベリーショートを膝小僧にくっつける。胸元で揺れるふんわりしたフレアリボンを隠せば、おおよそ自分の色など持たないような人間団子の完成だ。)……、(これなら大丈夫。今日を乗り越えて、あと一カ月生きられる。施設内の音の移り変わりなどに興味はなく、たとえそれが阿鼻叫喚でも関係なく。ただ小さくなって律儀に身を隠していた。)……みつけないで(淑やかで凛とした、喩えるなら祝詞のように、ささめいた理由は何だっただろう。黙っていれば今日を乗り越えられるはずなのに、小さな声で鳴いた理由は何だっただろう。もしかしたらを思ったのかもしれない。もしもこのまんま、誰にも見つけられなければ。一か月の先も、もしかしたらこのままで、って。)

久百合要 ♦ 2020/12/28(Mon) 00:05[2]

(今日は一段と調子が良かった。任務の日に向けて備えは万全、後ろでハーフアップに纏めているオレンジに程近い赤に染め上がった髪艶にはいつも以上に自信がある。乾燥にささくれかけた指先も日々の手入れのおかげで艶やかで、そんな手のひらで掴むは今日も愛用している弓矢だ。塀を超え侵入に成功した家屋は多数の人間が存在している筈なのに妙に静かで、でもこれでもかという程に空気が淀んでいるのが尚更気味が悪くて。角を曲がる度に下級呪霊に行き当たるからそのたびに矢を放つ姿勢にブレはないけれど、その繰り返しが十を超えた頃には流石に呆れたような表情が滲んだ。)どんだけ呪い飼ってるのよ……、慣れって怖いわね。こんな空気の中でよく普通に生活できるもんだわ。(革靴で歩くたびに足音が鳴り響く。歩みを進めながら人の気配の在る無しに関わらず順番に扉を開けて中を捜索、そのいくつめか。弓矢を手にしたまま漸く見つけた人間団子を真正面に立ち双眸細めて見下ろす。)──……貴女が囚われのお姫様?(もし歯向かう気配を少しでも見せたのならすぐさま矢をつがうつもりだが果たして。彼女が顔を上げて最初に視界に映すのは薄暗い照明の下でも輝く明るい髪か、制服の下に着ている大振りの派手な花柄のシャツか、はたまたにんまりと弧を描く口許か。それとも。)

三須原弐那 ♦ 2020/12/28(Mon) 19:36[3]

――違います。(問われたから反射ともいえる速度で普通に答えてから、可笑しいと思った。ゆっくり持ち上げたネイビーの丸っこい瞳はまず革靴と炊事場の湿っぽいタイルを映し、ゆっくりと目の前のその人を下からなぞっていく。はなやかなシャツ、あざやかな髪、ゆるやかな唇。そして、その瞳を見上げる。その人が手に持った物騒なものに、この辺りでようやく気が付くのだ。瞬く間のホールドアップは、抵抗の意思がない証明となればいいが。) あなたは誰ですか。(職員も同じ立場の少女も、そんな服は着ているところは見たことがないし、何よりもこちら側のにんげんであるならそんなことを問う理由もない。頭の中は案外冷静に動くものだ。静かに問い返す唇には静かな笑みが張り付いていた。小さく首を傾げて。)見逃してください。(懇願のような、強く意思のこもった声を出すのだ。表情は薄く笑んだまま、身体も薄暗い隙間から出ることなく。胸元のリボンだけが静電気でふわふわと宙をわずかに漂って、まるでそこだけが生きているようだった。そんなふうに、少女は静かだった。)

久百合要 ♦ 2020/12/29(Tue) 00:14[4]

――あら、違うの。(至極あっさりとした口調で頷いてみせながらも細めた双眸に鋭さは残っていた。問い掛けてはみたものの久百合の勘が彼女はそうだとすでに告げている。事前に聞かされていた情報は少なすぎるといっていいが、こんな状況でこんな不審者――我ながらそう思う――を前にしてこんな顔ができるなど。ようやく目が合い、己とは正反対ともいえる黒のベリーショートの毛先はざっくばらんに切られていたから人知れずそっと息を吐く。もったいない。すぐさま持ち上げられた両手にわずかに臨戦態勢は解くも呪霊がいつどこから現れるか分からないから呪具は手放さなかった。)呪術高専1年、久百合要。……まあそうね、貴女を助けに来たのよ。(身元を隠す必要はないと踏んだから、隠すことも偽ることもせずに名乗ることとする。張り付けた笑みは何処か彼女のそれと似ていたかもしれない。ゆっくりとその場にしゃがみ込んで視線の高さを合わせてみた。)い、や、よ。 貴女は私とここから逃げるんだから。(畳み掛けるように、一音ずつ。す、と表情から笑みが消えて告げるは己がなかでの確定事項。最終的にどうしようもなければ気絶させて抱えて運ぶつもりではあるが、とはいえ一緒に走ってくれるのであればそれに越したことはない。何故って抱えて運ぶとなると弓矢を引けないし。しゃがみ込み抱えた膝に片肘をついて首を傾げ、値定めるかの如く答えを待つ。)

三須原弐那 ♦ 2020/12/29(Tue) 21:48[5]

(ええ違いますと1回2回と頷く。少女からしてはこの言葉は嘘ではない。お姫様なんて形容詞は自分にはあまりにも不釣り合いだ。)……じゅじゅつ、高専?じゅじゅつとはどう書きますか?聞いたことがありませんし、助けてもらう理由も思い当たりません。(助ける、とは救い出すこと。補助をすること。それらを望んでいない少女は今度は首を横に振って、理由を述べよう。)私はここから逃げたくありません。ここから逃げようとした少女たちは、みんな気が狂ったように死んでいくと聞きます。(かち合う瞳から色がなくなったって、少女は笑って言った。それが呪霊によるものだとは、非能力者の少女には分からない。ぎゅうとホールドアップしたままの両手に力が入る。)私は彼女達のようになる訳には行きません。だからここから逃げません。見逃してください。(さぁ2度目の懇願には彼はどう出るか。こわばるように縮こまる少女はじっと彼の様子を伺い。)それは、人を殺す道具ですか?(1度向けられたけれど、一向に引かれる気配のない弓をちらりと見やって、問いを重ねてみようか。もし是と帰ってきたら蹴り倒して逃げなければいけないため。)

久百合要 ♦ 2020/12/30(Wed) 00:14[6]

呪いの術と書いて呪術。読んで字の如く、呪いを祓うための術を学ぶ学校ね。あと助ける理由なんて貴女にはなくても私にはあるのよ。(そういえば、と制服上着の裏ポケットに入れているカードケースを取り出して学生証を見せてしまえば話が早いか。明確な否定の意思表示にやれやれと困った表情で嘆息してみせる。諦める気は更々無いけれど。)気が狂ったように、ねえ…。まああれだけウロウロしてれば行き当たるのも当然かしら…。(後半の言葉は彼女に聞かせるというよりは溢れ出た独り言に近い。呪霊による死は見えざる者からしてみれば不可思議な死でしかなく、それを畏怖するのは当然といえば当然。とはいえ、だ。まっすぐ視線を合わせたまま問うてみる。)でも貴女、ここにいたら贄として殺されるのよ。それでいいの?(幾度懇願されたとてはいそうですかと引き返す訳にはいくまい。抱えていた弓に話題が移ればぱちりと目を瞬かせ掲げてみせた。首を振り否定を返したその瞬間に背後に気配を感じてさっと立ち上がると同時に振り返り、袖の中に収納している髪を引き出したなら矢に転変させすぐさま弓を引き放った。あっさりと消え行く呪霊を前にしながら丁度いいと説明を。彼女からすれば何もないところから唐突に矢が現れ、放たれた先で何に当たることもなく矢が消え失せたように見えただろうか。)いいえ。呪霊…呪いが形を持ったモノと考えてくれればいいわ、それを祓うための……ッ!   ――…今ちょうど祓ったわよ、見えなかったでしょうけど。具合悪くなったりとか、ない?

三須原弐那 ♦ 2020/12/30(Wed) 14:03[7]

信仰と呪いは違うと思います。私とあなたが相容れない場合はどうすればいいですか?(学生証を然りと認めて、彼の言葉を飲み込んだ。自分には自分の理由があるように、彼には彼の理由があるようだ。今までここにいる限りは自分の理由は保証されていた少女は、少しだけ困って首を傾げる。彼の言葉には難しいことが多い、気がした。まるきり違う世界を覗くとき、そちらもまたこちらを覗いているように見えるのは、きっとその眼差しがあまりに真っ直ぐかち合うからだ。)……贄になるまでは、確実に生きていけますから。(今度こそ、ほとほと困った顔をしよう。唇だけがまだかろうじで笑っていた。目指した場所と目指した理由が一致しない。狭い世界は理不尽に満ちていて、彼が語る呪いとはそういうものなのかとも思ったから。)  っ、(彼が、動いた時。流石に重たい腰を上げた。いつだって走り出せるように体制を低く保って、目をかっぴらいた。一気に走った緊張感、不快感、それが、ー一瞬にして、吹き飛ぶ不思議な感覚。)い、え……むしろなんだか、……安心、しました。今のが、呪いですか?本当に見えませんでした。逃げようとしたらあれのせいで死んでしまうんですか?(矢継ぎ早に紡ぐ言葉は、今までで一番感情が表れていたかもしれない。死ねない。死ぬわけにはいかない。死にたくない。生への執着を生きる糧としている。周りにどんな目で見られようと。)

久百合要 ♦ 2020/12/30(Wed) 17:17[8]

相容れない場合は…そうね、どっちかが諦めるしかないかしらね。ひとまずは。私から言わせてみれば信仰と呪いは紙一重だと思うけれど。(どっちか、が己である可能性など一ミリたりとも考えていないような顔でそんなことを宣う。紙一重じゃなければ何故こんなにも此処に呪霊が蔓延っているのやら。視線を外さないまま、浮かべた笑みに迷いは見られない。)…その保証だってどこまで確かなのか分からないっていうのに、よく縋っていられるわね。(どこまでもちぐはぐに思えるその答えに、まるで困惑が移ったかのように眉を下げて笑う。これが信仰か、と神を持たぬ男は理解が及ばないと天を仰いだのも束の間。)今のが呪いのカタチ、そう思ってくれていい。人間から流れ出た負の感情が溜まってカタチを成すの。ここには山ほどいるから…逃げる時の恐怖心とか、緊張感があいつらを寄せるのね。――抵抗できなきゃ死ぬわ。でも私は抵抗する術を持ってる。私と一緒なら、死なない。(ようやく殻が少し破かれたか、初めて聞く感情の乗る声ににんまりと笑みが深まった。自尊と自信に満ち溢れた瞳が爛々と彼女を見下ろす。生への執着、素晴らしいじゃないか。死にたがりより余程、人間らしい。)

三須原弐那 ♦ 2020/12/30(Wed) 23:10[9]

これを諦めたら私には何もありません。……私には一つだけあればいいんです。(だから、を言いかけて迷っていることに気がついて戸惑うのだ。信仰、呪い、それは少女にとってさほど意味の無いもので。だから迷う必要なんてないはず。でも望みを叶えるには?そんな頭の中に彼の言葉がカーンと杭を打つように響く。押し黙ったのはなんでだろう。手を強く握りしめたのは、何故だっただろう。口元の笑みだけは最後まで消さなかったのは、きっと今笑うことを辞めればもう笑えなさそうだったから。)──しなな、い(まず零れ落ちたのはたったひとつだった。たった一つの願い事が、少女の瞳を爛々と彩っている。)安心していれば大丈夫ですか。……あなたは物騒ですが、とても安心します。その言葉を、私は信じたいです。(彼の自信を追いかけるように問いかける。畳み掛けた言葉が失礼にあたるだろうことも知らずに、きっと思ったままを口にしていた。)死ぬ訳には行かないんです。生きていかないといけないんです。(それは正しく懇願だった。右手を伸ばしたのは無意識で、形だけ整えられたそれは果たして彼に届くだろうか。)

久百合要 ♦ 2020/12/31(Thu) 14:16[10]

譲れない信念があるのはいいことね。好きよ。でもそれを決めるにはここは狭すぎると私は思うけど。(なにか言葉を続けようとして結局押し黙った彼女の強く握りしめられた手のひらにちらりと視線を落とした。具体的に何が切欠になったのかはともかく、迷いが生じてくれたのは僥倖だ。強制連行は可能であるし、仕方ない状況となれば迷いなくその選択肢を選び取るつもりだが罪のない恐らく年下の少女に手荒な真似はしたくないから。愛嬌に溢れた笑顔というには迫力残すそれをひとつ。)負の感情が少なければ少ないほどいいわ。それにもしあいつらが出てきたって大丈夫、余裕で祓ってやるから。(物騒、と称されたことはまったく気にしていない様子で瞳を煌めかせる。実際まるで気にしていなかった。突然弓を携えた男が現れたのだからそりゃ物騒だろう。大きく頷いてみせて、輝きを増したようにも思える彼女の瞳をひたと見下ろす。)なら私といきましょう。立って、自分の足で走るのよ。──私を信じて。(伸ばされた右手に向けて、自分からも右手を差し出す。その細っこい手を握ることができたのならぐ、と上へ力を込めて立ち上がらせることはかなうか。生きたい。その願いをしかと受け止めてにんまりと不敵に口角を持ち上げた。)

三須原弐那 ♦ 2020/12/31(Thu) 17:39[11]

ネガティブシンキング、と言うものですか?私には見えません。もしも私が負の感情とやらで何かを引き付けたら、引っぱたいてください。(基本的に尋ねることと言うべきことを言うこと、それ以外で言葉を飾らない物言いをした。「余計な手を煩わせたくないです」彼がずっしりとした笑い方をしたから、そう付け加えていっただろう。そちらの方が、生き残る可能性が高い。生きて出れば広い世界が生きた目で見られる。彼がそう思わせたから、少女は顔を上げて手を伸ばした。)あなたはあなたのために。わたしはわたしのために。(確かめるように紡いだのは、彼に伝えたかったのか、自分に言い聞かせたかったのか。記憶の少ない少女には定かではない。それでも伸びた右手はしかと彼のそれを掴み、引き上げられる形で重たい腰を上げた。)なんだか、息をするのが楽です。─ずっと息苦しかったのかも知れません。(おそらくは気の所為だが。本当にそう思ってから思い返すのだ。ずっと息苦しかったのかもしれない。だからそのまま言葉にして。彼を見上げた。)走るし飛びます。転んでも立ち上がります。だから、どうか、よろしくお願いします。(綺麗なお辞儀は、綺麗なほほ笑みと共に。言葉通り、何がなんでも彼について行こう。明日も生きるために。)

久百合要 ♦ 2021/01/01(Fri) 18:27[12]

そう、ネガティブシンキング……だけど貴女は今のところほど遠そうね。生きたい、ってただそれだけ考えてくれればいいわ、女の子に手上げたくないし。(現実の飲みこみの早さと良い意味での遠慮のなさは、呪霊まみれの切羽詰まった状況のなかでは何よりも好ましい。「自分の足で走ってくれるならそれで十分よ」両手が使えるのなら邪魔者排除は簡単だから。)──いいわね、その言葉。気に入った。(利害の一致は何よりも強固な絆となる。特に今この状況では。引き上げた身体は思っていたより軽く、立ち上がらせてもニ十センチ以上はあるだろう身長差から見下ろす視線の高さはさほど変わらなかった。)……そう、気付けて良かったわね。(きっと彼女にとっては大きな一歩だ。人が前に進もうとする様は見ていて気持ちがいい。く、と持ち上げた口角は至極楽しげだった。)飛ばなきゃいけない場所はないと思うけど……転んでも自分で立ち上がってくれるのはありがたいわ。でもどこか痛めたらちゃんと言うのよ。 はい、じゃあよろしくお願いします。──で、貴女、お名前は?(つられたように深々とお辞儀を返して、今さらとも思える問いをひとつ投げかける。これから始まる逃避行をともにする少女のお名前を。携えていた弓を抱え直して、背をわずかに屈ませその顔を覗き込む。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/02(Sat) 21:03[13]

(少女にとっては当たり前の制約であるから、こくりと小さく頷いた。自信がある無いの問題ではない。命が無くなれば自分に意味などないからこそ少女は彼について走るのだ。)……ひさゆり…さん、は、大きいですね。(見上げてつぶやく言葉はのんきでありぎこちなくもある。どう呼ぶべきか迷ったのだ。彼が疑問に思ったなら「あなたをどう呼べばいいのか分かりません」とバカ正直に答えるんだろう。これからを共にするなら、あなた以外の呼び名は必要だろう。─さて、ここで少女はきょとりと瞳を瞬かせることになる。ここにやって来てからというもの、名乗るという行為をする必要がなかったからだ。少女の情報は大概施設内で共有されている。ここに来てようやく「えぇと、」と口ごもってから。)……さすわら、三須原弐那、です。呼び方はお好きなもので構いません。……大丈夫でしょうか?(先程自分が困ったので。余計な一言も引っつけるんだろう。彼の瞳に写った二人の自分を見ながら。屋敷内ではどこかしらで音が蔓延っている。そんなものただの音だと言わんばかりに、彼だけを見ていた。前だけを見ていた。)あなたの武器は人を殺さないと聞きました。人に邪魔をされた時はどうするのですか?(気持ちの赴くままに緩く笑んだまま問うた。)

久百合要 ♦ 2021/01/03(Sun) 16:51[14]

そう?まあ、平均よりちょっと大きい方かしらね。あと靴も少しヒールあるから。貴女もまだ伸びるんじゃない?(呼び名の前後に置かれた不思議な間にはわずかに首を傾げたものの追求することはしなかった。呼ばれ方にも特段違和は覚えず、そんなものだろうと納得の後に落とした視線の先は革靴のヒール。五センチにも満たない高さではあるが元々どちらかといえば高い方である身長をさらに際立たせている理由のひとつだろう。今やヒールがある方が走りやすいとは本人談。彼女の年齢は分からないが恐らくは幾らか年下の筈との目測からの発言を続けた。それから面喰ったかのように彼女から少し遅れて目を瞬かせたのは、思ってもいなかったタイミングで彼女が口ごもったから。)三須原弐那ちゃんね。……大丈夫よ、じゃあ弐那でいい?(確認の問いかけをしながらも、お好きにと言われたばかりだから殆ど確定事項のような口調である。呑気とも思える会話を重ねているこの間にも呪霊の気配が近づいたり遠のいたりを繰り返し、はたまた生きている人間の気配もあった。炊事場の扉はきっちり閉めたからすぐ見つかることはないだろうが警戒は怠っていないつもりだ。彼女の意識が此方に向いているのは任務としては有難いことで、自分も走りやすい。)殺さないけど、少し眠ってもらうつもりよ。これがなくてもその辺の男より強い自信はあるから安心して。──早速だけど行きましょうか。人が近づいてる気配がするの、先に様子見てくるからそこにいてもらえる?(にっこりと笑いながら話すには少々物騒か。彼女をその場に置いたまま踵を返して向かうは当然この部屋の出入り口で、扉の反対側に感じる気配は一人分。音を立てないようにそっと扉を手前に引き――教団の男と目が合った瞬間に飛び出した。)――……ッ!(男が叫ぶ前に掌で口を塞ぎ、そのまま足を引っ掛けて絞め落とす。格闘訓練を受けた人間ではなかったようで、そうなれば一対一で苦戦する訳もない。廊下の端に寝転ばせ、他に人の気配がないことを確認してから炊事場の中を覗きこんだ。)──走るわよ、弐那。(侵入は壁を越えてきた。馬鹿正直に門を使おうとすれば多数の人間との戦闘は免れないはずで、そうなると効率的なのはやはり再びの壁越えだろう。まずは敷地の境界へ向かうべく先陣を切って走り出した。)

三須原弐那 ♦ 2021/01/03(Sun) 21:19[15]

16歳になります。伸びたら嬉しいです。(圧倒的に今語ることじゃないことでもきっかけさえあれば答えるのに、それを逃すと一切を口にしなくなる。ヒールを目の前にして「すごいですね」呼び名に関しては「いいです」簡素な受け答えが続くだろう。異論や意見があるわけでもないので。彼の表情は少し気になったけれど、彼が語らないならそのままだ。他の疑問が生まれればそちらに。確認し確定すべきことであるので。問いかけようとして口を噤んだのは、彼に言われてまずい状況だと気が付いたからだ。)、――わかりました。ちゃんと無事に帰ってきてください。(言ってしまえば教団から彼へと乗り換えた少女は大人しく扉から見えない位置に隠れて、声を殺す。一連の騒動に目を瞑ったのは無意識だ。――無意識化で、見てはだめだと判断した。明日を迎えるためには、見てはだめだと。彼の声に顔を上げる。前を向く。足を動かす。彼の鮮やかな色だけを見て走った。真っ青な顔と、震える両手を、まるでなかったことにしたように走った。勿論彼にとっては遅いだろうが、息が切れるほど全力で。真顔と微笑を顔面が往ったり来たりしている。徐々に一生懸命な真顔が多くなる。なにも出てこないでほしいと願った。もう決めてしまったから。)――ひさゆりさん、脱出はどのような、てはずですか。……基本的に、塀は途切れま、せん。(息を途切れさせながら紡ぐのは無様だろうか。)

久百合要〆 ♦ 2021/01/04(Mon) 17:51[16]

(走るわよ、そう彼女に告げてからすぐに己も走り出した。全力よりは少し遅めに、彼女とペースを合わせながら、そして呪霊にしろ邪魔者にしろ危険を察知したならすぐに止まれるくらいの速さで。時折少女の顔色を窺うようにわずかに振り返る。そんな中でひとり、ふたり、白い服を着た教団の男を昏倒させた。その度に「目瞑っていなさい」と後ろに声をかけたのは純粋な気遣いでもあり、任務を無事に遂行させるための安全策でもあり。漸く勝手口の扉が見えた頃、)弐那をおぶって壁登りするつもりだったんだけど、ここまで騒ぎになってるならこそこそしてるのも馬鹿らしいわね。(他の高専生が派手にやっているのかあちらこちらで喧騒が凄まじい。辿り着いた勝手口の扉に身を寄せて外の気配を窺いながら後ろに視線を遣りにんまりと口角を持ち上げた。いいことを思いついた悪い顔で。)どうせなら派手にいきましょうか。弐那の門出のお祝いってことで。(手を離せばたちまち弓は消えていく。裾から引き出した髪を転変させる先は有り体に言ってしまえば威力抜群の手榴弾。)──しゃがんで、耳塞いで、目閉じて。(扉を開けたのちすぐに塀に向けて勢いよくぶん投げる。距離が少し遠かろうが関係ない。一段と調子の良い今日、コントロールを違える訳がないのだから。その両の瞳は爛々と輝いていた。)……完っ璧だわ。さあ、行くわよ弐那。貴女の第二の人生の始まりってとこかしら。(大きな爆発音、少し遅れてガラガラと塀の一部が崩れ落ちる音。砂埃が少し落ち着いた頃、ゆっくりと立ち上がる。駆けつけてきた人間に見つかる前にと彼女の腕を引き再び走り出そう。崩れた塀の合間を抜け、安全なところに行き着くまで手を離すつもりはなかった。任務故とはいえ折角助けたのだから彼女のこれからが少しでも明るければいい。またすぐに縁が繋がるとは露知らず、目の前にある任務完了の四文字にまさしく心は踊っていた。)

三須原弐那〆 ♦ 2021/01/05(Tue) 07:20[17]

(言われるがままに目を瞑って走った。明日のために走った。こんなに苦しいのは初めてだと思うくらい息が苦しかった。それでも走った。彼の声を導にして、彼の背中を追いかけて。立ち止まってようやく居の中がひっくり返りそうなくらい息が上がっていることに気が付く。壁登りなんて冗談のような言葉をどこかぼんやりときいて。)……楽しいのですか?ひさゆりさん。(振り返ったその人が、笑ったから。まだ笑みを作ることも出来そうもない様子で問いかけたんだろう。彼の気遣いによってまだ息をしているが、今にも死ぬんじゃないかと思うくらいには気分が悪い。死にたくないから、立っている。言われるままにしゃがんでいる。そして、そして、)――、(耳をふさいだ手を越しても響く爆音に、瞼越しに何かが崩れていく先に、目開いて。――花を見た気がした。壁にぽっかりと開く世界という大きな花を。呆然としたまま、腕を引かれるだろう。なすがままだったと言ってもいいかもしれない。竦んだ足も震える手も引っ張られるまま穴を抜ければ、そこにもう花はなかった。抜き絵のような穴の先には景色が広がるばかりなのだから、当たり前と言えば当たり前だ。――いいや、花ならあった。ぐっと足に力を入れて、徐々に自分の意思で速度を上げていく。斜め前を見やれば、彼がいる。花咲くような表情に、洋服に、髪色に、彼というそのものに。鮮やかで確かな花が。)……ひさゆり、さん。(今度言葉が詰まったのは呼び名に迷ったからではない。どんな顔をしていいかわからなかったから。唇には微笑みを、眼には微かな水気をたたえて。)ここは、広いですね。(感受性が不具合を起こしたように様々な気持ちをうずめかせながら、たった一つ確かなことを紡いだ。夜空でさえ自由に見えて。心臓がうるさかった。)

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